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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第二部 【詰むまでの物語】
44/72

第43話 『怪獣再来』

「やほ〜テクノ君」

「くっくっくっ……邪魔するぞ」

「お邪魔しまーす」


異世界に来て1カ月。

新月を経て、蒼い月が再び満月となった。

その晩も、いつもの3人組が来訪。

痛い子と、ダルっ子と、ショタコンである。


俺は玄関の扉を開けて、迎え入れる。


「ああ、お疲れ。ほら、お前も出迎えろよ」

「こ、こんばんはでふ!」


最近やっとまともに挨拶出来るようになった、出歯亀エルフ。無論、俺の背に隠れているが。

室内に入る前に、ショタコンが獲物を出す。


「うおっ!? なんだこの魔獣は!?」

「ワイバーンよ。かなりの大物だったわ」


どでかい羽根つきトカゲ。ワイバーンらしい。

毒々しい緑色だけど、食えんのか、これは。

念力で浮上させて眺めてるいると忠告された。


「それ、尻尾に毒があるから気をつけて」

「俺は毒耐性があるから平気だけど……ふむ」


ワイバーンの毒がどれほどか、試してみよう。


「おい、出歯亀。ちょっと手を出せ」

「へっ? なんでれすか?」

「ちょっとチクッとしてみようと思って」

「い、嫌ですよ!? 死んじゃいますよ!?」


なんてコントを演じていると、3人組が。


「ラブラブだね〜」

「くっくっくっ……いいなぁ」

「見せつけないでよ、腹立つわね」


そんな身に覚えのないやっかみは御免被るね。

ひとまず、彼女達をリビングに通して。

俺はワイバーンを外で捌く。血まで緑色だ。


巨体の癖に肉はさほど付いておらず。

食えそうな尻尾は毒付きで調理不可。

それでも胸肉のササミは絶品だったらしく。


「おいしい〜」

「ふははっ! 我は満足だ!」

「油っぽくなくてダイエットに良さげね」


三者三様に舌鼓を打つ。ちなみに、出歯亀は。


「み、皆で食べると、なんでも美味しいでふ」


などと健気な発言。泣かせるじゃねぇか。

とはいえ、俺の涙腺は乾ききっており。

寂しい出歯亀に口直しのフルーツを突っ込む。


「あ、テクノ君、私にもちょーだい」

「下僕、我も果物を所望だ!」

「わ、私には、ショタ姿であーんって……」


そんなリクエストに応えつつ、食事を終えた。


「でも、今日はびっくりだったね〜」

「そうだな。翼竜が我が領域に現れるとは」

「珍しいわよね。ワイバーンが里の近くにいるなんて。好物の獲物でもいたのかしら?」


食後のお茶を啜りながら、雑談する3人。

ワイバーンが現れるのは珍しいらしい。

それがなんとなく気になって、尋ねてみる。


「ワイバーンは普段現れないのか?」

「ワイバーンはね〜普段、世界樹のてっぺんにいるんだよ〜。なかなか降りて来ないんだ〜」

「降りれば我らに狩られるからな」

「そうそう。だから、不思議なのよね」


世界樹のてっぺんに生息しているらしい。

なかなか降りてこないのはエルフの存在ゆえ。

わざわざ狩られにくるのが、不思議とのこと。


俺も疑問を感じて、首を傾げていると。


「そう言えば、あれも不思議だよね〜」

「ああ、デカい蝙蝠のことか。最近多いな」

「あんなの今までいたかしら?」


デカい蝙蝠だと?

