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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第一部 【詰まらない物語】
34/72

第33話 『決着』 後編

「どうだ? これでわかっただろう?」


あの後、数十分の攻防で数百回程、死んだ。


神は、俺よりも灼熱の炎を纏い。

俺よりも鋭い手刀を振るい。

俺よりも自在に水を操り。

俺よりも大きな転移ゲートを展開して。

俺よりも硬質なヒヒイロカネの爪を持ち。

俺よりも俊敏な獣人の肉体を駆使して。

俺よりも高感度な千里眼で見据え。

俺よりも強力な念力を発揮して。

俺よりも強固な結界を張り。

俺よりも強大な重力を見せつけ。

俺よりも鮮烈な雷撃を放ち。

俺よりも巧みに泥棒スキルを使いこなし。

俺よりも猛毒な毒を吐き散らした挙句。

俺よりも流暢な異世界語を披露して。

俺よりもスライムの特性を理解していた。


これまで俺が獲得した数々のスキル。

その全てを神は凌駕していた。圧倒的に。

それで、悟る。所詮、付け焼き刃だったと。


これまで『積み』上げて来たスキルが。

『積み』木を崩すように、崩壊した。

神の足元に這い蹲り、『詰み』を自覚する。


しかし、そう簡単に、詰んでたまるか。

俺には諦められない理由がある。犠牲者だ。

これまで殺してきた、数々の異能者。

ここで詰めば、それらが全て無駄になる。


人殺しには、死ぬまで、責任がつきまとう。


だから、最後の最期まで、諦めない。

死ぬまで諦めずに、泥臭く、機会を伺う。

ヒントは神自身がくれた。偉そうに講釈した。


この世界には、大気中の魔素が少ないと。

だから、魔法は体内の魔力を使用すると。

魔素や魔力の知識は持ちえないが、わかる。

それはきっと、魔法の源だ。それならば。


「お前より強力な魔法を使用しているオレ様の方が、先に体内中の魔力が枯渇するってか?」

「ッ!?」


思考を読まれた。神は俺の策を一笑に付した。


その余裕の笑みに、動揺が隠し切れない。

しかし、焦るな。考えを読まれても構わない。

状況が覆るわけじゃない。魔力は有限の筈。

ならば、間違いなく神の魔力不足が訪れる。


そう信じていた俺の目論見を、神は嘲笑って。


「残念ながら、オレ様の魔力は無限だ」

「なん……だと……?」


凶悪な笑みと共に、絶望を告げた。

魔力が無限だと? またチート能力か?

