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珠巡り  作者: 桜咲 雫紅
三章 兆候
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届いた気持ち

お久しぶりです。9月の前半から約2週間、ぶっ続けである作業をしていまして、まったく小説を進められない状態でした。


けれど、ようやくそれからも解放され、これからまた進めていきたいと思います。



じりっと少し後退った桜だったが、勇気を溜めるよう目を閉じて大きく深呼吸をし、ぐっと拳を握り固めると見上げる位置にある紅い瞳に視線を合わせる。


「どうしても言わなきゃ・・・ダメ?」


「言わなきゃわかんないからな」


「ッ。・・・・・私・・・・・・恭哉のことが、好き」


ぎゅっと固く拳を握り締めながらか細く、ともすれば消えてしまいそうな声が俺の鼓膜(こまく)にぶつかる。


「それは、親友としてか?」


少し寂しさが混じったことは否定できない。それはフラれてるのと同じことを意味する。親友以上には見えない。そう暗(あん)に言われている。本人にその気がないとしてもだ。


暗い顔で俯いていると荒い足音が詰め寄ってきた。驚いて顔を上げると間近に桜の顔があった。いつになく険しい顔で胸倉を摑まれ、殴られるのか、という思いが脳裏を過ぎった瞬間。


「っ!?」


桜は噛み付くように恭哉と唇を合わせた。理解が一瞬遅れた恭哉は状況を理解するのに伴って目を極限まで開いて驚きをあらわにする。不慣れなのが丸わかりのキスは、今までのどのキスよりも嬉しかった。


少しすると気が済んだのか桜は恭哉を解放する。恭哉は己の口を押さえ、まじまじと桜を見つめる。長い黒髪の間から覗く耳が真っ赤に染まっている。桜は数歩恭哉から離れてそっぽ向く。


「私は恭哉が好きだ!!文句あっか馬鹿野郎」


何故喧嘩腰なのだろう。告白とは思えない告白を受け、呆気に取られた恭哉は肩を震わせて笑い出す。今まで色々なタイプの女子から告白を受けてきたが、こんな告白の仕方をされたのは初めてだ。それが単純に新鮮だった。大爆笑している恭哉を傍目に桜はきまり悪そうに目を泳がせる。


「ふぅ」


少ししてようやく笑いが止まった恭哉はゆっくり歩き出し、桜の一歩手前で足を止める。そっと彼女の頬に触れるとびくっ、と体が震えたのがわかった。頬の赤みが増していく。


「やっと、言える」



「え・・・?」


聞き返そうとした口を開いた桜を抱きしめ、耳元で囁く。


「俺と、付き合ってください」


顔を真っ赤にしてこくりと頷く桜。恭哉はくっと喉の奥で笑うと口角をあげる。


「言葉で言ってくれないとわかんねーなぁ」


意地悪げに言うと桜が睨み上げてきた。だが、顔を真っ赤にしたまま睨まれても少しも怖くない。


「っ~。はい!」


半ばやけくそ気味だが確かに返事が聞こえた。


「それからな。キスは・・・」


恭哉は桜の体を離し、そっと唇を重ねる。ビクッ、と恭哉の腕の中で桜の身体が跳ねる。緊張しているのだろう。なにせ、初めての体験だろうから。それに苦笑して「大丈夫だ」と囁きかける。


「こうするんだ」


ぎゅっと目を瞑ってガチガチになっている桜の緊張をほぐすように細い髪に指を絡ませ、ゆっくりとした動作で梳(す)き、反対の手で背中を撫でながら唇を重ね合わせる。触れ合っている部分から彼女の身体が震えたのがわかった。胸に手をつかれる感触がして抱き寄せる腕に力を込めると、彼女の手は背中に移動し、縋(すが)るようにワイシャツを握った。


「ん?お前らなにしてんだ」


声のしたほうに視線を走らせると春が屋上の入り口の一歩手前で立ち止まり、こちらからは見えないが横に向かって話しかけている。小声で何かを言っているらしいが、少し距離があるので聞き取れない。


「おーす。恭哉ここにいるか?」


壊れた入り口から入ってきたのはお馴染みメンバーの中で一番空気読めない男、春だ。彼は抱き合っている二人を見て首を傾げる。


「おや?なんか邪魔しちゃったかな」


「ちょっ、お兄ちゃん。だからダメって言ったのに」


入り口の脇に隠れていた千夏が勢いよく兄の頭を叩く。その後ろからぞろぞろとお馴染みメンバーの暇人どもが出てくる。いないのは戒、美優、一夜、南絃(ないと)ぐらいか。


恭哉は桜を解放して渋面を作る。桜はというとぐて、と伸びて恭哉に寄り掛かっている。


「お前ら・・・見てたな」


「もち。最初っから最後までね。特に最後のキスシーンがよかったよ。お熱いことで」


小意気にウインクしてみせる千夏。悠紀がニヤッ、と笑い、渚を伴って下へ降りていく。スルーかよ。ていうか何しに来た訳?


