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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第二部 【詰むまでの物語】
59/72

第58話 『吸血衝動の本質』

「吸血鬼の世界?」

「そうだ。沢山の吸血鬼が暮らしていた」

「ざっと見た限り、誰も居なかったぜ?」


俺は道中、千里眼で地の果てまで見通した。

不毛の赤い大地には生物の痕跡はなかった。

この教会のような城が一件建つのみである。


「それはそうだろう。この世界は滅んだのだ」


かわゆいボスはさらりと重い現実を告げた。

どうやら、この世界は既に滅んだらしい。

見た感じ、そうだろうなとは思っていたが。


「何があったんだ?」

「簡単なことさ。吾輩が滅ぼしたのだ」


そりゃなんとも物騒な。気になるのは経緯だ。


「なんで滅ぼしちまったんだ?」

「吸血鬼達がそれを望んだからだ」

「だから、何を?」

「わからぬか? ……死だ」


吸血鬼達は死を望んだらしい。

なんとなく、わかりかけてきた。

記憶を抜き取った際に見えたビジョン。

あれは恐らく、その吸血鬼達の死だ。


それを彼女が全て覚えているってことは。


「あんたが、そいつらを殺したのか?」

「そうだ。それが吾輩の罪だ」


かわゆいボスが犯した大罪。

それは同族殺し。吸血鬼を皆殺しにした。

木乃伊から蘇生した直後、彼女は言っていた。


『自殺志願者を殺すのが吾輩の使命だ』と。


「初めは、平和な世界だったのだ」


かわゆいボスは語る。この異世界の、顛末を。


彼女は吸血鬼の王の娘だった。

王は魔力の淀みから産まれた、真祖。

この異世界に君臨し、繁栄をもたらした。


真祖は他にも何体か居て、それぞれ結婚。

眷属の数は鼠算式に増えて、王国を形成。

王を筆頭に、真祖達が貴族の座についた。


吸血鬼達は化け物らしく、怠惰だった。

好きな時に起き、好きな相手と関係を持つ。

そんな自由で気ままな生活が数百年続いて。


ある日、真祖の1人が頭痛を訴えた。


歳を追うにつれ、その頭痛は酷くなっていく。

千年を超える頃には、真祖は床に伏せた。

管理者を失った世界は緩やかに崩壊した。


真祖の直系の眷属にも頭痛は広まり、発狂。

苦しみから逃れる為に、快楽に溺れる日々。

人口は爆発的に増加したが、状況は悪化した。


一万年を超えた頃、王は決断した。


苦しむ民を楽にしてやろうと。

そして方法を探した。ずっと探し続けていた。

真祖が頭痛を訴えたその時から、ずっと。


結論は、殺すことだった。


しかし、吸血鬼は不死身の化け物。

ゆえに、殺しても、死なない。

地表に刺さった夥しい杭はその名残らしい。


杭で串刺しにして、放置した。

我先にと、沢山の吸血鬼が串刺しを求めた。

しかし、その結果得られたのは、苦痛だけ。


どれだけ苦しみ、血を流そうが、死ねない。


その理由は頭上で照らし続ける、満月。

沈まぬ月は、吸血鬼を回復し続けた。

まさに、生き地獄。地表は地獄絵図と化した。


王は苦悩した。民を救えない己自身に憤った。

その頃から王も体調に異変を来すようになる。

下々の民よりも、強大な力を持った、王。

しかし、そんな王ですら記憶に押し潰された。


苦しむ民の顔が、脳内を埋め尽くしていく。


やがて、床に伏せった王は、娘を呼び寄せた。

自らの娘に、殺してくれと、懇願した。

泣きながら、許してくれと、謝りながら。


王の娘たるかわゆいボスは、勅命を全うした。


彼女は自らの父親を、吸い殺した。

牙を突き立てて、吸い尽くした。

王を殺した娘は、民から恐れられた。