思わず出歯亀エルフを見る。

千里眼持ちの彼女に、真偽を視線で問う。


「確かに、最近いっぱいいましたけど……」

「なんでもっと早く言わないんだ!?」

「ひっ! だって、つい最近のことでして……」


堪らず怒鳴ると、出歯亀はびくっとした。

恐らく、様子見をしていたのだろう。

その存在に気づけなかったのは、同じく千里眼スキルを持つ俺の落ち度だ。油断していた。


デカい蝙蝠が現れたならば、近いうちに。


そう考えを巡らせた、その時。


ズンッ!と、覚えのある地鳴りが、轟いた。


「くそっ! マジかよ!?」

「あ、どこ行くですか!?」


慌てて外に出て、念力で浮上。

すると、巨大な蒼い月を背景に。

山のような巨体の、シルエットが。


「テクノ君〜どうしたの〜?」

「ふははっ! 我を置いて行くなど100年早い」

「何あれ!? さっきの地鳴りって、あいつ?」

「ふぁ〜! でっかい蝙蝠れすね〜!」


愕然とする俺の傍に、見慣れたベッドが接近。

それに乗った4人のエルフ達が、目を見開く。

彼女達の目に映るのは、余りに大きな、蝙蝠。


それは、俺の前の世界を滅茶苦茶にした存在。


「なんてこった……どうしよう」


まさかこの世界にも現れるとは思わなんだ。

いや、この異世界の方が怪物には相応しいか。

頭を抱えていると、ダルっ子が指をさす。


「あそこって、人間の村の方だよ〜!」

「それは本当か!?」

「うん! ドワーフの里と、丁度中間だから〜」


エルフの里とドワーフの里の中間地点。

そこには人間の村が存在していた。

この世界の人間はエルフとドワーフのハーフ。


エルフほどの魔力と魔法適正を持たず。

ドワーフほどの身体能力を持たない弱者。

それが、この世界の、人間だった。


そんな弱い存在は、あの怪獣に対処できない。


「俺、ちょっと行ってくる!」

「私にもいくよ〜」

「ふははっ! 我も加勢するぞ!!」

「私は援軍を連れてくるから先行ってて!」


念力飛行で怪獣の元へと急ぐ。

痛い子とダルっ子はついてきた。

ショタコンは援軍を呼びに、転移。


「わ、私も、ご一緒するれす!」


そして何故か出歯亀エルフもついてきた。


「お前は戦えないんだから帰れ!」

「だ、だって、心配で……」

「いいから、今すぐ転移ゲートで戻れ!」

「み、見てるだけは、嫌なんれすよぉ!?」


必死の説得も効果なし。随分と頑なな出歯亀。

しかし、問答している暇はない。

被害が出てからでは、遅いのだ。

俺は諦めて、同行を許可した。


「勝手にしろ!」

「はい! 勝手にするれす!」


すぐに怪獣の上空へと辿り着く。

眼下には人間の村が見て取れて。

怪獣の配下の蝙蝠共に、襲撃されていた。


俺は怪獣に怒鳴り散らして、命令する。


「おい! やめろ! 人を殺すな!!」

「ン? モシヤ、アナタガマスターデスカ?」

「ああ、そうだ! 今すぐやめさせろ!!」

「シカシ、ワガハイカハ、チノウガヒクク……」

「くそっ! ちゃんと躾とけよ!!」


知能が低いらしいデカい蝙蝠の軍勢。

好き勝手に人間の村を荒らしていた。

幸いにも、まだ死者は出ていないようだ。


ダルっ子と痛い子が、蝙蝠の群れに対処する。


「結界展開〜密閉完了〜」

「ふははっ! 散れ! 虫けら共が!!」


ダルっ子が住民を結界内に避難。

痛い子が念力にて蝙蝠をはたき落とす。

しかし、多勢に無勢。上空は蝙蝠だらけだ。

俺が加勢しようとした、その間際。


「援軍を連れて来たわよ!」

「おやおや、これは心踊る光景だね」

「せっかくの彼氏とのデートだったのに!」


ショタコンが援軍を連れて虚空より現れた。

