表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第二部 【詰むまでの物語】
48/72

第47話 『食えない奴』

「また怪獣かよ……」

「今度は蜘蛛さんみたいですね」


念力で夜空に浮かびながら、辟易。

出歯亀は呑気に見たままを述べる。

今度の怪獣は蜘蛛。体色は紫で、巨大だ。

蜘蛛さんと呼べる程かわいくはない。


「お前、蜘蛛が好きなのか?」

「いえ! 大嫌いです! 生理的に無理れす!」


気になって尋ねると、大嫌いらしい。

それにしても、生理的に無理、か。

紫色の体色といい、猛毒使いを連想させるな。


そんな感想を抱いていると、案の定。


「うわっ!? なんか紫色の煙を吐きました!」

「やっぱりか! お前は異空間に隠れてろ!!」

「えっ? わ、私、真っ暗はちょっと……あっ」


尻込みする出歯亀を強制的にゲートに収納。

俺は出来る限り広く、物理結界を展開。

人間の村を覆って、毒ガスを遮断。


しかし、手下の蜘蛛が何匹か紛れ込み。


「おのれ糞魔王! 蜘蛛で村を襲うとは!!」

「パパ、つおいでしゅ!」


それらをバサバサと切り捨てる担任教師。

娘の前だからか、張り切ってらっしゃる。

同時に、誤解は悪化の一途を辿っている。


まあ、原因は俺だろうから否定は出来ないが。


「小僧! なんじゃあの蜘蛛は!?」

「マスター、マタ、ウンダノ、デスカ?」

「俺が出産したみたいに言うなよ」


上空から竜王と蝙蝠が飛来。

2匹の怪獣は、目を丸くして驚いている。

童貞の俺が出産したように言われ、心外だ。


「あいつは毒蜘蛛らしいから気をつけろ」

「ふむ。見るからに毒々しい蜘蛛じゃな」

「クモ、キモイ」


毒を持つことを告げると、2匹は苦い顔。

怪獣にも嫌われる怪獣、か。憐れな毒使い。

とりあえず、意思の疎通を図ってみる。


「おい蜘蛛! 俺の言葉がわかるか!?」

「ん? あんたが俺のマスターっすか?」

「ああ、そうだ」

「へぇ〜どうも。俺は蜘蛛っす。毒蜘蛛っす」


なんかめっちゃ軽いな。ヘラヘラしてやがる。

そういや、毒使いって軽薄な奴だったな。

とりあえず、俺は蜘蛛に対して命令する。


「人間を襲うのはやめろ」

「なんで?」

「人殺しはいけないことだからだ」

「やだな〜殺すのが目的じゃないっすよ」

「なら、なんで人を襲う?」

「当然、めちゃくちゃにする為っす!」


駄目だ。価値観が外道過ぎる。相容れない。


「だったら、野放しには出来ないな」

「俺のマスターの癖に、敵対するっすか?」

「悪いが、外道は好きじゃないんだ」


至極まともな返答をしたのだが、2匹が呆れて。


「どの口が言うんじゃ、この男は」

「マスターノホウガ、ヨッポド、ゲドウ」


失敬な。尿意促進魔法は人道的だ。

何せ殺傷力は皆無。それでいて戦意を奪う。

俺がもう誰も殺さないように磨いた秘術だ。


そんなことはともかく、実力行使に移る。


「言うことが聞けないなら、お仕置きだ」

「チビ蜘蛛共は儂らの配下に任せろ!」

「クモハ、キライダケド、タベラレル」


竜王と蝙蝠の配下がチビ蜘蛛に群がる。

ワイバーンとチビ蝙蝠が次々蜘蛛を捕食。

あっという間にこちらの優勢かと思いきや。


「ん? お前らの配下の様子が変だぞ?」


異変に気づいた俺を見て、巨大毒蜘蛛が嘲る。


「あっひゃっひゃ! ばーか! みくびんな!」


不快な高笑いを聞き流し、親分2匹は冷静に。


「ふむ。どうやら蜘蛛の毒に当たったらしい」

「ショクアタリ、デスネ」


蜘蛛を食ったワイバーンとチビ蝙蝠が落下。

蜘蛛の毒にやられたらしい。食えない奴だ。

対応を考えあぐねていると、援軍が到着。


「テクノ君〜また変なの呼び出したの〜?」

