上司に対してタメっていいの?
メリークリスマスです。
謎の人物が出てきますが・・・次回正体がわかります。
これで何回目だろうか。いい加減数えるのも面倒になってきた。
桜は一時限目を終え教室を出たところで立ち止まっていた。彼女の頬すれすれに刃引きされた刀があり、窓ガラスギリギリで止まっている。いつも初撃は刃引きされてんだよな、とどうでもいいことが脳裏を過ぎった。
「先輩・・・。いい加減やめてください。心臓に悪いです」
「ちっ、見切ったか。まだまだ!生徒会・執行部に入ったからといって調子に乗るな」
「人の話聞いて下さい。そして調子に乗ってません。このやり取り前もした気が・・・」
問答無用とばかりに斬りかかってくる水無月先輩。桜はため息を呑みこみ逃げるべく廊下を走る。中学の時勝負しとけばよかったと悔やんでも後の祭り。
♪♪♪♪
携帯が震えている。バイブ設定にしてるほうってことは・・・。
「仕事か緊急の呼び出しか生徒会・執行部の呼び出しかあの件についての処罰か、かな」
桜達は二つの携帯をもっている。一つは普通の携帯で友人達のメルアドなどが入っている。もう一つは仕事と生徒会・執行部用。その仕事用のが今震えてるのだ。仕事は学校にいる間してくんなと言っといたのに。
まぁあの人に何言っても無駄か。聞き届けてもらえた例がないし。
「仕方ないな」
階段を駆け下りて二階に行く。ちなみに桜達の教室は四階だ。
「逃げるな!」
もちろん先輩もついてくる。桜は素早く左右を見回し開いている窓から外に飛び出す。後ろから悲鳴が聞こえてきたが無視。水無月も同じく飛び降りようとしたのだが、運悪く教師に見つかり、説教を食らっている。
桜は着地と同時にだっとその場から逃げる。教師に見つかったら厄介だ。
「卑怯だぞ!!」
先輩が叫んでいるのが聞こえてきたが聞こえないふりをして人気のないところにいき、携帯を開く。
「はい」
『俺だ』
「オレオレ詐欺なら間に合ってます。切りますよ?」
『悪かった。いや、出るのが遅いお前が悪い』
「それはすみませんでした。ちょっと追われていて」
半ば棒読みで謝罪する。電話口から聞こえるのは低い男の声。おそらく成人しているだろう。桜の顔は珍しくほんの少しだけ緊張していた。
『?まぁいい。それより処罰が決定した。お前の言うとおりお前も奴もお咎めなしだ、よかったな』
「そうですか。では彼はこれから三珠の一員として・・・」
『まっ、そうなるだろうな。それとあの子供、お前を恋しがって泣いてるぞ』
「ぇ・・・・そう・・・ですか」
うっと言葉に詰まった桜は思わずため息を漏らす。学校に行くときも散々泣かれて参っているのだ。可哀想なことしたかなと今頃ながら罪悪感が胸中に広がる。
『今は寝てる。時間が許す限り、一緒にいてやれ』
「言われなくても」
『それからもう一つ、お前らに仕事だ』
桜は露骨に顔を顰める。ランク『Z』になってから通産二十回目の仕事だ。
「そんなに人手が足りないんですか?三珠の人員は。つい一昨日仕事をこなしたばかりですよ。ヤスマセテクダサイ」
電話口から小さく笑う声が聞こえてきた。なにがおかしかったのやら。
『そう刺々しい声を出すな。異能者がお前の学校の近くで騒ぎを起こしているらしい』
「迷惑な」
『まったくだ。という訳だ、今日中に片付けろ』
桜の眉間に深いしわが寄る。心の中を代弁したような不機嫌な声が口をついて出た。
「なにがという訳だなんですか?無理難題を押し付けないでください。だいたい学生の本業は勉強ですよ。さらに言えば生徒会・執行部の仕事も溜まってるんです。いい加減片付けないと」
自分でも思っていないことを口にする。この人はいつもこうだ。平気で無理難題を押し付け、自分は達観している。性格悪すぎだろ。
『欠片も思ってねぇくせに』
図星だ。桜がぐっと押し黙ると電話口から「図星か」とトドメの一言。もし目の前にいたら殴り飛ばしたやるのに。この人が父の知り合いだったなんて。きっと性格悪い同士息がぴったりだったのだろう。
『学校終わったら資料を取りに本家に来い。お前らの帰りを待ちわびてるぞ。特に辻と関原が』
「・・・・・それが目的ですね」
『そうだ、仕事はそのついで。それともお前は天空家が待っているのにもかかわらず帰らない気か?お前はそこまでひどい奴ではないと俺は思っているぞ』
「・・・・・・」
『もっとも、俺の認識が間違っていたのなら今この場で、糺すが?』
