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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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遺された機装のルーツ


「――《ダイブ・イン》」

お馴染みの虹色のトンネルを抜け、視界がパッと開ける。

俺――アイズドがログインして降り立ったのは、昨日ログアウトした『砂海の地下都市』に用意された、石造りの清潔な客室だった。

目覚めると同時に、俺は空中にシステムウィンドウを展開し、パーティ欄を確認する。



『Party Member "LUNA" is currently OFFLINE.』



「……まだ来てないか」


リアル時間の時計を確認すると、夜の八時を回ったところだった。

女子大生だという彼女のリアルを考えれば、大学の課題やサークル、あるいは友人との付き合いなどで遅れているのだろう。昨日の今日で、少しばかり張り切りすぎて現実の疲労が溜まっているのかもしれない。


「まあ、のんびり待つとするか」


ネトゲにおいて、相方のログインを待つ時間というのも悪くないものだ。

俺は客室を出て、大理石の廊下を抜け、都市の中心にある巨大な神殿へと向かった。

神殿の最奥には、深紅のトガを纏った族長セレンが、書物のようなものを読みながら静かに佇んでいた。


「おお、人間族の勇者よ。お目覚めですか」


俺の足音に気づいたセレンが、優雅に微笑みながら立ち上がる。

背後の九本の尻尾が、彼女の機嫌の良さを表すようにゆらゆらと揺れていた。


「ああ。だが、相棒がまだ現実リアルの用事で戻ってきてなくてな。あいつが揃うまで、少しこの街を散策させてもらえないか?」

「ええ、もちろんです。あなた方は我が里の恩人。この地下都市のどこへ行こうと自由です。……ティト。勇者様をご案内しなさい」


セレンが声をかけると、神殿の柱の影から、まだあどけなさの残る若いフェネキアの少年が飛び出してきた。

彼は生成り色に淡い緑の装飾が入ったトガを着ており、ピンと立った大きな狐の耳をパタパタと動かしている。


「は、はいっ! 族長様! 勇者様、私がこの街の案内役を務めさせていただきます!」


ティトと名乗った少年NPCは、俺に向けて深々と頭を下げた。


「よろしく頼む。あんまり堅苦しいのは抜きにしてくれ」


俺が軽く片手を上げると、ティトは「はい!」と元気よく返事をし、神殿の外へと俺を導いた。



◆ ◇ ◆



「こちらが、我々フェネキアの生活の中心となる『大広場』です!」


ティトの案内に従い、俺は地下都市の街並みをゆっくりと歩いていた。

見上げれば、古代人の超技術オーバーテクノロジーによって創り出された疑似太陽が、本物の空と見紛うほどの暖かな光を降り注いでいる。

大理石で造られた古代ローマ風の白い建築物が立ち並び、街中に張り巡らされた水路には、世界樹の根から浄化された澄み切った水が豊かに流れていた。

(……改めて見ても、凄まじいグラフィックと環境制御オプティマイズだ)

すれ違うフェネキアの住人たちは、それぞれが独自の思考ルーチンで生活している。

店先で果物の値段を交渉する者、水路のほとりで恋人と語り合う者、路地裏で追いかけっこをする子供たち。

『アルファ』によって制御されたAIは、もはやただのデータ(NPC)という枠を超え、そこに確かに『命』が息づいているかのような没入感イマージョンを俺に与えてくれた。


「勇者様、どうされました? 立ち止まって」

「いや……いい街だと思ってな」


俺の素直な感想に、ティトは嬉しそうに狐の耳をピクピクと動かした。


「ええ! 我々フェネキアの誇りです! ……あ、あちらに見えるのが、我が里が誇る職人たちが集まる『工房街』です。勇者様は戦士でいらっしゃるから、武具には興味がおありでしょう?」


ティトが指差した先には、カンカンと小気味良い槌音が響く一角があった。


「武具屋か。……ちょうどいい、覗いてみるか」


俺はティトの後について、工房街の一角にある大きな武具屋の前に立った。

そこには、様々な意匠を凝らした剣や槍、盾などが所狭しと並べられている。

だが、俺の視線は、陳列されている武器そのものではなく、店の奥の壁に掛けられていた『一枚の古い羊皮紙』にピタリと釘付けになった。


「……おい。あれは、なんだ?」


俺が指差した先。

その羊皮紙には、三十種類の武器のシルエットが放射状に描かれ、それが中央の一つの『漆黒のガントレット』へと集約していくような、複雑な設計図マニュアルが記されていたのだ。

