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第四百六十八話「運営するより参加する方が楽」


「ところで杏さんはまだ来られていないのでしょうか?」


 茅さんも合流してきたところでそろそろ本格的に回ろうかと思ったけど、よく考えたら杏もまだ合流していない。他に所在不明は睡蓮くらいだろうけど、睡蓮は竜胆と同じく実行委員だろうからまだ合流出来ないのはわかる。でも杏が何故まだ合流してきていないのかはわからない。


「咲耶たん!私はもうここにいるっすよ!」


「ひゃぁっ!?」


 後ろの藪がガサガサと物音を立てたかと思うと、そこから杏が飛び出してきた。杏も中等科の制服で、しかも葉っぱや土まみれになっている。何故こんな藪の中に?というかいつからいたんだ?


「おっ、驚かせないでください……。それで……、杏さんはどうしてそんなところから……」


「私は咲耶たんが表で車から降りた所からずっと一緒だったっすよ!」


「…………え?」


 杏の言葉にポカンとする。いや……、待て……。俺は杏なんて見ていないぞ?確かに周囲全てを完全に見ていたわけじゃないけど、それにしたって杏がいれば気付くはずだ。というか杏だって何故俺が来ていたのに声もかけなかったんだ?そして何故藪から出てきた?


「え~……、それではどうして今まで声をかけてくださらなかったのでしょうか?それから何故藪から出てこられたのですか?」


「それはもちろん咲耶たんのベストショットを撮るためっす!カメラが向いてると思ったらどうしても不自然になっちゃうっすから、自然な姿が撮れるように陰ながらこっそり撮影してたんすよ!」


「はぁ……?」


 わかるような、わからないような?


 確かにカメラが向いていると思ったら意識してしまって自然な撮影が出来ないというのはその通りかもしれない。それに関しては杏の言っていることもわかる。でも……、それって盗撮なんじゃ?俺は撮っていいと言っていないのに、杏が俺に気付かれることなく勝手に撮影していたということは、色々と俺の権利が侵害されてることにならないか?


「杏さん……、それはもしかして肖像権やプライバシーの侵が……」


「まぁまぁ!細かいことは気にしないでっすよ!私は咲耶たんの専属カメラマンも仰せつかってるっすから!ね?」


「はぁ?」


 まぁ……、そう言われれば何かそんなのもあったっけ?いつも行事とかで俺達の撮影を専属で行っているし、父も杏に特別モデルのカメラを贈ったり、そういうことをしても良いと合意しているということか?


