↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第一部 【詰まらない物語】
25/72

第24話 『世紀の大泥棒』

「ただいま〜……やっぱ、誰も居ないか」


朝方ぶりの虚しい帰宅の挨拶を投げかける。

今回は白い世界に転移はしない。我が家だ。

時刻は真夜中。真っ暗で物音ひとつしない。

後ろ手に扉を閉めて、施錠。廊下を直進。


台所の電気を点ける。当然、誰もいない。

いつも軽快なリズムで包丁を鳴らし、コトコトグツグツ煮立った味噌汁の火加減を調整しながら料理を入れる皿を並べる姉ちゃんはいない。


当たり前だ。姉ちゃんは、死んだのだ。


暫し呆然として、冷蔵庫の扉を開けてみる。

そこに姉ちゃんがキンキンになって隠れているのではないかと馬鹿な期待をする俺だったのだが、いかに阿呆らしくともやってみるものだ。


そこには、ラップをした夕食が入っていた。


バイト前に作ったのだろうか。ナポリタンだ。

お子様な舌を持つ俺の大好物のひとつ。

皿の上にメモが乗せてある。姉ちゃんの字だ。


『帰りが遅くなったら、先に食べてて』


先にって、姉ちゃんは飯食わないだろ。

もっとも仮に先に帰宅していても待ってたさ。

作ってくれた姉ちゃんに美味しいと言う為に。


しかし、もう、どれだけ待とうが、帰らない。

姉ちゃんは、死んだのだ。殺されてしまった。

それを実感して涙が出た。すっかり泣き虫だ。


「……頂きます」


冷蔵庫から取り出して、冷たいまま頬張る。

姉ちゃんの味だ。もう二度と食べれない味。

ちゃんと温め直してしっかり味わうべきだろうとは思うが、俺は急かされるように早食い。


「んまい……美味いよ、姉ちゃん」


ボロボロ泣きながら、鼻水を垂らして。

ナポリタンを完食。久しぶりの食事だった。

だが、それで胃が満たされることはない。

その事実が、自分が人間ではない証明であり。


それでも飯を味わえる類の化け物で良かった。

姉ちゃんの味をこうして舌に刻めて良かった。

レシピなんざないが、この味は生涯忘れない。


誰もいない家の台所で、1人で暫く泣き続けた。


散々泣いて、ふらふらリビングへ向かう。

ソファにどっかり腰を下ろして、放心状態。

緩慢な動作で、テレビを点ける。意味はない。


深夜のニュースが流れるが、興味はない。

転移魔法を発動して、紙切れを取り出す。

あの新聞記者の遺品だ。書きかけの手配書。


そこに、昨夜からの俺の行動が記されている。


学校の図書室で一夜を過ごし、1人で退室。

生徒会長が行方不明。死亡と推察。

校内で鉢合わせた担任教師を殺害。

昇降口を出たところで同級生男子を殺害。

帰宅直後、捕獲。捕獲した同級生女子を殺害。

路地裏で担任教師の娘を殺害。

喫茶店に来店して店主の猫娘を殺害。

同級生女子の2人組と交戦の末、逃亡。


一連の殺害人数は、計6名。

それと、ダンジョンのかわゆいボスも殺した。

これを俺1人でやったなんて、信じられない。

狂気の沙汰だ。現在の懸賞金額は、80億円。


金額が多過ぎて現実味がない。誰が払うんだ?


だけど、現実だ。増えたスキルが証拠だ。

吸血鬼から始まり、炎使い、剣使い、水使い、空間魔法使い、ヒヒイロカネ化、獣人化。

これだけのスキルを獲得した。奪い取った。


どうだろう? だいぶ、強くなったと思う。

しかし、まだまだ神には敵わないだろう。

現状、同級生女子の2人組にすら勝てないのだ。


あの2人に勝つには、どうしたらいいのか。

和解は望み薄だろう。俺は2人に恨まれている。

人殺しは重罪である。必ず誰かに恨まれる。

だから、いずれ責任を取らなくてはならない。


けれど、今は仇である神を殺すのが最優先。


その為に、あの2人のスキルが必要だ。

念力使いと、結界使い。強力なスキルである。

今のままでは、彼女達から奪うのは不可能。


ゆえに、2人に有効な新しいスキルが必要だ。

サイコキネシスについては、接近すればいい。

しかし、結界に阻まれる。ニンニクもある。


求めるのは、まず結界を突破できるスキル。

サイコキネシスに有効なスキルも欲しい。

そして苦手なニンニクを克服できるスキル。


一石三鳥とはいくまい。

複数の異能力者を狩る。

しかし、そう都合良く見つかるだろうか?


