遺された機装のルーツ
地下都市フェネキアの朝は、地上の朝と似ていない。
まず、太陽がない。
代わりに、天井のはるか上に淡い光球が浮かんでいる。空洞全体を照らす人工の朝。眩しさも、熱も、時間の圧も、どこか均一に整えられていて、自然というより設定された照明に近い。
視界の端に、フィールド情報が流れる。
《特殊フィールド:フェネキア地下都市》
《局所環境制御:稼働中》
《外界時間同期率:低》
《現在時刻補正:朝》
朝です、とシステムに言われる朝。
情緒はない。
ただ、現実でもスマホのアラームに叩き起こされている人類が、ゲーム内の環境ログに文句を言うのは筋違いかもしれない。文明に飼い慣らされた生き物が、急に自然派を気取るなという話である。俺もその一匹だ。できれば二度寝機能付きで飼ってほしい。
フェネキアに滞在してから、俺とルナの一日は妙に規則正しくなった。
起きる。
現実側の身体確認をする。
再ログインする。
地下都市の簡易食堂で薬草茶を飲む。
ルナは剣の基礎訓練。
俺は地図、根系端末、機装ログの確認。
白狐は気まぐれに現れ、気まぐれに消える。
イベントの最前線から少し離れた、静かな日課だった。
以前の俺なら、こういう時間を無駄と呼んでいただろう。
何も進んでいない。
経験値効率が悪い。
攻略ログが増えない。
ランキングに反映されない。
そうやって切り捨てていたはずだ。
だが、今の俺は、薬草茶の湯気が上がるのを数秒見ていられる。
成長なのか、老化なのか、判断が難しい。
たぶん両方だ。
嫌なハイブリッドである。
その日、俺たちはセレンに呼ばれた。
呼び出しはシステムメッセージではない。白狐経由だった。
薬草茶を飲み終えた直後、白狐が足元に現れ、尻尾で俺の靴先を一度だけ叩いた。
「……呼び出し方法が雑すぎる」
俺が言うと、ルナは白狐を見て少し笑った。
「案内してくれるみたいです」
「尻尾で靴を叩くのは案内なのか」
「急いで、という意味だと思います」
「便利だな、好意的解釈」
白狐はもう背を向けている。
ついてこい、ということらしい。
俺たちは白狐の後を追い、地下都市の奥へ向かった。
ーーーーー
案内されたのは、根の間だった。
正確には、以前の白尾灯の試練で訪れた場所よりも、さらに奥にある制御区画だ。
壁と床には植物の根のような管が這い、その中を淡い緑と金色の光が流れている。だが、ただの植物ではない。根の表面には金属端子が埋め込まれ、節ごとに小さな制御灯が点滅していた。
植物。
機械。
魔術。
その三つを雑に混ぜたものではなく、最初からそういう一つのシステムとして設計されたもの。
古代根系。
フェネキア地下都市の中枢。
視界の端にウィンドウが浮かぶ。
《古代根系端末》
《アクセス権限:限定》
《閲覧可能項目:一部》
《注意:録画・座標共有・外部送信は沈黙の取引により制限されています》
また出た。
沈黙の取引。
フェネキア地下都市の座標、白狐ルート、古代根系の情報を売らない。録画しない。外部に流さない。俺とルナが受け入れた条件だ。
普通なら、こういう情報は高く売れる。
EHOでは情報が金になる。
素材よりも、装備よりも、時には攻略動画よりも価値がある。公式RMTが存在する以上、情報はほとんど通貨だ。
だから売らない。
少なくとも、今は。
損得だけで考えれば変な選択だ。
だが、損得だけで考えるなら、そもそも俺はここにいない。
その時点で、もう計算式はだいぶ壊れている。
「来たか」
根の端末の前に、セレンが立っていた。
黄金の九尾が背後でゆるく揺れている。フェネキア族の族長。便利な説明NPCというには、背負っているものが重すぎる相手だ。
その隣にはイリスもいる。
三尾の守り手。
腕を組み、こちらをじっと見ていた。以前より警戒は薄いが、完全に信用されているわけでもない。評価としては「外界の危険物」から「一応、監視対象」くらいには上がったのだろう。昇格である。嬉しくはない。
