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珠巡り  作者: 桜咲 雫紅
一章 兄妹
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大好きで大切な

またまた遅くなってしまいました。すみません・・・。所用で次回も遅れる可能性があります。気長に待ってくださると嬉しいです。

「南絃?」


桜が悲しそうな顔でこっちを見ていた。あぁ、嫌だって思ってると感じてんのか。


「俺の一族には呪いがある」


突然の言葉に桜は目を瞬(またた)く。南絃は鍵を握りしめて首にある刺青に触れる。この刺青は人以下の証。この刺青は未来永劫消えることはない。


「誰かに仕えなければ死ぬ呪いだ」


南絃の先祖は天界人の奴隷だった。それも天界人の中でも一番偉く、一番最悪な天上人の奴隷だったそうだ。そしてこの烙印(らくいん)を捺(お)されこう言われた。


「貴様の一族はこれから誰かに仕えなければ生きていけない。人に求められなければ生きる事を許されないんだよ。それが人以下の貴様らが生きていくための条件だ」と。


そんなとき桜達の遠い先祖が俺達の先祖を見つけ「それなら私に仕えればいい。私はお前の子や孫、その子も孫もずっと守ってやる。その代わり、私の子や孫、その子や孫を支え、守ってやってくれ。対等の立場でな。主従とか嫌いなんだ、私は。命令するのもされるのもな」


「じゃあ私に仕えればいいじゃん。でも、主従の関係じゃなくて、家族としてね」


屈託(くったく)のない笑顔で手を差し出す桜。南絃は微かに目を見開き、その後ふっと微笑してその手をとる。


「あぁ」


「で、鍵はもらうのか?」


龍護が優しい笑みを浮かべながら聞くと、南絃は小さく笑い(これは珍しいことだ)、頷く。


「あぁ」


「話はまとまったか?なら飯にすんぞ。恭哉、真夜、用意頼んだ」


「へ~い」「わかった」


気のない返事をして二人は皿を出していく。その間に桜は南絃に黒い携帯を手渡す。表の左下に黒地に赤が混じった馬が彫られている。裏の右下にはローマ字で南絃の名が刻まれている。


手渡された携帯に見入ってる南絃を満足げに見つめ、桜は自分の携帯を彼に見せる。


「同じ機種だからね。天空家は全員同じ機種の色違いだよ。それから菊地家も夕空家も皆同じ機種の色違いだからわからないことがあったら何でも聞いて」


そこでいったん区切り、南絃の瞳を覗き込むと心配そうに眉根をよせてこう続けた。


「何かあったらメールか電話して。私達全員分のメアドと番号入れといたから」


「わかった。ありがとう、桜」


「桜~、南絃~、用意出来たぞ。早く来ないと食っちまうぞ」


「は~い。行こっか。春兄の料理すごい美味しいんだよ。もちろん千夏には負けるけどね」


「そうなのか」


桜達が席につくと、洸哉が全員揃っているのを見回すことで確認すると淡々とした口調でさらりと告げた。


「天空家と夕空家の皆さん。父からの伝言をお伝えします」


天空家と夕空家の者は全員目をパチパチさせる。自分達は何かやっただろうか。いや、記憶にはない。ということは知らないうちに何かやってしまったか。


そこまで考え付いた天空家と夕空家の顔からサァ、と血の気が引いていく。見ていて壮観(そうかん)なほどだった。洸哉は一同の反応を不思議そうに見ながらも続ける。


「帰ってきた螢斗さんの祝いと、龍護さん、桜さん、螢斗さんの誕生日祝いを兼ねて父が異能演習所をもう一つ建設したらしいです。本家のすぐ隣にあるあの屋敷がそうです」


「「「あの屋敷が!!!??」」」


桜達が住んでいる天空家本家の隣にありえないぐらいの大きさの屋敷が建っている。桜達は「どんな金持ちが引っ越して来たんだろう」と常日頃から思っていた。まさかそこに演習場が出来るとは・・・・。誰でも驚きますよね?