連れて来たのは生徒会長と、雷使い。心強い。

痛い子が飛ばすベッドに着地して、攻撃開始。


「ボクがまとめて丸焼きにしてあげる!」

「私と彼氏とのひと時を奪った罪は重いわ!」


夜空に渦巻く炎の竜巻と、稲妻。

さながら、火山雷の如く、破壊を撒き散らす。

結界を展開してなかったら、村ごと消し炭だ。


改めてこの2人の強さを目の当たりにしてると。


「俺の娘には手を出させん!」

「パパかっこいいでしゅ〜!」


残った蝙蝠をバサバサと切り捨てる剣豪。

その手には黄金の刀が握られており。

背に娘を庇いながら大立ち回りを演じている。


その人間の親子は間違いなく、転生者。

担任教師と、ヒヒイロカネの幼女である。

この2人も転生していたらしい。よかった。


蝙蝠の群れの数は、だいぶ減った。

これなら、ひとまず大丈夫そうだ。

そう判断しつ、俺は怪獣に対して命じる。


「とりあえず、人気のない場所まで移動しろ」

「ハイ。カシコマリマシタ、マスター」


怪獣は従順に、夜空へと舞い上がる。

それを先導しながら、別れを告げる。

世話になったエルフ達に向けて謝罪と感謝を。


「迷惑かけてすまん! 今までありがとう!」

「テクノ君、どこいくの〜?」

「下僕の癖に、勝手なことを言うな!」


心配げな表情を浮かべる、痛い子とダルっ子。


「ボク、その怪獣と戦ってみたいな〜」

「彼氏待ってるから、私もう帰っていい?」

「うへへ……人間のショタがいっぱいいる」


緊迫感とは無縁な、援軍2人と、ショタコン。


「わ、私も、一緒に連れてってくらはい!」


そして、同居人の寂しがり屋な、出歯亀。

彼女に対しては、思うところがあって。

俺は出歯亀の元へと近づいて、贈り物を渡す。


「お前には世話になった。これを受け取れ」

「へっ? これは、なんれすか?」

「プレゼントだよ。開けてみろ」


促すと、恐る恐る包みを開いて、驚く出歯亀。


「あ、新しい眼鏡です!」

「気に入ったか?」

「はい! でも、なんで……?」


贈り物は、新しい眼鏡。気に入った様子。

デザインは俺が前の世界で使っていた黒縁だ。

地味だが、地味な彼女にはよく似合っている。


理由を尋ねられたので、ぶっきら棒に答える。


「その眼鏡は俺とダルっ子の共同制作品だ」

「吸血鬼さんと、結界使いさんの……?」

「そうだ。だから、より結界が強めてある」

「結界が強くなってるですか?」

「ああ。それをかければ、嫌な物は見えない」


それは、彼女の悩みを解決するアイテム。

あの夜、境遇を聞いてからダルっ子と作った。

強力な物理結界をレンズに使用している。

規格外な千里眼でも一般人並みの視力となる。


居候させて貰った、せめてもの礼。


寂しい新聞記者を、孤独から救う眼鏡だ。


しかし、それを受け取っても彼女は寂しげに。


「吸血鬼さんがいないと、寂しいです」


キラキラした瞳から、涙が溢れ落ちる。

だけど、それを拭うことは、できない。

化け物と一緒にいれば、迷惑をかけてしまう。


だから俺は、踵を返して。


クールに無言で立ち去る。


……立ち去ろうと、したのだが。


「お腹の子供は、どうするつもりれすか!?」


俺の背に、出歯亀エルフのとんでも発言が。


「はあ!? こ、子供!? 誰の!?」

「吸血鬼さんの子供れすよ!!」

「俺の!? な、なんで!?」

「一緒に寝て、胸を揉んだかられす!!」


あーなるほど。そんな夜も、あったな。


いや、待ってくれ。そんな、馬鹿な。


いやいや。いやいやいや! なんだそりゃ!?

あれ? エルフって、もしかして、そうなの?

そんな設定あったっけ? いや、ないよね!?