「くっくっくっ……困った下僕だ」

「ダルっ子、痛い子! 来てくれたのか!?」


ダルっ子と痛い子が念力ベッドに乗って登場。


「炎使いと雷使いも連れて来たわよ!」

「君は面白そうなイベントばかり起こすね」

「また私と彼氏のデートを邪魔して!」

「お前らまで……助かる!」


眼下に現れたショタコンエルフ。

炎使いと雷使いも伴っている。

人間の村に押し寄せる蜘蛛を殲滅。

彼女らの周囲にダルっ子が物理結界を展開。


ついでに、俺の拙い結界も強化してくれた。


「テクノ君〜派手にやっちゃって〜!」

「我の大嫌いな蜘蛛を蹴散らすがいい!」

「ああ、任せろ!」


てなわけで、ぼちぼち反撃開始といきますか。


「竜王と会長! 蜘蛛共を焼き払ってくれ!!」

「いきなり人任せとは、小僧らしいな」

「了解! 森ごと焼き払っちゃうね!!」


やれやれと首を振る竜王。面目ない。

そして不穏な会長の応答。嫌な予感がする。

慌てて止めようにも、既に遅い。


「バーニング!」

「メテオ・ストライクじゃ!」


青白く、巨大な火球が森林に降りしきる。

ダルっ子が結界を強化したので、被害はない。

しかし、森はメラメラ燃え上がり、地獄絵図。


「あっちっち! なんてことするんすか!?」


逃げ惑う巨大毒蜘蛛。しかし、炎に囲まれた。


「キィイイイイイイイイッ!!!!」

「う、うるさいっすよ〜!?」


そんな彼に、蝙蝠の高周波が炸裂。

前後不覚に陥り、よろめく毒蜘蛛。

この毒蜘蛛もそれなりに強いのだろうが。

こうも四面楚歌では、ひとたまりもない様子。


「そろそろ降参したらどうだ?」

「な、なんで俺を虐めるんすか!?」

「お前が人間を襲うからだろ」

「くそっ! こうなったら!!」


被害者面をする毒蜘蛛に、降伏勧告。

しかし、転生した毒使いは、最後の抵抗。

猛毒ブレスを放ってきた。物理結界が融解。


毒蜘蛛と化して、更に強力になった猛毒。

それは俺の毒耐性すらも、上回り。

結界と同様に俺の吸血鬼の身体も溶け落ちた。


「し、死んだっすか……?」


ジュウジュウと紫色の煙をあげる溶けた俺。

返答がないと知るや、毒蜘蛛は不快に哄笑。

溶けた俺の毒溜まりを、何度も踏みつける。


「ひゃっひゃ! あっけねぇ! 死んでやんの!」

「誰が、死んだって?」

「ひぃっ!? な、なんで生きてるっすか!?」


なんでって、吸血鬼だから、当たり前だ。

致死量の毒は、俺には無意味。復活する。

そんなことをわざわざ説明する義理はない。


「何度も踏みつけやがって……いい度胸だ」

「ま、待って!? 俺が悪かったっすよ!?」

「なら、這い蹲って、土下座しろ」

「ぐっふぇっ!?」


重力魔法により、巨大毒蜘蛛が沈む。

地面にめり込み、ジタバタ暴れる。

俺はそんな奴の背に乗り、再度降伏勧告。


「おら、参ったか? それとも、死ぬか?」

「ま、参りました! だから殺さないで!?」

「じゃあもう抵抗すんな。人化は出来るか?」

「は、はいっ! 出来るっす!」


降伏した毒蜘蛛がみるみる縮む。

そして瘦せぎすな男の姿に。

前世の猛毒使いによく似ている。


「よくやった、小僧」

「これで一丁あがりだね!」


竜王の背に乗った炎使いの会長エルフ。

さっきの共闘で仲良くなったらしい。

そんな2人に、下劣な蜘蛛男が毒唾を吐いた。


「ぺっ! てめぇらのせいで散々だ!!」


それが彼女らに付着する前に、念力発動。

毒唾は方向を変えて、蜘蛛男の顔に飛ぶ。

その汚い唾を擦り付けるように、頭部を踏む。


「手間かけさせんな。まだ抵抗する気か?」

「ほんの挨拶代わりっすよ!?」

「どうやら、まだ懲りないみたいだな」


唾を相手に飛ばす挨拶などあってたまるか。

悪びれない蜘蛛男に、右手を翳す。