さすが金持ち、と盛大に顔をしかめている恭哉、真夜、そして何事かを黙考している南絃を除いた全員の心の声が一致していた。


「私の息子達が迷惑をかけてすまない、と父が言っていました。ちなみに僕も高等部の寮(こちら)に住まわせてもらうことになりました。よろしくお願いいたします」


礼儀正しく座しながら低頭する洸哉。恭哉と真夜の二人と血が繋がっているとは到底思えないほどの礼儀正しさに、彼がさらりと述べた重大事項に関して突っ込むより感心が勝ってしまい、流してしまった。


「おまっ・・・中等部の寮はどうした!?」


彼の礼儀正しさに惑わされなかった恭哉が驚愕(きょうがく)のためか震えている指で洸哉を指差す。洸哉はそんな兄ににっこりと微笑みかける。心なしか、その笑みが黒い気がする。


「ご安心ください、兄さん。中等部の寮(むこう)の寮長にはすでに許可を取っておきました。父が一言言っただけで快く許可印を捺(お)してくださいましたよ」


そりゃ空峰財閥の社長の言葉を跳ね除けられるはずもなかろうに。そんなことをしたらどうなるかぐらいどんな大馬鹿にでも、あの五十嵐 時雨でもわかることだろう。


「それって脅迫・・・」


「人聞きの悪いことを言わないでください、姉さん。丁寧に、丁重に、礼儀正しく、お願いしただけですよ」


どす黒い微笑を湛えたまま言い切る洸哉。喫(きっ)せずに空峰姉弟を除く全員の脳裏に同じ言葉が浮かんだ。


絶対姉弟だ。


そう感じずにはいられない笑顔だった。


「じゃあ天空君の部屋は天空さんの隣にある空き部屋ね」


「おいっ、真海!俺はまだこいつがここに住むこと認めてねーぞ!勝手に決めんなっ」


めんどくさそうに部屋の鍵を渡した渚に恭哉は怒鳴る。すると悠紀が彼女を庇(かば)うように立ち上がる。両者の間に激しい火花が散る。凛々しい顔に凍てつく微笑が張り付けられている。


「退いてくださいませんか?悠紀君。俺は君の彼女に話があるんです」


「話なら私が聞いて差し上げますよ、恭哉君。渚に不用意に近づかないでくださいませんか?馬鹿がうつってしまいます」


「いいから退けって言ってるんですよ、悠紀君。君は日本語が理解できないのかな?あと、誰が馬鹿だと?もっぺん言ってみろ」


早くも刃こぼれが生じた恭哉とは対極に悠紀の言葉遣いはどこまでも丁寧で、それでいて物凄い違和感を感じた。


「私の言葉をご理解頂けていないようですね、恭哉君。私が君のお話を聞いて差し上げるとはっきり申し上げているのですよ?それから、馬鹿は君の方です。耳鼻科へ行かれた方がよろしいのではないですか?」


恭哉の背後にマグマを吹き上げる活火山が、悠紀の背後に極寒の地に吹き荒ぶ雪山が見える気がする。恭哉の近くにいる人はあまりの暑さに渚に頼んで水を出してもらい、悠紀の近くにいる人はあまりの寒さにガタガタと歯の根が噛みあわぬほど震えながら桜に劫火を出してもらう。


「二人とも、そこまでにしな。感情に反応して異能が駄々漏れになってるよ。抑えて抑えて」


「いや、その前に話の趣旨(しゅし)が違ってる気がするのは俺だけか?」


螢斗の仲裁(ちゅうさい)を聞いて小声で突っ込みを入れる春。あいにく、その呟きは誰の耳にも届かなかった。


「喧嘩なら他所でやってくれるかな。こっちは腹が減って死にそうなんだ。あんたらの喧嘩が終わるまで私は待ってられないよ」


「私も~。ってことで先に食べちゃおっか」


「「「さんせ~い」」」


いまだにぎゃあぎゃあ言い合っている恭哉と悠紀を捨て置き、他の人達は「いただきます」と両手を合わせてご飯を食べてく。その間も二人の喧嘩はヒートアップ。・・・というか恭哉が怒鳴り、それを悠紀が寒気を催す敬語で軽くあしらっている。


「いいからそこ退けって言ってんだよ!」「すぐにキレるのが君の悪い癖だと愚考(ぐこう)致します」「余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ!!なにが愚考だッ。この二重人格野郎が!」「人聞きの悪いことを大きな声でおっしゃらないでいただけますか。私は時と場所をわきまえているだけです」「それが二重人格だっつってんだよ!優等生ぶりやがって」「君が不真面目すぎるのでしょう?」


