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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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成長する機装


『砂海の地下都市』に用意された、石造りだが清潔な客室。

その空間に、淡い光の粒子が収束し、一人の少女の姿を形作っていく。


「お待たせしました、アイズドさん! ルナ、ログイン完了です!」


現実リアルでの食事と休憩を終え、EHOの世界へと再ダイブしてきたルナが、花が咲いたような笑顔で手を振る。

俺――アイズドは、石の壁に背を預けて腕を組んだまま、一つ大きな溜め息を吐いた。


「……おう。飯はしっかり食ってきたか?」

「はいっ! バッチリです!」

「そうか。……で、お前。一つ聞くが、そのアバターの容姿って、現実リアルのお前そのままか?」


俺が前髪の奥からジト目を向けると、ルナは不思議そうにサファイアブルーの瞳を瞬かせた後、あっけらかんと頷いた。


「はい! 最初のキャラクター作成の時にスキャンしたんですけど、鏡で見る自分とそっくりでびっくりしちゃいました!」

「…………」


俺は無言で天を仰ぎ、額をガシガシと掻き毟った。


「お前……本当にネットリテラシーが皆無だな」

「ええっ? な、なんでですか?」

「フルダイブVRMMOにおいて、現実の容姿をそのままアバターに使うのは、控えめに言って『自殺行為』だ。特に、お前みたいに無駄に目立つ容姿の場合はな」


俺は呆れ顔のまま、ネトゲの暗黙のルールを説教し始めた。


「EHOには現実のリアルマネーが絡むシステムがある。初心者を狙った詐欺師や、悪質なストーカー、PKプレイヤーキル集団が山ほどいるんだ。そんな世界で、リアルの顔を晒して歩くなんて、全身に最高級の霜降り肉を巻きつけてサバンナを歩くようなもんだぞ。身バレして現実で特定されたらどうするつもりだ」

「うっ……」


ルナは急に顔を青くし、自分の白銀の髪を両手でギュッと掴んだ。


「そ、そんなに危ないんですか……? 私、ゲームの設定とかよくわからなくて、適当に『はい』って押しちゃって……」

「……はぁ。まあ、今更言ってもアバターの容姿変更には高額な課金アイテムが必要になる。これからは俺がついててやるから、迂闊に他のプレイヤーとフレンド登録したり、個人情報を喋ったりするなよ」

「はい……。ごめんなさい、気をつけます」


しゅんと狐の耳を垂らすように落ち込むルナを見て、俺は小さく鼻を鳴らした。

これ以上説教しても始まらない。それに、今はそんなことよりも確認しなければならない重要事項があった。


「まあいい。闘技場に戻る前に、ステータスと装備の確認をしておくぞ。あれだけの死闘をやったんだ、レベルもいくつか上がってるはずだ」


俺は空中に自分のシステムウィンドウを展開した。

あのレベル百相当の『古代合成獣キメラ・マキナ』を、適正レベルまで弱体化シンクされていたとはいえ、たったの二人で討伐したのだ。莫大な経験値が入っていることは、リザルト画面の滝のようなログで分かっていた。

だが。


「…………は?」


ウィンドウに表示された自身のレベル表記を見て、俺は文字通り絶句した。

【レベル:32】


「ウッソだろ……」


俺の口から、間抜けな声が漏れる。

数時間前までレベル一だったはずだ。それが、たった一体のボスを倒しただけで、一気に三十以上も跳ね上がっている。


「わぁっ! アイズドさん、私、レベル三十一になってます!」


隣で自身のステータスを開いたルナが、無邪気に歓声を上げた。


「いくら格上討伐の経験値ボーナスと、完全未発見のユニークシナリオの初回クリア報酬が乗算されているとはいえ……こんな馬鹿げたインフレ、普通のMMOじゃあり得ねえぞ」


俺は顔を引きつらせた。

プロが数日かけて寝ずのレベリングをしてようやく到達する中堅層のレベル帯に、たった一戦で到達してしまったのだ。このクエストの報酬設定は、明らかにシステムの常軌を逸している。


「あ、そうだ! アイズドさん、レベルがいっぱい上がったってことは、新しい装備を買えますよね!」


ルナが目を輝かせ、闘技場へ向かう道中にあるフェネキアの武具屋を指差した。


「せっかくだから、防御力が高い強い鎧を買いましょうよ! さっきのキメラみたいな攻撃を食らっても、一撃で死なないように!」


ルナの提案は、RPGのセオリーとしては百点満点だ。

しかし、俺は即座に首を横に振った。


「いや、防具はどうでもいい。武器だけ新調しろ」

「ええっ? どうしてですか?」

「いいか、ルナ。あの族長が次にけしかけてくるのは、あのキメラ以上の『真の古代魔獣』だ。お前も身をもって理解しただろ? ああいう理不尽なレイドボスが放ってくるのは、装甲の厚さなんて関係ない『防御貫通』や『絶対即死オーバーキル』のギミックばかりなんだよ」