そして俺の得意魔法について語って聞かせる。


「便意促進魔法って、知ってるか?」

「な、なんすかその魔法は……?」

「その名の通り、便意を促進させる魔法だ」

「んな阿呆な……」

「味わってみるか? 俺の得意魔法なんだぜ?」

「じょ、冗談っすよね……?」


半信半疑な蜘蛛に、真紅の竜王が、忠告。


「その小僧は本気じゃ。糞魔王じゃからな」

「く、糞魔王……?」


ダラダラ冷や汗を流し始める蜘蛛男。

俺はそんな彼を見下しながら。

口角を釣り上げて、最後通告。


「そうだ。俺は糞魔王だ。さあ、どうする?」

「ほ、本当に便意を司れるっすか……?」

「ああ、ぶち撒けたいか?」


蜘蛛男ガタガタ震えだして、屈服した。


「ご、ごめんっす! 勘弁してください!!」

「じゃあ、もう二度と唾を吐くなよ?」

「わ、わかったっす! 誓うっすよ!!」


誓わせてから、念力で浮かせる。

竜王と蝙蝠を引き連れて、城に帰ろう。

燃え盛る森林は、水使いのドワーフが消火。

この一件で、人間とエルフとドワーフの絆が深まることになるのだが、それはまた別な話だ。


ともかく、世話になったエルフ達に感謝する。


「ありがとう! おかげで助かった!」

「どういたしまして〜」

「くっくっくっ……またいつでも頼るがいい」

「お礼はショタ姿で抱っこがいいわね」

「ボクは暇を潰せて楽しかったよ」


本当に気の良い娘達だ。雷使いは帰ったけど。


「んじゃ、帰るか」

「ハイ、マスター」

「毒蜘蛛の見張りは儂らに任せろ!」


人化した毒蜘蛛を、怪獣2匹が監視。

飛行能力を持たない彼は、そのまま連行され。

世界樹の頂上にて、共に暮らすことに。


「儂は蜘蛛が嫌いじゃからあっちいけ!」

「クエナイ、エサハ、ムカチ」

「あ、あんまりっすよ〜!?」


しかし、彼を取り巻く環境は厳しい。

無価値呼ばわりされ、毛嫌いされる毒蜘蛛。

やむなく彼は城の近くに蜘蛛の巣を形成。

それをハンモックにして、ひとりぼっち。


なんだか気の毒だと思っていたら。

そう言えば、もう1人気の毒な人物がいた。

俺は闇のゲートを開いて、出歯亀を排出。


コロンと城の床に転がる新聞記者。

何故か体育座りの格好。震えている。

訝しんで近寄ると、彼女は号泣していた。


「ご、ごわがっだでずぅぅううああんっ!!」


怖かったと言って、抱きついてくる出歯亀。

真っ暗な異空間で独り泣いていたらしい。

悪いことをしたと思い、しばらくあやした。


やがて、彼女はペンを取り。

今日受けた仕打ちを記事にした。

タイトルは、【完全放置プレイ】。


俺の性的嗜好が、更に歪んで拡散された。


「……あいつ、どうしてっかな?」


新聞の配達も終わり、皆が寝静まってから。

俺はむくりと身を起こして、独りごちる。

あいつとは、ハブられた毒蜘蛛のことである。


皆を起こさないように、城の外に出る。

上空には警備のワイバーンと蝙蝠が飛んでる。

この監視網を潜り抜けることは不可能だろう。


彼は住処の蜘蛛の巣のハンモックで寝ていた。


俺が歩み寄ると人化した毒蜘蛛は薄目を開き。


「なんだ、マスターっすか」

「なんでがっかりしてんだよ」

「人化した竜さんか蝙蝠さんが良かったっす」

「本当に女好きだな、お前は」


出歯亀には興味ないらしい。

あいつは美人じゃないからな。

その気持ちはよくわかる。


「マスターは何者っすか?」

「俺は吸血鬼だよ」

「吸血鬼って、なんすか?」


口で説明より記憶を見せようと、手を伸ばす。


「な、なんすかっ!? いきなり!」

「いや、記憶を見せようとだな……」

「男同士で何するつもりっすか!?」


なんかすげー警戒された。失礼な奴だ。

俺はノンケだ。断じてホモじゃない。

だったら、こうすればいい。女に変身!