「正論だな」


二人の言い争いに首を突っ込む命知らずな春(バカ)。恭哉はギロッと恐ろしい眼光で春を睨みつける。そんな眼光を涼しい顔で受け流す春。


「授業中寝てる恭哉が悪いと思うぞ」


さらにダメ押しがきた。恭哉はそのセリフを言った人物を一瞥(いちべつ)して不機嫌そうに吐き捨てる。


「授業中と言わず暇さえあればどこでも寝る龍先輩に言われてもね」


「んじゃ俺が言おうか」


素に戻った勤勉な悠紀が恭哉を見据えてふっと口角を上げる。恭哉の眉間に青筋が浮かぶ。


「この・・・二重人格野郎がぁ!!」


なんとも騒々しい一日だった。












午前零時。生徒会・執行部寮は静まり返っていた。当然だろう。皆、今日の戦いで疲れきっているのだから。


「眠れね~」


暗い部屋に不満そうな声がいやに大きく響く。桜は眉根を寄せて寝返りを打つ。体は疲れきって睡眠を求めているのになかなか眠れない。まだ痛みの残る脇腹に手を当て、はぁとため息をつく。


「螢兄がね、帰ってきたんだ」


嬉しそうな声音で誰かに話しかける。返事はない。部屋には桜以外の人の気配はどこにも感じられない。それでも桜は気にすることなく続ける。


「すっごくカッコよくなってたんだ。背も伸びてたし」


昔を思い出すような語気になる。口元には小さな笑みが宿り、桜は目を閉じた。すぐに浮かんでくるのは七年前のあの事件の螢斗の顔。そして、七年ぶりに再会した大人っぽくなった螢斗の顔。どちらも桜が大好きな兄の顔だ。


「螢兄ね、私のこと忘れてたんだ。ショックだったなぁ。それで諦めかけてたら龍兄に叱られてさ」


語りかけるそれが微妙に小さくなる。語尾が少し震えているのに気付いた桜は誤魔化すように明るい声を出す。


「そんで真正面からぶつかる覚悟が決まってさ」


眦から温かいものが流れ落ちていく。それに気づかぬフリをして虚空に言葉を続ける。


「真っ直ぐぶつかったら、思い出してくれたんだよ」


桜、と呼んでくれた。昔と変わらない、あの笑みを含んだような優しい声で、桜、と。それがどうしようもなく嬉しくて、幸せで。


「お前はきっと「よかったね、天(てん)ちゃん」って言って、一緒に喜んでくれるよな」


瞼の奥に浮かぶのはクセっ毛で栗色の髪を持ち、明るい亜麻色の瞳のクォーターの少女の姿。人見知りが激しくて、そのくせ肝が座っていて私が他の人と違うってわかってもまったく気にせず笑いかけてくれた無能力者の女の子。



――――「天ちゃんは天ちゃんでしょ。私の友達で優しい天ちゃんに変わりはないよ」



初めて異能を見せた時、彼女はそう言ってくれた。変わらず笑いかけてくれた。その言葉が、その笑顔が、その存在が、どれだけ嬉しかったか、どれだけ支えになったか、彼女は知らないだろう。



――――「天ちゃんが普通じゃなくたっていいよ。そんな所も全部まとめた天ちゃんが、私にとって一番大切で、一番大好きなんだよ」



「私もだよ、希」


気弱で人見知りで泣き虫で、いっつも人の後をついてまわる。それでいて度胸があって、頑固で優しい。そんな希が大好きだよ。今までも、これからも、ずっと。



――――「ずっと親友でいようね、天ちゃん」「もっちろん。希と私は一生親友だ。死んでも親友だ。約束だぞ」「――――うんっ!天ちゃん大好き」「うわっ。いきなり抱きつくな」



無邪気な声が耳の奥で弾ける。優しい夕焼けの空の下、拳をぶつけ合い初めて交わした約束。あの日、希が浮かべたとても嬉しそうな笑顔は今も色褪せることなく桜の心に刻まれている。


あの時はこんなことになるなんて思ってもみなかった。


希が死ぬという未来を迎えるなど。


懐かしい声に誘われるように桜は夢の中へ落ちていった。

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