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異世界に行ったら僕の居場所はありますか?  作者: 大石 優
第3部 第2章 特訓開始!
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第2章 特訓開始! 1

(うー。早く着いてくれ……)


 石畳を進む馬車の乗り心地の悪さ。以前味わったが、そう簡単に慣れるものではない。酔いそうだ。

 他の三人は平気な顔をしているが、乗り慣れているからなのだろうか。

 ここは話でもして、気を紛らわせなければ。


「これから会う魔法教官て、どんな人なんですか?」

「そうね、あたしも興味あるわ。信用できる人なんでしょうね」

「腕は確かですし、信用もできる人物です。私の幼馴染でございますからね。ただ……」

「ただ……?」

「いささか、変り者でして……」


 その『いささか』という言葉には、不安しか感じ取れない。

 その口ごもりっぷりも、不安に拍車をかける。


「どう、変り者なのよ」

「今は魔法教官そっちのけで、自分の研究に明け暮れているらしくて……」

「で、寝泊まりはどうするんです? 近くに宿とかあるんですか?」

「まとめて全員、面倒を見てもらおうと思っております。長い付き合いですし、費用もちゃんと払うんで、問題はないでしょう。おっと、そろそろですな」


 馬がいななき、馬車が止まる。

 御者によって開かれるドア。女性を降ろすために手が差し伸べられる。

 最初に降りたのはカズラ。

 続いてアザミ、僕と続き、最後にマスターが降りる。

 マスターが代金の支払いを済ませ、馬車を見送ると緊張がみなぎる。


「さて、参りましょうか」


 なんとも、立派な屋敷。

 レンガ造りの二階建て。庭も広く、門から玄関までは石造りの歩道。それ以外の場所は一面の芝生。絵に描いたような豪邸だ。

 これが魔法教官の家。

 魔法教官なんて聞いて浮かんでくるのは、やはり怖そうな先生のイメージ。玄関に進むごとに、緊張が重くのしかかる。


 やがて到着する玄関。マスターが下げられた紐を引くと、ドアの向こう側で鐘のような音が鳴り響く。これがチャイムなのだろう。

 ドアが開かれるまでの間が怖い。

 魔法教官はマスターの幼馴染とのことだったが、やはり魔法使いのお婆さんのような風貌なのだろうか。

 緊張のあまり胸が高鳴る――。


「はい、どちらさまぁ?」


 ドアを開いたのは、二十代後半ぐらいの艶やかな美女。口元のほくろが、さらなる色気を醸し出す。

 しかも透けそうに薄い生地の服は、まるで天女の羽衣。さらに突き出した胸は、その張りのある大きさで服から飛び出しそうだ。

 高鳴っていた胸の鼓動が、さらに早まったのは言うまでもない。

 