「皆揃ったなら行こうよ!咲耶お姉ちゃん!」


「え?えぇ……、そうですね」


 気にしても仕方ない……、のか?杏がこっそり撮影していたことに関してはまぁいいか。でもそれよりも問題がある。俺は百地流で結構修行して、気配とかそういうのも何となくわかるようになった!……気がしていた。でも今日杏の気配なんて一切気付かなかった。百地流もそこそこ出来るようになったと思っていたけどまだまだだったか……。




  ~~~~~~~




 秋桐達や茅さん達と合流して七夕祭を回っていく。ちょっと見ただけだけど、今の所はこれといって問題もないようだ。それに内容も大体例年通りだな。これなら去年のコピーで何とかなるだろう。


「咲耶ちゃん、おはよう」


「あっ、マス……、緋桐さん、友康さんも御機嫌よう」


 今年の露店はどんなものがあるのかと思って見ていると緋桐と友康と鉢合わせた。保幸と小紫はいないようだけど……。


「保幸さんと小紫さんはご一緒ではないのですか?」


「二人はちょっと露店を見に行っているのよ。私達はここで待っているの」


「あぁ……」


 人の流れをコントロールするために今年も露店の前は一方通行になっている。一度入ったら出口に抜けるまで進み続けなければならない。まだそれほど凄い人混みではないけど、露店や屋台に興味がなければわざわざ入るのも疲れるだけだ。こうして待っているというのもわからなくはない。


「お婆ちゃん達も一緒に回ろ?」


 秋桐がコテンと小首を傾げて緋桐達を誘う。可愛い孫のお誘いを二つ返事で引き受けるかと思ったけど、緋桐の答えは予想外のものだった。


「今回はやめておくわね。秋桐達の出し物は見に行くから」


「は~い……」


 う~ん……。てっきり喜んで一緒に回ると思ったけど何故か断られていた。可愛い娘や孫と一緒に回れなければわざわざ七夕祭に早くから来ている意味もないような気がするけど……。本人達がそう言うのなら向こうの家族の問題だ。俺が何か言うこともないだろう。


「それじゃねお婆ちゃん」


「いってらっしゃい」


 笑顔で手を振ってくれる緋桐達と別れて俺達は他の所を回っていく。各クラスの飾りつけコンテストとかを見てみたけど去年とあまり代わり映えがなかった。もうそろそろ新しいアイデアも出尽くして、皆似たような飾りつけばかりになってきている。これも何かてこ入れした方がいいかもしれないな。


「咲耶ちゃん、私達はもう卒業したんですから、今のことは今の世代の子達に任せましょう」


「……え?」


 各クラスの飾りつけを見ながらそんなことを考えていると急に皐月ちゃんがそんなことを言い出した。もしかして……、声に出てた?


「もしかして……、独り言を言っていましたか?」


「ええ。コンテストのてこ入れをした方がとか、色々と真剣に考えられていたみたいですね」


 あちゃぁ……。独り言が漏れていたか……。今日のことくらいなら別に聞かれてもどうってことはないけど、聞かれたら大変なこととかを言っていたら大事になってしまう可能性もある。もっと気をつけよう。


「さぁ咲耶様!次に行きましょう!」


「ちょっとお腹が空いたねー!」


「もうすぐお昼ですし、この時間に買い食いしたらお昼ご飯が食べられなくなってしまいますよ」


「譲葉お姉ちゃんは食いしん坊さんだね!」


「えー?そんなことないよー!」


「「「あははっ!」」」


 う~ん。可愛い……。腹ペコキャラの譲葉ちゃんも可愛いけど、笑ってる皆が可愛い。去年は実行委員が忙しくてお祭りを楽しむというより、いかに問題をクリアしてやりきるかばかりに気がいっていた。今年はこうやってゆっくり楽しめる。授業をサボることになってしまったけど、それでも来てよかった。


「少し早いですが混雑する前に昼食にしますか?」


「駄目よ咲耶ちゃん。これから講堂に行きましょう」


「え?」


 別に給食のように時間が決まっているわけじゃないから、食堂が混む前に食事にしようかと思ったけど茅さんに止められてしまった。そのままぐいぐい先へ進んでいく茅さんと杏に引っ張られて講堂へとやってきた。


「咲耶お姉ちゃん、それじゃ秋桐達も行ってくるね!」


「いってきま~す!」


「見ていてくださいね、咲耶様ぁ」


「え?え?」


 そう言うと秋桐達がゾロゾロと舞台下へと向かって行った。壇上では次の出し物の準備が進んでいるみたいだけど、何だかその様子は俺のよく知っているものと良く似ている。


「今年も咲耶ちゃんが出られたらきっと四連覇だったでしょうにねぇ」


「あぁ……、やっぱり……」


 その言葉を聞いてわかった。やっぱりこれは織姫・彦星コンテストだ。去年まで主導していた茅さんと杏が今年は手を出していないからやらないのかと思っていた。でもどうやら誰かが引き継いで今年も開催することにしたらしい。


『それでは皆様お待ちかね!午前最後にして最大の注目イベント!織姫・彦星コンテストを開催いたします!』


 客席からワーッ!と歓声が上がって拍手が鳴り響く。っていうか李……、全然合流してこないと思ったらこんなことをしていたのか……。舞台の準備をしていたり、舞台袖からチラチラ見えている面子の中に射干達もいる。どうやら李や射干達が茅さんと杏の跡を引き継いでいるようだ。


『それではさっそくまいりましょう!エントリーNo.一番!…………』


 李の司会はなかなかどうして堂に入っている。この日のために相当練習を積んだのかもしれない。


 ……まぁ、出し物の司会の練習って何よ?って感じではあるけど、日ごろの李と同一人物とは思えないほどにはっちゃけているのは間違いない。


 知らない子達も結構出ていてかなり参加人数が多かった。去年まではほとんど参加者がいない感じだったんだけどな……。


「今年は去年よりも参加者が多いようですね」


「それはそうですよ!今年は咲耶様が出ておられないので!」


「そうだよー!」


 えっ!?それって俺が出るような出し物には他の人は出たくないってことか?俺が出てるから皆エントリーしなかったってことだよな?俺ってそんなに嫌われてたのか……。もうちょっとマシだと思ってたけどまさかそこまでだったとは……。


「優勝が決まっているのに出るのも中々勇気が要りますよね」


 あぁ……、その上斟酌票で勝敗まで決まってると思われてたのか……。それならやっぱり在学中も出場しない方がよかったか……。今更言っても仕方がないけど、やっぱり無理にでも断っておけばよかったかなぁ……。


「次は秋桐ちゃんのようですよ」


「しっかり見なければなりませんね」


 そこから秋桐達のグループが連続で出てきた。一緒に行ったからエントリー順がかたまってたんだろう。そして最後に出てきたのは竜胆だった。実行委員で忙しいのかと思ったけどこれには出ようと思っていたようだ。


 エントリー人数も多くて票がかなり割れたみたいだけど、投票結果は僅差で竜胆が織姫、大差で桜が彦星となった。桜は彦星でかなり圧倒的だったけどそれも今年までだ。来年は有力な男子がいないから群雄割拠になるかもしれない。


「面白かったねー!」


「……参加せずに見ているだけだと面白いですね」


 譲葉ちゃんの言葉に素直に頷けない。去年までは強制参加させられて、楽しいとか面白いより恥ずかしいとかそういう気持ちばかりだった。人がやっているのを見るのは良いけど自分が出るものじゃないな。


「咲耶お姉様!」


「咲耶様!」


「御機嫌よう皆さん」


 出し物が終わったから竜胆や李や射干達も合流してきた。後片付けは係りの者がするからもういいらしい。


「それでは食事にしましょうか」


「「「はーい」」」


 皆で食堂に向かう。今日は人も多いけど露店で食べる人もいるから皆が皆食堂に集めるわけでもない。それでも人数が多いから俺達は空き教室に入って食事を摂った。こういう時実行委員がいると融通が利いて楽だ。ずるいとか言わない!これは実行委員が時間通りに食事や休憩が出来るとは限らないから、食事などのために空き教室を利用しても良いという配慮なのだ。


「午後からどうされるのですか?」


「そうですね……。誰か何か観たいものなどはありますか?」


 演目のパンフレットはもらっているけど正直俺はあまり興味を惹かれるものがない。俺がどうしても観たいのは秋桐達の出し物だけだ。


「咲耶お姉様!それじゃ午後は一緒に露店を回りましょうよ!」


「そして最後は……」


「私達の出し物を観ていってください!」


「ね?咲耶お姉ちゃん」


「茅お姉ちゃんも観てくださいねぇ」


 竜胆も李も射干も秋桐も、そして睡蓮も、皆相当気合が入っている。皆の出し物は講堂の大取りだ。それまで露店を回って時間を潰してから講堂へ観に行こう。




