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異世界に行ったら僕の居場所はありますか?  作者: 大石 優
第3部 第6章 決断の時
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第6章 決断の時 1

 アヤメが手配してくれた馬車で、一路シータウへ。

 ケンゴと詩音の帰国は一時お預け。ケンゴに帰る場所はなく、詩音も帰る意志がないのだから当然の流れ。

 僕、アザミ、カズラ、マスター、ケンゴ、詩音、アヤメ、そしてユウノスケと、気づけば総勢八名の大所帯。定員六名の馬車にこの人員は、さすがに窮屈だ。


「やっぱり、きつくないかしらぁ。あたしは残っても良かったのよぉ」

「あの家は国王派にも反国王派にも知られているのに、アヤメさん一人残して行けませんよ」

「そうよ。それにまた、どこかのバカが重傷の振りするかもしれないしね。治癒の専門家がいてくれないと心配だわ」


 未だに根に持つカズラ。

 唇を奪われかけたのだから、それも致し方ない。

 一方気がかりなのは、ケンゴと詩音の親子。


「…………」

「…………」


 あれ以来、会話どころか口も開かない。

 せっかく、十年ぶりの再会だというのに……。

 やはり、お互いに思うところがあるのだろう。今しばらく時間が必要か。


「シータウって、行ったことないのよねぇ……。どんなところなのぉ? いい評判は聞かないけどぉ」

「ご想像通りの貧民街だ。治安も良くないし、正直気が進まんね。だが、治安官も恐れるような街だからこそ、国家権力から身を隠すには最適かもしれん」 


 アヤメの問いかけに、くだけた言葉で返すマスター。

 相手によって話し方を臨機応変に変えられる能力は、ある意味バイリンガルといえる。


「へぇ、そんな狙いがあったのね。あんたにも思慮深い行動ってもんが、少しは身に着いたみたいじゃないの。見直したわ」

「当たり前じゃない。こう見えて、兄さまは頼りになるのよ、カズラ」

「ま、まあね。王子ともなれば、少しはね……へへ」


 もちろん、シータウ以外の行き先なんて思いつかなかっただけ。

 だが、せっかくの誉め言葉なので、素直に受け取っておく。

 それにしても、アザミの『こう見えて』の部分は、少々引っ掛かる。


「もうすぐシータウに入りますが、どこへ向かえばよろしいんで?」


 御者からの問いかけに答えたのは、以前こちらへ来て間もなくの時に泊った宿屋。

 これもまた、他に思いつかなかっただけだ。


「ふと思ったんだけど、単に知ってる場所を答えてるだけってことはないわよね?」

「い、いや……そんなことはないよ。それなりに考えもあって――」


 やはりカズラは鋭い。

 さっき強がった手前、慌ててそれらしい理由を考える。


「――ケンゴさんの家はロニスに知られてるし、例のアジトに八人はさすがに無理。それに、一度泊った所なら勝手もわかるじゃない。そして、なによりも……」

「なによりも?」

「ずっと牢に入れられてたんだし、きっとゆったりとお風呂に浸かりたいだろうって思ってね」

「に、兄さま……やっぱり臭いますか? 申し訳ありません……」

「そういうことは、口に出さないのが礼儀ってものよ!」


 一気にシュンとするアザミ。

 だが、嫌な臭いなんて全然漂わせていない。むしろ……。

 それにしても、女心は敏感なものだ。

 そんな(こじ)れそうな空気を察したのか、助け舟を出したのはユウノスケ。

 口の上手さはさすがだ。


「でも、その宿屋ならシータウの繁華街っスからね。買い物に出るにも便利じゃないっスか。皆さんの服も、目立たない物にした方がいいと思うっス」

「確かに、詩音ちゃんの服は目立っちゃうわねぇ。知ってる人なら、外界から来たって一発でわかっちゃうわよぉ」

「あたしの服って……やっぱ、やばめ?」


 急に恥ずかしくなったのか、顔を赤らめ、小さくなる詩音。

 ケンゴとは沈黙を貫いているが、塞ぎこんでいるのとは少し違うようだ。

 なによりその表情は、向こうの世界に居た時よりも穏やかなぐらい。

 きっときっかけさえあれば、すんなりと解決しそうな気もする。


「宿屋に着いて落ち着いたら、お父さんと一緒に買い出しに行くといいよ」

「それなら、あたしがぁ――」

「僕たちと違って、国王派に顔の知られてない二人が適任なんだよ。当面の服は、サイズの合いそうなカズラにでも借りてさ……」

「そ、そういうことなら……。助けてもらったお返しもしたいし……」


 せっかくのアヤメの申し出を遮って、強引に話をまとめる。

 そして、もっともらしい言い訳を添えて、仲直りの段取り。

 きっと、みんなの前では話しにくいこともあるはずだから、ちょうどいいだろう。


「さて……ユウノスケさん。あなたには聞きたいことが、山のようにあるんですよ」

「まったくだわ。どこまで(さかのぼ)って聞いたらいいか、わかんないぐらいよ」

「カズラ、ちょっと目が怖いよ。穏やかにいきましょう、ね?」

「本当っス……。お手柔らかにお願いするっス……」


 僕とカズラの圧力に、後ずさりしようにも下がる場所はない。

 顔を引きつらせながら、ユウノスケが口を開こうとしたところで馬車が止まる。

 どうやら、目的地の宿屋に到着したらしい。


「仕方ないわね。後でゆっくり、たっぷり聞かせてもらうからね」



 シータウまで随分と揺られた結果、着いた時には昼はとうに過ぎていた。

 泊るには少々早い時間だが、頼み込んで大きめの部屋を二つ用意してもらう。

 男女に分かれて、それぞれに一部屋ずつ。人数もちょうど四人ずつだ。

 スポンサーはアヤメ。恩を返せない内に、また一つ恩が積み重なる。


「なにぶん、中途半端な時間なものですから、お食事もお風呂もまだご用意できませんが……。ごゆっくり、おくつろぎくださいませ」


 挨拶した仲居が部屋を出るのを見届け、さっそく床に大の字に。

 昨夜から寝ていなかったので、今はとにかく眠りたい。

 馬車の中は、ひどい揺れと馬の臭いでちっとも眠れず。そんなお預けの状態から解放されたので、あっという間に睡眠の快楽へと(いざな)われていく。




「……おやすみなさい…………」


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