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異世界に行ったら僕の居場所はありますか?  作者: 大石 優
第2部 第11章 思い出作り
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第11章 思い出作り 3

「――いよいよ、今年も終わりだね。色々ありすぎて、十年ぐらい経った気分だ」


 今年は初冬の間に初夏が挟まったり、世界旅行ならぬ異世界旅行へ行ったりと、色々あったものの何とか無事一年を終わらせられそうだ。

 年末年始ぐらい自分の家で穏やかに過ごしたいところだが、あの家にはもう帰れない。そして、反国王派に再び発見でもされない限りは、界門の出現する一月六日までここに厄介になるのは間違いない。

 今日は朝早く――と言っても八時頃だが――起こされ、久しぶりに昼食を兼ねない(・・・・)純粋な朝食が用意されると、その席でカズラがとんでもないことを口走る。


「あたしたちは居候させてもらってるんだから、日ごろの感謝をこめて、今日は主任さんの家の大掃除を手伝うわよ」

「大晦日って言ったって一年の中の一日でしかないんだから、わざわざ大掃除なんて大げさなことしなくてもいいのに……」

「ですね。散らかってるようにも見えないし、綺麗ですよね。兄さま」

「まったく……、あんたたちは間違いなく兄妹だわ。それにしても、王族ってのは怠け者の血筋なの?」


 怠け者のつもりはない。

 普段からそこそこに掃除をしていれば、わざわざ大掃除なんてしなくても清潔さは保てるだろう。いわば、見解の相違だ。 


「父さんは窓ふきよ、ちゃんと中も外もね。アザミは台所、換気扇は後で男どもにやらせるから、手の届くところをお願い」

「僕は何すれば?」

「あんたはお風呂掃除よ。お得意よね」

「風呂掃除はいいけど、もう攫われないでくれよ?」


 カズラは次々と、分担を指示していく。

 だが、主任への恩返しが主旨にもかかわらず、当の本人は浮かない様子で表情も暗い。


「主任どうしたんですか? 掃除しない方がいいですか?」

「そりゃ、掃除してくれるのはありがたいけど……。やっぱり、汚れてる所を発見されるのは恥ずかしいわよ」

「ですよね。そうですよね。僕もわかるな、その気持ち」

「そうですよね。ここは、主任さんの気持ちも尊重しないといけませんよね」


 目の合ったアザミに、何か通じ合うものを感じる。

 もちろん、大掃除の任務から開放されたいだけなのだが、大義名分があれば強気にも出られる。それにしても、モリカド親子はどこまできれい好きなのか。親子揃って主任に食い下がる。


「そんなこと、気にしなくていいわよ。綺麗なお家で新年を迎えた方が、間違いなく気持ちいいんだから」

「そうでございますよ。突然押しかけてそのまま御厄介になってるのですから、これぐらいはさせていただかないと気が済みません」

「んー……。でもせっかくの大晦日だし、あたしも連休は仕事疲れから解放されたいから……」


 これは間違いない、主任も掃除嫌いだ。

 もう一押しすればきっとモリカド親子も、それならばと引き下がるに違いない。頑張れ主任。


「大丈夫、主任さんは休んでてちょうだい。お世話になってるあたしたちだけでやっちゃうから」


 なんてことだ、逆に一人当たりの割り当てが増えてしまった。

 こんなことなら、主任も大掃除に巻き込む方向に持っていけば、少しでも作業をへらせたのに……。

 結局カズラの「そろそろ終わりにしましょう」の言葉で大掃除から開放された時には、夕日はすでに建物の陰に沈んだ後だった。



「さあ、晩ご飯できたわよ」


 カズラが作った料理を、アザミがお盆に載せて運ぶ。

 丼鉢がテーブルへと並べられていく。カズラも残りの丼鉢を両手に持ち、居間へと戻ってくる。


「年越しそば?」

「今日はこの後、出掛けるしね。年越しそばが晩ご飯代わりよ」

「いただきます。……いつも年が変わる直前に食べてたから、あんまり早いと不思議な感じがするな」


 年越しそばは、僕の中では一年の最後のイベントだ。

 食べてしまうとその時点で今年が終わってしまうような気がして、ついついギリギリまで先延ばしにしてしまう。もちろん、個人的な気分の問題なのだが。


「どん臭いあんたは、食べてる間に年が変わってそうよね」

「あー、ゲームの年越しイベントに夢中になってて、気付いたら年が明けてたっていうのはしょっちゅうだったね」

「はあ……」


 カズラが深いため息をつく。

 そしてアザミが、カズラのため息の意味を解説するかのように話し始める。


「兄さま、ヒーズルでは年越しそばは年が変わらないうちに食べきらないとダメなんですよ。年を越してしまうと、新年は災厄に見舞われるとか、食べ残すと金運に恵まれないっていう言い伝えがあります」


 ああ、確か去年の大晦日も、お湯を入れておいたインスタントの蕎麦を忘れていて、年が明けてから食べたんだった。しかも伸びきってしまっていて、美味しくないとそのまま処分したことまで思い出した。

 今回の災厄、そしてヒーズルへ旅立てば貯金も無意味。

 言い伝えを信じるわけではないが、見事に的中していて苦笑いしたくなる。



「それじゃ、アザミちゃんとカズラちゃんにはちょっと遅いクリスマスプレゼントがあるから、あたしと一緒に寄り道してから行くわ。十一時には着くから」


 食後の片付けもそこそこに、女性陣三人組がソワソワと外出の支度を始める。

 この後は近場の寺で二年参りの予定だが、十一時というとまだ三時間以上も先だ。一体どんな寄り道だと言いたいが、女性同士の結束に割って入るとろくなことがないので、黙って従った方が良いだろう。


「僕にはクリスマスプレゼントはないんですか?」

「何言ってんのよ。社会人のあなたにあげるクリスマスプレゼントはないわよ」


 そう言って主任は不敵な笑みを浮かべると、アザミ、カズラを従えて出て行く。

 三人を見送り、マスターと年末のテレビでも見ようと、コタツに潜り込む。

 そこへ突然、主任がぬっと顔を出したのでびっくりして身構えてしまった。どうやら、忘れ物を取りに戻ってきたらしい。




「――そうそう、どうしても欲しいって言うなら、プレゼント用意してあげても良いわよ」


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