皆がひれ伏し、そして救済を求めた。


どうか、殺してくれと。

かわゆいボスはその願いを聞き入れた。

列を成す自殺志願者を、吸い殺してやった。


来る日も、来る日も、来る日も、来る日も。


連日、城には長蛇の列が出来た。

しかし、それもしばらくしたら、落ちついた。

吸血鬼の国は人口を減らし、衰退していった。


かわゆいボスは動けない者を探しに出た。

王の守護者たる、竜王の背に乗って。

行き倒れている者や、自ら月光を遮断した者。

それでも死ねない吸血鬼を、吸い殺した。


幼い吸血鬼が成長して、頭痛を抱える。

その過程を眺めながら、殺してあげた。

過程を知ってるからこそ、哀しみが増した。


そうして、ほとんどの吸血鬼を殺した。

時折、生き残りを見つけては、また殺した。

しらみつぶしに世界を巡り、何度も確認した。


その結果、生存者は居ないと判断。


かわゆいボスは城の棺桶で眠りについた。

その直前に、守護者たる竜王も殺した。

誰も居ない世界に、残してはいけなかった。


こうして、独りぼっちとなり、眠った。


「そんな折に、貴様が現れたという訳だ」


憔悴した表情を浮かべて、そう締めくくる。

俺はそんな彼女への同情よりも憤りを感じた。

奥歯を噛み締め、拳を握り締めて、呟く。


「なんだそれ……草も生えねぇ」


これほど虚しい滅亡が存在するだろうか。

不死身の吸血鬼の末路が、こんな終わりとは。

そして何より、どうして、彼女に背負わせた。


「あんたの父親は、何を考えてやがる……!」


故人を詰るのは、気がひけるが。

それでも、口に出さずには、いられない。

どうして娘に、そんな罪を押し付けたのか。


「自分で吸血鬼を殺せば良かっただろう!」


それが王様の責任ってもんだ。

民を導き、繁栄させ、責任を取る。

民が死を望むなら、自ら手を下すべきだ。


それなのに、自分の娘に血を吸わせるなんて。


「何を考えてやがったんだ、その王様は!」

「父上を……責めないでやってくれ」

「でもよ! 自分の手を汚すのが嫌だからって」

「それは違う」


俺の罵声を遮り、握った拳を、彼女は掴んだ。

ひんやりとした、かわゆいボスの手のひら。

その感触で、少し頭が冷えた。そんな俺に。


「父上は、吾輩の母上を殺したのだ」

「……あんたの、母上を?」

「頭痛に苦しむ母上を、父上が吸い殺した」


思わず耳を疑う。自分の妻を殺したらしい。


「父上は、母上を愛していた」


俺の拳を掴む彼女の手に、力が入る。


「愛する妻を殺して、心が折れたのだ」


下唇を噛み締め、銀眼から涙が溢れる。


「その父上にはもう、娘を殺せなくて……!」

「もういいっ! わかった……わかったから」


俺は失念していた。手を下す、その意味を。

民を殺せば終わりではないのだ。

愛する妻も、そして娘も、殺す必要がある。


妻を殺して、王は心が折れた。

その哀しみは、いかほどのものだったろう。

王にはもう、娘を殺すことは出来なかった。


「吾輩は、どうしたら良かった? 教えてくれ」

「俺には……わからねぇ。ただ……」


俺にはわからない。何が最善だったのか。

そんな俺が、神を自称したことを恥じ入る。

あまりに無知で、あまりに無力だった。


それでも、彼女の涙を、止めたくて。


「わからないけど……もう泣くな」

「ぐすっ……頼りにならん神だな」

「神なんてのは口から出まかせだ」

「ならば、貴様は何なのだ?」

「俺は、あんたの眷属だ。だからさ……」


俺はこのかわゆいボスの眷属。だから俺は。


「あんたが泣き止むまで、そばに居てやる」


それしか出来ない。俺は神ではないのだから。


「なんだそれは。口説いてるつもりか?」