それは間違いなく、俺の右腕に装着されている《古代変形機装》の構造図そのものだった。


「おお、お客さん。お目が高いな」


奥から出てきたのは、筋肉質で分厚い胸板を持つ初老のフェネキアの店主だった。

彼は青いラインの入ったトガの袖をまくり上げ、俺の右腕にあるガントレットと、壁の設計図を交互に見比べた。


「……なるほど。バアルの爺さんが外から連れてきた勇者様ってのは、あんたのことか。しかも、その腕についているのは……『オリジナル』じゃねえか」

「あんた、この武器の正体を知ってるのか?」

俺が目を細めて尋ねると、店主は鼻を鳴らして笑った。

「当たり前だ。そいつはな、数千年前に我々フェネキアの先祖が、古代の人間たちと協力して設計し、造り上げた『最高傑作』の一つだからな」

「フェネキアが、これを……?」

「ああ。我々砂耳族の異常な手先の器用さと、古代人の魔科学マギテック。その二つが融合しなければ、たった一つの機構の中に三十種もの形態クラスをシームレスに圧縮・変形させるなんていう、イカれた兵器は造れない」


店主は懐かしむように、そしてどこか誇らしげに壁の設計図を見上げた。


「だが、そいつは当時の人間たちにとっても『失敗作(産廃)』だった。理屈の上では最強の万能兵装だが、三十の形態変化と魔力回路の冷却時間クールダウンを同時に把握し、実戦の速度で回し切れるような脳みそを持った人間は、一人もいなかったからな」


その説明は、俺が実際にこの武器を使って感じた『脳への極限の負荷タスク・ローディング』と完全に一致していた。


「……じゃあ、なんで俺が、そんな古代の遺物を、お前らの里から遠く離れた『西の荒野』のパズル遺跡で見つけたんだ?」


俺の疑問に、店主は太い腕を組んで首を振った。


「さあな。なぜ先人たちが、そんな誰も通らないような荒野に、わざわざ面倒な仕掛けを作ってまでそれを隠したのか……正確な理由は、記録に残っちゃいねえ」


店主はそこで言葉を区切り、鋭い獣の瞳で俺を真っ直ぐに見据えた。


「だがな、職人としてのわしの勘で言わせてもらえば……」

「…………」

「もしかすると、先人たちは『見たかった』のかもしれんな」


店主の口元に、フェネキア特有の『戦闘狂』の笑みが浮かぶ。


「自分たちが造り上げた、神をも恐れぬその狂った兵器を。……いつか、人間の限界を超え、完璧に御して回し切れるような『本物の化けプレイヤー』が現れる日を、な」

「……ッ」

その言葉を聞いた瞬間。

俺の背筋に、ゾクゾクとするような強烈な電流が駆け抜けた。

(……見たかった、か)

運営システムが仕込んだ単なる隠し要素じゃない。

この世界で生きた古代の職人たちが、未来の誰かに託した『挑戦状』。

「……ふっ、ははっ!」

俺は堪えきれず、低く喉を鳴らして笑い出した。

右腕の《古代変形機装》をカチャリと鳴らし、壁の設計図に向けて不敵な三白眼を向ける。

「なら、そいつらの期待には、俺が完璧に応えてやるよ。このじゃじゃ馬の三十の機構、一ミリ秒の無駄もなく、俺が最高に美しく回し切ってやる」

「カッカッカ! 言い切りおったな! その意気や良しだ、人間族の勇者よ!」

店主が豪快に笑い声を上げ、俺の肩をバンバンと叩く。

このEHOという世界は、本当に底が知れない。

ただのデータに過ぎないはずの武具の一つ一つに、そしてNPCのセリフの裏側に、これほどまでに熱いロマンと歴史が隠されているのだから。


「アイズドさーん!」


その時、工房街の入り口の方から、聞き慣れた声が響いた。

振り返ると、現実での用事を終えてダイブしてきたルナが、白銀の髪を揺らしながらこちらへ向かって走ってくるのが見えた。

「待たせました! ルナ、ログイン完了です!」

「おう、遅かったな。待ちくたびれて、武器のウンチクを聞いてたところだ」

俺は店主に軽く手を挙げて挨拶を済ませると、駆け寄ってきた相棒へと向き直った。

さあ、役者は揃った。

この地下都市の平和を脅かす『古代の悪意』とやらが何なのかはまだ分からない。

だが、今の俺たちなら、どんな理不尽なシステムが立ち塞がろうとも、笑って蹂躙できる気がしていた。


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