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異世界に行ったら僕の居場所はありますか?  作者: 大石 優
第3部 第9章 余韻の時間
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おまけのエピローグ

 春の気配も漂いだした新宿。

 幾分過ごしやすくなったものの、明け方の冷え込みはまだまだ油断ならない。


「今日はお別れを言いに来たんだ。長いこと世話になったな」


 伸び放題だった髪やヒゲを切り揃えた男。

 ブルーシートの出入り口から、仲間の家を覗き込みながら別れの挨拶を告げる。


「たまげたな。どうしたよ、その身なり。いい仕事でも見つけたのかい?」

「いやぁ……恥ずかしい話なんだが……。息子に厄介になることになってな……」


 男は気まずそうに頭をかきながら、仲間に事情を話す。

 最底辺の生活から、自分だけが脱出することが後ろめたい。黙って姿を消すことも考えたが、やはり世話になった手前、筋は通すことにした。


「帰れる家があるなら、帰った方がいいに決まってらあ。こんなホームレス生活には、二度と戻ってきちゃいかんぞ」

「実は、ちゃらんぽらんだと思ってた息子が、立派になりやがってよ。よその国なんだがな、大臣だとさ」

「そいつはたまげた。上手くやんなよ。達者でな」


 仲間に見送られ、家とは呼べない粗末な居住空間を後にする男。

 そのすぐ外では、男の息子が挨拶を済ませるのを、今や遅しと待ち構えていた。


「もういいのか?」

「ああ、待たせたな。それにしてもよ、大臣なんて、えらく出世したもんだな」


 足早に歩く親子連れ。背中を丸めて歩く父と、背の高い息子。

 ぎこちなく話しかけた父に、息子はぶっきらぼうに答える。


「大臣ったって、王国じゃねえっし。国王に反乱を起こして作った、新しい国だし」

「いや、大したもんだよ。昔の俺たちとは大違いだ。何しろ俺たちゃ、一日ももたずに鎮圧されちまったからな……」


 自虐的な薄笑いを浮かべ、思い出話を語り始める父。

 そんな父に、息子は呆れ顔で口を挟む。


「失敗に終わったからって、行方をくらますことなかったっしょ。探し出すのに、どれだけ苦労したかわかってんスか?」

「本当にすまねえ。あの時は、どの面下げて帰ったらいいかわかんなくなって、外界に飛んだものの……。余計に気まずくなって、帰る機会を逸しちまった。でもいまさら、俺が帰ってもいいのか?」


 不安げに尋ねる父。だがその心配をよそに、息子は頼もしく答える。




「――当たり前っしょ。親父の帰る場所を、ずーっと空けてみんなで待ってたし。『家の主のお帰りだ』って、大手を振って帰ればいいんスよ」


お蔵入りしていた当初のエピローグを公開してみました。


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