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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と魔法少女  作者: 橋本 直
第二十四章 『特殊な部隊』とFIN

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第77話 上映会は無事に終わらない

 市民会館の大画面には、登場した時と同じ市立中学の制服姿の小夏と、その手をしっかり握る、どこかヨーロッパ風の騎士を思わせる小柄な甲冑姿のランが映し出されていた。

 

『きっとランちゃんが先頭に立てば機械帝国から独立できるよ!またきっと!会おうね!ランちゃん。それと誠二お兄ちゃんも頑張ってね!この世界の次はランちゃんの世界を救うんだから……そしてランちゃんの世界を救ったら必ず帰ってきてね!』 


 小夏は明るい声で希望とともにそう叫んだ。その隣ではカウラが寂しそうな微笑みを浮かべていた。


『ああ、ぜってー会いに来るからな!』 


 ランは満面の笑みを浮かべてそう言って小夏に笑いかけた。


『カウラさん……必ず僕は帰ってくる。それまで待っていてくれるかい?』


 誠は自分でできる限りのさわやかな笑顔を浮かべてカウラを見つめた。カウラはそれに静かにうなずき、軽く手を振って誠に応えた。


 画面の中の白い魔法少女と赤い魔法少女の姿が大写しになった。ランがそう叫びながら次元を超えるゲートと思われる魔法陣の中に消えていった。


『それじゃあカウラさん!行って来るよ!』


 誠の姿も同じように魔法陣の中に消えた。


 小夏の肩にサラは力を込めるようにして手を乗せた。まったくらしくないように誠には見えるのだが、二人の別れと再会を誓う姿に感動してかなめは一人涙をぬぐった。そしてFINの文字が躍った。

挿絵(By みてみん)

「なんだか……ラストのシーンは確かにあんな感じに演じましたけど、特殊効果とかアメリアさんが言ってたのと全然内容違うじゃないですか!まあ、アメリアさんのはラストまで全員で言い争うと言ううちの内情を暴露しているような展開でしたからそれに比べれば納得のエンディングなんですけど……まあ、アメリアさんの破綻した台本と演出が全部新藤さんに書き換えられて物語としては『良くも悪くもない何の印象にも残らない作品』に仕上がったのは新藤さんの腕なんでしょうけど……あのかえでさんとリンさんのシーンを全部画像を弄ってコンプライアンス的にOKなレベルにまで持って行ってくれたことには感謝の言葉しか無いですね」 


 市民会館の大ホールに明かりが入る中、マジックプリンスの全身タイツ姿のまま誠はラストのシーンを呆然と見つめた。


「そうねえ、まあプロのことだからこうなるんじゃないのかなあって思ってたんだけど……まあ、あの案が通らなかったのは今考えてみれば良かったのかもしれないわね。アレだと収拾がつかなくなるから……放送作家をしている姉さんの番組も放送事故はよく起こすし、その他色々タブレット紙で問題になるシーンで色々揉めてるみたいだから……あの人に台本の最終修正を依頼した私が馬鹿だったのね。つまり私はちっとも悪くない!」 

挿絵(By みてみん)

 伊達眼鏡だけが先生っぽいアメリアは自分に言い聞かせるようにそう言った。そして今頃は最終的に自分から監督の地位を取り上げた『釣り部』の新藤が彼のこだわる釣りであるタナゴ釣りに興じていてこの映画の事など忘れているのだろう。


 新藤はこの千要の地に住む『ミヤコタナゴ』を狙うタナゴ釣りにすべてをささげる釣り師だった。


 かなめが『タナゴなんて左原の佃煮屋にでも頼め』と馬鹿にしたために編集を止めた新藤からタナゴ釣りこそが真の釣りであるという『釣り部』の一員らしいこだわりのある説教とそのまま隊に新藤が持ち込んでいたタナゴ釣り専用のヘラブナ釣りの釣り具をそのまま小さくしたような釣り道具がいかにこだわりぬいたものかの説教を計六時間にわたって聞かされたことを思い出して誠は苦笑いを浮かべていた。


「良いんじゃねえの?受けてるみたいだしさ。まあ、子供の顔が引きつってるのが若干気になるところではあるんだが……まあアメリアのやることだから仕方ねーか」 


 魔法少女と呼ぶにはごてごてしたコスチュームのランは感動で涙に打ち震えていた。その様子から見るにかなめをいつもスパルタで上官であるということで事あるごとに殴る蹴るをしているランがその映画の趣味がかなり近いことを理解した誠はドン引きしていた。


