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第二話「楽しい晩餐会??」

これは一体どういうことなのか。

私はすっかり憔悴しきっていた。


あの後、ここから家が近いですから、とカインに半ば強引に連れて行かれた先は、森を抜けた先の街外れにある立派な洋館。


中に入るなりいきなりメイドに腕を取られ、お風呂へ連行され、あれよあれよという間に全身丁寧に洗わてしまった。


そしてそのまま、抵抗する隙もなく、まるで一連の流れ作業のように今まで着ていたボロボロの服を剥ぎ取られ、ふんだんにフリルをあしらった、ワインレッドを基調としたワンピースのねような服を着せられ、


逃亡生活を送る上で邪魔だからと、短剣で乱暴に切った髪を整えると、


さらには化粧も施されてしまう。


ここのメイドは恐ろしく手際がいい。


服を脱がされている間にも私が退魔剣を気にするそぶりを見せていたら、場所を移動する度に一緒に持ってきてくれたし、


カイロニアでは、王族はみだりに肌を直接さらしてはいけなかったから、体を人に洗ってもらうなど当然初めてのことだったのだが、戸惑う暇もなった。


ウチの王宮にも、ここまで動きのいいメイドはいなかったな、なんて観察していたら、 今まで世話をしてくれていたメイドと、鏡の中で目が合う。


先程まで状況の判断が追い付かず、気づかないでいたのだが、かなりの美女だ。


何故か深いスリットの入った、身体のラインに沿って、ぴったりとしたメイド服を着ており、形の良い脚を惜し気もなくさらしている。


思わず目のやり場に困ってしまうほど女性的で抜群のスタイル。


とくに胸元はメイド服がとても窮屈そうで。


なんだかこちらが恥ずかしい気持ちになって、落ち着かない上、こんな人に自分の貧相な体を見られたのかと思うと少し情けない。



目元の泣きボクロと腰まである長い紺青の髪が妙に艶っぽく、目が離せないでいると、そのメイドは、にこりと笑みを浮かべた。


「乱暴にしてしまい申し訳ございません。夕食までにあまり時間がなかったものですから。


それにしても紅いドレスがよくお似合いですわ。


私、主人から貴女のお世話を仰せかりました、メイビィ・ロッドと申します。どうぞ、こちらへ」


そう案内され、足を勧めようとした所で、部屋の壁に立てかけられた、私の退魔剣が目に入る。

迷わず手にとろうとすると、


「食堂は食事をお楽しみいただく所。どうか武器の持ち込みはご遠慮ください」


困った顔で笑うメイビィにやんわりと制止されてしまう。


……仕方ないわね。


何も退魔剣だけが私の武器の全部じゃない。



今だって、メイビィが目を離したほんの僅かな隙に、服の胸元にしまい込んだナイフと、太股あたりに仕込んだ銃がある。


元々人の目を盗んで体に武器を忍ばせるのは王宮での訓練の経験から得意だ。


ただただ着せ替え人形になっていた訳ではない。


何かあったらしっちゃかめっちゃかに暴れて逃げ出せばいいわ。


退魔剣のありかは分かっているのだから。


そんな考えを巡らせていることなどおくびにも出さず、渋々といった様子で頷いてみせると、メイビィは安心したように笑う。


うう……美人の笑顔は効くわね。


ほんのちょっと罪悪感で胸が痛んだが、けれど極力気にしないようにして先へ進む。




長いテーブルの先にはカインの姿があり、壁際に控えていた給仕らしい金髪碧眼の、人懐っこそうな笑みを浮かべた男の人が椅子を引いてくれ、


私がその椅子にストン、と腰を下ろすと、私に気づいたカインは私の姿を見て、軽く目を見開き、そしてにっこりと笑った。


「やはり、私の目に狂いはありませんでしたね。貴女のその黒髪と、赤い瞳にその色はよく映えます、ロジリア」



私がカインに名前を聞かれた際、正直に本名を言うわけいもいかなかったから、とっさに思いついた偽名を名乗った。


だからカインの前では私は、ロジリア・エナエラーという名の盗賊の少女だ。


「ありがとう。私のことはロジーでいいわ。だけどいきなりこんなところへ連れてきて、なんのつもり?」


とりあえずは状況の把握が先だ。私は適当にお礼を言ってカインの表情をじっと伺う。


対するカインはにこにこと人の良さそうな笑みを崩さず、そうしている間にも次々と目の前に運ばれてくる料理を手で示し、


「どうぞ、ご自由に食べてください。お腹、空いてるでしょう? 心配しなくても毒は入ってませんよ」


そう言ながら、そそくさと一人で食事を初めてしまう。


確かにお腹は空いている。何しろ久しぶりのまともな食事だ。


本当なら今すぐにでも飛びつきたい。


けれど、先程から料理のいいにおいが私のお腹をこれでもかと刺激していたのをグッとこらえ、


「ちょっとっ……!


と、カインの呑気な態度に文句を言おうとテーブルの上に手をつき、身を乗り出しかけたのと同時に、コトリ、と目の前に暖かそうな湯気の立ち上るスープと、美味しそうなステーキを差し出され、思わず言葉を飲み込んでしまう。


ゴクリ。無意識の内に鳴った喉の音が大きく響いてしまった気がして、焦って周りを見ると、カインと、先程の給仕の男が口許に手をあてて笑いをこらえているのが見てとれる。


いいわ、いただけるものは存分に貰ってやるわよ!


