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第四百四十話「真相編 影ながら……」


「なるほど……」


「…………」


 花梨の話を聞いて頭を抱えそうになるのを必死で我慢する。どうやら事は思った以上に重大だったらしい。


 花梨が言うには、どうやら鬼灯と鈴蘭は授業の初日からさっそく外部生一般と揉めたらしい。これからは外部生の一般家庭育ちのことをを外部生一般、貴族達は外部生貴族、内部生、と呼び分けることにする。内部生はほぼ貴族だし、一般生徒だったとしても本家は貴族なので内部生は内部生と呼ぶ。それ以外に何らかの呼び分けが必要な場合だけ補足を加えよう。例えばそれこそ内部生一般、というような感じで……。


 さて……、それで本題に戻ると、どうやら初日に早速揉めた両者だけど、外部生一般の者達が、大小コンビと揉めてからすぐに教室に戻って、クラス中にあの二人を無視するように言って回ったらしい。その時も外部生一般の方が正しく、大小コンビが悪いという風に一方的な説明をしてまわったようだ。


 恐らく初日の揉め事というのは、俺が登校して行った時にあの二人が外部生一般に囲まれていた時のことだろう。もしかしたらあの時俺が声をかけに行ったせいで、両者の話し合いが中途半端に終わってしまったのも原因の一つかもしれない。


 もしあそこで俺が介入せず、両者が納得するまできちんと話し合っていれば……、大小コンビが悪者扱いされてクラス中から無視されることもなかったんじゃないだろうか。


 ゲームでも河村鬼灯、加田鈴蘭は外部生の中心的立ち位置になっていた。二人の性格なども考えればそれも頷ける。それなりにリーダーシップもあるし、明るくて誰とでも分け隔てなく接する。鈴蘭は無口だけど悪い子とか根暗というわけでもなく根は良い子だし、最初にとっつきにくいというのはあるかもしれないけど、最初の接触さえ鬼灯がフォローすれば普通にちゃんと友達が出来る子だ。


 そんな二人が中等科が始まってすぐにクラス中から無視されているというのはあり得ないだろう。それこそ何か妙な干渉があったからでもない限りは……。


 ゲームや設定資料には書かれていなかったけど、もしかしたら大小コンビが外部生の中心になるためにはあの日、あそこで、外部生一般達と揉めて、その上でお互いに納得して仲直りする必要があったのかもしれない。それを俺が途中で止めてしまったからこうなったのだとすれば……、俺の未来も危険なものになったんじゃないだろうか。


 外部生一般は大小コンビが悪いかどうかは関係なく、ただ二人の悪評を広めて自分達は悪くないと言い張ろうとしている。そして外部生貴族達にとっても、内部生達にとっても、実はどちらが良いも悪いも大して意味はなく、ただ自分達が他人の争いに巻き込まれるのは嫌だと思って静観しているだけだろう。


 実際には外部生貴族や内部生は大小コンビの敵とか、イジメようという気はないんだろうけど、我関せずで知らん顔をしていることで、結果的にイジメに加担しているというか、黙認している形になってしまっているのだと思う。


 もしこの事態を放置しておけば、本当に大小コンビはクラス中、学園中からイジメられていると思って変な方向へ話が進みかねない。


 手を打つなら早い方がいい。あまりモタモタしていて大小コンビが学園中からイジメられ、無視されているという形が固定化してしまっては手遅れになる。今ならまだ大小コンビと仲良くなれる子達も、今後時間が経てば経つほどにそれも難しくなってくるに違いない。


「吉田花梨さん……、貴女にお願いがあります」


「はっ、はいっ!何でしょうかっ?」


 相変わらずガチガチに緊張している花梨だけど、どうしてもこの子に協力してもらう必要がある。四組の内部生で、大小コンビの近くにいても不自然ではなく、そして今後のクラスの動きをある程度コントロール出来るのはこの子だけだ。