「今日は試練じゃないよな」
俺が聞くと、セレンは目を細めた。
「試練ではない。確認だ」
「確認」
「お前の機装について、根が古い記録を返した」
「根が、か」
俺は言いかけて、自分で少し止まった。
根が返した。
そう言うと、いかにも神秘っぽい。
だが、ここはEHOだ。
見た目が古代の根でも、処理としてはフィールド中枢端末であり、環境制御システムであり、クエスト管理機構の一部だ。
俺は根の端末を見る。
ウィンドウが開いた。
《古代根系端末:照合結果》
《対象:アイズド》
《参照職業/装備:古代変形機装》
《参照可能ログ:現アカウント内行動ログ》
《参照クエストログ:根守りの試練/白尾灯防衛》
《一致項目:支援行動/位置取り補助/ヘイト維持/被弾肩代わり/対象生存維持》
《補助系統:進行率54%》
《守護系統:進行率12%》
《注意:正式形態解放には、古代変形機装使用時の補助ログが不足しています》
「……五十四%」
俺は思わず声に出した。
高い。
現アカウント内の行動ログだけで、この数字は少し不自然なくらい高い。
いや、不自然ではないのか。
思い当たることはある。
昔、ヒーラーをやっていた頃の癖だ。
HPバーを見る。相手の立ち位置を見る。被弾前に動く。敵の射線を読む。味方が崩れる前に支援を差し込む。そういう操作の癖は、アカウントを変えても、ビルドを変えても、手に残る。
システムが過去の別アカウントの履歴を参照しているわけではない。
そんなことをされたら、むしろ怖い。
だが、今の俺の動きには、その頃の残滓が出ているのだろう。
ログとして見えるのは、今の行動だけ。
けれど、その行動を作っているのは、過去の癖だ。
ゲームはそこまで説明しない。
でも、俺には分かる。
「補助系統、かなり進んでいますね」
ルナがウィンドウを見ながら言った。
「ああ。俺の動き、たぶん支援寄りなんだろうな」
「支援寄り、ですか」
「前に出て全部を倒すより、位置をずらしたり、敵の向きを変えたり、味方の被弾を減らしたりする方に意識が向いてる。そういう癖がある」
言いながら、自分で少し嫌になる。
癖。
便利な言葉だ。
過去を説明せずに済む。
理由を隠せる。
それでいて嘘ではない。
俺は昔から、誰かのHPを見ていた。
誰を生かすか。
誰の状態異常を解除するか。
どこで支援を切るか。
どの失敗を立て直すか。
そういう判断を、数字でやっていた。
だから今でも、戦闘中に最初に見るのは敵のHPだけじゃない。味方の位置、被弾の可能性、撤退路、回復の余地、ギミックの失敗条件。
それが、この数字に出ている。
五十四%。
高い。
だが、届いてはいない。
セレンはウィンドウを見ながら言った。
「根は、お前の現在の行動ログを見ている。過去そのものを覗いているわけではない。だが、行動には癖が出る」
「嫌なところを突くな」
「事実だ」
「セレン、アグラヴェインみたいなこと言い出したな」
「誰だ、それは」
「未来で胃を痛めてそうなやつだ」
「未来?」
「いや、何でもない」
危ない。
まだ出ていない名前を口にしかけた。
物語の時系列というものは、たまに足元に地雷として埋まっている。踏むと一気にメタ臭くなる。気をつけろ俺。
セレンは根の端末に触れた。
表示が切り替わる。
《補助系統:詳細》
《進行率:54%》
《主な参照元:現アカウント内の支援行動》
《評価タグ:位置取り補助/被弾軽減/ヘイト維持/対象生存維持》
《不足条件:古代変形機装を用いた明確な補助行動》
《不足条件:支援対象が主判定を達成したログ》
《現在状態:適性反応あり/未接続》
「適性反応あり、未接続」
俺は眉を寄せた。
「つまり、補助の癖はある。でも、機装としての補助形態にはまだ繋がってない」
「そうだ」
セレンは静かに答えた。