「ほら、この姿ならいいだろ?」


イメージしたのは、神の制服姿。

自己評価では一番完成度が高い変身だ。

声や爆乳は忠実だが、髪と瞳は黒のまま。


変貌を遂げた俺を見て蜘蛛男はワナワナ震え。


「お、お、お……!」

「お?」

「女の子っすー!?」

「どわっ!? 何すんだ! やめろっ!!」

「ぐべっ!?」


なんか飛びついてきた。慌てて振り払う。

そして重力魔法を発動。這い蹲らせる。

肩で息を吐きながら、説教を開始。


「お前は姿形が女なら誰でもいいのか!?」

「すんません……つい、腹が減って」

「ん? なんだお前、腹が減ってんのか?」


ハンモックに垂れ下がり、項垂れる蜘蛛男。

そんな彼がなんとも惨めで、額に手を触れる。

記憶を見せながら、魔力を吸わせてやる。


「な、なんすかこの映像と魔力は!?」

「映像は俺の前世の記憶だ。魔力も俺の物だ」

「へぇ〜前世で知り合いだったんすね〜。マスターの魔力めっちゃ美味いっす! あざっす!」


なんとも軽いノリだ。こちらまで気が抜ける。

そのまましばらく、額に手を当ててやった。

彼は前世の自分の最期が納得いかないらしく。


「なんで俺ってば、モテないんすかね〜」

「それはお前が人格破綻者だからだろう」

「酷いっす! 俺は自分に素直なだけっすよ!」

「だから、そういうところがだな……」

「隙ありっす!」

「ふぇっ?」


油断した。蜘蛛男は俺の一瞬の隙をついた。

呆然として、自らの身体を見下ろす。

すると、彼の手が、俺の胸を鷲掴んでおり。


「や、やめろ馬鹿!!」

「ぶっはっ!?」


まるで女みたいに焦って、張り手。

蜘蛛男は吹っ飛んでハンモックを揺らす。

朦朧としている彼を、女の素足で踏みつける。


「やっぱり便をぶち撒けたいのか?」

「そ、それだけはご勘弁を……」


脅しつつも、収まらない動悸。顔が熱い。

触られた。こんな下衆野郎に。俺の胸を。

ま、まだ、大泥棒にだって触らせてないのに!


ゲシゲシ踏みながら、違和感を覚える。

何なんだこの感覚は。女の気持ちなのか?

女に変身すると、気持ちまで変わるのか?


とにかく、この毒蜘蛛男は、許せない。


「馬鹿な真似しやがって! この糞野郎!」

「だ、だって……!」

「あん? 何か言い訳があんのか?」

「マスターが、綺麗だったもんで……つい」

「ッ!?」


なんだこいつ。そして何なんだ、俺は。

こんな外道に褒められたくらいで、なんで。

なんで、こんなに、息が詰まるのだろう。


そういやスライム姫も言ってたな。

毒使いには、手を焼いている、と。

本当に食えない奴だ。手に負えん。

それでも見捨てる訳にはいかない。

嫌われ者の辛さはよくわかるから。


同族嫌悪を感じながら、ふと気づく。

これが駄目な男の魅力なのかも知れない。

もちろん、こんな下衆野郎には惹かれないが。


だけど、まあ、褒められて悪い気はしないし。


「もう寝ろ。便をぶち撒けたくなけりゃな」

「わ、わかったっす! おやすみっす!」


素直に、大人しく目を瞑る毒蜘蛛男。

女体化した俺は、彼の腹を枕がわりにして。

魔力を分け与えつつ、ぼんやりと夜空を見る。


ゆらゆらと靡くオーロラを眺めながら。

自分で自分に、言い訳をしておく。

これは大泥棒に会った時の為の予行演習だと。


翌日。


そのまま眠ってしまった俺に、悲劇が。

下衆野郎の毒蜘蛛男が寝ぼけて胸を揉んでた。

それを出歯亀に目撃されて、大惨事に発展。


その日、号外が出ることとなりその見出しは。


【速報! 糞魔王、両刀使いと発覚!!】


声を大にして言いたい。俺はノンケであると。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