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第三百六十七話「謎は全て解けた」


 無事に昼食に戻った俺達は、食事を終えてから再び集まり今後の作戦とルートを話し合う。


「午前中はここからここまで回りましたよね」


「とすると午後からは同じ地点に戻って続きを進むよりも、こちらから新しく回った方がたくさんチェックポイントを回れそうですね」


 午前中に通ったルートの先端までただ戻るよりも、午後からはまた別のルートを通って順番にチェックポイントを通過していく方がたくさん稼げそうだ。他の班も同じことを考えているのか、気が早い班はすでに朝とは違う方向に向かって進み始めていた。


 俺達は朝からあえて大多数が向かった方向とは違う方向に進んだ。そのお陰で他の班とはほとんど出会わなかったけど、後半になってくると別ルートからやってきた班とちらほらすれ違った。午後から他の班が朝とは違うルートへ進むのならば、今度は俺達はまた別のルートか、皆が朝に向かった方角にでも行くのが良いかもしれない。


 ちなみにルートとか言ってるけど実際に何らかの一本道になっていたりするわけじゃない。広い里内の各地にチェックポイントがあって、そこへ行くための道筋はいくらでもある。その中で近場で連続してチェックポイントを通過出来る道順をルートと呼んでいるだけだ。


「俺は午前の続きが気になる!午前のところまで急いで戻って続きを進むべきだ!」


 あ~……。伊吹はそういうタイプか。気持ちはわからなくはない。ゲームでも何でもいいけど、端から順番にとか、一度ゴールが見えてからでも戻って全部確認しなければ気がすまないとか、そういうタイプの人もいるだろう。このまま未通過のチェックポイントが残ったら、それがどんなところで、どんな課題だったのか気になってしまうというのもわからなくはない。


 効率的にいかに多くのチェックポイントを取るかと考えるなら、ここは朝とは別ルートを進んで、重複した道やポイントを極力通らずクリアしていく方が良い。でも伊吹のように端から全部見てみたいという気持ちもわかる。こればっかりは伊吹だからと感情的に否定するものじゃないだろう。


 人にはそれぞれ好みや性格というものがあり、どうしても端からきっちり四角四面に埋めたいタイプの人もいる。いい加減に順番や効率も考えずに思い付きでウロウロする人もいる。どちらが良い、悪い。伊吹の言うことだから全て反対というつもりはない。ここは一度皆の意見も聞きつつ伊吹と話そう。


「午前の続きが気になるのならば私は近衛様が言われるように朝の最終地点に戻って順に進んでも構いません。他の皆さんはどうですか?」


「私達も別にどちらでも構いません」


「何か順位とか賞品があるわけでもないしねー」


 うん。皆も非効率だとしても特に異論はないようだ。別に効率重視でたくさんチェックポイントをクリアしたからって何かあるわけでもないしな。


「というわけですので近衛様、朝の地点に戻るのならば効率が落ちて他の班よりもチェックポイント数が少なくなるかもしれませんが、私達は誰も反対はありませんよ。戻られますか?」


「いや!もう朝の続きはどうでもいい!俺達が一番になれるように多くチェックポイントをクリア出来るようにしろ!よきにはからえ!」


 『よきにはからえ』て……。それはともかく伊吹は続きが気になるとかどうとかより、あくまでこの班がチェックポイントクリア数で一番になることの方が重要らしい。なので俺達は再び効率重視のルートを選び直す。


「ではやはりこちらからこう……」


「あとは賭けですね……」


 地図上でいくら最短ルートでたくさん回れる順を考えても、実際に現地に行ってみれば、チェックポイントがわかりにくい場所に隠されていて探すのに手間取ったり、課題クリアに時間がかかったり、場合によっては班で課題がクリア出来ずにポイントがつかない場合もある。