俺の優しい言葉に、かわゆいボスは不満げ。


「そうだったら、どうするよ?」

「当然、お断りだ。誰が貴様なんか」

「じゃあ、ここから消えた方がいいのかよ?」

「馬鹿者。泣いている女を放って置くな」


ここで立ち去るのは、マナー違反らしい。


「我儘な王女様だな。親が泣くぞ?」

「泣く親など、とうに居ない。吾輩は独りだ」

「奇遇だな。実は、俺も独り身だ」

「ふん。そんなことは、見ればわかる」

「なんだよそれ、失礼な言い草だな」


かわゆいボスの毒舌に、うんざりしていると。


「だから、眷属よ。吾輩のそばにいろ」


不意に、話題がふりだしに戻って、びっくり。


「なんだそれは。口説いてんのか?」

「そんな訳ないだろう!? ぶっ殺すぞ!!」

「いや、そこまで否定しなくても……」


嘘でもいいから、頷いて欲しかった。

もちろん俺は調子に乗りまくるけど。

しかし、まあ、どうやら涙は収まったようだ。


「ま、泣き顔よりは、怒り顔の方がマシだな」


そんな感想を口にして、目尻の涙を拭う。

その手を、かわゆい銀髪吸血鬼は払いのけて。

ぷいっとそっぽを向き、口を尖らせて嘯く。


「吾輩はいつでもかわゆいのだ」

「はいはい。かわゆいかわゆい」

「ば、馬鹿にしてるのか!? 眷属の分際で!」

「いや、かわゆいのは、見りゃわかるだろ」


短気な銀髪吸血鬼を宥める。そして褒める。

すると気を良くしたのか、頬が綻んだ。

機嫌を直したかわゆいボスは、偉そうに頷き。


「そうか、吾輩はそんなにかわゆいか」

「かわゆいかわゆい。もう食べちゃいたいぜ」

「ならば、食べるがよい」

「はい?」


適当にスルーしたつもりが、良からぬことに。

ポカンとして、かわゆいボスを見つめると。

彼女は乳白色の細腕を捲り、差し出してきた。


「吾輩の血を吸え、眷属よ」

「血を吸えって……どういうことだよ」

「貴様は既に吾輩の血を吸ったのだろう?」

「まあ、そうだけど……」

「ならば、もう一度吸って……楽にしてくれ」


最後の言葉に、息を飲む。楽にしろ、だと?


「俺に、あんたを殺せと……?」

「そうだ。吾輩は殺してくれ」

「か、勘弁しろよ。冗談にもほどがあるぜ?」

「冗談などではないっ!!」


声を荒げる、かわゆいボス。本気らしい。


「ま、待てよ。とにかく、早まるなって」

「早まるな? はっ! 早まってなどいない!」


銀髪を揺らし、自嘲げに含み笑いを浮かべる。


「吾輩が、どれだけ待ったと思う?」


彼女はとうに、壊れていた。心が折れていた。


「来る日も、来る日も、来る日も、祈った」


こちらに身を乗り出し、鼻先を近づけ、迫る。


「死にたいんだよ! ずっと、死にたかった!」


その瞳孔の開いた銀眼に、絶望が映っている。


「何年待ったことか。それを早まるなだと?」

「わ、悪い。失言だった。謝るから……」

「いいから早く血を吸え! ほら、早くっ!!」


腕を口元に突き出され、逡巡する。どうする?

ここで、血を吸うべきか、否か。

心情的には、吸ってやりたいと思う。

苛む罪と、生き地獄から、解放してやりたい。

しかしながら、それをしていいものか。


元いた世界で出会う前の、かわゆいボス。


その原点たるこの世界で殺したら、どうなる?

考えるまでもない。致命的な矛盾が発生する。

俺に出会う前に死んでしまったら、おかしい。

だから血を吸うことは出来ない。それが正答。


しかし、それを説明して、どう思うか。

彼女は現在、とても不安定だ。

そんな状態でその説明を受け入れるだろうか。

きっと、受け入れない。納得してくれない。


それに何より、これ以上絶望を与えたくない。


考えろ。どうすればいい。どうしたら救える?