「これから……、吉田さんは河村鬼灯さんと加田鈴蘭さんとお友達になっていただけないでしょうか?」


「…………え?」


 よほど予想外の言葉だったのか、花梨は暫く固まってからポカンとした顔でそう言った。


「河村さんと加田さんの現状を放置しておくと本当にイジメや、対立の火種になってしまいます。そこでまだそれほど時間が経っていない今のうちに、吉田さんは四組の内部生達を纏め上げて、河村さんと加田さんのお友達となり、今の状況を打開していただきたいのです」


「えっと……」


 花梨はかなり困惑した表情を浮かべている。いきなりこんなことを言われても困るよな。イジメられている者と関われと言われても、そんなことをしたら今度は自分がイジメのターゲットにされるかもしれない。外部生一般など大した力は持っていない。でも毎日集団で嫌がらせされたりすれば嫌な気持ちになるだろう。精神的に参る可能性はある。


「もちろん私も影ながらですが出来る限りのフォローとバックアップを行います。吉田さんの身の安全も保障しますし、必要な手助けがあれば全て私と九条家で負担いたしましょう。このままではクラスが良くない方向へ進むということは吉田さんもご理解されていることと思います。いかがでしょうか?」


「その……、まず……、九条様の言われていることはその通りかと思います。ですが……、それならば何故九条様が表立って解決されないのでしょうか?」


 まぁそれは当然の疑問だな。俺が四組の問題を解決したいのなら、花梨に頼まず自分で出て行けば良いじゃないかと思うのは当然だ。援助や支援はするからといって人にやらせようとするなんて俺は最低の奴と思われているだろう。自分では矢面に立つことも、手を汚すこともせず、裏から人に命令してやらせようなんて最低だ。


 でも俺は表に出るわけにはいかない……。


「色々と事情はあります……。私が直接四組の事情に首を突っ込むというのも問題になるでしょうし、私では四六時中、四組の様子を見守るということも出来ません。四組の生徒の協力は必要不可欠です。それに……、私は何故かあのお二方には嫌われているようなので……、私からの手助けだと知ればあのお二方は協力を拒否されるでしょう」


 他にも色々と事情や理由はあるけどこの子に言うわけにもいかない。ゲーム『恋に咲く花』であの二人が咲耶お嬢様を破滅させることに重要な役目を担うからだ、なんて言えるはずもないだろう。とにかく屁理屈でも嘘でも、何でもいいから俺が直接あの二人に関わるのは駄目だ。そして俺の関与すら知られるわけにはいかない。


「それではもう一つ……。どうして九条様ほどのお方が……、その……、四組の、それも外部生のことを気にされるのでしょうか?わざわざ正体を隠してまで……、地下家である私にそのように頭を下げられてまで……」


「あぁ……、これは何も学園のためでも、他人のためでもないのですよ。これは全て私が私自身のためにしようとしていることです」


「どういうことですか?」


 俺の言葉に花梨は不審そうな顔を向けてきた。何かさっきからズケズケ質問することといい、花梨が俺に遠慮がなくなってきている気がする。最初はあんなにガチガチに緊張していたのに……。別に『俺への態度が軽くなった!』とか言って怒るつもりはない。でも最初の怯え方は何だったのかと思うほどに今は遠慮なく俺に質問してる気がする。


 まぁ自分がこんなことの矢面に立たされるかもしれないんだ。言いたいことも聞きたいこともあるだろう。それもわかるから俺も花梨に真摯に答える。


「私はただ……、平穏で楽しい学園生活が送りたいのです。ですが四組がそのような状況で、それを知っていながら黙って見過ごしていては平穏で楽しい学園生活は送れないのです。ですから……、吉田さんには余計な苦労をかけてしまうかもしれませんが……、協力していただけませんか?」


 鬼灯と鈴蘭は九条家と咲耶お嬢様の破滅に関わる重要人物だ。その二人がこんな問題に巻き込まれているのにそれを放置しておけば……、俺の破滅フラグが近づく可能性が高い。それに……、例えイジメられているのがこの二人じゃなかったとしても……、やっぱり同じ学園内でこんなイジメがあるなんて知って知らん顔は出来ないしね。


