最終章「華麗なる牧野遥ここに――」
漫才コンビ「ちぇんそーまんず」の名称はお互いの好きな人のホラー映画「チェンソー」からとったものだった。
地道に地下芸人から始めたが、最初は鳴かず飛ばずで俺は何度も「やめる」とチョンマゲに弱音を吐いてみせた。
「牧野さんのオッ〇イを揉みたいのだろう! 諦めるな! 俺だって牧野さんとデートすることを諦めてなんかねぇ!」
2人で漫才をし終えたときはいつも俺のアパートの部屋でコイツばかりが酒を呑んで夢を熱く語った。
俺は正直、狂っているなと思っていた。でも元々俺もそうだったのだろうし、偉そうな事はやっぱり言えない。
俺達は牧野さんのいないコンビニで働き続けた。
仕事終わりも俺の家で一緒に飯を食うなどした。
ふとテレビをみると見慣れた顏がそこにあった。
「えっ? これ? パワーじゃねぇ? 違うか?」
「マジか? うおおお! マジじゃねぇかよ!!」
彼女はカメラ越しに芸人になった経緯を語る。
『地下アイドルをしていたのだけど、コンビニの店長をしていた人に「キミっておもしろいね! 芸人も目指したら?」ってコンビニ店員としてスカウトされて、色々面倒みてもらったのです。今、観ているかな? ま~き~の~さ~ん!!』
後日、彼女のSNSに牧野さんと思わしき女性からのメッセージが届く。
『貴女へ芸人になる事を勧めた者です。まさか本当にその世界で大物になるとは私も鼻が高いです。これからも色々大変だと思うけど頑張ってくださいね。もう2度とコンビニの店員になることがないように(笑)』
アヒルのアイコンのその人が牧野さんとは限らない。
しかし俺達はそんな気がして仕方なかった。
そのアカウント主はホラーとお笑いが大好きな40代の女性のようだ。拘束が強い夫へ悩まされている事を赤裸々に告発している呟きもネットで話題になっていた。
「東京か。東京って言っても東京03だか東京ダイナマイトだか東京のどこだか分からねぇよな」
「そもそも牧野さんかどうかも」
「そうじゃねぇの? 茨木でコンビニの店長をしていたって呟きもあったし」
「たまたまこの茨木でコンビニ店長をしていた牧野さんみたいな女性かも?」
「お前らしくねぇな」
「何が?」
「『ちぇんそーまんず』って何で結成できたのか覚えてないのか?」
「牧野さんがいたから?」
「違う! お前がその奇跡を信じたからだろう!」
チョンマゲが顔をハッとさせる。俺はコイツが目覚めてさえくれればよかった。
M1ラストイヤーを入れて残り2回のチャンス。
ずっと一次予選で滑り続けた俺達はそのとき準決勝までいった。
ただ奇跡を起こしたくて熱と熱をぶつけて何度も朝までネタを考えた。
そのネタがお笑いファンの間で大いに広がったのだ。
敗者復活戦がテレビ放映されてSNSで広まったのが大きかった。
俺のSNSも広がって昔から続けているブログもアクセスが殺到するように。
そのブログのタイトルはいまも変わらない。
「店長のオッ〇イを揉みたいBLOG」
ここまできたらもう、俺は何も疑わなかった――
彼女はその会場にやってきた。
だいぶ年配で堅苦しそうな夫を横につれて。
「品がない客層だな。俺の趣味のほうがよっぽどいい。今回かぎりだぞ?」
「ええ。すいません」
どんな漫才コンビがでてきても夫はピクリとも笑わない。
しまいにはあくびをしだした。
そして話題沸騰中「ちぇんそーまんず」の出番がくる。
「こんにちわぁ~! う・る・さ・い・ぞ!」
「それはお前だろう(叩く)」
「いてぇぞ! チョンマゲ!」
「『ちぇんそーまんず』です。宜しくお願いします」
夫は気がついたら寝ていた。目を覚ますと隣には妻がいない。
「あれ? あの女、どこにいきやがった?」
喜劇も終わったようだ。観客がぞろぞろと会場をでていく。
「クソッ、俺を置いてきぼりにしやがって。帰ったら罰を与えてやる」
会場の出入り口では芸人との握手会が開催されている。
そこにいるかと思えばそうではなかったらしい。
「ここにいるわよ。あなた」
後ろから声が。そこに立っているのは離婚届を持った妻と2人の男。
「今日から私のダーリンはこのふたりです。よろしく」
「おまえ、何を言っている? 俺たちの親族が黙ってはないぞ!」
「だから何? 私はもうあなたに見切りをつけたの。さようなら」
「おい!? 何をする!?」
彼女はこれ以上ないくらいに微笑んで指輪を外し男に投げつけた。
「くたばれ。糞野郎」
男は項垂れて膝をつく。そのまま離婚届も手渡された。
なんていうシナリオだよ。恐ろし過ぎるだろ。牧野遥さん。
俺達はそのまま東京の夜景を一望できる場所に来た。
「再会できて嬉しいです! 牧野さん! 僕とこのままデートしてください!」
華麗なスーツがよく似合う牧野さんはニコニコして頷く。
「それよりも! 俺にオッ〇イを揉ませてください! それが大事!」
俺の言葉にもニコニコして頷いてくれる。
これは遂にそのときがくるのか。これは遂にそのときがくるのか。これは遂にそのときがくるのか。これは遂にそのときがくるのか。これは遂にそのときが……!
「来年、ラストイヤーのM1を優勝できたらね?」
ウインクしてそう返した彼女は最強だ。
でもだからこそ惚れる。
牧野遥に俺達はこれからもゾッコンだ――
∀・)読了ありがとうございました♪♪♪柴野いずみ様主催「ざまぁ企画」の応募作品になります♪♪♪
∀・)まぁチェンソーマンの影響をモロに受けている作品ですよね(笑)ただその素材を使いつつも、世界観はオリジナルなものを目指しました。そしてこうして「ちぇんそーまんず」という漫才コンビを生んで楽しめた事をまた1つ思い出にできたらと思います。楽しんでもらえたのであれば何より。またべつの作品でお会いしましょう。いでっちでした☆☆☆彡