「久しぶりだな、アヤメ」

「あらぁ、久しぶりねえ、カズちゃん。元気だったぁ?」

「アヤメは相変わらずのようだな」


 お互いに面識があるようで、アヤメと呼ばれたこの美女とマスターは、軽く抱擁を交わした。

 さらに、懐かしそうに近況を尋ね合う二人。

 その雰囲気に、話し掛けることもできずに立ち尽くしていると、カズラが吠えた。


「ちょっと、父さん! なんなの、この女は。場合によっちゃ、母さんに報告させてもらうからね!」


 まあ、確かに堂々と浮気現場を見せつけられたようにも見えなくはない。

 カズラの不満も当然だろう。


「あらぁ、カズラちゃん? しばらく見ないうちに、大きくなったわねぇ。お母さんは元気?」

「え……? あたしのこと知ってるの? それに母さんのことも?」

「ああ、もちろん知ってるさ。三人とも幼馴染だったからな」

「あ、あの……ひょっとして……。この方が幼馴染の魔法教官の方なんですか? カズト様」


 いや、あり得ない。このアヤメという女性、どう見ても二十代後半がいいところ。百歩譲ったとしても、三十歳ぐらいにしか見えない。

 驚きの表情のアザミ。

 動揺が隠せない様子のカズラ。

 そして胸元に目が釘付けの僕。

 三者三様に、呆気にとられる三人。


「驚かせちゃったかしら。わたしはねぇ、治癒魔法が得意分野なのよぉ。人の細胞を活性化させる研究をずっとしてて、この見た目の若さはその研究成果ってわけ」

「え? じゃあ、本当に父さんと同い年なの?」

「ああ、そうだ。だから母さんに報告する必要はないぞ、カズラ」


 マスターと同い年。突き付けられた驚愕の事実。

 僕は、五十代ぐらいの女性に鼓動を早めたということか。いや、でもこの容姿じゃ仕方がない。いやいや、それでも五十代……。複雑な感情が渦巻く。


「それで? 突然訪ねてきて何の用かしらぁ。それに、こちらのお二方はどなた?」

「……いや、実はな……。ついに、王子候補を見つけたのだ」


 こっそりと耳打ちするマスター。

 だが、自信満々の口振りは声も大きく、こちらまで聞こえてくる。

 これほどの重要事項にもかかわらず、顔色一つ変えないアヤメ。

 それどころか、妙な優しさを感じるほどの笑み。


「あらあら、それはそれは。丁重におもてなししないとですわねぇ。ようこそいらっしゃいました、どうぞお入りください」


 僕たちはうやうやしく、応接室へと招き入れられた。



 人数分の紅茶と共に、部屋に入ってくるアヤメ。そっと一人一人に紅茶を差し出して回る。

 次は僕の番。前かがみのアヤメの胸元を見て、心が躍る。だがしかし、年齢を思い出して、また再び複雑な心境になる。

 マスターはここにみんなで厄介になると言っていたが、この分じゃ気が休まりそうもない。先が思いやられる。


「さて、改めて詳しい事情を聞かせていただきましょうかぁ。そちらのお方が、王子候補というお話だったわねぇ」

「よろしくお願いします」

「それで……。これで、何人目だったかしらぁ?」


 ああ、さっきの笑みはこれか。

 今までマスターが何人連れてきたのかはわからないが、きっと同情心が湧くほどなのだろう。不安感が膨らむ。


「今度は間違いない。自信もあるんだ」

「大丈夫です。きっと兄さまは、本当の兄さまに違いありません。私は信じてます」


 マスターの自信に、アザミの輝く瞳。プレッシャーが重くのしかかる。

 だが、プレッシャーがかかろうが、自分の力で王子候補になるわけじゃない。まず行うべきは事実確認。主任にも言われた言葉を思い返す。


「え? 兄さまって呼ぶっていうことは……。こちらは王女様なのぉ?」

「ああ。大っぴらにはできないが、こちらが王女のナデシコ様だ」


 慌てて跪き、頭を深く垂れるアヤメ。

 一般大衆が王女に相対した時の反応というのは、やはりこうなるのか。

 ついつい今までが今までだったので、感覚が麻痺していた。


「そういうのは無しで構いませんよ、アヤメ様。今は私のことより、兄さまをお願いいたします」

「僕が本当に王子なのか知りたいのですが、どうしたらいいですか?」

「そうねぇ、まずはそこからよねぇ。じゃあ調べますんで、王子候補様だけこっちのお部屋にいらっしゃいな」


 そう言い残して、応接室のさらに奥の部屋に消えていくアヤメ。

 この結果でこの先の命運が左右されるかと思うと、やはり緊張が襲ってくる。

 興奮状態も最高潮。もちろんさっきのような、不純なものとは違う。

 深呼吸をして息を整え、ノックをして静かに踏み入る奥の部屋。

 中はこじんまりとした、六畳ほどの広さ。病院の診察室を思わせる小部屋。


「じゃあ、まずはここに立って、力を抜いていただけますかぁ? 王子様」

「こ、これでいいですか?」


 アヤメはそういうと、身体を上から下まで眺めながら、ゆっくりと背中に回る。

 力を抜けと言われても、この緊張状態ではそう簡単に抜け切るものでもない。

 ついついうわずる、返答の声。

 そこへ突然、背後から回される腕。

 服に手を掛けられ、さらに耳元に寄せられる唇。

 吐息がかかる程の距離で、ゆっくりと耳元で囁くアヤメ。




「――さっそくですが。服を脱いでくださいな、……王子様。フフ」


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