「…………わかりました。私でどこまで出来るかわかりませんが……、出来る限りのご協力はさせていただきます!」


「吉田さん!ありがとうございます!」


 最初はガチガチに緊張していて、どこか頼りないような、自信がないような雰囲気だった花梨が、今は力強く頷いてくれている。きっと怖いだろう。不安だろう。自分もイジメられるんじゃないかと思っているはずだ。それでも協力してくれる花梨にはいくら感謝しても感謝し足りない。


 これからは花梨が四組の情報を教えてくれることになった。場合によっては俺が裏で手を回してでも何かと鬼灯や鈴蘭の手助けをする必要がある。それに花梨のバックアップも万全にしなければならない。


 くれぐれも俺のことは内密に、俺の存在を知られることなく鬼灯と鈴蘭の手助けをして、四組の問題を解決してもらうように花梨に頼んだのだった。




  ~~~~~~~




 突然九条邸に呼び出された吉田花梨は驚いていた。まったくもってほとんど何の接点も持っていなかった地下家である自分が、何故突然五北家の本宅に呼び出されるというのか。


 遠い親戚とはいえ吉田花梨は錦織柳や萩原紫苑とも親戚である。まさか今更萩原紫苑のことを蒸し返されて、自分にまで責任を取れとでも言われるのだろうか。あるいは男子としては比較的九条様と仲が良いと言われている錦織柳が何か仕出かしてしまったのかもしれない。そのことについての呼び出しだろうか。


 考えるだけでお腹が痛くなってくるが逃げることは出来ない。九条家の車に乗せられ、問答無用で屋敷へと連れてこられた花梨が聞かされたのは、いや、聞かれたのはまったく別の話だった。


 九条咲耶様が花梨に尋ねたのは四組のことについてだった。四組内で今イジメのようなことをしているのは花梨も理解している。最初の頃に外部生一般から河村鬼灯と加田鈴蘭を無視するようにという話はきていた。別にイジメに加担するつもりはなかったが、内部生達も集まって話し合い、どちらにも加担せず黙って関わらないことになった。


 九条様がそれを聞いて何をするつもりなのかはわからない。もしかしたらイジメを放置している自分達もお咎めを受けるのかもしれない。その恐怖はあったが嘘を吐くわけにもいかず、花梨は本当のことを全て話した。そして少し目を閉じて熟考された九条様の言葉に花梨は驚いた。


「これから……、吉田さんは河村鬼灯さんと加田鈴蘭さんとお友達になっていただけないでしょうか?」


「…………え?」


 花梨は何を言われたのか意味がわからなかった。


「河村さんと加田さんの現状を放置しておくと本当にイジメや、対立の火種になってしまいます。そこでまだそれほど時間が経っていない今のうちに、吉田さんは四組の内部生達を纏め上げて、河村さんと加田さんのお友達となり、今の状況を打開していただきたいのです」


「えっと……」


 九条様の言っていることはわかる。今ならばまだ決定的な対立になっていない。イジメも固定されていない。今状況を打開すればこの問題を放置しておくよりも簡単に解決出来るだろう。いや、今しか解決出来ない。しかし何故九条様がわざわざ自分にそのようなことを頼むのかがわからなかった。


「もちろん私も影ながらですが出来る限りのフォローとバックアップを行います。吉田さんの身の安全も保障しますし、必要な手助けがあれば全て私と九条家で負担いたしましょう。このままではクラスが良くない方向へ進むということは吉田さんもご理解されていることと思います。いかがでしょうか?」


「その……、まず……、九条様の言われていることはその通りかと思います。ですが……、それならば何故九条様が表立って解決されないのでしょうか?」


 九条様が一言号令をかければ、内部生も外部生貴族も纏め上げることが出来るだろう。それこそ花梨などに頼むよりも簡単に、確実に解決出来る。外部生一般は従わないかもしれないが、そもそも外部生一般などどれほどいても九条家の敵ではない。