 一方かなめは明るくなった観客席で伸びをしているアメリアの知り合い達を眺めていた。


「そうだな、あの『特殊な部隊』の内輪ネタと言うエンディングとはとても思えない終わり方でアメリアの友達がキレたら大変だからな。要するにあの連中は『お約束』を求めているとあの映画の撮影の後にネットを検索して調べた。そう言う意味では新藤の編集は完全に魔法少女アニメのお約束と特撮ヒーローもののお約束を全部守っている。あの連中が満足するのは新藤の編集版なのだろう」 


 そう言うカウラだが隣に立っているサラは微妙な表情をしていた。途中で帰る客をさばいていたパーラも引きつった笑みを浮かべていた。


「それにしてもなんでこんなに空席が?始まった時はもっと埋まっていたような……」 


 かえでの言葉に入り口で監視をしていたサラとパーラが青ざめた。二人は新藤が敢えて残したかえでがリンと絡み合う姿の際に教育上まずいってやつから親子連れが次々と席を立つ姿を目撃していた事実をかえでに告げる勇気は無かった。誠も途中から親子連れが何組も席を立ったのが、妙に気になったがその理由を独自の性的倫理観に基づいて生きているかえでに説明することは『許婚』として許されなかった。


「かえでちゃん……人にはそれぞれ趣味や嗜好があって……それに親御さんの意向と言うか……教育方針と言うか……同性愛的要素は好き嫌いと言うものが有るから」


 パーラはいつもこういう時の後始末をさせられるので、今回も論理的思考の欠如しているサラに代わってそう言い訳した。 


「そんなものなのか……僕はお姉さまから子供のころから西園寺家の食客だったSM作家からエロスの何たるかを教わって来たからそれほど不自然には感じなかったが……僕には教育的に問題が有るとはとても思えない。もっとリンとの愛を画面いっぱいに展開させて愛を知らない遼州人達に愛を教えるような映画にすればよかったのに」 


 かえでは画面通りの際どい衣装のままそう言って今一つ彼女自体この作品に対して納得がいっていない気持ちを吐露した。誠はその言葉でアメリアのこめかみがひくつき始めたのを見逃さなかった。


「よう!良く仕上がったろ?新藤になんとか掛け合って出来るだけうちの恥をさらさないように編集し直したんだ。それにしても……かなり変わっちゃったな。撮ったシーンの半分以上は合成でごまかしてストーリーを展開するとは……プロはやっぱり違うよね」 


 映写室から出てきた嵯峨が満面の笑みでアメリアを見下ろした。その嵯峨を見た途端に怒りの爆発寸前のモノに変わったアメリアの糸目を見ていても明らかにアメリアに新藤が昨日見せた状態と違っていたのは間違いない。誠は二人の一触即発の雰囲気に逃げ出したい気分になった。


「そうね、さすがは新藤さんですね……そしてそう指示した隊長の判断も見事としか言えませんね……私の原作は完全に無視されているようにしか見えませんでしたけど……そんなに私の才能を潰すのが楽しいんですか?」 


 アメリアの言葉が怒りで震えていた。そこに突然女の子が入ってきてアメリアの髪を引っ張った。


「小夏!ちょっと!」 


 アメリアは慌ててまとわりついてきた小夏を振りほどいた。


「もっとかっこよくならなかったのかなー!私の活躍シーンが減ってるような気がするんだけど!撮影している間も逆にもっと増やしてほしいと思ってたのに!」 


 小夏はそう言って先ほどまでスクリーンに映っていた格好で杖をアメリアに構えた。


「それは新藤さんと隊長に言ってよ。私は知らないわよ!私だって原作改変された被害者なのよ!これは私の作品とは認めないわ!これは隊長の作品です!空席が多いのも全部隊長の責任です!」 


 なんとか嵯峨にひどい出来になった映画の全責任を覆いかぶせて逃げ出そうとするアメリアだが、楽屋の入り口には赤い魔法少女ランの姿があった。


「クラウゼ……テメー!あれじゃあアタシはまんま餓鬼じゃねーか……それに最後はあまりにもお決まり過ぎねーか?アメリアはアメリアだろ?もっと意表を突いたエンディングとかできなかったのかな?餓鬼と餓鬼がさようならしてお終いなんて馬鹿でも考え付くエンディングだぞ?」 