「わーったよ。行きゃーいいんだろ。行きゃ」
半ば投げやりの言葉に忍び笑いが聞こえてきた。桜の眉間に更にしわが寄る。
『空峰と一条にも伝えとけ』
「はいはい、わかりましたよ。一言言ってもいいですか、くたばれクソ上司」
捨て台詞と共に勢いよく携帯を畳む。ミシッと不穏な音が聞こえた気がしたが気にしない。
最後に聞こえた笑い声は空耳なんかではないだろう。絶対ぶん殴るという誓いを胸に桜は教室へ戻った。
二時間目が終わり、十分休み。
「仕事入ったの?」
「そっ。今日は部活も休んで先に帰るから。恭哉達にも伝えといたし」
「そっか。桜のチームって天空と南絃君とだっけ」
「そっス」
仕事は余程のことがない限り二人一組かソロでだが、今は見習い期間中ということで三人一組になっている。渚のチームは悠紀と千夏、美優のチームは一夜と、人数合わせの螢斗、戒は春と、龍護は真夜と組んでいる。螢斗は金城と組んでいるのだが、今は美優達のチームにいる。その間、金城はソロだ。
パートナーとは『A』ランク以上の者達が組むタッグの事だ。パートナーを組むにはまず同じ任務を数多くこなすこと。これが絶対条件だ。あとはパートナー認定試験に合格するだけ。この試験が難しいのだが。龍護達はもうすでにパートナーが決まっている。真夜は龍護と、春は戒と、南絃は関ヶ原という人とだ。
ソロとはその言葉どおりに一人で任務をこなす人を言う。二人一組より危険が伴うため人数は少ないが、単独行動を取れる、自分のやりたいようにやれる等メリットがあるのでその意味ではいい。
「頑張って」
「怪我しないようにね」
「気をつけるよ」
桜は嫌そうに笑って見せると優稀の方へ歩いていく。その後姿を見ながら渚と美優は小声で話し出す。
「そんなに人員不足なのかね、三珠連合会は」
「そんなことないと思うな。でもあの時はホントにびっくりしたよ」
二人は同時に遠い目をする。
――――あの日、中学の入学式が終わり天空家の本家で祝っていたときだ。突然やって来た三珠連合会と名乗る怪しすぎる一団に拉致られ、連れて行かれたのが三珠高校にある生徒会室。そこには校長の姿もあった。
「こんなのがあったんだ」
高等部に二、三回しかきたことの無い桜達は驚いていた。彼女の兄の龍護はまったく驚いていなかったが。それどころか若干口元が強張っている気がする。
「ようこそ、三珠連合会もとい三珠へ」
「「どーも」」
「まずは中等部入学おめでとう。そしていらっしゃい、三珠へ」
「「はぁ・・・」」
なにがなんだかよくわからない桜達は気の抜けた返事をするのみ。三珠連合会ってなに?三珠ってなんなの?
訳がわからないと書いてある桜達を見て最初に声をかけてきた女性がゆっくり歩み寄ってきた。白銀色の瞳が印象的の女性だった。
「君が最年少で当主になった天空 桜ね」
いきなりフルネームを呼ばれた桜は眉根を寄せ「それが何か」と冷たく返す。彼女はフルネームで呼ばれるのが嫌いなのだ。特に初対面の人に呼ばれるのが。
「髪は大斗さんと同じね。瞳は夕美にそっくり。顔と性格は二人の融合版ね」
「・・・・・・・」
黙って相手を見据える紅玉色の瞳を覗き込む女性。桜の手はいつの間にか握られていた。
「君の力を見るのが楽しみだわ」
女性はそう言うと桜から離れる。そして階段を上がると元の場所に座る。
「君達は知っているか?稀に一般人から異能者が生まれることを」
「存じてます」
「我らにはいくつかの掟がある。一般人に異能を使ってはならない。一般人に異能を見られてはならない。異能を使って一般人を殺めてはならない。これはその中でも特に守らなくてはならないもの。それを破ったものには相応の処罰が下される」
厳かな声が響く。
「近年一般人が異能を手にし、暴れまわるという事件が増えている。その多くはここに所属しているが、少数はその異能を使って悪行をしているそうだ」
異能は深い傷や闇を抱え込んだものに宿る。そんな彼らが人外の力を手にしたら何をするか、想像に難くない。
「奴らは自らを“神の使い”だと名乗り好き放題やっている。そこで我々三珠の出番だ」
「つまり、我々の仕事を君等にも手伝ってほしいわけだ。ちなみに本校の異能者ほぼ全員三珠に所属している」
「君達の兄や姉達は皆三珠に所属している。もちろん両親もな」
「そして願わくば“生徒会・執行部”役員になってほしい」
「返答は」
「急に言われてもね。一ヶ月ぐらい考えてから返事する」