何でもありにも程があるだろ。そんな馬鹿な。


混乱する俺を見下して、神は頭上を指差す。


「吸血鬼の魔力の源は、あれだ」

「そんな……ま、まさか……!」

「そう、月だ。月明かりが、魔力の供給源だ」


校庭全体を覆い隠す、分厚い暗雲。

神の頭上だけぽっかり穴が空いており。

そこから、恵の月明かりが、降り注ぐ。


「光合成みたいなもんだな。理解したか?」


なるほど、光合成か。わかりやすい。

植物における日光のように。

吸血鬼は月光から養分を得るのか。

しかし、理解出来ない。したくない。


月明かりが照らすのは、神のみ。

俺はその恩恵に預かれない。

持久戦に勝機を見出していたが、下策だった。


下策の下には、もう駄策しかない。


「ん? なんだ、まだやるつもりか?」

「……当たり前だ」

「はあ……いいか、ひよっこ。最後の選択だ」


地べたから、神を睨み付ける。

俺の不屈の殺意に、呆れた溜息を漏らし。

その場にしゃがんで、神は選択肢を示す。


「今ここで死ねば、楽になれるぜ?」

「あ?」

「慈悲深いオレ様が、お前を殺してやろう」


ふざけた提案。無論、答えは決まっている。


「寝言は俺に殺されてから言えよ。クソ野郎」

「馬鹿野郎が……なら、かかってきやがれ」


神が屈伸するように立ち上がる。胸が揺れる。

俺もふらつきながら、よろよろ起き上がる。

月明かりの恩恵がない為、魔力不足らしい。


「ちなみに、魔力が枯渇するとどうなる?」

「カラカラの木乃伊になるな。仮死状態だ」

「そりゃ、おっかないな」


木乃伊か。それは勘弁して欲しい。

仮死状態らしいが、あまりに無力だ。

そのまま地面にでも埋められたら、終わりだ。

そうなる前に、ケリをつけよう。


「これで最後だ。くたばれ、神」

「へっ。やってみろよ、ひよっこ」


隆起した地面の頂きで、睨み合う。

俺は先手を打った。水魔法と炎魔法のコンボ。

濃霧を発生させて、視界を奪う。


「目くらましか……だが、俺の直感を舐めんな」


背後から首筋を狙い、飛びかかる。

だが、神は直感でそれを察知して、迎撃。

裏拳で体勢を崩してからの、回し蹴り。

俺の脇腹に美脚が食い込み、弾け飛ぶ。

まるで水風船のように。スライムの、分身が。


「なっ!? 分身だと!?」


すぐに見破られたが、もう遅い。

小さくなった俺の本体が、がら空きの背後へ。

直感で振り向く神の、腕を狙い、手刀を一閃。


「ぐあっ!?」

「これで指輪は使えないな!」


腕ごと切り離された神の指輪。これが狙い。


「ちぃっ! くだらねぇ小細工しやがって!」


慌てて転移魔法で腕を回収する神。一瞬の隙。


「それはどう見ても悪手だろ! 神っ!!」

「さて、それはどうかな?」

「なっ!?」


首筋に喰らいついた瞬間、神が弾けた。

粘性の強い、液体と個体の中間。スライムだ。

しかし、指輪を付けていた。それなのに。


「当然、囮に決まってんだろ、馬鹿が」

「がはっ!?」


背後から現れた小さい神に組み敷かれる。

わざと指輪を分身に付けてたのか。やられた。

慌てて正面を向くが、上に乗られてしまった。

小さい俺の両腕を、小さい神が両腕で抑える。


側から見れば、幼児の喧嘩に見えるだろう。

しかし、その目は、互いに殺意に燃えていて。

見た目に見合わぬ、罵詈雑言を喚き散らす。


「ざまあねぇな、これが奥の手か?」

「だったらなんだよ、チビ」

「うっせぇ。てめぇだってチビすけだろうが」

「俺を舐めんなよ?」

「はっ! てめぇのようなザコが、粋がんな」


互いに息を荒げ、歯をくいしばる。最後通帳。


「いいか? これが最後だ、神」

「あん? てめぇの最期だろ?」

「お前の最期だ。黙って聞け」

「なんだ? 遺言か? 草。聞いてやんよ」

「最期に、姉ちゃんを殺したことを、謝れ」


知れず、涙が溢れる。神に謝罪を要求。

謝って欲しかった。悔やんで欲しかった。

それで許しても良かった。神を殺したくない。


こいつはクソ野郎だけど。

小さい頃から知っていて。

姉ちゃんとの思い出も、共有している。


「一言謝れば……許してやるっ!!」


だから、謝らせて、許したかった。けれど。


「散々人を殺しておいて、何言ってやがる」


神も泣いていた。泣きながら、俺を断罪した。


「甘ったれんなっ! 腹ァくくれっ!!」

「う、うわあああああああああっ!!!!」


神に叱責され、猛毒ブレスを放つ。

最後の一撃。

もちろん、神もより強力な猛毒を放つ。


「どうした!? この程度かっ!!

「ぐっ……がはっ!?」


俺のブレスを浴びても、神は健在。

しかし、俺は致死量を、浴びた。

吐血して、酩酊。

自律神経がやられ、鼓動停止。


神より弱い俺は、死んだ。それこそが、駄策。


「殺してくれて、ありがとよ」

「なっ!? しまった! 身体がっ!?」

「お前俺よりも、強かった。それが、敗因だ」


復活した俺と、中途半端に麻痺した神。

俺より強かった故に、弱い俺に倒される。

皮肉なものだ。ぐったりした神を抱き留める。


「俺はもう、迷わない」

「……ふん。精々、味わいな」


ガブリと神の首筋に噛みつき、吸血する。

かわゆいボスと同じ姿の神の血液を、味わう。

しかし不思議なことに、比べ物にならない程。


神の血は、酷く鉄臭く、非常に、不味かった。


「あ? なんだよ……泣いてんのか?」


余りの不味さに、涙が出ただけだ。


「まったく……先が思いやられるぜ」


余計なお世話だ。


「ま、お前ならきっと、大丈夫さ」


血を吸われながら、神は俺を励ました。

これから死ぬ側が、こちらの心配をしている。

それが不可解でふと思い至る。そういえば。


結局、姉ちゃんと神はどんな関係だったんだ?