「恭哉、桜を泣かしたらその百倍、泣かすからね」


笑顔で恐ろしいセリフをのたまう螢斗。龍護もそれに頷き「脳天を風通しよくしてやんよ」と首元に下がったチェーンの先にある拳銃を揺らす。ちゃら、と物騒なセリフとは相反した軽やかな音色が耳に心地よく響く。


「どーでもいいが、そろそろ『玉探し』始まっから早く降りてこいよ」


春がそう言い残し去っていった。それに続いて螢斗、龍護も屋上から出て行く。残されたのは桜と恭哉の二人だ。


「いけね。『玉探し』忘れてた」


恭哉の声でそのことを思い出した桜はフェンスに駆け寄る。下を見ると、もうすでに開始時間まで五分を切っていた。


「お先に行ってます」


そう言い残し猛スピードで屋上を後にする。恥ずかしすぎて恭哉の顔がまともに見れない。途中で春達を抜かしたが、彼らに話しかけるのも恥ずかしくて出来なかった。


後ろから恭哉の声が追ってくるが、無視。というか返事できない。つい先程告白されたばかりなのだ。もしこの場面で普通に対応できる人がいるならぜひお目にかかりたいぐらいだ。


どこの星に喧嘩腰で告白する大馬鹿がいるんだよ!!アホか、私は。


心の中で自分自身を罵(ののし)りながら無茶苦茶に足を動かす。よく階段を踏み外さないなと自分でも驚く。


「待てって」


真後ろでした声に階段を思いっきり踏み外した。それでも手すりをつかんでなんとか体勢を立て直すと再び走る。恭哉の声がすぐ後ろまで迫っている。それもそのはず。彼は百メートル走九秒台。桜は十一秒台。彼の方が断然速い。


「止まらないなら実力行使するぞ」


凄(すご)みを帯(お)びた脅(おど)しが後ろから聞こえたが、ひたすら無視。と、後ろの足音が消えた。振り切れたか、と思った瞬間、目の前に黒い影が降り立った。


「うわっ!」


手すりを摑んでなんとか急停止してその影を見ると、恭哉だった。階段の手すりを飛び越えたらしい。階段踏み外したら大怪我に繋がるかもしれないのに。


「ほれ、お前のリストバンド」


「あっ、そういえば」


すっかり忘れてたリスとバンドを受け取ると、恭哉のだった。抗議を込めて睨むと、彼はふっと女子が見たら即あの世へ旅立ってしまいそうなカッコいい笑みを口元に刻んだ。


「男(むし)除けだ。失くすなよ?」


「虫除け?今の季節に?てかこのリストバンドそんな機能ついてたんだ。最近の技術は進歩してんね」


感心したようにどこからどう見ても普通のリストバンドにしか見えないものを眺め回す。恭哉はガクッと膝から崩れ落ちそうになりながらなんとか体勢を立て直す。


「そっちの虫じゃねぇよ」


「はっ?虫は虫でしょ?他にどんな虫がいるの?」


心底から訳がわからないと全身で訴えかけると恭哉は微苦笑(びくしょう)しながら「いいから持っとけ」と無理矢理左手首につけさせる。


「俺って独占欲強いから、不破(ああいうの)許せないんだ」


「?ああいうの??」


目を点にして問い返すと恭哉は苛立たしげに己の髪をぐしゃぐしゃかき回す。そして独白するようにボソッと呟いた。


「・・・・・・お前には心底驚かされる。どうやったらわからないでいられるんだろうな。鈍いにも程があんぜ」


「はっ?」


「まぁいいや。とにかくそれつけとけよ」


「わかってるよ」


適当に返事をすると恭哉は満足そうに頷く。なんだかよくわからないが恭哉が満足してるならいい、・・・のか?


