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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第二部 【詰むまでの物語】
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第57話 『眷属の証』

「せっかく助けてやったのに、何すんだ!」

「ふん。それとこれとは話が別だ!」


寝起きでグーパンを食らって即死。

もちろん、吸血鬼なので即再生。

復活した俺の不満を意に介さない銀髪吸血鬼。

プイっと顔を背けて、胸を両手で庇っている。


そんな彼女を見て、ふと違和感を覚えた。


「俺が復活しても驚かないんだな」

「同族の吸血鬼なのだから当たり前だろう?」


何言ってんだ、こいつ。みたいな顔をされた。

しかし、俺は吸血鬼だと名乗った覚えはない。

それなのに、どうして正体を見破られたのか。


「なんで吸血鬼だとわかったんだ?」

「何故そんな当たり前のことを聞く?」

「当たり前って……あ、牙が見えたのか?」

「牙など誰でも生えているだろう?」


今度はこちらがポカンとする番だった。


「いや、牙が生えてるのは珍しくないか?」

「何故だ?」

「だって、普通は生えてないだろう?」

「はあ? 何を言ってるんだ、貴様は」


なんか、不審者を見る目で眉を顰められた。

まあ、あながち間違いではない。俺は不審者。

つい先ほど、この世界に来たばかりなのだ。


「悪いけど、この世界のことを教えてくれ」

「何だその言い草は。まるで異世界みたいに」

「その通り。俺は異世界人なんだよ」


そう告白すると、彼女は顎に手をやって黙考。

やがて、なにやらピンと来たらしく。

俺の胸ぐらを掴んで、詰問をしてきた。


「おい! ちょっと聞きたいことがある!!」

「ぐえっ! く、苦しいっての! なんだよ!?」

「貴様は吾輩がうなされていたと言ったな?」

「い、言ったけど、それがどうしたんだ?」

「吾輩はその時、木乃伊だった筈だ!」

「そうだよ! それがなんだってんだよ!?」

「ならば何故、呻き声が聞こえたのだ!?」


木乃伊だったのに、何故聞こえたのか。

当然ながら、木乃伊は喋らない。

それなのに、俺に彼女の声が届いた理由。


そんなことは知らない。

思い当たる節があるとすれば。

たぶん、きっと、あの時の出来事のせいだ。


「俺が、あんたの眷属だからじゃねぇのか?」

「なっ!? け、眷属だと!?」


思いつきを口にすると、何やら慌てた様子。

口をパクパクさせて、酸欠の金魚みたいだ。

胸ぐらを掴む力が緩み、ようやく解放された。


ほっとひと息ついていると、彼女はブツブツ。


「そんな馬鹿な……こいつが、吾輩の眷属?」

「なんか文句あんのか?」

「当たり前だ! こんな下品な奴が……そんな」


青ざめたり、赤くなったり、放心したり。

絶世の美女の百面相をしばらく眺めた。

やがて彼女はキッとこちらを睨みつけて。


「吾輩は認めん! テストをしてやる!!」

「テストって、眷属の?」

「そうだ。吾輩が直々に、確かめてやる」


いきなりテストをすると宣言をしてきた。

そんなに俺が眷属だと認めたくないのか?