 地図を見て一応の作戦を立てることは出来るけど、あとは実際に行ってみてどうなるかはやってみなければわからない。


「それではこの順で回ってみましょう」


「「「はいっ!」」」


 男子達はただぶらぶらと俺達が決めたルートについてくるだけだ。こちらのグループでルートは決めたので早速午後の探検に出かけよう。




  ~~~~~~~




 午後の探検も順調に進んですでに午後だけで四つのポイントをクリアしている。女子のグループはそろそろ疲れが見える。会話も少なくなってきているし、あまり無理な探索をさせるのも酷だろう。男子はさすがにまだ余裕があるようだけど、うちの班の男子は頼りにならないしな。


「貴方のお名前は?監督者は口を挟まないとしても、会話くらいはしても良いのでしょう?」


「あ~……、そうだね。俺は五辻(いつつじ)(しきみ)だよ」


 あっ……。あ~……。そうか。そういうことか……。


「あれ?その顔はもしかしてもう察しちゃったかな?」


「ええ、まぁ……」


 五辻樒と名乗ったこの男は俺の表情を見て肩を竦めた。五辻家といえば宇多源氏の流れをくむ武門寄りの堂上家で九条門流だ。そう……、九条門流の堂上家だ。


 臣籍降下とか、源平藤橘とか、細かいことはおいておいてざっくり言えば天皇になれなかった天皇の子孫達、つまり皇族というのは放っておいたら物凄く増えてしまう。いつお家断絶になるかわからないから兄弟をたくさん作るというのは現代人でもわかるだろう。でもその子孫全てがずっと皇族だとどういうことになるか。


 八代前の天皇が四人の兄弟を作りました。長男が跡を継ぎました。残りの三人は皇族です。七代前の天皇が四人の兄弟を作りました。長男が跡を継ぎました。残りの三人は皇族です。そして先代の天皇の子、現天皇の兄弟三人の子孫も皇族です。


 こうなるとネズミ算式に皇族の数が増えていくことはわかると思う。お家断絶させないために何人も子供を作り、その子供達がまた子供を作る。ずっと皇族として扱っていたら何代も前の天皇の兄弟や子孫が延々と残り続ける。


 そこで臣籍降下、つまり皇族の地位から家臣の地位に名前を与えて降ろす。家『臣』の『籍』に『降下』するというわけだ。その際に元皇族が与えられた氏が源平橘だ。だから源氏も平氏も本は同じ天皇家の子孫となる。そして同じ源氏といっても『どの天皇の子孫が源氏の名を与えられて臣籍降下したのか』が違うというわけだ。


 臣籍降下の対象はだいたい三代くらい経ったらというのが多い。全てが必ず三代で臣籍降下というわけではないだろうけど、一応の目安としてそういう基準があったようだ。


 武門として有名な清和源氏は清和天皇の子孫が源氏を賜り降下したものであり、五辻家の宇多源氏は宇多天皇の子孫ということになる。源氏は武門の棟梁というイメージがある通り、五辻家も堂上家になる前は北面武士などを務めていた武官系ということになるだろう。


 堂上家と一言で言っても様々であり、五摂家、清華家、大臣家と続き、その下に羽林家と名家がある。羽林家と名家は格の上では同格だけど、武官の羽林家と文官の名家と思えばいい。そして堂上家において最下位が半家となる。五辻家は半家なので堂上家としては一番下の格だ。


 長々と説明したけど結局何が言いたいかと言えば、九条門流で、武門の五辻家の者が、林間学校でも修学旅行でも俺の近くにいる。それがどういうことかこれ以上言う必要はないだろう。つまりこの五辻樒は両親が俺につけた護衛と監視役ということだ。


「護衛と監視にしては随分と私にフランクですが……」


「あれ?九条家のお嬢様はそういうことを気にしちゃう系?」


 こいつ……。へらへらとちょっと小馬鹿にしたように笑いながら失礼な態度を正当化でもしようとしているのか?そりゃ俺は別に九条門流だからって九条家の者である俺に跪けとは言わない。でも最低限の礼儀とかは必要だろう。


「そもそも私は貴方とお会いしたことはありませんが……」


 五辻樒はそれなりに年上だろう。椛と年齢が近いくらいかもしれない。年の差はそれなりにあると思うけど、九条門流ならば俺は多少会ったことはある。俺が望むと望まぬとに関わらず、俺だって色々な催しにも参加しなければならないし、門流や派閥の集まりに顔を出すこともある。


 同世代なら学園に通っている間に会うこともあるだろうけど、世代が違えば接点はぐっと減る。それでも門流の集まりなどである程度の人物の顔は知ってるつもりだったけど、この五辻樒は今までまったく見たこともなかった。


「世の中にはそういう役目の者もいるってことですよ」


 ふっと、少し物憂げなような、それでいて世の中を皮肉るような、何とも言えない表情で樒は遠くを見ていた。その心中がわからないほど俺も鈍感じゃない。


 今までそういう会合などで俺が見たこともなかったということは、五辻家はあまり顔をおおっぴらに売らずに裏の仕事をしているということだろう。だから不用意に人前に顔と名前を出さない。門流の会合があっても表からは顔を出さず、同じ門流の者達や門流の長の子供達にすら顔を見せない。


 そうして表に出てこない人材というのは何かと重宝するだろう。こうして影からこっそり護衛したりすることも出来る。そして……、表に出せないような汚い仕事も……。