  ~~~~~~~




 皆と露店を冷やかして、準備があるからと初等科の子達は先に講堂へと向かった。俺達はもう少し時間を潰して、講堂の観客入れ替え前にやってきた。前の演目が終わって観客の入れ替えとなった。


「四年生達は何をするんでしょうね?」


「五年生の子もいるのでその言い方は少し可哀想な気もしますが……」


「睡蓮はちょっと……」


 皐月ちゃんが微妙そうな表情をしていた。皐月ちゃんと薊ちゃんは五北会でずっと睡蓮と一緒だったし、何か思う所もあるのかもしれない。別に嫌っているという風でもないけど、あまり皐月ちゃんが睡蓮と話している所も見たことがない。


「睡蓮は猫を被っているから苦手です。あとムッツリ咲耶なので!」


「えっ!?『ムッツリ咲耶』って何ですか!?」


 逆隣から会話に参加してきた薊ちゃんの言葉にギョッとした。何それ?どういう意味?何か自分の名前が入ってると凄く気になるんだけど?


「ムッツリスケベっていう言葉がありますよね?それと同じで普段は表に出していないムッツリな咲耶様好きのことをムッツリ咲耶って言うんです!」


「はぁ?え?……冗談ですよね?」


「「「…………」」」


 え?冗談だよね?……え?


「あっ!始まりますよ!」


「…………」


 う~ん……。はぐらかされた気がする……。まぁいいか……。薊ちゃんなりの冗談だったと思っておこう。


『ついに七夕祭最後の演目となりました!大取りはリンドーズによる演奏とダンスです!』


「リンドーズって……」


 司会の言葉で幕が上がりスポットライトが照らされた。舞台の上には四年、五年のグループの皆が楽器を構えている。


 ワン、ツー、スリー、の掛け声の後に演奏が始まった。演奏はまぁ……、練習時間が足りなかったのかな?という感じの出来だった。それぞれ楽器自体は出来るけど、これだけの人数で合わせて演奏するには少し合っていない部分がある。


 師匠のお弟子さんが提供してくれた曲は勝手に演奏出来ない。だから竜胆や秋桐達は他の曲を練習したんだろう。でも練習不足で完璧とは言い難い。


 さらに曲が進むと一部の子が踊ったり、歌ったり、ソロ演奏が入ったりと演出自体はそれなりに凝っていた。でも逆にそういう所を凝りすぎたから、肝心の曲を合わせて練習する時間が足りなかったんじゃないかな?どうせなら余計なものは入れず、演奏だけに集中していればもっと良い演奏になったかもしれない。


 でも別に今日は演奏会でも楽器の発表会でもない。皆が楽しめて、良い思い出になるのならそれが一番だ。


 今日のために皆で集まって練習したダンス。集まれる日が少ない中でどうにか工夫した演奏。そういうものがきっと将来良い思い出になるに違いない。


 演奏が終わった時、竜胆も李も秋桐も、皆泣いていた。それが演奏がいまいち合っていなかったことへの悔しさなのか、それとも皆でやりきったことで気が抜けたり感動したりしたのか、俺にはわからない。


 だけど……、きっと今日の思い出は良い思い出になるはずだ。将来皆で『そんなこともあったね』と笑い合えるに違いない。だから皆、お疲れ様。



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― 新着の感想 ―
[一言] ムッツリ咲耶と聞いて、咲耶様がムッツリなのかと勘違いしたけど、咲耶様はウッカリでいろいろとオープンしてるからそれはないな。。。 ウッカリ咲耶様だな。
[一言] 咲耶ちゃんに気配を感じさせないとかヤバいな 素で人物紹介の存在を忘れてた(
[一言] たぶん小学生にしては上出来なクオリティーな気がする
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