ならば、堂々とそれを証明してやろう。


「いいぜ。受けて立とうじゃねぇか」

「随分と自信があるようだな」

「当たり前だ。んで、どうする? 脱ぐか?」


不敵な笑みで、脱衣を提案。

尋ねた時にはもう、脱いでいる。

俺は全裸で、仁王立ち。

それが、プロフェッショナル。


「な、何故脱いだ!? 何を考えている!!」

「眷属の身体を見たいかと思ったんだけど?」

「見たくない! 早くそれをしまえ!!」


ふっ。勝った。勝利の余韻が心地いい。

また勝ってしまった。やれやれだぜ。

全裸のまま愉悦を感じていると、怒られた。


「貴様、もう一度ぶっ殺されたいのか?」

「あ、はい。すみません」

「まったく、真面目にやれ」

「ごめんなさい」


銀髪が怒髪天を衝いたので、平謝り。

とりあえず、体毛で服を作り直す。

本来の腰の低さに戻っておこう。

するとかわゆいボスは銀眼を見張って。


「なんだ、その能力は?」

「これは獣人化のスキルです」

「どうやって手に入れた?」

「スキルの持ち主を吸い殺しました」

「なんだと?」

「ちなみに、記憶球も他人のスキルです」


床に転がる記憶球を指差して、補足。

すると彼女はまじまじとこちらを見つめて。

俺が犯した罪を、言い当てた。


「……つまり、不特定多数の血を吸ったと?」

「ええ、詰まらない話ですが」


淡々と自分の罪を告げると、彼女は憤慨した。


「神聖な吸血行為を何だと思っているんだ!」

「えっ? 吸血って、神聖な行為なんですか?」

「当たり前だ! 何を考えている!?」

「その時は、必死だったもので……すみません」


理由は定かではないけれど、また怒られた。

かわゆいボスは吸血をした俺を責めた。

ストレートに罪を詰ってくれた。

それが新鮮に感じる。俺はやはり、罪深い。


改めて、自分の犯した大罪を認識していると。


「……すまん。少しばかり、言い過ぎた」


意外なことに、謝られた。頭を下げてきた。


「いや、いいって! 頭を上げてくれ!」

「吾輩には……貴様を責める資格はないのだ」

「それは、どういうことだ?」


頭を上げようとしない、かわゆいボス。

その哀しげな表情が、気になって。

尋ねると、彼女は自嘲げに笑い。


「吾輩もまた、アバズレというわけさ」


切ないその告白を、俺なりに解釈して、問う。


「あんた、ヤリマンなのか?」

「ち、違う! そういう意味ではなくてだな!」

「だったら、相手してくれよ。今脱ぐからさ」

「脱ぐなぁーっ!?」


さて、シリアスな雰囲気をぶち壊したところで。


閑話休題。


俺はゲンコツという名のご褒美を貰い、正座。

かわゆいボスは、正面の棺桶の縁に腰掛けて。

苛々した様子で腕を組みながら、テスト開始。


「いいか? これから眷属かどうかテストする」

「なら、脱ぎますか?」

「戯言をほざくな! 黙って精神を集中しろ!」

「はい、わかりました」


軽口を閉じて、目を瞑る。精神を集中。

時折、正面に座る彼女の太ももをチラ見。

すげー美脚。ふくらはぎに、かぶりつきたい。

そんな邪念に、かわゆいボスがぴくりと反応。


「いま何か、不埒なことを考えたか?」

「いえ! 滅相もありません!」

「ふむ。だが、この感覚……まさか、本当に?」


慌てて否定すると、彼女は思案に耽った。

もうテストは始まっているらしい。

俺は出歯亀のアホ面を思い浮かべ、心頭滅却。


明鏡止水の境地に至ると、声が聞こえた。


《こんな下郎が吾輩の眷属の筈はない。だいたい吾輩は処女だ。犯した罪は数知れないが、一線を超えた覚えはない。それなのに眷属など、ありえない。……もし仮に、それが本当だとしたら、こいつが吾輩の……伴侶? あ、ああ、ありえない。絶対、ぜぇーったい! 認めんぞ!!》


「不束者ですが、よろしくお願いします」

「ふぇえええええっ!?!!」


彼女の声に返答すると、驚かれた。

絶世の美女がそんな悲鳴をあげるなんて。

なんともはしたない。半眼を向けると。


「は、はしたなくて悪かったな!?」

「えっ?」

「ふぇっ?」


なんか、会話が成立した。

俺の心の声が、聞こえたらしい。

キョトンとすると、かわゆいボスもキョトン。

お互いに首を傾げて、暫し見つめあった。


そこで俺の悪戯心が発動。

試しに、こんなことを思い浮かべる。

集中して、この思い、君に届けっ!


