椅子を立った姿
「よしよし。かわいそうに。負けても一生懸命やったんなら仕方ないぞ。」
「そお?ありがとう。なでなでしてくれる?」
「いいぞ、いいぞ。それでこそ、アイドルだ。撫でてやろう。」
「わああああ。うれしい。う~ん。気持ちいい。」
こいつらはいったい何をしているんだ。かなり怪しげな雰囲気だぞ。
「まほは本当にういやつだのう。よし、カタキを取ってやろう。」
そんな会話を耳にしながら、抜き足差し脚で近づいたオレ。本来の目的は腹痛沈静化である。相手が保健の先生であれば、当然問診をしてもらう権利がある。
「あのう、オレ、お腹が痛くて困ってるんですが。」
一応、患者として、ふたりにアプローチ。
「貴様、名を名乗れ。」
「『名前を言えって』よ。そういやまだ聞いてなかったねえ。」
学園アイドルまっほは椅子野郎の言葉を取り次いでいる。
「名を言う間もなく、いきなり攻撃して自爆したのはそっちだろう。オレは1年D組の日乃本都だ。」
「何しに来たんだ?」
「『ここに来た目的』を聞いてるよお。」
「保健室に来たんだから、からだの調子が悪いからに決まってるだろう。お腹が痛いんだよ。」
「じゃあ、病院に行け。」
「『病院に行った方がいい』って言ってるよお。」
「それじゃ保健室の意味がないだろう。ってか、さっきから会話変じゃね?学園アイドルまっほが取り次いでるように見える。そもそも声って聞えてるのに、どうして直接話しかけないんだ?それに光が眩しくて、奥の人の顔見えないし。保健の先生なんだよね?」
「無礼であるぞ。」
「『無礼』だと言ってるよお。」
「だから聞えてるって。」
「ええい。じれったいのう。」
『ガタン』。椅子を立った姿がおぼろげに見えた。




