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出会い

「あぁぁ!今日も可愛いなぁぁ!」

今日も家に入り浸ってうるさく騒いでいるこの男は、大学3年生の俺の兄、正木真一である。

「ちょっと兄さんいい加減にしてくれよ…こんな古くて安いアパートじゃ近所迷惑になるって!」

本当はこのアパート、安くて古い割に意外と壁は厚くて騒音になることなんてほとんどないのだが、兄のこれは俺にとって立派な騒音である。

「まぁまぁそう言わずに〜このアパート安くて古い割に壁は意外と厚くて全然騒音トラブルがないって、兄さん知ってるぞ?」

「いやなんで知ってるんだよ」

思わずツッコんでしまったが、気を取り直して俺は兄がニヤつきながら眺める画面を覗き見た。

そこには兄の「推し」であるゲーム実況グループ、「ミア」のメンバー、琉張優月のアバターが映っている。

「ミア」はつい1年前にデビューしたばかりにも関わらず飛ぶ鳥を落とす勢いで人気が出ている今をときめく覆面女性グループである。そのなかでも優月は内気でおとなしく、語尾には必ず敬語がつくいかにも可愛らしい、守ってあげたくなる系らしい。

ミーハーな兄は1年前からすっかりこのグループの虜であり、課金(スパチャというのか?)したり、ライブにも積極的に応募している。ただ1つ問題があるとすれば、それが全部俺のスマホで行われているということだけだろう。

実は兄は2年前から兄の彼女さんである白石紗奈さんと同棲しており、その紗奈さんが女関係にはばり厳しいらしいのである。そのためスマホの検索履歴も、通知も、見ている動画も、少しでも女性が映っているとそれはもう恐ろしいらしいのだ。

そのため兄はなにかと理由をつけて俺の家に来ては、俺のスマホで推し活をして帰っていくのである。もちろん課金した分は当日その場で現金で返してくれるしライブに行くときはなぜか2人分予約され無理やり連れて行かされるのだが、問題はそこじゃない。

俺は兄がいないときにも全く興味のないアイドルのうるさい通知にイライラし、動画サイトを開くとアイドルで埋め尽くされたおすすめ欄を目にし、兄が購入しいつの間にか部屋いっぱいに飾られた大量のグッズと毎日生活しなければならないのだ。これはもう…相当なストレスである。兄には幼い頃から何かと助けてもらっているため、多少の兄孝行はしておくべきかと考えた過去の自分の良心が、完全に仇となった。そんなことを一人悶々と考えていると、突然スマホの着信が鳴った。

「あ、紗奈からだ。」

兄が自分のスマホをみて少し顔をしかめ、そして少し嬉しそうに言った。不思議なやつだ。

「てことで、今日はこのへんで帰るわ!おじゃましました〜」

「はーい」

兄が呑気そうに部屋を出ていってから一人、静かになった部屋の中でため息をつく。そろそろ風呂に入って、授業の復習をして、寝るか。

月がやけに綺麗で、消えちゃいそうな夜だった。


ピピピピッピピピピッ

朝、うるさいアラームで目が覚める。

「うぅ…」

だるくて重い体にムチを打ち、アラームがより一層大きい音を鳴らす前に止めた。

今日は休日だから、二度寝でもするか。

ふと横を見ると、見知らぬ女性が横たわっていた。

いつも通りの朝だ。

って…

「えええええええええ!?!?!?」

俺の大声にびくりと体を震わせた彼女は、瞼をゆっくりと上げ、「おはよう…ございます」

とまるで天使のように微笑んだ。

これが、琉張優月と俺のおかしな出会いである。

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