 アメリアは嵯峨にも見限られて完全に追い詰められた。


「知らないわよ!あれは新藤さんが!やったのよ!私のせいじゃないわ!私はちっとも悪くない!関係ないわ!」


 アメリアはこの場にいない新藤に全責任を押し付ける気満々だった。 


「監督ってもんはそう言うもんなの。エンドロールにお前さんの名前が有るじゃないの。だから責任はアメリア、お前さんに有ると言う訳だ。俺は知らないから。そういう時はね、『監督アラン・スミシー』ってするのがお約束なんだ。いい勉強になったでしょ?」 


 すっかりアメリアを追い詰めたことに嵯峨は満足そうにほくそ笑んだ。誠は自業自得とは言えアメリアに同情の視線を送った。


「それにしてもこれで市役所の連中に俺の顔も立ったと言う訳だ。来年どうなるかは知らないけど」


 嵯峨はそう言いながら大鎧姿でマックスコーヒーを飲んだ。そんな嵯峨の姿は実にシュールなものに誠には見えた。


「叔父貴、ここまで来たら普通に終わるのはねえだろ?アメリアの案じゃ小夏とランの姐御のディープキスで終わるらしかったじゃねえか。かえでとリンがあれだけ自由気ままにやってんだからもう少しはっちゃけてもよかったんじゃねえの?」 


 かなめは機械魔女の格好のまま大鎧姿の嵯峨を詰問した。その光景はとても市民会館と言う公の場所で見られる光景では無いと誠は思った。


「あのなあ、俺がそんな指示出すと思うか?あそこを生かしたのは新藤の独走だ。まあプロの考えることだからその方が良かったんじゃない?」 


 そう言って嵯峨がその場にいない新藤にすべての責任を押し付けた。


「確かにここに来ているカウラさんが明らかに嫌っている層の客にはそれをやったら受けるでしょうけど、親子連れとかドン引きですよ」 


 誠は嵯峨に向けてそう言って観客の反応が微妙過ぎたことを指摘した。


「いいじゃんそれで。親子連れに受けなければ来年はうちにこんなことを頼むなんて馬鹿なことは市役所も考えないでしょ?うちの苦労も結構あったんだ。面倒ごとは全部あそこに回せって言う市の意図が見え見えで……これで来年は流鏑馬(やぶさめ)に集中できる」 


 嵯峨は開き直って今度は責任を市役所に押し付けた。


「きっかけはやはり隊長じゃないですか!しかも自分が来年面倒ごとを押し付けられるのが嫌だと言う理由だけでああなったんですか?やりすぎですよ!」 


 誠の言葉に嵯峨は困った顔をした。


「そんな顔したって無駄だよなー」 


「うん!」 


 恐る恐る嵯峨が振り返るとそこには小夏とランが立っていた。


「俺は普通の作品にしろって言っただけで……」 


「聞く耳持たねえよ!」 


「問答無用!」 

挿絵(By みてみん)

 そうして二人で嵯峨の兜を杖でぽかぽか殴った。


「馬鹿!コイツに傷ついたら!これは時代物で文化財なんだぞ!何でも厳島神社に平清盛が献上したとか言う時代ものだ!それこそ嵯峨家の家宝なんだ!やめろってば!」 


 嵯峨はそう言うと立ち上がって逃げた。それを追いかけるラン。急な展開についていけなかった誠だが、さすがに止めようと思って立ち上がった。


 フロアーを逃げたはずの嵯峨を追って誠はそのまま大ホールの裏手の楽屋を出た。そこには地味な服を着たこの『モテない宇宙人』である遼州人の中でもまさに遼州人を代表するような女と縁の無さそうな男たちに囲まれて立ち止まって助けを求めるような視線を送るランがいた。


「君……かわいいね……写真を一枚」 


「あのーサインはしてもらえますか?」 


「出来ればラストの台詞を……」 


 怪しげな一団が携帯端末を手にランを取り囲んでいた。

挿絵(By みてみん)

