第412話~後始末~
天気が良くないとなんだか捗らないんですよね……きっと気圧のせいだな( ˘ω˘ )(責任転嫁
「よくぞ戻った、戦士達よ」
ドラゴニス山岳王国の王都ドラッドに戻ると、なんとホスカット陛下自らが出迎えてくれた。まぁ、出迎えとは言っても魔道飛行船が着陸してから下船するまでにそこそこ時間がかかったから、先に降りていた竜騎兵達から伝令が飛んだだけなのだろうけれども。
「戦果については既に我が王国の戦士達より報告を受けている。魔物どもの巣を完膚なきまでに崩壊せしめたとな。メリナード王国の力が十二分に示されたということは疑いようもない」
「それもドラゴニス山岳王国の勇敢な戦士達の援護があってのことです。我々もドラゴニス山岳王国が誇る竜騎兵の強大さを目の当たりにしました」
「今後も今日のように共に力を合わせ、良き未来を築いていきたいものだな」
ホスカット陛下が満足そうに頷く。そうして一通りの労いの儀式が終わったら戦果として持ち帰ってきたフライングバイターの登場である。
「おぉ、これは大きいな」
ホスカット陛下が驚きの声を上げる。飛竜の発着場に並べられたフライングバイターの死骸、その数十二体。一番小さな個体でも体長は軽く15mを越え、一番大きな個体は20mを超す長大な姿であった。
「船の上に転がり込んできたものしか確保できなかったので、この程度の数しか持ち帰ることができませんでした。誇張でもなんでもなく、この十倍以上の数を倒したんですがね」
「うむ、シンドリエルからも聞いている。此度はコースケ殿の助力を得られて真に僥倖であったな。我が方の戦力だけで奴らを撃滅するのは難しかっただろう」
確かに、竜騎兵だけであの数のフライングバイターを相手にするのは難しかっただろう。発着場の近くにある竜舎の大きさと数を見る限り、竜騎兵の数は多くても五十には届かないところだろうと思われる。総力戦であればフライングバイターを駆逐することも可能だろうが、それなりに犠牲を払うことになるのは間違いないだろうな。
まぁ、王都ドラッドにいる竜騎兵がドラゴニス山岳王国の全航空戦力というわけではないかもしれないから、本当の総戦力がどれほどのものなのかはわからないのだが。
「この一番でかいやつは状態も悪くないですし、首を落としてトロフィーにしますか」
「それは良い考えだな。王城前の広場に展示するとしよう」
一番でかい体長20m超えの大物は今回の戦いの象徴として数日展示され、その後剥製とされて記念品としてドラゴニス山岳王国が所蔵することとなった。数日の展示の間は腐らせないようにドラゴニス山岳王国の魔道士が定期的に氷魔法で冷やしておくらしい。
ホスカット陛下は指示を出すためにこの場を去って行き、この場にはアイラと俺だけが残された。グランデは結局艦橋でずっと眠りこけたままである。起きる気配がなかったので、艦橋で船のチェックを行う魔道士さん達に任せて俺達だけ下船してきたのだ。
「そういえばアイラ、こいつの肉は食えるのかな?」
「それは私も知らない」
アイラがふるふると首を横に振る。博識なアイラにもわからないことはあるか。まぁ、食ってみればわかることだ。とりあえずしっかりと火を通せば腹を壊すことはあるまいて。
「捌き方とか知ってる人いねぇかな?」
「こういうのは地元民に聞いてみるのが一番」
ということで周りの人――主に王城の兵士達――に聞いてみたが、誰も知らないようだ。仕方がないので兵士の一人に頼んで知っていそうな人を連れてきてくるように頼んでおく。
「今のうちに血抜きとかしておくか」
「今更感あるけど、やるだけやってみる」
あちこちに魔銃の大口径弾を被弾しているので、死骸の状態はあまり良いとは言えない。しかしどんな肉でも血抜きをしておかないと生臭くなることは間違いないと思うので、可能な限り血抜きを施してみることにする。まず何にせよでかいというか長いので、吊るすのが大変だな。これは。
「まぁ俺にかかればなんてことはないが」
「気をつけて」
一旦死骸を全てインベントリに収納し、石壁のブロックを設置。その上に飛び上がり、ジャンプして足元にブロックを設置。ジャンプして更に設置という感じで足元にブロックを積み上げていき、とりあえず高さ22mの石壁ブロックの塔を建てる。ブロック一個あたりの大きさがピッタリ1mなので、二十二個分だな。そして頂点からそのまま横にブロックを並べて行き、横幅を10mまで伸ばし、今度ははしごを掛けながら地上まで石壁ブロックを伸ばしていく。これで巨大な獲物を吊り下げる台――血抜き台ができたわけだ。
そうしたら今度は反対側の柱にも梯子をつけてどちらの柱からも上まで上がれるようにしておく。うん、上から下を見下ろすと普通に怖いわこれ。どこがとは言わないが、ヒュンッてなる。
落下制御の腕輪があるから、もし足を踏み外しても死にはしないと思うけどな……とりあえず一番上の通路に金属製の手すりをつけておこう。安全は大事。金属製の手すりに命綱を着けておけばとりあえず不慮の事故も減るのではないだろうか。
そうしたら今度はハーピィさんや魔銃兵達にも手伝ってもらって上部通路からフライングバイターの死体をロープで吊るす。
「クッソ重いな!」
「危ない危ない! 落ちる落ちる!」
ギャーギャーと騒ぎながらもなんとかフライングバイターの死骸を吊るすことに成功したので、ロープの長さを調節してうまい具合に宙ぶらりんになるようにしてから頭を落として血抜きを開始する。血も何かに使えるかもしれないとアイラが言うので、樽に溜めておくことにした。
「血なんて何に使うんだ?」
「蛇系の魔物の血は解毒系錬金薬の材料になることがある。あと、ものによっては強壮薬の材料や、回復薬の材料になったりもする」
「なるほど」
この身体の大きさであればそれなりの量の血が手に入ることだろう。それが上手いこと利用できるなら、それに越したことはないな。まぁ、吊るす前に銃創からそれなりに血が流れてしまっているのだが。それでもまだまだ血は出そうだし。
そうしているうちに城の方から俺が先程フライングバイターの捌き方や調理法を弁えている人物を探してきて欲しいと頼んだ兵士と、何人かの料理人らしき白いエプロンを身に着けた人々が姿を表す。なんか剣みたいな包丁を持ってるな。鮪包丁的な何かか?
「これは凄い。フライングバイターは年に数匹、下手をすれば年に一匹も持ち込まれることがないのですが。十二匹も。これは早く処理をしてしまわなければなりませんね」
そう言って吊り下げられているフライングバイターに目を向けているのは大変にガタイの良いリザードマンである。リザードマンは見た目で年齢が全くわからんのだが、なかなかの貫禄を持つ御人だ。恐らくそれなりの年齢なのだろう。
「まずは皮を剥いでしまいましょう。皮にも価値がありますので」
「仔細はお任せするよ。なんならうちの兵を人手として自由に使ってくれ」
「ありがとうございます」
料理人が目の色を変えるということは、やはり食えるのだろうな。どんな味か今から少し楽しみだ。リザードマンの料理人の指揮で皮を剥がれていくフライングバイターを見ながら、俺はその味に期待を馳せるのであった。