俺は、先ほどの死闘で味わった絶望的な弾幕を思い出しながら言った。


「下手に重い鎧を着込んで回避のフレーム(動作速度)が遅れるくらいなら、初期装備の軽い服のままで、すべての攻撃を『躱す』か『システム的に無効化』する方が遥かに生存率が高い」

「なるほど……! 当たらなければどうということはない、ですね!」

「そういうことだ。だから、火力を底上げする武器だけはレベル三十帯の最高峰のものを買え。資金は俺のポケットマネー(初期支給金)から出してやる」


俺がそう言うと、ルナは「やったー!」と喜んで、フェネキアの店主の元へと走っていった。

彼女が楽しげに剣を選んでいる間、俺は自分の右腕に装着された《古代変形機装》へと視線を落とした。

「お前さんは、防具も武器も新調しないんですかい?」

接客の片手間に、筋肉質のフェネキアの店主が俺に尋ねてくる。



「俺の武器は……買い替える必要がないみたいだ」



俺は、システムウィンドウに表示されたこのガントレットの詳細データを見つめていた。

EHOに存在するすべてのアイテムには、六段階の『レアリティ』が設定されている。

下から順に、ノーマル(白)、マジック(緑)、レア(青)、エピック(紫)、レジェンダリー(金)、そしてミシック(虹)だ。

だが、この《古代変形機装》のステータス画面には、その六段階のどれにも当てはまらない、奇妙な文字列が刻まれていた。




【レアリティ:――――】

【特性:適合者レベルに同期リンク中】




「……成長型武装エゴ・ウェポン


俺は小さく呟いた。

この武器には固定の攻撃力が存在しない。持ち主である俺のレベルアップに合わせて、自動的に内部のステータスが書き換わり、三十種類すべてのクラスの武器威力が底上げされるという、とんでもない仕様が組み込まれていたのだ。

レアリティの枠組みすら逸脱した、文字通りの『規格外』。

これがレベルカンストのステータスに同期した時、果たしてどれほどの絶大な火力を叩き出すのか、もはや元プロの俺にも見当がつかなかった。



「……本当、恐ろしい玩具を造ってくれたもんだぜ、古代の職人どもは」

俺が凶悪な笑みを浮かべていると、ルナが真新しい銀色の剣を携えて戻ってきた。


「アイズドさん! 見てください、これ! 『飛燕の軽剣』っていう、レベル三十のショートソードです! すっごく軽くて振りやすいですよ!」


「おう、いいチョイスだ。それならお前の異常な生体反射神経(フレーム回避)も殺さずに済む」


俺はインベントリを閉じ、首をポキキと鳴らした。

レベルは三十を超え、俺の脳の最適化(ローテーション構築)も完了している。


「準備はいいな、ルナ。あの悪趣味な闘技場に戻るぞ。ここからが本番だ」

「はいっ! どんな敵が来ても、絶対に勝ちましょう!」

俺たちは工房街を後にし、再び大闘技場コロッセオへと向かった。



◆ ◇ ◆



重厚な石造りのゲートをくぐり抜けると、そこは先ほどと変わらぬ、いや、先ほど以上の熱狂に包まれていた。

数万のフェネキアの民が、すり鉢状の観客席から俺たちを見下ろし、割れんばかりの大歓声を上げている。



『おお! 戻られましたか、人間族の勇者よ!』


闘技場の最上段から、族長セレンの艶やかな声が響き渡る。

彼女の背後で揺れる九本の尻尾は、これから始まる「極上の殺し合い」を待ちわびるように、激しく逆立っていた。


『休息は十分にとれましたか? では、約束通り……我らが里が封じ続けてきた、真の絶望メインディッシュをご覧に入れましょう』


セレンが右腕を振り下ろす。

すると、闘技場の中央に描かれていた巨大な魔方陣が、ドクン、と心臓の鼓動のような音を立てて赤黒く発光し始めた。


『バアルが持ち帰った記録晶による結界の再起動を行う前に、まずはこの闘技場に溜まりすぎた【厄災の澱み】を、あなた方の力で浄化していただきたいのです!』


地鳴りが響く。

先ほどのキメラが姿を現した鉄格子とは違う。

闘技場の中央の地面そのものが割れ、そこから、尋常ではない瘴気を纏った巨大な影が、ゆっくりと這い出してきた。


「アイズドさん……あれ、キメラよりずっとヤバそうな匂いがします……っ!」


ルナが、新調した剣を構えながらジリッと後退る。


「ああ。どうやら、レベル三十に上がって浮かれてる暇はなさそうだぜ」


俺は《古代変形機装》をカチャリと鳴らし、前髪の奥の三白眼を極限まで細めた。

熱狂に包まれた闘技場にて。

ユニークシナリオ【古代竜の残響】の、真の地獄を呼ぶ第二幕が、今、切って落とされた。


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