やけっぱちな気持ちで、鼻息荒く私はナイフとフォークを手に取った。


*****


「とりあえず晩御飯のお礼は言っとくわ。今晩食べれてなきゃ明日きっと飢え死にしてたもの」


あのあと、いつまでも笑っていたカインと給仕の男をひと睨みすると、私は、もうこれでもかというほど遠慮なくご飯をご馳走になった。


マナーもへったくれもない私の食べっぷりに、給仕の男は驚いていたけれど、そんな私の様子に、何故かカインは満足気だった。


もしこんな姿を、私のかつての教育係の先生達に見られたらこっぴどく叱られたに違いない。


ほんとに、何考えてんのかわかんないわね。


食後の紅茶を口に含みながら、カインを盗み見る。

洗練された、優雅な身のこなしでカップを口に運ぶ姿からは、どこか上流階級の人間のような雰囲気を感じさせる。


時々目に入った食事マナーだって完璧だった。



それにしては、あの森で出会った時は旅人だと言っていたし、なかなかに腕もたつようだ。


……それに飢えかけの盗賊の女(本当は元王女だけど)を家に引っ張り込み、食事を振る舞うような物好き。


じっと視線をやっていたのがバレてしまったらしく、カインはこちらを見て笑う。


改めて見ると、なかなか整った顔立ちだ。虫も殺せなさそうな紳士な微笑みは、多くの女性を虜に出来てしまいそうなほどで。


なんだか気まずく感じて、紅茶を一気にあおる。

カップをテーブルの上に置くと同時に、給仕の男が近づいてきた。


「ああ、そうそう、ここで給仕をしてくれているのはルーターといいます」


カインは紅茶のポットを手にしている男を示し、そう言う。


にっこりと笑った金髪碧眼の男は、


「ルーター・カーティスって言います。何かお腹がすいたなーって時は気軽に呼んでね。あと笑っちゃってごめんねー、よっぽどお腹空いてたんだね。可愛かったから思わず笑っちゃった」


と、最初の印象に違わず、フランクな自己紹介をする。


見たところカインと同じくらいの年齢に見えるから、私よりは年上だろうが、無邪気そうな雰囲気が年上っぽさをかんじさせず、どこまでも陽のオーラを振り撒いていて、華やかで、そして軽い。


相手の警戒心というものを自然に失わせてしまうようなにこやかな笑顔。


「もういいわ、よろし……くっ?!」


その笑顔につられ、こちらも笑って言葉を返そうとした途端、ポットをテーブルの上へ置いたルーターが振り返ったかと思うと、ものすごい勢いでこちらに向かってナイフを一直線に投げてくる。


とっさに体を逸らして避け、後ろに飛び退ってルーターから距離をとった。


「いきなり何? 食堂は武器の持ち込みは禁止なんじゃなかったの?」


「お? 今の避けちゃう? なかなかやるねー! んじゃ、これはどう?」


私が皮肉気にそう言ってルーターを見るが、ルーターはまるでゲームでも楽しんでいるかのように笑って、ザッと間合いをつめ、いつの間にか五本の指の間に挟んだサバイバルナイフを一気にこちらに飛ばしてきた。


「……っ」


先程よけたナイフの数倍の速さで正確にこちらに向かってくるナイフを、咄嗟に胸元から引き抜いたナイフで次々になぎ払う。


小さく金属音が鳴り響き、私のナイフに当たって弾かれたルーターのナイフが床に落ちる。最後の一本を捌き終わると、私の足元にはナイフが20本ほど転がった。


「ちょっとカイン! あんたルーターの雇い主でしょう! いきなり客人にナイフを投げ付ける給仕なんて聞いたことがないわ! なんとかしなさいよ!」


「おお! ここまで捌けちゃうんだ? だけど抜目ないよね、ロジー。君だって持ってるじゃん、武器」


私のカインへの抗議に、ルーターの心底感心したような声がかぶり、その言葉にハッと我に帰って、慌ててナイフを持つ手を背中に回す。


まずったわね……


あーでもないこーでもないと頭の言い訳を考えつつ、しかし結局何も思いつかずとりあえず曖昧な笑顔を作った私に、


「まあ別にわかってたことだから、そんな慌てなくていーよ」


新たなナイフを取り出しいじりながら、どうでもよさ気に言うルーターの言葉に一瞬にして体が冷えた心地がした。


わかっていた? 私が武器を隠し持っていることを?


「見られてたのね……メイビィに?」


まさか腕が鈍ったのかと思案しつつ顔をあげ、前を見据えるといつの間にかルーターの隣に並び立ったメイビィが視界に入る。


「いいえロジリア様。ご心配には及びませんわ。


あんな早業ですもの、常人にはまず見破られることはございません。ですが今回は少々相手が悪かったのです。ご覚悟なさいませ」



そう言いながら、優しく微笑むメイビィの両手には、バチバチと青白い光を放つ、小ぶりな剣が握られていた。


「ご安心なさいませ。私の剣には雷撃の魔法が付加されてます。もしこの刃が身体を霞めたとしても、痛くも痒くも感じませんわ。その頃には……ロジリア様は死体となっているでしょうから」


……ナイフじゃメイビィの武器にはリーチが足りない上に、銃は正直あまり得意じゃない。


「これを。拳銃もナイフも、貴女の本来の武器ではないでしょうから」


冷や汗をかいた私に、今までただ成り行きを見守っていたカインが差し出したのは退魔剣だ。


私に得物を与えてもいいのか。カインの不可解な行動に眉をひそめるが、カインは何も答えず、どうぞ続けて下さいと言わんばかりに後ろに下がる。


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