と、思ったら、テレビから気になる情報が。


『世紀の大泥棒が、またも現われました』


世紀の大泥棒。たまに世間を賑わせている。

俺が産まれる前から窃盗を繰り返し、逃走中。

一度も逮捕されたことはない、凄腕の泥棒。

今回は美術館から貴重な絵画を盗んだらしい。


彼の手配書が画面にアップで映される。

大胆に晒した泥棒の素顔は、中年男性。

不敵な笑みと、派手な緑色の頭髪が特徴。

懸賞金額は、10億円。俺の8分の1である。

しかし、リアルな数字だ。警察も動いている。


俺の犯した殺人に警察が動くかは疑問だ。

怪しい手配書が出回っているだけだしな。

表の世界と裏の世界の明暗が感じられる。


俺は裏の化け物。彼は表の人間。

表の世界の人間の方が、知名度は高いだろう。

しかし、彼は本当に、ただの人間なのか?


裏の世界の化け物になってみてよくわかった。

この世界には、異能力者が複数存在している。

もしかすると、この大泥棒も、異能力者かも。


数十年も窃盗を繰り返して捕まらない異常性。

テレビに映る緑髮の中年男性を睨みながら、腕を組んで思案に耽る。彼のスキルは、有効だ。


「おう、坊主。何を難しい顔してんだ?」

「いや、このおっさんが異能力者か疑ってた」

「そら間違いないだろうぜ。泥棒のスキルだ」

「なんでんなこと断言出来んだよ、おっさん」

「何故かって? 今この家に忍び込んだからだ」


は? 待て待て。俺は今、一体誰と話している?


ぎょっとして、ソファの隣を見ると。

そこに中年のおっさんが座っていた。

髮の色は緑色。不敵な笑みを浮かべている。


思わずテレビを二度見、三度見。

間違いない、本人だ。世紀の大泥棒である。

彼は洒落たグレーのジャケット姿。

派手な黄色いネクタイを締めている。

おもむろに懐からタバコとデュポンを取り出して、キンッと独特な金属音を響かせ、着火。


美味そうに紫煙を吐き出して、一言。


「吸っていいか?」


いや、もう吸ってんじゃん。呆気に取られる。


「何だ坊主。とても80億の首には見えないな」

「いや、その、いつ、どこから……?」

「今さっき、そこの窓から上がってきたが?」


リビングの窓を指差す。当然、施錠している。

窓を割ったような形跡もない。どうやって?

目をパチクリしていると、彼は鼻を鳴らして。


「どうやら俺のスキルが気になるようだな」

「え、ええ、気になります」

「んな畏るなよ。単純な話さ」


タバコを咥えて、彼は窓へと歩み寄る。


「俺は障害物を通り抜けることが出来る」


窓に伸ばした腕がすり抜ける。壁抜けの魔法。

確かに単純明解。まさに泥棒には打ってつけ。

そして、その理屈が通るならば。俺は尋ねる。


「その能力は、結界などにも有効ですか?」

「ああ、もちろんだ。そこに壁があるならな」


嘯いて、再び隣に腰を下ろす。長い足を組む。

ていうか、土足じゃん。靴くらい脱いでよ。

視線で咎めるが、泥棒はどこ吹く風。

紫煙で輪っかを作って、くつろいだ様子。


どうする? いまなら殺れるか?

油断している隙に、ガブッといくか?

そわそわと、逡巡していると、嗤われて。


「わかりやすいな。俺の能力が欲しいのか?」

「……ええ、喉から手が出る程」

「俺から何かを盗ろうなんて奴は、初めてだ」


腹を抱えて笑う泥棒。固茹で卵が好きそうだ。

反面俺は、困り果てていた。どうするべきか。

彼に敵対して勝てるのか。判断がつかない。


「慎重なのはいいことだ。だがな、坊主」

「へっ? なんですか?」

「時には大胆になるべき場合もあるんだぜ」


一瞬の気の緩み。彼の人差し指が額に触れる。


「殺る気になりゃ、簡単に俺を殺せたのによ」


不敵に笑う泥棒の顔が、歪む。眠気が襲う。

朦朧としながら、必死に睡魔に抗って。

怪しい呂律で、いくつかの質問を、絞り出す。


「あ、あなたは、一体……?」

「俺は泥棒だ。当然、盗みに来た」

「な、何を……?」

「気の乗らない物を、な。悪いが、仕事でね」


もう限界だ。酷く眠い。瞼がゆっくり落ちる。


「目が覚めた時には、すっきりしてるさ」


その言葉通り。


翌朝、俺はすっきりと、目覚めた。


事件にまつわる、全ての記憶を、失って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。