「色々と事情はあります……。私が直接四組の事情に首を突っ込むというのも問題になるでしょうし、私では四六時中、四組の様子を見守るということも出来ません。四組の生徒の協力は必要不可欠です。それに……、私は何故かあのお二方には嫌われているようなので……、私からの手助けだと知ればあのお二方は協力を拒否されるでしょう」


 九条家が動けば問題になる……。それはその通りだ。確かに問題の解決も簡単だが、騒ぎも大きくなってしまう。九条家が介入したとあっては問題を公にせねばならず、九条家が解決するとあれば少なくとも首謀者の外部生一般生徒達はよくて退学。場合によっては社会的制裁まで受けることになる。


 九条様はそれがわかっているから、外部生一般が退学されられないように内々に解決したいと言われているのだ。何故そこまで九条様が他の生徒達のことを気にかけられるのか。それを聞かずにはいられなかった。


「それではもう一つ……。どうして九条様ほどのお方が……、その……、四組の、それも外部生のことを気にされるのでしょうか?わざわざ正体を隠してまで……、地下家である私にそのように頭を下げられてまで……」


「あぁ……、これは何も学園のためでも、他人のためでもないのですよ。これは全て私が私自身のためにしようとしていることです」


「どういうことですか?」


 花梨の問いに、九条様は穏やかな表情を浮かべられてそう言われた。花梨は意味がわからず首を傾げる。


「私はただ……、平穏で楽しい学園生活が送りたいのです。ですが四組がそのような状況で、それを知っていながら黙って見過ごしていては平穏で楽しい学園生活は送れないのです。ですから……、吉田さんには余計な苦労をかけてしまうかもしれませんが……、協力していただけませんか?」


「――ッ!」


 穏やかな表情でそう言われた言葉を聞いて、花梨は途轍もない衝撃を受けた。九条様は内部生も、外部生貴族も、そして外部生一般ですら慈しまれているのだ。ただイジメの首謀者を処分すれば良いというものではない。それでは過ちに気付き、償う機会を失う。


 中等科一年生などまだまだ子供だ。その子供達が一度道を踏み外したからと見捨てるのはあまりに忍びない。だから……、ご自身の関与を隠しつつ、裏から問題を解決したい。そのためならば地下家でしかない自分にまでこうして頭を下げてお願いされている。


 命令すればいい。いくら派閥が違おうと、九条家のご令嬢という立場ならば吉田家支流の自分になど命令すれば良いのだ。それなのにこうして胸の内を正直に話してくださり、協力して欲しいと頭を下げて頼まれている。


 全ては藤花学園とそこに通う生徒達のために!


 この方はなんと無私無欲で、人のためを想われている方なのだろうか。この方はまるで聖母のようなお方だ。


「…………わかりました。私でどこまで出来るかわかりませんが……、出来る限りのご協力はさせていただきます!」


「吉田さん!ありがとうございます!」


 花梨が引き受けると、九条様はほっとした表情で少し微笑まれた。花梨も本当は少し怖い。自分が矢面に立って外部生一般のイジメを防がなければならない。しかし……、この方のためならば……、この方の願いならば……、自分はそれを引き受ける。死力を尽くして出来る限りのことをしなければならない。


 それだけの覚悟を決めた花梨は、今まで誤解していた九条咲耶様という方の本当の御心に触れることが出来たことを密かに喜んでいたのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 咲耶様めっちゃ良い人やん。花梨ちゃんもですが。 鬼灯ちゃんと鈴蘭ちゃんと和解できるといいですね。 [気になる点] あれ、咲耶様教師よりも学園のために頑張ってません? まあ普通の教師にこの学…
[良い点] ああ、また一人咲耶ちゃんの毒牙に……(゜ω゜)
[一言] 良い子だった……… 良い子だった
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