「そう言えばお前、武器増えてないか?」


「うん、増えたよ。この拳銃でしょ」


チェーンに下がっている武器が一つ多いことに気付いた恭哉が訊くと、桜は頷いて拳銃に触れる。武器は持っている異能に比例して現れる。桜の場合は異能が三つなので武器も三つなのだ。


「これからは射撃の腕も磨かないといけないから龍兄に教えてもらうんだ」


あまり気乗りはしないがこの場合は仕方がない。そうだ。持っている武器を使いこなせなきゃ宝の持ち腐れだ。自分に言い聞かせていると恭哉が気合入りまくりの語調で拳を握る。


「よし。やりに行くか。お前も見に来んだろ?」


「まぁね」


あれ?不思議。いつも通りだ。付き合うってもっとこう、何か変わっちゃうのかと思ったけどそうでもないんだ。なんとなくよかった。


「おせ~ぞ、恭哉」


グラウンドに着くと悠紀がしかめっ面で待っていた。南絃(ないと)は「ようやく来たか」と呟き、教師に報告しに行ってる。恭哉と桜以外お馴染みのメンバー全員揃っていた。いつの間に追い抜かされたのだろう。


「はい。恭哉のはちまき」


「おう。サンキューな、一夜」


駆け寄ってきた一夜から赤いはちまきを受け取り、カッコいい笑みを返す恭哉。その顔は暴れられる嬉しさで輝いている。間近で直視してしまった一夜は赤面して俯く。


「はい、無線機。あとで冬茜さんにお礼言いなよ」


「親切にどーもな、真海」


無造作に投げられた耳につけるタイプの小型の無線機を受け取り、つけながら苦笑する。渚はその笑みを見ても何の反応も示さず「気色悪いもん見せんな」と辛辣(しんらつ)な一言を放つ。「うわっ。傷つく~」と毛ほども傷ついていない口調で胸を押さえ、オーバーリアクションしてみせる恭哉。


「玉を隠す場所決めますよ、恭哉君」


「ちょっと待てよ、悠紀。俺来たばっか」


「来んの遅かったお前が悪い。自業自得だ」


その訴えをふん、と鼻で笑って一蹴する悠紀。会話が聞こえる範囲に他の生徒がいないので遠慮なしだ。恭哉は悪態(あくたい)をつきながらもその通りなので反論はしない。


「外面剥(は)がれてんぞ、悠紀」


「おっと。これは失礼いたしました。いらっしゃるのが遅かった恭哉君が悪いんですよ」


こそっと耳打ちしてきた春におどけたように返し、目にかかった前髪を払うとニコッと他所向けの顔で微笑んで言い直す。「いつ見ても不気味な笑顔だ」と呟く恭哉。悠紀の眉がピクッと跳ね上がり、険悪な雰囲気垂れ流しで「何か仰いましたか?」と低くなった声音で問う。


丁寧な口調なのに寒気を覚えるのは何故だろう。


問われた恭哉はというとさあらぬ態で口笛を吹いている。


「お茶飲むかい?」


「ん?くれるんならもらう」


「 一杯千円」


「高(たけ)ぇよ。どんだけぼったくる気だ!」


美優の差し出したお茶を飲もうと手を伸ばした恭哉だったが、値段を聞くと同時に出した手を引っ込める。一杯千円もするお茶なんて聞いたこともない。


「美優ちゃん。私に頂戴(ちょうだい)」


「はい、どうぞ」


「待て待てちょっと待て。何で桜からは金取らねんだよ」


「君だけ有料」


「んな理不尽(りふじん)な」


嘆(なげ)きの声を完全無視(スルー)してお茶を飲む美優と桜。悠紀はニヤニヤ意地悪げな笑みを浮かべ「俺はタダで貰ったぞ」と言い、恭哉とじゃれ合っている。


応援席からは黄色い歓声が飛ぶ。


「「「キャー。恭哉く~ん」」」「「「悠紀君頑張ってぇ~」」」「「「一夜君こっち向いて」」」「「南絃様ぁ~」」「「暁、ファイト」」


ここはどっかのアイドルのコンサート会場かよ、と疑いたくなるぐらいやかましい声援(せいえん)があちこちからあがる。五人の中で唯一恭哉が声援に答えるようにふっと唇の端をつり上げる。すると、更に観客(女子のみ)が沸いた。隣の人の声が上手く聞こえないぐらいうるさい。早くもげんなりしてきたのか、渚は青い顔で耳を塞いでいる。


