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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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戦闘狂


『砂海の地下都市』の中央、天を衝く世界樹の根を目指して大理石の街並みを歩きながら、俺――アイズドは周囲を行き交うNPCたちの様子を鋭い三白眼で観察していた。

プロゲーマーたるもの、未知のエリアに入った際は、背景やNPCのモデリングから「その地域の文化レベルと階級構造ヒエラルキー」を瞬時にプロファイリングしなければならない。



「ルナ、周りの奴らの服装を見てみろ」

「服装、ですか?」



ルナがキョロキョロと首を巡らせる。

この街の住人である『砂耳族フェネキア』たちが身に纏っているのは、中世ファンタジーによくあるチュニックや革鎧ではない。一枚の巨大な布を体に巻きつけたような、古代ローマの『トガ』を思わせる優雅な衣服だった。



「ただの布切れに見えるが、よく見ると『色』が違う。外縁部で農作業をしている連中は無地の生成り色。街の中心に向かうにつれて、布の縁に青や緑の装飾が入り始め……今、目の前を通り過ぎた警備兵のようなNPCは、鮮やかな『紫』のトガを着ていた」



俺は前髪を掻き上げながら、システム的な推測を口にした。



「おそらく、この地下都市は明確な身分制度によって管理されている。トガの色が、そのまま彼らの『ランク』を示しているんだろう」

「色でランク分け……。じゃあ、一番偉い村長さんは、もっとすごい色の服を着てるってことですね!」

「そういうことだ。どんなエフェクトのNPCが出てくるか、見物だな」



俺たちがそんな考察を交わしているうちに、案内役の老商人は、世界樹の太い根の真下に建造された、一際巨大で荘厳な大理石の神殿へと歩みを止めた。

入り口に立つ紫のトガを着た衛兵たちが、老商人の顔を見るなり驚愕に目を見開き、慌てて重厚な扉を開け放つ。



「さあ、お入りください。我が一族の長たる『族長』がお待ちです」



神殿の内部は、天井から降り注ぐ疑似太陽の光を反射し、神々しいまでの明るさに満ちていた。

そして、その最奥。

数段高くなった玉座のような石座に、その『NPC』は腰掛けていた。



「…………ッ」



その姿を見た瞬間、俺とルナは同時に息を呑んだ。

デカい。

一般的なフェネキアは百三十センチほどの小柄な体躯であるにもかかわらず、石座からゆっくりと立ち上がったその女性キャラクターは、俺(百七十二センチ)を遥かに見下ろす、優に二メートル近い長身を誇っていた。

他の住人のような完全な獣の顔ではなく、限りなく人間に近い、妖艶で整った絶世の美貌。

しかし、頭部から生える黄金色の巨大な狐の耳と、背後でうねる九本の巨大な尻尾は、彼女が人ならざる魔性の存在であることを強烈に示している。

そして彼女の、グラマラスでありながらも一切の無駄なく引き締まった褐色の肢体を包み込んでいるのは――最高位を示すであろう、目に突き刺さるような『深紅クリムゾン』のトガだった。



「おお……なんと。本当に、生きて戻ってきたのですね、商官バアルよ。結界の外へ弾き出されたと聞いた時は、もはや手遅れかと思っていました」



族長の女性が、深く艶やかなアルトの声で語りかける。

老商人――バアルは、その場に平伏して涙声で応えた。



「はっ! 族長セレン様。すべては、こちらの人間族の勇者様方が『古代の記録晶』を取り戻してくださったおかげでございます」



族長セレンと呼ばれた半獣半人の美女は、スッと琥珀色の切れ長な瞳を俺たちに向けた。

その瞬間、俺の肌をチリチリとした『プレッシャー』が撫でた。

ただのNPCが放つ威圧感ではない。明確な『ボスクラス』のステータスデータが放つ、システム的な重圧だ。



「人間族の旅人よ。我が同胞を救い、一族の悲願を繋ぎ止めてくれたこと、砂耳族の長として心より感謝いたします」



族長セレンは、その巨大な体躯を優雅に折り曲げ、俺たちに一礼した。



「い、いえ! 私たちはただ、荷物探しのお手伝いをしただけで……!」



ルナが慌てて両手を振って謙遜する。

俺は三白眼を細め、単刀直入に本題を切り出した。



「感謝なら受け取っておく。だが、俺たちの目的は報酬のゴルドじゃない。あんたたちが数千年も逃げ隠れているっていう『古代の悪意』とやらの情報をもらいに来た」



俺の不遜な態度にも、族長セレンは怒る素振りを見せなかった。

ただ、その妖艶な唇に、スッと弧を描くような微かな『笑み』を浮かべる。



「……ええ。お伝えしなければなりませんね。我々が何を恐れ、何を守り続けてきたのかを」



セレンはゆっくりと石座から歩み降り、俺たちの目の前までやってきた。

二メートルの巨体から見下ろされると、それだけで圧倒的な凄みがある。



「しかし。我々が相対する『古代の悪意』は、並の力で太刀打ちできるような代物ではありません。ただ情報を与え、無為に命を散らさせるわけにはいかないのです」



セレンの背後で、九本の尻尾が生き物のようにユラリと蠢いた。

そして――彼女の瞳の奥に、隠しきれない『熱』が灯る。



「ゆえに。本題に入る前に……あなた方の『実力』を、この私自身の手で確かめさせていただきたい」

「……はっ」


俺の口から、乾いた笑いが漏れた。


「いいぜ。ただのお使い(パシリ)クエストで終わるわけがねえと思ってたからな」

「アイズドさん……!? な、なんか族長さんの雰囲気が、急に変わった気がするんですけど……!」


ルナが俺の背中に隠れるようにして、セレンの顔を恐る恐る見上げる。

無理もない。先ほどまで温厚で理知的な指導者だったセレンから、今は血の匂いを好むような、むせ返るほどの闘気ヘイトが立ち上っているのだ。



「ルナ。ネトゲの世界観フレーバーテキストにおける常識を一つ教えてやる」



俺は《古代変形機装》のガントレットをカチャリと鳴らし、臨戦態勢に入った。



「こういう『普段は温厚に隠れ住んでる手先の器用な種族』ってのはな……いざ戦闘フラグが立つと、戦闘種族であるライカン(獣人族)すらドン引きして逃げ出すレベルの『極度の戦闘狂バトルジャンキー』に設定されてることが多いんだよ」



かつて人間と竜の戦争において、古代人と同盟を組み、数々の兵器を造り上げた種族。

彼らがただの非力な職人であるはずがない。その本質は、狂気的な技術力と好戦性を併せ持った、生粋の戦士なのだ。



「ふふっ……ご明察です、人間族の戦士よ。私たちの血は、数千年地下に潜ろうとも、決して冷えることはありません」



族長セレンは、深紅のトガを翻し、神殿の奥へと続く巨大な回廊を指し示した。



「さあ、こちらへ。世界樹の根が祝福する『大闘技場コロッセオ』にて、あなた方の力を見せていただきましょう」



彼女の歩く先から、ズン、ズン、という重いドラムのようなシステムBGMがフェードインしてくる。

ユニークシナリオの本格的な戦闘フェーズへの移行。



「さあて、準備はいいかルナ。初めてのボス戦だぞ」

「は、はいっ! 剣の振り方はバッチリです!」



緊張で声を上ずらせながらも、ショートソードの柄を力強く握りしめる白銀の少女。

俺は獰猛な笑みを浮かべながら、戦闘狂の族長が待つ闘技場へと足を踏み入れた。


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