考えに考えた末に、名案が閃いた。

根本的な解決には至らないが、これならば。


俺は意を決して、かわゆいボスの命令を受諾。


「わかった。血を吸えばいいんだな?」

「そうだ。早く、吾輩の血を吸ってくれ」

「その代わりに、俺からも頼みがある」

「なんだ? 血を吸うなら、何でも聞いてやる」


よし、第一段階はクリア。俺は要求を告げる。


「あんたも、俺の血を吸ってくれ」

「ふぇっ?」

「いや、だから、互いに吸い合うんだよ」

「す、吸い合う……だと……?」

「そう。お互いが死なないように、な」


理論上は可能な筈だ。

死なないように吸い合う。

それに意味なんてないけれど。

これなら彼女の血を吸ってやれる。


そんな画期的な俺の提案。

それを耳にした直後、何故か赤面した銀髪。

頬に手を当てて、何やら狼狽えている様子。


「吸い合うって……そんな!」

「どうかしたのか?」

「き、貴様は、その意味を知ってるのか!?」

「意味? 何か深い意味でもあるのか?」

「あるとも! 大ありだとも!!」


互いの血を吸い合う、意味。

何やら深い意味があるとのこと。

いまいちピンとこなくて、首を傾げてると。


「貴様とて吸血したことがあるのだろう!?」

「そりゃあ、あるけど、それがどうした?」

「その時、何か感じなかったのか!?」

「何かって? 単純に、美味かったけど?」

「味ではない! 感覚のことだ!!」

「ああ、吸血後の罪悪感のことか?」

「そうじゃなくて! ほら! わかるだろう!?」


何が言いたいのか、さっぱりわからない。


吸血鬼にとって、吸血とは食事だ。

相手の存在を吸い尽くして、己の糧とする。

一部の例外を除いて、大抵は美味だった。

このかわゆいボスの血も、非常に美味かった。

その後、殺人の罪悪感に襲われる。


それ以外に、何かを感じるとすれば……ああ。


「そう言えば、ムラムラするよな」

「ム、ムラムラって言うな!?」


おや? かわゆいボスの銀髪から湯気が出た。

どうやらこれが正解らしい。吸血の感覚。

それは性的衝動に近い。言い換えるならば。


「じゃあ、ムクムクとか?」

「どうして悪化させるんだ!?」


よりマイルドな表現にしたつもりだったのに。


「なら、いやらしい気持ちとでも言うか?」

「ふ、不本意ながら、それが妥当だろうな」

「んで、それがどうしたってんだよ?」


ようやくあの感覚の名称が定まり、本題へ。


「だ、たから! 互いに吸い合うと、その……」

「どうなるんだ?」

「あ、ああ、赤ちゃんが出来ちゃうだろ!?」


はい? 赤ちゃん? なんだそれ。マジですか?


「その話、kwsk」

「詳しく言わなくてもわかるだろう!?」

「あんたの口から聞きたいんだよ」


頬を押さえ、恥ずかしがる美女。最高だよね。


「わ、吾輩も詳しくは知らないんだが……」

「聞こうじゃないか」

「お互いに吸い合うと、盛り上がってきて……」

「ふむふむ」

「そのうち、は、裸になって、求め合って……」

「ほうほう。それで?」

「あとは知らん! とにかく死ねっ!!」

「ぶっへっげっふぉっ!?」


一番いいところで、ご褒美を賜った。

背中をバチーン!と叩かれて、バキバキに。

肋骨が砕け散り、肺に突き刺さり、呼吸停止。


すぐに復活して愉悦に浸る。いいこと聞いた。


「なら、早くやろう。すぐやろう」

「き、貴様、正気か!?」

「正気だからこそ、濡れ場は逃さない」


この機を逃す手はない。絶好の、好機。


苦節93万年。ついに苦難が報われる時がきた。

思えば、長かった。人間は30年で魔法使いだ。

俺は、魔法使いを通り越して、邪神と化した。

糞魔王と呼ばれたこともあった。懐かしいな。


時に出歯亀に奪われかけて。

時に出歯亀を襲いそうになり。

時に出歯亀の顔を思い浮かべて、萎えた。


そんなこんなで守り抜いてきた、童貞。


よくよく考えると、守る価値などなかった。

すぐ捨てよう。いま捨てよう。さあ捨てよう。

しかも相手はかわゆいボス。躊躇などしない。


俺は全力で、童貞を置き去りにする。


「というわけで、頂きます」

「ほ、ほんとにするのか!?」

「当たり前だ。寒いから早くしろ」

「いつの間に脱いだんだ貴様は!?」


全裸待機は基本だろう?