「耳栓いるかい?」


いったい何処に仕舞ってあったのだろうか。大量の耳栓を渚に差し出す戒。渚は掠(かす)れた声で礼を言うと耳栓を二つ貰い耳に差し込む。と、幾分(いくぶん)か顔色が回復した。


「相変わらず人込みと女子の黄色い悲鳴は苦手なんだな、渚(なぎ)は」


悠紀が苦笑しつつ渚の髪を宥(なだ)めるように梳(す)く。渚は心地よさそうに目を閉じ、悠紀にもたれ掛かる。相変わらずのラブラブっぷりだ。


「久しぶりだな、渚(なぎ)」


やかましい悲鳴の中でも何故かはっきりと聞き取れる低く落ち着いた響き。見る見る生気を取り戻していく渚の顔。


「お兄ちゃん!帰ってきてたんだ」


渚の親友(とも)と家族(あに)を合わせても数人に満たない渚(なぎ)という愛称を呼ぶ一人、海堂 貴之が柔和な笑みを湛えながらやってきた。後ろには愁や千秋、瀧川、関ヶ原、青葉もいる。


関ヶ原さんはともかく、九条さん達刑事じゃなかったっけ?忙しくないわけ?と桜は突っ込みたくなった。


渚は迷わず兄の胸に飛び込む。貴之は抱きついてきた渚を軽々と抱き上げ、爽やかな微笑を浮かべる。


「少し背が伸びたのか。目線が変わった。この前は悪かったな。ほとんど会話らしい会話も出来ずに」


「ううん。帰ってきてくれたんならいいの」


言葉の通り嬉しそうにはにかむ渚。大好きな鳶色の瞳が目の前にある。それがこれ以上ないほど幸せだった。悠紀の冬空色の瞳も好きだが、貴之の鳶色の瞳も同じくらい好きだ。


桜はその兄妹を無視(スルー)して千秋に駆け寄る。


「お久です。千秋姉」


「あら、桜ちゃん。久しぶりね。元気してた?」


「はい」


昔から千秋は好きだった。何かと良くしてくれるし、いつも優しかった。それに強く、桜にとって憧(あこが)れの存在でもあった。


「あれ?栞は?」


「栞ちゃんは人込みが苦手みたいでね。ここまでは一緒に来たんだけどさっきダウンしちゃって天空家の人が迎えに来てたわよ」


「そっか。残念だな」


本当に残念そうに俯く桜。そんな桜の耳に恭哉が唇を寄せる。


「俺ら作戦会議してくるな」


「うん。頑張って」


「桜」


恭哉に呼ばれ、軽く首を傾げると素早く耳打ちされた。


「絶対見てろよ」


思わず見つめ返すと、真剣な眼差しで「見てろよ」ともう一度繰り返された。


「うん」


笑顔で頷くと恭哉は嬉しそうに微笑して走っていく。真夜がその背中に「しっかりやってきなよ」と声援を投げ掛ける。

桜咲 「それではまずは桜さんの能力紹介です!どーぞ」


桜 「・・・私嫌だって言ったよね?殴られたいの燃やされたいの?」


桜咲 「殴られるのはまぁ別として、燃やされるのはご勘弁を〜!まっ、まぁまぁ、ぱぱーっとしちゃってください」


桜 「言い方が腹立つ・・・っ。はぁ、私の異能は『終焉の劫火(ごうか)』。まー人でも物でもなんでも燃やせるのーりょくです」


桜咲「人・・・(汗)。なっ、なるほどなるほど〜。ちなみに、どこまでの範囲なら炎は届きます?」


桜「範囲?視界に入るとこならどこでもじゃないかな〜」


桜咲「随分と大雑把ですね。ではもう1つの異能の事をお願いします」


桜「『再生と死滅』の事?私もまだ細かくはわかんないけど、私が傷つけられる前の状態を見ていたものをその通りに戻したり、指定したものを加減によってだけど欠片一つ消し去ることが出るみたい」


桜咲「(うっわ恐〜。)では、再生の異能を使うときは対象となるものが傷つけられる前の状態を実際に見てないと治せないってことですか?」


桜「多分だけどね。けど人の傷とかって細部までは見れないし、なのに治せてるってことは関係ないってことなのか」


桜咲「まだまだ手探り状態ということですね。今回は桜さんの異能でした!」


桜「今日も修行だ!」

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