01
今日はいつも通りの日常のはずだった。目の前の横断歩道を渡れば住み慣れた自宅に着くはずで、そこで先ほど本屋で買ったばかりの漫画を読んで一日を終えるはずだった。
ずっと読みたかった漫画だったから、俺の気持ちははやっていた。早く青になれ青になれと目の前の信号機に向かって念じていたし、信号機が青く光った瞬間、駆けるようにして足を踏み出した。
それがいけなかったのかもしれない。
危ない!という誰かの叫び声が聞こえた。迫る車体。視界いっぱいに広がる光。
キキーッ!!!
どすん。
衝撃。次の瞬間全身に鋭い痛みが走り、視界一面に空が広がった。眼鏡が吹っ飛び、視界がぼやける。ああ、俺は跳ね飛ばされたのか。
きっとこのまま地面に叩きつけられるのだろう。次に来る衝撃に備えてぎゅっと目を瞑る。
どさり、と背中に地面の感触がした。けれど、それは想像していた衝撃からは程遠かった。叩きつけられるなんて言い方は正しくない。着地した、という言い方がふさわしいような、そんな感覚だった。
恐る恐る目を開けると、そこに広がっていたのは先ほどと変わらない青い空。よいしょ、と掛け声とともに体を起こして、俺はその異変に気づいた。
「ここ......どこだ......?」
ぼやけた視界一面に広がるのは、緑色の世界だった。おかしい。先ほどまで俺はビルが立ち並ぶ街中で歩いていたはずなのに。
というか眼鏡はどこだ。先ほど俺と一緒に吹き飛ばされたはず。あれがないとなんにも見えない。
俺は慌ててしゃがみこみ手当たり次第に地面を撫でるようにして眼鏡を探した。手のひらに触れる地面は土と草の感触がして、先ほどまで足元に広がっていたはずなコンクリートはどこにも見当たらない。突如起こった不思議な現象に首をひねっていると、こつん、と指先に硬い何かが当たった。ぼやけてよく見えないので指先の感覚を頼りにそれをつかみ、目の前まで持ってくる。
それは間違いなく俺の眼鏡だった。——ただ、レンズは割れ、フレームはひしゃげた悲惨な状態に様変わりしていたけれど。
「あああああ俺の眼鏡が!」
絶望だ。一縷の望みにすがって無理やり眼鏡をかけてみるが、レンズが割れているのに視界がクリアになるはずがない。
「もうだめだ...」
がくりと、俺は肩を落とした。俺は昔から目が悪く、眼鏡に頼って生きてきた。眼鏡がないんじゃどうにもできない。直そうにもここがどこだか分からない。
「もしかして、ここは天国なのか...?」
やはり俺はトラックに跳ね飛ばされて死んだのだろうか。いやでも、まさかここが天国なのだとしたら俺の眼鏡くらいは直してくれてもよくないか。または視力。
とりあえず眼鏡を直せるところを探さなくては。俺はそう結論付けて、適当に歩き出した。