ち ん ち ん。


「な、何を考えてるんだ、貴様はっ!?」

「ワハハ! どうやら届いたようだな?」

「あっ! 違っ! これは何かの間違いだ!!」


無事にテレパシーは届いたらしい。

どうやら一方通行ではなかったようだ。

こちらの心の声も相手に伝わる模様。


まあ、じゃないと、神との会話は成立しない。


ともあれ、俺はいい気になって攻勢に転じる。


「ワハハハハ! 何をそんなに慌てている?」

「だ、だって、テレパシーなんて……」

「本当に通じたのかどうか、確認をしよう」

「へっ?」


不意を突く、それが鉄則。

そして、何事も確認が大切だ。

さあ、答え合わせの時間だ。


「ほら、言ってみろ。なんて聞こえたんだ?」

「そ、そんなっ!?」

「んん? どうした? 何を照れているんだ?」

「ッ……この、変態め」


顔を赤らめるかわゆいボスに、言い放つ。


「ワハハ! お前も処女の癖にアバズレだろ?」

「しょ、処女で悪いか!?」


かかった。その言葉を、待っていたのだよ。


「やはり、処女なんだな」

「あっ! しまった!?」


馬鹿な銀髪だ。俺は高らかに哄笑を響かせる。


「ワハハ! これでテレパシーが証明されたな」

「くっ! そういう貴様は経験があるのか!?」

「かくいうオレ様も、童貞でね」

「死ねっ!!」

「ぶひぃいいいいっ!?!!」


まあ、最後の台詞が言いたかっただけだ。

もちろん、直後にキツめのご褒美頂きました。

責めて良し、責められて良し。最高の美女だ。


幸せいっぱいで、顔面陥没骨折から、復活。


鼻の座りを直しながら、テスト結果を尋ねる。


「それで、テストの結果は?」

「むぅ……認めたくないが、本当らしい」

「テレパシーは眷属特有の能力なのか?」

「ああ。血を分けた者同士が、通じ合える」

「なら、俺の言ったことが証明されたな」

「しかし、吾輩には作った覚えがないのだ!」


やはり、テレパシーは眷属の証らしい。

これで俺が眷属であると証明された。

しかし、双方に疑問は残った。

とはいえ、かわゆいボスの証言で大体把握。

一応、念を押して尋ねておく。


「実は以前に眷属を作ったりしてないか?」

「絶対に、一線は越えていない!」


処女である彼女のその熱弁に、ふむふむ頷く。


「そうだろうな。そうじゃないと、困るのさ」

「なんだそれは。どういう意味だ?」


現時点で眷属を持たないのは、必然。

何故ならば、それは未来の出来事だから。

ならば、ここは俺にとっての過去。


このかわゆいボスは、俺と出会う前の存在。


「俺が眷属になるのは、先の話だからな」

「……詳しく、身の上を聞かせろ」

「なら、あんたの話も聞かせてくれるか?」

「ふん。吾輩の身の上など、つまらないぞ?」

「そりゃ奇遇だな。こっちも詰まらない話だ」


そうして俺たちは語り合う。

棺桶の縁で、横並びに座りながら。

互いのつまらない、詰まらない身の上話を。

俺は敢えて、記憶は見せなかった。

言葉だけで、上手くぼかしつつ、語った。


この世界は、かわゆいボスの原点だ。


過度な干渉は禁物だ。

帳尻が合うように、慎重に言葉を紡ぐ。

当たり障りのない、長話の中で、ふと気づく。


天窓から見える満月が、一向に沈まない。


「沈まぬ月が、珍しいか?」


不意にそう尋ねられた。

月光に銀髪が反射して、粒子が舞い散る。

幻想的な絶世の美女は、沈まぬ月を見上げて。


「この世界は、吸血鬼の世界だったのだ」


銀髪の吸血鬼は語る。


床に転がる、記憶球を拾いながら。


この異世界の悲惨な結末を。

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