120.皇族と食事
バルとミーナは皇族の会食に呼ばれていた。
バルは珍しく応じ、ミーナは彼が参加するという情報を聞いたために承諾した。
「八神輝はそれだけの権限を与えているのだが、応じてくれてメンツが保ててうれしいぞ」
皇帝は素直に喜んでいる。
こうしてみると一国の最高権力者とは思えないのだが、バルに言わせればこれが皇帝の長所だった。
会食の場は王宮の会食の広間で、参加者は皇帝、皇后、第三妃、皇太子、皇女三名にバルとミーナである。
五十人は同時に食事できそうな広さに少人数なのだから、空間の無駄遣いというやつだ。
「エルフの国はどうだったの?」
皇后が血のつながらない娘に質問する。
「緑が多くて空気が美味しくて、食べ物が美味しくて、村のようなのに魔術具もたくさんありましたね。緑が多いと空気が美味しいのは、植物の関係なのかしら? ということは緑を増やせばわたくしたちもエルフになる?」
ベアーテの話が途中でおかしな方向に進むのはいつものことだった。
彼女の生母は恐縮しているが、皇族たちは苦笑ですます。
彼女たち母娘は基本善良で、人に嫌われるような性格をしていないのも理由のひとつだろうとバルは思う。
(もっとも堅苦しいタイプは別だが……)
伝統を重んじ、格式や礼儀を大切にし、規律と厳格を擬人化させたような侍従長などは、自由すぎるベアーテは頭痛の種だろう。
悪気はまったくないからこそ、彼女は手に負えないのである。
「ベアーテが無事に大使を務めてくれてよかった。ヴィルヘミーナのおかげかな」
皇太子はそう言ってミーナをほめた。
皇太子にほめられた以上、何らかの言葉を返すのが臣下の礼儀というものだが、ミーナは完全に無視を決め込む。
「ミーナ」
バルがたしなめたため、ようやく彼女は口を開く。
「臣に追従を言うようでは皇族としての価値が下がるな。まあ傲慢よりは可愛げがあるが」
辛らつな言葉に皇太子よりも彼女の生母が顔をしかめる。
言われた本人と皇帝は苦笑した。
ミーナにしゃべらせたらこうなることくらい、彼らはいい加減学習済みだからである。
離れた場所からでも聞こえていたらしい侍従長は胃を抑えていた。
本来、皇族に対する口のきき方を教えるのは、典礼省の役目である。
しかし、まじめで堅苦しい性格の侍従長は、自分の失態のように感じてしまうらしい。
「ミーナ、侍従長が死にそうだぞ。少しは遠慮しろ」
「はい、気を付けます」
注意したのがバルとなると、とたんにしおらしくなるミーナだった。
それを見てクスクス笑い声を立てたのがベアーテである。
「バルがいるかぎり、ミーナの手綱をとってくれるから安心ね」
「バルトロメウスがいないとなると、不安すぎるということではないかしら」
皇后は正論を言ったのだが、皇帝と皇太子は聞こえないふりをした。
もちろんミーナは無視である。
「まあバルトロメウスがいるから大丈夫だよ」
皇太子は言う。
バルに頼り切りな状況が危ういという意見に対する答えとしては、不適切にもほどがある。
だが、それに気づいた者が意外と少ない。
「分かっているじゃないか」
ミーナは少しだけ機嫌がよくなっていた。
「お前が原因だ!」と何人もが思ったのだが、誰も口には出さなかった。
無視されることが目に見えていたからである。
(ヴィルヘミーナを招待した人が悪いのでは……)
ヨーゼフィーネ皇女は母とそのような会話をする。
(陛下ですよ、招待すると言い出したのは)
彼女の母のほうはあきらめ顔だった。
ここまでリュティガーたちの話題はいっさい出ない。
いなかったものとして扱われているようだ。