「お前は支援に向いている。少なくとも、根はそう判定している。だが、その支援はまだ古代変形機装の正式な補助形態としては成立していない」
「どう違う」
「機装の補助は、回復魔法の代替ではない」
セレンの言葉に合わせ、ウィンドウが切り替わる。
《古代変形機装:補助系統候補》
《分類:支援端末形態/補助誘導形態》
《想定機能:射線誘導/足場形成/行動成功率補助/敵行動制限/味方スキルタイミング補正》
《注意:回復魔法の強化形態ではありません》
《注意:黒鉄外装が他装備の性質を吸収するものではありません》
「回復じゃないのか」
「違う」
セレンは俺の左腕を見る。
「お前の機装は、治癒の杖ではない。変形武装だ。だから補助系統も、回復量を上げるためのものではない。味方の行動が成功するように、位置、射線、タイミング、敵の挙動、ギミック条件を調整するためのものだ」
「つまり、支援端末」
「外界の言葉なら、そうなる」
俺は腕を組んだ。
支援。
補助。
その言葉自体は馴染みがある。
だが、《古代変形機装》が求める補助は少し違う。
誰かの攻撃が届くようにする。
誰かがギミックを踏めるようにする。
誰かの勝利条件を成立させる。
俺が全部管理して成功させるのではなく、相手が成功できる盤面を作る。
似ているようで、違う。
かなり違う。
「だから未接続か」
「そうだ。お前は補助の適性を持っている。だが、機装を通じて誰かを勝たせるログが足りない」
ルナが小さく言った。
「私との訓練が、関係しますか」
セレンは頷いた。
「関係するだろう。特に、ルナが自分で成功条件を満たす形でな」
新しいログが浮かぶ。
《補助系統:接続候補》
《対象候補:ルナ》
《条件候補:対象プレイヤーの攻撃成功率上昇》
《条件候補:対象プレイヤーの被弾率低下》
《条件候補:対象プレイヤーが主判定を達成》
《アイズド側条件:古代変形機装による位置調整/拘束/射線誘導/足場形成》
《注意:アイズドが主判定を奪った場合、補助系統評価は低下します》
「主判定を奪うな、ときたか」
俺は顔をしかめた。
「俺が倒したら駄目ってことか」
「場合による」
セレンは言った。
「補助系統の検証では、少なくともそうだ。お前が全部処理するのではない。お前が整え、対象が達成する。それが必要になる」
「一番苦手なやつだな」
「そうなのですか?」
ルナが聞く。
「そうだよ」
俺は苦笑する。
「支援はできる。たぶん、人並み以上には。けど、俺の支援は管理に寄りがちなんだ。失敗しそうな場所を先回りして塞ぐ。崩れそうなやつを先に見る。危ない行動を取らせない。そういう動きになる」
「それは、悪いことなんですか」
「悪くはない。実際、それで助かる場面はある」
俺は少しだけ間を置いた。
「ただ、そればかりだと、相手が自分で成功するログが残らない」
言っていて、嫌なほど納得した。
俺は支援しているつもりで、管理していたのかもしれない。
味方を生かす。
味方を失敗させない。
味方を崩れさせない。
それは必要なことだ。
だが、誰かを勝たせることとは少し違う。
ルナが俺を見る。
「でも、それならアイズドさんは、補助に向いています」
「そうか?」
「はい。だって、今までずっと誰かを見ていたんですよね」
「効率のためにな」
「それでも、見ていたことは変わりません」
ルナはまっすぐ言う。
「今度は、管理するためではなく、信じて通すために使えばいいのだと思います」
俺は返事に困った。
信じて通す。
簡単に言う。
ルナは本当に簡単に、こちらの面倒な部分を言葉にする。
「ルナさん、最近刺すのうまくなったな」
「刺していません」
「今のは刺さった」
「すみません」
「謝られると抜けないからやめてくれ」
ルナは困ったように笑った。
セレンは静かに見ている。
イリスも何も言わなかった。
ーーーーー
セレンは根の端末に手をかざした。