桜はそう言った。大人達は満足そうに頷き他の者達に視線を当てる。
「俺も一ヶ月ぐらい考えてからかな」
「ここにいる全員そうだ」
「よかろう。よい返答を」
結局私達は三珠と“生徒会・執行部”に入ることになった。それから一ヶ月に一~三程度の割合で仕事をこなしてきた。ほとんどが暴れまわっている異能者を拘束するという仕事だ。
他にも潜入や捜査、治療、情報収集、尾行、戦闘、教育、さらに援護要請があった場合の増援など色々ある。洸哉がやっているように二つ合わさった潜入・調査などもある。
記憶操作は異能者全員でだ。異能者の存在が明るみに出ないようにらしい。一部の警察や国会の人も私達の事は知っているが、それ以外の人に知られるのは非常にまずい。
「仕事ってことは九条さんに会うのかな」
「そうだと思うよ~。あの人桜ちゃん弄るの好きだよね」
「しかも桜の直接の上司だし。私は九条さんじゃなくてよかった」
「渚さん達って瀧川さん、だっけ?あの人優しいよね~」
美優が羨ましそうにお茶を飲む。視線の先では桜が部活に行けないと聞いて優稀が「なんでよ~行こうよ~」とぴょんぴょん飛び跳ねている。それに桜が苦笑して永瀬さんが迷惑そうに目をすがめている。なんだかんだで彼女らは仲がいいのだ。
「あれのどこが。私あいつ嫌いだし。美優ちゃんの方が優しいって評判の人じゃん。青葉さん、だっけ?」
「いい人だよ~。仕事の帰りに抹茶のお菓子買ってくれるし教え方すごく丁寧だし」
「な~に話してんの」
背中を叩かれ渚は痛そうに顔をしかめ、美優はお茶を零しそうになる。薄い夕空色の瞳が興味津々といった感じに輝いている。
「千夏ちゃんか。ビックリした。仕事の話だよ」
「仕事、ね」
げんなりと肩を落とし一気にテンションが下がる千夏。彼女は後方支援型の武器なので敵に狙われやすいらしく、この間の仕事時にも危ない場面が一、二度あった。
「一番仕事してんの桜達だよね。しかも終わるの早いし」
「攻撃系異能者勢揃いだからね」
「南絃君って中学のときから三珠に入ってたんだっけ。凄いよね」
「それ言うなら金城先輩だって中学からだよ。龍護先輩も」
「そうだっけ?」
胡乱げに返す美優。渚は「そうだよ」と言って腰に手を当てる。
「金城先輩と龍護先輩は二人で最年少ペア組んで優秀だったって言ってたじゃん。春先輩と大路先輩のペアも」
「そう言えばそう言ってたっけ」
美優はお茶を飲みながらのんびりとした声で呟く。そこにようやく優稀を振り切った桜が来た。お疲れ気味だ。
「はぁ、毎度毎度疲れる」
「お疲れ様。納得したの?」
「今度一緒にパートナー組んでやるって言ったら引き下がった」
「そっか。桜はソロだもんね」
「一人のほうがやりやすいんだ」
「おら、楽しい楽しい数学の時間だぞ」
数学の教師が入ってきたので話は打ち切りになった。桜達は各自の席につきそれぞれの思いを胸に数学の授業の用意をするのであった。
恭哉 「皆、待たせてゴメン。俺は天空(空峰) 恭哉。15歳。身長176cm。体重58kg。血液型はB型。高校一年でクラスはA」
桜咲 「誰も待ってないと思いますよ。ていうか無駄に色気含んだ流し目しないでください」
恭哉 「仕方ねーよ。俺みたいな超イケメンは意識せずともフェロモンが出ちゃうもんだから」
桜咲 「(うわー。超ウゼー)。自分でイケメンとか言うのどうかと思いますよ。というかあなた空峰財閥の御曹司でしょう?なんでそれは言わないんですか?」
恭哉 「事実を言ったまでだ(さらりと髪をかき上げる)。俺は空峰の御曹司っつー肩書きが大っ嫌いなんだ。空峰自体嫌いだしな」
桜咲 「(さらにウゼー)。いいじゃないですか。お坊ちゃんって。何がそんなに嫌なんです?」
恭哉 「俺の自由を奪ったあいつが空峰にいる限り、俺は空峰を好きになることはない」
桜咲 「そうッスか。好きなこと(もの)や好きな言葉、嫌いなこと(もの)、怖いこと(もの)は?」
恭哉 「好きなもの(こと)はサッカーと喧嘩と柑橘類。好きな言葉は人生とは生きる事が大事。嫌いなもの(こと)はケバい女。怖いこと(もの)はない」
桜咲 「異性の好みは?やっぱり桜さんですか?」
恭哉 「ちっ、違う!誰があんな喧嘩好きな奴・・・」
桜咲 「慌てて否定するとこが怪しいですね。顔、真っ赤ですよ」
恭哉 「てめえ・・・。殺すぞ」
桜咲 「ひぇぇ。さっ、最後に一言」
恭哉 「俺の活躍、見ててな」




