表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/141

108.八神輝閃槍のヴィリー

 ヴィリーは下級貴族出身で、平民と変わらぬ暮らしをしていた。

 しかし、槍使いとして類まれなる才能を持っていた彼は、十五歳の時に当時の騎士団総長と互角に戦って周囲を驚かせた。

 十八の時には騎士団の中で彼とまともに戦える者はいなくなり、二十一歳の時に新たなる八神輝のひとりとなった。

 八神輝に選ばれることは帝国の武人として最高の名誉である。

 家族たちは歓喜の涙を流していた。

 八神輝に与えられる破格の報酬によって、両親と妹は楽な暮らしを送れるようになった。

 鼻高々で皇帝と八神輝で行う「会議」に参加した結果、彼は伸びていた鼻をへし折られることになる。

 一対一の専門家ながら彼が繰り出す突きを片手で止めてみせるクロードとマヌエルがいた。

 イングウェイには何が何だか分からないうちに倒されてしまった。

 シドーニエは彼が攻撃しようとした時にはすでに凍らされてしまった

 バルトロメウスとヴィルへミーナには勝負を挑む気すらわいてこなかった。

 シドーニエと並んで八神輝最年少のヴィリーは、実力的には下から二番めだったのである。


「俺は弱い……!」


 ヴィリーはそう言いながら今日も帝都の練兵場で鍛錬をしていた。

 

「ふっ」


 ひと呼吸で二百発の突きを繰り出す「五月雨突き」を出す。

 残念ながら同じ八神輝でこの技が通用するのはギーゼルヘールだけだ。

 しかもギーゼルヘールは弓兵で、遠距離戦に特化している。

 近中距離で勝てると言って褒められる相手ではない。

 

「もっと早く……もっと強く」


 ヴィリーはもっと強くなりたいと鍛錬を重ねている。

 さすがに帝国最強になれるとは思わないが、三番手の座をあきらめるつもりはなかった。

 せめてイングウェイには勝てるようになりたい。 

 音よりも速く敵を倒すことはできるが、あくまでもそれが彼の限界だった。


「音を置き去りにする程度では、イングウェイにも勝てない」


 同僚たちはどうしようもなく化け物揃いである。

 皇帝が言うには今の八神輝は基本的に先代よりも強いという。

 

(先代はユルゲン様、オルドヴィーン様、ゼルギウス様の三名を除けば俺と同じくらいだったらしいな)


 先代たちが引退して新しいメンバーを集めた結果、先代をしのぐ戦力になったのはうれしい誤算だったようだ。

 特にヴィルへミーナの加入は大きい。

 彼女ひとりで八神輝数名分の戦力になれる。

 今後は冒険者やさまざまな種族から八神輝に登用される可能性が生まれたと言えるだろう。


(さすがにシドーニエ、マヌエルクラスが在野にゴロゴロいるとは思えないが……)


 帝国に何人かいるという特級冒険者であれば、もしかするともしかするかもしれない。

 マヌエルがそうだったのだから、ありえないとは言えないだろう。

 

「精が出るな」


 そこへバルがやってくる。

 いつも彼のそばに控えているミーナが珍しくいなかった。


「バルトロメウスか……ヴィルへミーナはいないのか?」


「ああ。陛下に用を頼まれて少し出ている」


 彼の回答にヴィリーは不安になる。


「お前がそばにいないとなると、かなり不安なんだが」


「ミーナだって分別がないわけじゃないぞ」


 ヴィリーが言いたいことを察したバルは苦笑した。

 

「本当かなぁ……」


 不安そうな小声をバルは聞かなかったことにする。


「それよりも手合わせしてくれ。やっぱり相手がいた方が訓練に身が入る」

 

「いいぞ。ちょうど人もいないし」


 とバルは気安く応じた。

 ヴィリーの向上心は同僚として好ましい。

 手助けしようという気持ちになった。


「エルブス」


 先手を取ったのはバルである。

 右手から千を超える光の弾を撃ち出した。


「いきなりかよ」


 ヴィリーは槍を回転させて防ぎ止める。

 

「お返しだ。崩山撃!」


 彼はバルの懐に飛び込み、五百を超える突きを放ったが空を切った。

 バルは数歩ずらし、槍の間合いの外に出たのである。


「連続攻撃を得意とするのはいいが、間合いを外された時の対策が甘いな」


「うっ」


 バルの評価を聞いたヴィリーはギクリとした。

 彼の戦法は基本的に「避けられる前にやる」である。

 だから彼の間合いを外したり、槍を避けたりできる相手には弱い。


「突きの最中でも間合いを変化できるように練習するべきか……」


「できた方がいい。少なくとも今みたいなかわし方は無理になるし、私たち相手に0.1秒も隙があるのは命取りだしな」


 バルの言葉にヴィリーはうんうんとうなずく。

 目の前にいる光の戦神は0.1秒あれば十回くらい殺してくるだろう。

 少しでも上を目指すからには、対応できるようになるしかない。


「さて次はお前の守りだが」


「隙があるのか」


 ヴィリーは大人しく耳をかたむける。


「隙というわけではないが」


 バルはもう一度「エルブス」を撃つ。

 ヴィリーが槍を使って防いだ瞬間、背後に回って足に蹴りを入れる。


「おっと」


 ヴィリーは慌てて避けたものの、完全に体勢を崩してしまう。


「下半身が少し硬い。連続攻撃に備えておくという意識が弱い」


「そ、そうか……」


「攻撃も防御も流れだ。実力差があまりない場合は特にな。攻撃を出せば勝てる。防御を一回すれば反撃できる。それしか想定していないのは、いささか問題だぞ」


 バルの指摘を彼は真剣な顔で聞いている。


「つまり俺は欠点だらけだったか。ありがとう」


「何の。頑張れよ」


 礼を言うヴィリーに鷹揚に答え、バルは立ち去ろうとした。

 それを呼びとめてヴィリーは頼み込む。


「待ってくれ、バルトロメウス。もう少し付き合ってくれ」


「もう少しだけだぞ」


 バルは仕方なさそうに付き合う。

 この日、ヴィリーの槍は彼にかすることはなかったが、少し変化が生まれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『神速詠唱の最強賢者《マジックマスター》』

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