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119.妥協はない

 バルは王宮にある練兵場でひとり鍛錬をしていた。

 彼が持つ異能は魔術とは似て非なるものである。

 それでも魔力を練る点は同じだった。

 そして無駄のない動きを作るためにも、数千数万の反復練習をおこなう。

 

「すごいよな、バルトロメウス様」


「もう二時間くらいずっと動きっぱなしだぜ」


「まず体力が俺たちとは違うんだな」


 遠くから見ている兵士たちは、ひそひそと話をしている。

 誰もがバルに対する敬意と畏怖の念を持っていた。

 最強と謳われる男は単純に強いだけではない。

 まず基本的な動きのひとつひとつがすさまじいのだ。

 見ている兵士たちは王宮勤めになるくらいだから、実力が高い部類である。

 だからバルのすごさを多少なりとも感じとることができた。


「大国は一日で作れない。最強は一日でなれるもんじゃないってことか」


 兵士のひとりがしたり顔で言うと、応じる女性の声があった。


「その通りだな」


 驚いた兵士たちが一斉に振り向けば、そこには冷徹なエメラルドのまなざしを持つ美貌のエルフがいた。

 八神輝の一角、ヴィルヘミーナである。


「ヴィ、ヴィルヘミーナ様……」


「バルトロメウス様が鍛錬を欠かさずおこなっていらっしゃるのは当然として、お前たちは何をしている?」


 ミーナは氷を思わせる声で話しかけた。


「有事の際、王族や民の盾となって守るのがお前たちの役目だろう?」


「は、はい!」

 

 兵士たちは鞭で打たれたかのように背筋を伸ばし、あわてて鍛錬に戻っていく。

 冷ややかな目で見送ったミーナはタイミングを見計らってバルに話しかける。


「バル様、お疲れ様です。タオルと飲み物をお持ちいたしました」


「ああ」


 バルは休んで彼女からドリンクが入ったカップを受け取る。

 

「兵士たちは戻ったのか。見ることもまた修行だったはずだが」


「彼らの場合はサボりに近い状態になっていると判断したので、差し出がましいと思いつつ私が追い払いました」


 ミーナは悪びれずに答えた。

 そして仮面の下で苦笑した彼に話しかける。


「いつもより鬼気迫るといった感じでしたが、何かございましたか?」

 

 何かあったというならば当然参戦するつもりで彼女は言ったのだ。


「ああ。火熊が村に出た。幸い死者は出なかったのだが、偶然だ」


 バルの言葉には怒りがこもっていることを感じ、ミーナは黙って聞き役に徹する。


「ああいう魔物も近づかないような力が必要だと感じる。戦えば被害は避けられない。だからこそ抑止力が重要なのだ」


「……魔物が村や町に近づかないほどの抑止力をお求めなのですか」


 ミーナの言葉をバルは肯定した。


「そうだ。人に害を及ぼすことなく、害となる存在だけを遠ざける……それこそが強さの極み、最終到達点だと思う」


 バルは悔しそうに言う。

 彼が有する力は強大だ。

 それを解き放てば魔物たちは逃げ出して決して近づかないだろうが、村や町にどれだけの損害を与えてしまうか分からない。

 だから彼はリミッターをいくつもつけているのだ。

 

「魔物よけでは一部の強力なものには効きませんものね」


 おおよそ人間には不可能と思われるような領域を聞かされたというのに、ミーナは笑いもせず真剣な顔で応じる。


「ドラゴンならあるいは代用できるのかもしれないが、どこにいるのか分からない。ミーナは知らないか?」


「さすがにドラゴンの所在地は存じません」


 バルの問いにミーナは申し訳なさそうに言った。

 ドラゴンは最強の魔物と言われていて、倒せば計り知れない名誉を手にすることができる。

 もっともその分強さは圧倒的であり、帝国ですら州のひとつやふたつが消し飛ぶことを覚悟する必要があるだろう……バルやミーナがいないのであればの話だが。

 

「今できるとすれば魔除けをすべての村に配布しつつ、それが効かない魔物が出た場合、ただちに大きな町に滞在する騎士団や国軍に知らせがいく制度を作ることでしょうか」


 知らないですませてはいけないと考えた彼女は、自分なりに代案を述べる。


「そうだな。魔術省がやっているはずだが、予算にも生産能力にも限界がある」


 バルはだから自分が頑張るのだと告げた。


「私は民草の血税で生活している身だ。最善を目指し続ける義務がある。妥協は許されない」


「では僭越ながら私もお付き合いいたしましょう。バル様ならおひとりでもいずれ到達できるでしょうが、切磋琢磨する相手がいたほうがよいでしょう。未熟な身で恐縮ですが、精いっぱいはげみます」


 ミーナは熱をこめて申し出る。


「……そうだな。エルフの識見を借りることがあるかもしれない。よろしく頼む」


「はい!」


 バルに頼まれた彼女は、最高に幸せそうな笑顔になった。


「……あのふたり、まだ強くなる気なのか?」


「さ、さあ?」


 兵士たちの会話は二人には聞こえなかった。

 


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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『神速詠唱の最強賢者《マジックマスター》』

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