彼女の細腕を保持して、片腕を差し出す。

横目で催促すると、かわゆいボスは逡巡。


「わ、吾輩の処女はここで散るのか……?」

「悩んでるところ、悪いんだけどよ」

「な、なんだ? ちょっとは考えさせろ!」

「いや、考えるまでもないと言うか……」

「なに? それはどういう意味だ?」


処女という言葉で、ふと我に返った。

そして先ほどの会話の内容を思い返す。

吸血は性的衝動を生じる。間違いない。

しかしながら、それでどうなる訳ではない。


要するに、だ。


「血を吸うのと、それとは関係ないだろ?」

「あっ……なるほど。そうだな、うん」


血を吸い合い、盛り上がって、子を作る。

血を吸ったから、子供が出来るわけじゃない。

無論、童貞や処女を失うわけでもないのだ。


「やれやれ、とんだぬか喜びだったぜ」

「すまん……吾輩の早とちりだった」

「いいさ。それより、早く済ませよう」


一気に冷めて、衣服を纏い直す。

何が全裸待機だ。期待させやがって。

やってられない気持ちながら、念を押す。


「悪いが、これであんたを殺せる訳じゃない」

「ふん。けちんぼめ」

「あんたには、生きてて貰わなければ困る」

「ならば、今は、この遊びで我慢しよう」


不満げながらも、一応理解を得られた。

これで罪悪感が薄れることを期待しつつ。

タイミングを合わせて、血を吸い合った。


一口吸って、堪らず口を離す。


なんだこれ。ヤバイ。美味いのは知ってる。

そんなことよりも、めっちゃ、気持ちいい。

これが、吸血し合うってことか。甘く見てた。

痛気持ちいいって言うか、ゾクゾクしまくる。

吸血衝動の本質とやらを、実感した。

もうね、いろいろ大変なことになってる。

鼓動とか、股間とか、股間とか、股間とか。


ちらっと横を見ると、彼女も口を離していた。


耳まで赤くして、片手が下腹部に。

漆黒のドレスの裾を押さえている。

あっちもあっちで、大変らしい。


「……なあ」

「な、なんだ、吾輩は普通だぞ?」

「よだれ垂れてんぞ」

「き、貴様こそ、ダラダラではないか!」

「おっと。いっけね」


慌てて口元を拭う。唾液が止まらん。

かわゆいボスも、しきりに喉を鳴らしてる。

どうやら、考えてることは、同じらしい。


「もうちょっと、吸ってみるか?」

「そ、そうだな。乗りかかった舟だしな!」

「なら、もっとこっち来いよ」


手招きすると、ぷいっとそっぽを向いて。


「き、貴様が来いっ!!」

「仕方ねぇな」

「ち、近すぎないかっ!?」

「そうしないと、首筋が噛めないだろ?」


肩が触れ合う距離まで、接近。

狙うは首筋。そこが一番気持ちいい筈だ。

吸血鬼の習性なのか、首筋は非常に唆る。

見てるだけで、どうにかなりそうだ。


しかし、それには難点があった。


「首筋は互いには噛めないぞ」

「ああ、そうみたいだな」


試しに噛もうとすると、片方しか噛めない。

仕方ないから、俺は肩口あたりを噛むことに。

レディファーストと洒落込もうじゃないか。


「しばらくしたら、交代な」

「わ、わかった。いくぞ」

「ああ、いつでもどうぞ」


かわゆいボスが、はむっ!と噛みつく。

俺も負けじと、肩口をガブリ。

あ。これ、すごい。さっきより、断然いい。


しばらく、無心で吸い合った。


沈まぬ月のせいで、時間の感覚がない。

数時間かも知れないし、数日かも知れない。

とにかく、そのくらい、没頭していた。


気がつくと、俺は彼女を横抱きにしていた。


「あ、悪い。つい……」

「離すな」

「えっ?」

「吾輩が、上に乗るから……抱きしめろ」

「あ、はい。どうぞ」


非礼を詫びると、更に密着することに。

かわゆいボスが膝の上に乗り、首に手を回す。

俺はおっかなびっくり、背中に手を回す。

身体全体で、ぴったりくっついて、吸血再開。


「もっと、強く吸え」

「あんたも、もっと吸え」


もっと強く、互いの肌に、牙を突き刺す。


「ああ、どうしよう、眷属」

「どうしたんだよ?」

「頭がおかしくなりそうだ」

「気にすんな。俺も同じだ」


吸血して、口を離し、言葉を交わす。

彼女の身体はとても熱くて、気持ちいい。

俺も熱い。燃えそうだ。服を脱ぎたい。


「脱がないのか?」

「ああ、脱がない」

「さっきは自分から脱いだ癖に」


ジト目をするかわゆいボス。それはズルい。


「挑発すんのはやめろ」

「痩せ我慢をするな」

「俺にどうして欲しいんだ?」

「別に……好きにしろ」


この女、本当に処女か? 目つきがヤバすぎ。


「そろそろ、やめとくか?」

「もっと」

「いや、流石にこれ以上は……」

「いいから、黙ってろ」


危機感を覚えて、やめようとするも。

コアラみたいにしがみついて、離れない。

しかも、そのまま押し倒してきた。


2人揃って、棺桶の中に、転げ落ちた。


「いてて……無茶すんなよ」

「吾輩、貴様を気に入ったぞ」


天窓の月光を背景に、かわゆいボスは笑う。

上気した頬。荒い息。完全にトリップしてる。

マウントポジションを取られてしまった。

身を起こそうとすると、組み敷かれた。


「大人しくしろ。吸血を続けるぞ」

「これ完全に、男女逆だよね?」

「つべこべ言うな! さっさと吸えっ!!」

「あ〜れ〜」


この後、めちゃくちゃ、血を吸い合った。

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