 権力者側から見ればこんな重宝する人材もないだろうけど、使われている方からすれば堪ったもんじゃない。自分達は表に出ることも出来ず、危険で汚い仕事ばかりさせられる。樒の先ほどの表情と皮肉はそこからきている。


「貴方の一族の苦労がわかるなどという安い慰めは言いません。ですが貴方のような方がいるからこそ世の中は成り立っているのです。裏方でも、縁の下の力持ちでも、そういう方がいなければ世の中は回りません。上に立つ者の方が目立って眩しい位置に立っているように見えますが、上に立つ者には上に立つ者なりの苦労もあるのですよ」


「それは……、そうでしょうね……」


 樒が俺の言葉で納得したり、心から同意したかどうかはわからない。自分の苦労に比べればお前達の苦労なんて苦労にも入らない!と思っている可能性もある。でも、俺だって上に立ちたいと思って立っているわけでもないし、何の苦労もなくただ上でのうのうとしているわけでもない。


 皆何かを背負って、何かを我慢して、それぞれの役割を演じることで世の中は回っているんだろう。無責任に自分の役を降りることは簡単だ。でもそうして降りた者には二度と天は微笑んでくれない。俺はそんな風に思う。


 お天道様は見てるとか、努力すれば報われるとか、悪事は暴かれるなんて綺麗事だと思う。実際にはのうのうとのさばっている悪人は多い。どんなに陰で努力しても報われないこともある。でもだからと自分の生まれを呪っても世を妬んでも何も変わらない。ならば自分の環境を良くするためには自分が努力するしかないだろう。


「……それで、五辻さんはおいくつですか?」


「樒でいいよ。俺は今大学二年でね。去年の林間学校に同行した時は一年だったってわけ。で、この林間学校や修学旅行の監督手伝いをするとちょっと成績でおまけしてもらえるんだよ。だから林間学校や修学旅行の監督は藤花学園の大学生が多いんだ」


「そうでしたか」


 それだけ世代が違うと顔も知らないのは納得だ。兄なら樒とも面識があったかもしれないけど、俺との年齢差なら学園でも顔を合わせる機会もほとんどないだろうし、知らなくても無理はない。


 林間学校の時も、今回の修学旅行でも、藤花学園の生徒達を相手にしているのに、監督者達が随分余裕があるなと思ったらそういうことだったんだな。確かに家格の差があるとしても、そんなに年上の世代で同じ藤花学園に通えるようなクラスの家の者達だったのなら納得だ。


 そして樒が伊吹に対して特に何も言わずに放置していたのは……、場合によっては伊吹に何かあっても都合が良いと思っていたからじゃないのか?伊吹が怪我をしても知ったことじゃないし、むしろ都合が良いと考えていたのかもしれない。


 もちろん監督者としてついているのに事故などで怪我を負わせれば責任問題になるだろう。でもそれで追及されるのは樒一人だ。九条門流も五辻家も樒さえ見捨てて責任を負わせればそれ以上追及される謂れはなくなる。


 樒一人でそう考えてるわけじゃないだろうな……。樒に指示を出している者がそう考えているんだ。それは五辻家か、あるいは父か……。どちらにしろ九条門流は近衛家の跡取りに何かあっても知ったことじゃないと思っている可能性は高い。


 表向きは近衛家とも許婚候補宣言という形になっておきながら、九条家か、九条門流全体かはわからないけど近衛家を疎ましく思っている?いや……、それは考えが飛躍しすぎか?ただ疎ましいとまでは思わないまでも、あまり快く思っていないというのはありそうだ。だからこちらが面倒まで見てやるつもりはないと……。


 事故で自滅するのなら本人の勝手だから知ったことじゃないというスタンスだとすれば今の対応もわからなくはない。色々問題になる可能性はあるけど、九条家や九条門流だって馬鹿じゃない。自分達に責任が降りかからないように何らかの手段はとっているだろう。


「おい咲耶!もたもたするな!時間がなくなるぞ!」


「――ッ!?はい……」


 当の伊吹に声をかけられて驚いた。まさか今の会話が聞かれてた、なんてことはないだろう。俺は最後尾でこそこそと樒と話していた。それにあれこれ考えてはいたけど危ないことは口に出していないはずだ。


 このあと俺達は時間ギリギリまでチェックポイントをまわって、最終的に学年で一番多くポイントをクリアしてアスレチックを終えたのだった。


 それにしても……、こういうイベントで一番はしゃぎそうな薊ちゃんが今日は何だか少し大人しかったように思う。薊ちゃんに何かあったのかな?とも思うけど、結局聞けないままにこの日もアスレチックの里のホテルで宿泊して、ついに修学旅行は後半戦、四日目に突入したのだった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] これまでは五北家、清七家だった家格が五摂家、清華家になっているのは何故でしょうか?
[一言] 多少咲耶ちゃんが考え過ぎなところもあるな
[良い点] 今更ですが咲耶様って各家、門流の知識が豊富ですよね。 〜家が堂上家で、〜家がどこそこの門流とかちょっとした日本史みたいでとても自分には咲耶様みたいに覚えられる自信がないですね。 家同士の会…
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