次に表示されたのは、《古代変形機装》そのものの基礎情報だった。
《古代変形機装》
《分類:特殊変形武装/隠しジョブ系統》
《基本機能:形態切替》
《派生形態:盾形態/刃形態/射出形態/拘束形態/簡易端末形態》
《制約:独立CT/変形硬直/装備補正欠落/認知負荷》
《評価:通常運用では非効率》
「非効率って言い切られたぞ」
「産廃と言われないだけ優しいです」
ルナが真顔で言った。
「ルナさん、最近ほんとに刺すな」
「アイズドさんの言い方が移りました」
「教育失敗だ」
「成功かもしれません」
「それはもっと怖い」
セレンが少しだけ笑う。
だが、すぐに表情を戻した。
「その機装は万能ではない。むしろ扱いにくい。形態ごとに硬直があり、切り替えには独立したCTがある。装備補正も素直には乗らない。外界の効率だけで見れば、使いづらい失敗作だろう」
「言うなあ」
「事実だ」
耳が痛い。
だが、俺もそう思っていた。
古代変形機装は、何でもできそうに見える。
盾を出せる。
刃を出せる。
射出できる。
拘束できる。
端末にもなる。
しかし、それぞれ専門職には負ける。しかも変形硬直とCTがある。装備補正も噛み合いにくい。
一人で全部やるためのジョブ。
だが、一人で全部やるには操作負荷が高すぎるジョブ。
俺みたいな人間には合っている。
だから余計に腹が立つ。
「では、なぜそんなものを作ったのか」
セレンが言った。
根の端末が、奥の記録を開く。
《古代記録:断片》
《閲覧権限:限定》
《表示可能範囲:一部》
《警告:核心情報は封鎖されています》
表示されたのは、映像ではなく、文字列と図形と、欠けた設計図の断片だった。
巨大な竜の輪郭。
その中心部に描かれた制御核。
そして、その核を模倣するように小さく描かれた人型装備。
俺の視界に、未解放項目が重なる。
《未解放項目》
《機械竜中枢デバイス》
《詳細:条件不足により非表示》
ルナが息を呑む。
「機械竜……」
セレンは静かに頷いた。
「古代人は、竜と戦った。その過程で、竜を模した兵器を作った。いや、模したというには、あまりにも踏み越えていたのだろう」
「踏み越えた?」
「そこは、今は語らぬ」
セレンの声は硬かった。
「根が返せる記録もここまでだ。七つの深い傷に関わる名は、まだお前たちに渡す段階ではない」
七つ。
その単語だけが、妙に引っかかった。
だが、システムはすぐに表示を閉じた。
《警告》
《関連情報は現在のクエスト進行度では閲覧不可》
《探索を継続してください》
「都合の悪いところで非表示になるな」
俺は呟いた。
「ゲームらしいと言えば、らしいです」
ルナが言う。
「ゲームの説明不足を風情みたいに扱うのはやめよう」
セレンは端末に触れた。
次に表示されたのは、《古代変形機装》の系統図だった。
《古代変形機装:系統図》
《基本形態:変形武装》
《記録器官:役割記憶領域》
《参照対象:現アカウント内行動ログ》
《評価タグ:攻撃/防御/補助/拘束/誘導/保護/解析》
《現在強反応タグ:補助》
《次点反応タグ:守護》
《注意:形態解放は即時ではありません》
「現在強反応タグ、補助」
俺はその文字を見た。
「まあ、そうなるか」
このアカウントでのログだけを参照している。
それでも、俺の動きには支援の癖が出ている。
過去はログには出ない。
だが、指には残る。
その違いを、俺は飲み込んだ。
「お前の機装は、感情で都合よく応える神器ではない」
セレンが言った。
「行動を記録し、役割を評価し、条件が満たされた時にだけ形態を開く。補助系統は反応している。だが、今はまだ接続されていない」
「理由は、支援の癖はあっても、機装としての補助ログが足りないから」
「そうだ」
セレンは頷く。
「黒鉄外装が回復力を吸収することも、他の防具の性質を飲み込むこともない。お前がこの機装で補助を成立させるには、変形、位置取り、拘束、射線誘導、端末操作を使い、対象の成功条件を整える必要がある」