気になって、記憶を盗み見ようと手を伸ばす。

するとそれを見透かして神は釘を刺してきた。

ご丁寧に、脳内に直接響く、神の声。


《覗きは犯罪だぜ?》


ギクリと、嫌な思い出がよぎる。階段の一件。

あの生徒会長とのやり取り。悪夢の記憶。

それに大泥棒も記憶の覗きを毛嫌いしていた。


《具体的に言えば、1年以下の懲役、又は100万円以下の罰金に処される。立派な犯罪だ》


具体的に言われると、気持ちが萎えた。

懲役とか罰金とか、殺人犯には今更だけど。

嫌がる人から記憶を盗み見るのは気がひける。


道徳的観点からもよくないしな、うん。

緊急時のみに使おう。止むに止まれぬ時だけ。

痛い子やダルっ子の時のような事態限定だ。

それを心に誓う。もちろん、千里眼も同様だ。


能力の使い方次第であの猛毒使いのような人格破綻者になってしまう。鋼の倫理観を持とう。


《ほんとに小心者だな。すぐビビりやがる》


うるさい。俺は下衆になりたくないだけだ。


《そのポリシーは、大事にしておけ》


言われなくても、わかってるさ。


《ならいいさ。それで、何か質問はあるか?》


何故姉ちゃんを殺した? どんな関係なんだ?


《なんでも人に聞くなよ。自分で考えろ》


なんだよ。質問を促したのはそっちだろうが。


《甘えたお前の根性を叩き直す為だ》


要するに、俺を揶揄ってんだな? そうだな?


《最期くらい、許せ。もうすぐ死ぬからよ》


死ぬのは、怖いか?


《いや、ほっとした。感謝してるよ》


感謝? どういう意味だ?


《それも自分で考えろ。そのうちわかるさ》


そのうちって、いつだよ?


《さあ? 千年後か1万年後くらいじゃないか?》


随分と時間がかかるんだな。気が遠くなるよ。


《だから、オレ様に殺されりゃ良かったんだ》


そう簡単に、死ねるかよ。俺は人殺しだぜ?


《そうだったな。精々、悔やむこった》


ああ、そのつもりだ。だけど、後悔はしない。


《そうなることを、祈ってるよ》


神が祈るとか、縁起でもないな。


《うるせぇ、祈らせろ。おっ……そろそろだな》


死ぬのか?


《ああ、死ぬ。悪いが、何も遺してやれねぇ》


あの指輪は置いてけよ。便利そうだ。


《それは無理だ。だから必死に回収したのさ》


どんだけ意地悪なんだよ、お前は。


《代わりに莫大な魔力を……いや、何でもない》


魔力? 使いこないのに、どうしろってんだよ。


《悪いな。ありがた迷惑だろうが、我慢しろ》


本当に、勝手な奴だよ、お前は。


《勝手ついでに最期にひとつ、お願いがある》


なんだ? なんでも言え。必ず、叶えてやる。


《姉ちゃんを……ポンコツ、を……頼んだ、ぞ》


それだけ言い遺して、神は砂となった。

同時に、暗雲が晴れて、月光が校庭を照らす。

あまりに呆気ない最期。呆然として、佇む。

不意に後ろを振り向く。左右に視線を向ける。


誰もいない。何も聞こえない。静かだ。


「……神? なあ、本当に……死んだのか?」


夜中の校庭に、独り言が虚しく響く。

無論、返答はない。神は死んだのだ。

いくらでも俺を吸い殺す機会はあったのに。

俺を残し、俺に殺された。俺が吸い殺した。


ドロップアイテムすらない。ケチな奴だ。


だから実感も何もない。空虚な感覚。

魔力がどうこう言ってたが、わからない。

俺には魔法なんて、ちんぷんかんぷんだ。

ただ、返事はないし、とても静かだ。痛い程。


その静寂が、孤独が、神の死を、示している。


「そうか……死んだのか」


じわりと、実感する。死んだ。殺した。

ついに、神を殺した。姉ちゃんの仇を打った。

その結果、何も残らなかった。遺らなかった。


「これから……どうしたらいい?」


胸にぽっかりと、穴が空いた気分。

目標を成し遂げ、復讐を果たした末に。

俺は、独りぼっちになった。孤独になった。


孤独な吸血鬼は、人知れず、校庭で涙を流す。


「ぐすっ……てか、この校庭……どうすんだよ」


隆起したまま、元に戻らない地面。


神の奴め、片付けないで死にやがった。


なす術なく、途方に暮れて、また泣いた。

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