青ざめて、動転していると、外野から。


「テクノ君、責任取りなよ〜」

「くっくっくっ……最低」

「子供が産まれたらショタが増えるわね!」

「とうとう一線を超えてしまったのかい?」

「ねえ、私も帰って子作りしたいんだけど」


冷ややかな視線を浴びせられて、混乱状態。

一線ってなんだ? 俺は超えちまったのか?

いや、子作りって言ったぞ。それはしてない。


とりあえず、冷や汗を流して、弁明する。


「いや、子作りなんてしてないから! ただ一緒に寝て、胸揉んだだけだから! 童貞だからっ!!」


すると彼女たちは一層冷ややかな視線となり。


「テクノ君って、もしかしてホモなの〜?」

「くっくっくっ……不潔」

「ショタ姿ならホモでも認めるわ!」

「同居して何もしないなんてチキンかな?」

「ちょっとやだ。彼氏に手を出さないでよ?」


こらこら、揃いも揃って好き勝手言いなさる。

俺は確かにチキン野郎だけど、ホモじゃない。

大泥棒のおっさんは素敵だけど、ノーマルだ。


しかし、その反応で、安心した。

どうやら一線は超えていないようだ。

いや、考えてみれば当たり前か。

一緒に寝て、胸揉んだ程度で妊娠などしない。


騒動の引き金を引いた出歯亀に抗議をしよう。


「どうして妊娠したなんて嘘ついたんだ?」

「だ、だって、引き留めたくて……」

「だからって、びっくりするだろ。焦ったぞ」


冷や汗を拭って、嗜めると、彼女は唸って。


「うぅ〜……だったら妊娠させてください!」

「ぶっふぉっ!? げっふぉっ!?」


むせた。何を言ってるんだろうね、こいつは。


「な、何言ってんだよ、お前は」

「妊娠すれば、そばにいてくれるでしょう?」

「そういう問題じゃないっての!」

「じゃあ、どういう問題ですか!?」

「そ、それはその、気持ちの問題っていうか」


何言ってんだ、俺は。追い詰められた末に。


「気持ちって、なんですか!?」

「だから、好きか嫌いかってことだよ!」


状況は最終局面へ。それを尋ねると、即断。


「好きじゃないです! 何言ってるですか!?」

「おうふ……お、お前こそ何言ってんの……?」


予想外の返答で、深刻なダメージを受ける。

だって、この流れだよ? 期待するよ、そりゃ。

たとえ相手が出歯亀でも好きって言われたい。

ところが好きじゃないと。もうね、死にたい。


どんよりした気持ちになっていると、大声で。


「好きじゃなくても、そばにいたいれす!!」


その意味は、相変わらず、さっぱりだ。

けれど、出歯亀エルフの本気は伝わり。

俺は頭を搔きむしってから、折れた。


「わかったよ。んじゃあ、一緒に来い」

「不束者ですがよろしくお願いしまっしゅ!」


ポンッとベッドから飛び降りた出歯亀。

それをお姫様抱っこにて、キャッチ。

全くもって不本意ながら、連れていく。


本当に何なんだろうね、この女は。

しがみついてくる出歯亀に、げんなりしつつ。

改めて、皆に別れを告げる。


「じゃあ、そゆことで」

「気をつけてね〜テクノ君」

「くっくっくっ……お幸せに」

「子供が産まれたら見せなさいよ〜」

「また勝負を挑むから、待っててね」

「それじゃ、私も帰るわね」


あっさりとした別れを終え、飛び去る。

腕に出歯亀エルフを抱きかかえ。

そして背後にどでかい蝙蝠を引き連れて。


さあ、どこに行こうか?


「どっか人気のない場所はあるか?」

「世界樹のてっぺんでふ!」

「よし、とりあえずそこ行くか。ついてこい」

「オオセノママニ、マスター」


こうして糞魔王一行は。


人気のない場所を求めて。


世界樹の頂上を、目指したのだった。

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