「はいはーい。うちの娘に手を出さないでねー!順番で写真撮影を……」 


「馬鹿野郎!」 


 その場を仕切ろうとしていたアメリアにランは思い切り延髄斬りを食らわせた。


「なによ!せっかく助けてあげたのに」 


「助けるだ?オメー……。助けるってのは違うだろうが!」 


 怒鳴り声を響かせはじめたランとアメリアにさすがの観客も引き気味にそれを眺めた。


「今度こそは……」 


「なんなんですか?」 


 エントランスホールの片隅で隠れているつもりらしい嵯峨に誠が声をかけた。


「いきなり話しかけるなよ。俺は気が弱いんだから」 


「冗談はそれくらいにしたほうがいいでしょう」 


 誠の後ろからの声に覗き込む嵯峨。そこには笑顔を浮かべてはいるものの目の笑っていない春子がいた。


「ああ、お春さん」 


「お春さんは無いんじゃないですか?あんまりクラウゼさんをいじめてるとしっぺ返しを食らっても知りませんよ」 


 そう言われて落ち込んだように嵯峨は下を向いた。


「だってさ、この上映にかかる費用とかは確かに市が持っていてくれてるけどさあ、製作までにこいつ等が馬鹿やったり宣伝とか言ってあっちこっちに秘匿回線まで使って連絡しまくったりする費用うち持ちなんだよ。あの通信費……高梨は頭を抱えてたよ」 


 嵯峨はここでまた関係ない管理部部長の高梨の名前を持ち出してなんとか逃げようとした。


「だからと言ってこういうふざけたことは駄目ですよ。ちゃんとあとで新藤を説得してアメリアさんに謝罪しましょう」 


 そう言い切る春子にさらに嵯峨が落ち込んだ。


「でも良いじゃないですか。これの方が面白かったですよ。実際、この作品の方がアメリアが最初に神前に依頼した登場人物の設定には近かったですし」 


 誠の言葉に春子の目が輝いた。


「設定なんてあったのか?もしかして衣装とか決めたの神前だからその時クラウゼから何か貰ったんだな!」 


 食いつきの良すぎる春子に誠は慌ててうなずいた。確かにこのバージョンの方が誠が最初に渡されたキャラ設定票に近いことだけはキャラデザインをした誠は知っていた。


「それよりさあ……あれどうするんだ?俺そこまで責任持てないよ?」 


 嵯峨は呆れた調子で市民会館ホールの隅を指さした。


 携帯端末を持った男性陣の前で小夏は楽しそうにポーズを取っていた。相変わらず口げんかを続けるアメリアとランの姿が見えた。それをニヤニヤしながら止めるわけでもなくカウラは眺めていた。かなめの姿が見えないのはタバコでも吸いに行ったのだろう。


「隊長!」 


「ラン。落とし前は頼むわ」 


 この状況を収められるのは機動部隊長の『偉大なる中佐殿』ことクバルカ・ラン中佐しかいなかった。ランは今度はいつもの笑っているとも怒っているともわからない無表情を浮かべて騒いでいる小夏達に向かっていった。

挿絵(By みてみん)

「はいはーい。お楽しみ会はここまで!皆さんお気をつけてお帰りください!」 


 先ほど粘着質っぽいオタクに囲まれたことがトラウマになって急いで司法局の制服に着替えたランは手を叩きながら近づく。そんな警察風の制服を着て胸に多数の勲章を下げているランの鋭い眼光を見て客達はようやく平常を取り戻して出口へと向かった。


「はいはい!おかえりはこちらです!文句を言う方はうちにある留置所にぶちこみますんでよろしくー!」


 こちらもほとんど眼鏡をかけているだけの女教師役から司法局の中佐の征服に着替え終えていたアメリアが渋々帰る自分がネットで集めた客を追い返すような調子でそう叫んでいた。


「やるもんだなラン、アメリア。いつもまとめを頼んじゃって悪いね。俺は隊長失格だわ、やっぱり」 


 ランは息を切らしてホールの中央で仁王立ちしているのを見ながら嵯峨はそう言った。


「小さいくせにやるじゃない」 


 アメリアは最後の迷彩服の男を市民会館の回転扉の外に追い出すと隣に立つランに向けてそう言った。


「アメリア。オメーも締める時は締めるんだな。その点だけは評価してやる」


 ランは長身のアメリアを見上げながらそう言って笑った。


「見てみな、誠ちゃん。友情が芽生える瞬間よ!」 


 サラが近づいてきた誠にそう声をかけてきた。


「いや、きっと違うと思うんですけど……そもそもこれは何の騒ぎだったんですか?」


 誠はただ虚脱感に苛まれながらシルクハットに全身タイツのマジックプリンスの格好のまま立ち尽くしていた。


「やっぱりしばらくはうちは『特殊な部隊』と呼ばれ続けることになるのだろうな。西園寺が帰ってこないのは葉巻でも吸っているのか?」 


 カウラのその一言がしみじみと誠の心に染み渡った。


 喫煙所からきつい匂いのかなめの愛飲するコイーバロブストの煙が流れて来るのが妙に誠の心に染みた。



                         了


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