視界に具体例が出る。
《補助系統評価例》
《盾形態:味方への射線を遮断》
《拘束形態:敵の回避行動を制限》
《射出形態:足場形成または遠隔スイッチ起動》
《簡易端末形態:ギミック制御を一時補助》
《刃形態:敵HPを削り切らず、対象の主判定を残す》
《評価上昇条件:支援対象が主判定を達成》
「最後、難しいな」
俺は顔をしかめた。
「敵を削り切らず、ルナに決めさせるとか、ギミックの最後を譲るとか、そういうことか」
「そうだ」
「俺が一番やりがちなことと逆だな」
「全部自分で処理する癖か」
「耳が痛い」
ルナはしばらくウィンドウを見ていた。
それから、俺を見る。
「アイズドさん」
「何だ」
「私との訓練で、補助系統を検証しましょう」
「言うと思った」
「はい。言います」
「俺の機装のためにルナを使うみたいで嫌なんだが」
「私の訓練にもなります」
「それを言われると断りにくい」
「では、取引成立です」
ルナが少し得意げに言った。
俺は黙った。
その言い方を、どこで覚えた。
いや、俺だ。
犯人は俺だ。
教育失敗である。
セレンが楽しそうに目を細める。
「よい関係だな」
「どこがだ」
「互いの役割を記録し合っている」
「いい話っぽくまとめるな。俺の精神ダメージが増える」
白狐が足元へ来て、また尻尾で俺の靴先を叩いた。
今度は、急かすというより、笑われた気がした。
被害妄想かもしれない。
だが、この白狐はたぶん笑う。
俺はため息を吐き、記録板を開いた。
《古代変形機装メモ》
《補助系統:進行率54%》
《参照元:現アカウント内の支援行動ログ》
《未解放理由:古代変形機装を用いた補助ログ不足》
《補助系統は回復魔法強化ではない》
《想定機能:支援端末/射線誘導/拘束補助/ギミック補助/行動成功率補助》
《守護系統:進行率12%》
《主な参照元:根守りの試練》
《機械竜中枢デバイス:未解放》
《制約:独立CT/変形硬直/装備補正欠落/認知負荷》
最後に、一行追加する。
《補助とは、管理ではなく、勝たせるために整えること》
書いてから、すぐに嫌になった。
自分で書いたくせに、読みたくない。
ルナが横から覗き込む。
「最後の一行、大事ですね」
「見るな」
「見えました」
「忘れろ」
「覚えておきます」
「ルナさん、ほんと強くなったな」
「アイズドさんの教え方がいいので」
「それは褒めてるのか刺してるのか」
「どちらもです」
「器用になりやがって」
ルナは小さく笑った。
セレンも、イリスも、白狐もそれを見ていた。
根の端末は静かに点滅している。
クエスト更新はない。
報酬もない。
派手な新形態も出ない。
ただ、条件だけが提示された。
現アカウントで積み上がった支援ログ。
根守りの試練で得た守護ログ。
古代変形機装を通して、まだ接続されていない形態。
補助に向いているらしい俺。
けれど、今までのやり方では届かない補助。
それだけが、左腕の奥で静かに残っていた。
「明日から検証だな」
俺が言うと、ルナは頷いた。
「はい。お願いします」
「先に言っておくが、俺はたぶん口を出しすぎる」
「知っています」
「遠慮がないな」
「なので、出しすぎたら言います」
「強い」
「練習します」
俺は左腕を軽く握った。
古代変形機装は、まだ新しい形を出さない。
都合のいい奇跡もない。
だが、条件は見えた。
補助系統は眠っているわけではない。
むしろ、俺の操作の奥にずっと残っていた。
ただ、それをどう使うかが違っていた。
誰かを管理するためではなく。
誰かを勝たせるために。
その条件を満たした時、黒鉄はようやく補助の形を取るのかもしれない。
まだ未解放。
まだ条件不足。
けれど、進む方向だけは見えた。
それで十分だ。
いや、十分ということにしておく。
欲張ると、だいたいロクなことにならない。




