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異世界に行ったら僕の居場所はありますか?  作者: 大石 優
第3部 第7章 立ち上がるシータウ
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第7章 立ち上がるシータウ 2

「――おらおら、作業遅れてっぞー。二週間なんてあっという間だぞ」


 一丁目商店街の中央に位置する広場で、魔法対策の陣頭指揮を執るケンゴ。

 この円形の広場は、商業地区としての一等地。周囲をさまざまな店が取り囲む。

 洒落たレンガ造りの店が多く、シータウには珍しい三階建ての建物もちらほら。耐火性にも優れているので、この地を迎撃拠点にすることに決まった。


「これは、何をしてるんです? ケンゴさん」

「これはこれは、王子自ら激励かい? こいつは励みになるぜ、ハッハッハ」

「いやいや、そういうのいいですから……」

「粉々に砕いたクロルツを、塗料に混ぜ込んで壁に塗ってんだよ。ちょっとお前さん、試しにこの壁に手を触れて、例の魔法をかけてみちゃくれねえかい?」


 『例の魔法』なんて言い方をするということは、血統魔法のことだろう。

 ケンゴに言われた通りに壁に手を当て、血統魔法を発動させてみる。

 するとその瞬間、十メートルほど先から作業員たちの驚嘆の声が上がった。


「うわあぁ……」

「いたたたた……」

「いってえ、何が起こったってんだよ……」


 声の方を見ると、数名の作業員たちがそれぞれに不思議そうな表情。しかもなぜか一様に、壁から五メートルほど離れた場所でしりもちを突いている。

 きっと、何が起きたか解っているのは、僕とケンゴだけ。

 クロルツを含んだ壁に対して血統魔法を発動したことで、壁全体がその魔法の効果を発揮したのだ。


「あんなに遠くまで血統魔法が……」

「この壁一面が、クロルツで覆われてるわけだからよ。これは防魔服ならぬ、防魔壁ってこった。そこにお前さんの魔法をかけてやれば、なにものも寄せ付けない究極のバリケードの完成ってわけよ」

「防魔壁……。それはすごい……」

「あっちじゃ、人工クロルツも作ってるぜ。興味本位ながら、色々研究してた甲斐があったってもんだ」


 ケンゴも、ロニスには二度も痛い目に遭わされている。

 家を失い、直接吹き飛ばされもした。

 そんな経験から、魔法に対して身を守る方法も模索していたらしい。


「クロルツも人工的に作れるんですか? すごいですね」

「カズラ大先生の魔法講義にヒントを得てな。クローヌが結晶になったのがクロルツだってなら、クローヌを過飽和状態にしてだな――」

「ああ、技術的解説はまたの機会に……。それより、あの建物はなんです?」


 難しい話になりそうなので、慌てて話題を変える。

 長々と解説させてケンゴの貴重な時間を奪うのは、本作戦において大きな損失。

 決して、苦手分野の化学系の話題から逃げたわけではない……決して。


「ああ、あれか。あれは魔力の補充小屋だ」

「補充小屋?」

「せっかく防魔壁を作っても、魔力補充ができなきゃ、あっという間にただの壁だ。補充のために外に出るんじゃ、壁の意味がねえだろ?」

「そりゃ、そうですね」

「だから小屋の中に経路を引き込んで、内側から魔力補充できるようにしてある」

「でも……このシータウで、その魔力は確保できるんですか?」


 ここはシータウ。魔力弱者の集まる街。

 そんな街にも、魔力を持つ者は大勢いる。が、その魔力はみな乏しい。

 そもそも豊富な魔力を持つ者なら、こんな街に流れ着いたりはしない。


「――乏しい魔力なら集めてやればいい。こいつが何だかわかるかい?」


 ケンゴはニヤリと笑うと、ポケットから小さな琥珀色の欠片を取り出す。

 受け取って空にかざしてみるが、これといった特徴はない。

 ちょっと色が濃く感じるが、この世界なら珍しくもないクロルツだ。


「何の変哲もないクロルツに見えますが……」

「まあ、半分正解だな。正確には『超高純度クロルツ』だ。人工クロルツだからこそできる超高純度。こいつで、魔力の不利を解消してやる」

「こんな欠片一つでですか?」

「実際に使うのは、もうちっと大きい奴だがな。今までのクロルツよりも純度が格段に高い分、魔力も大量に蓄積できる。言わば、魔力電池だ」


 またしても、革新的な技術がお目見え。

 僕は魔法の特訓に傾倒していたが、ここではこんなものまで作り上げていたなんて……。改めて、ケンゴの技術に脱帽だ。


「今のうちから蓄えておけば、魔力量でも十分対抗できるってわけですね」

「防魔壁の魔力補充も、この魔力電池を交換するだけのお手軽さ。魔法が扱えねえ奴にもできる、簡単なお仕事だ」


 国王に反旗を翻す決断をしたタイゾウ。

 今までは仇も討てずに耐えてきたというタイゾウが、今回は立ち上がった。

 さらには、命を捨てるための戦いじゃないという、自信をうかがわせる言葉も。

 そんな行動を不思議に思っていたが、今理解した。


 これほどのケンゴの技術を目の当たりにして、きっと確信したのだ。『これなら、国王軍にも勝てる』と。

 圧倒的な魔力差も充分に埋められる、それほどの技術だ。


「ここまできたら、絶対国王軍を撃退してやりましょうね!」


 こぶしを握り締め、ケンゴに突き付ける。

 ケンゴもまたこぶしを握り締め、僕のこぶしに向けて突き返した。




「――おう! 当日はさらに仕掛け満載で、国王軍を迎え撃ってやるさ」


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