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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第一部 【詰まらない物語】
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第13話 『責務と勝機』

「攻撃が単調過ぎて欠伸が出るね」


身体能力に任せた連打を繰り出すが、ちっとも当たらない。掠るような気配すらない。

生徒会長は欠伸をしながらひょいひょい躱す。


「次にどこに手が伸びるか丸わかりだよ」


完全に見切られて、炎の剣が一閃。


「ッ……ぐぎやぁあああああっ!?」


上腕の中ほどに激痛を感じて、絶叫。

見ると、スッパリと切断されていた。

ボタリと腕が床に転がり、膝をつく。


だ、大丈夫だ。平気な筈だ。

だって、俺は吸血鬼になったんだ。

きっとすぐに回復してくれる筈だ。


激しい痛みで涙目になりつつも、回復を待つ。

しかし、待てども待てども、腕は治らない。

おかしいと思って、改めて切断面を見ると、炎の剣によって完全に炭化していた。


もしかしたら吸血鬼は火に弱いのか?


「おやおや? もう終わりかな? それじゃあ、今度はこっちから攻撃するよ」


愕然とする俺の目の前に、生徒会長の燃える拳が迫る。みっともなく尻餅をついて、回避。

すると会長はまるで空手割りをするかのように俺の頭頂部を目掛けて炎の拳を振り下ろした。


「ひぃいいいいいっ!?!!」


這々の体で這いずり回り、なんとか避けた。

ズンッと図書室が揺れて、周囲の焼け残った本棚から大量の本が雪崩落ちてくる。甘かった。


駄目だこりゃ。全然相手にならない。


もしかしたら良い勝負が出来るかも、なんて思い上がっていた時期もありました。無理です。

だって攻撃が当たらないんだもの。困った。


ハンズアップして白旗を揚げたいのは山々だけど、それで見逃してくれるとは思えない。

彼女にとってこの試合は神との戦いの前哨戦。

生徒会長は何を目的に戦いを挑むのだろうか。


ここは時間稼ぎも兼ねて真意を尋ねてみよう。


「ひ、1つだけ教えてくれ」

「んー? なんだい?」

「どうして神を倒したいんだ?」


生徒会長は目を丸くして、腹を抱えて笑った。


「な、何がおかしいんだよ?」

「いや、だって、馬鹿馬鹿しすぎてさ」

「なんだと?」


あまりの言い草にむっとする俺に会長は諭す。


「いいかい? この世界はゲームなんだよ」

「ゲーム……だと?」

「そう。ボクが元いた世界とは全く異なる世界で不思議な力を授かり、ラスボスを倒す。それがボクの主観であり、価値観さ。わかった?」


めちゃくちゃだ。だが、よくわかった。


「なるほどな。要するに、お前はゲーム感覚で姉ちゃんを八つ裂きにしたんだな? 」

「うん、そうだよ。ラスボス前の中ボス……にしては弱かったな。ま、君よりは強かったけど」

「ふざけやがって」


白旗を揚げるのは、やめだ。

才能ゼロの俺にとってこの世界に対して対して思い入れがあるわけではない。糞ゲーだった。

だけど、姉ちゃんが居たから悪くなかった。

中の上くらいの、良ゲーだと思えたんだ。


そんなかけがえのない姉ちゃんを遊び感覚で八つ裂きにしたこいつは、生かしちゃおけない。

どうやってぶっ飛ばすかは残念なことに全く思いつかないが、それはひとまず置いておく。


とりあえず、がむしゃらにぶつかるだけだ。


こちらの雰囲気が変わった事に会長は気づき。


「さて、そろそろ無駄話は終わりにしようか」

「ああ。だが、俺は遊び感覚で殺れるほどやわじゃないぜ? 来るなら本気で来いよ」

「どの口が言うのさ、雑魚が」


一瞬で距離を詰めて、サッカーボールキックを見舞ってくる。それを仰け反って避ける。

会長のしなやかな美脚が上方に伸び切った。

ここだ。この一瞬の隙。これを待っていた。


俺はすばやくその場に伏せて、視線を上げる。

天高く伸びだ会長の足の付け根に注目する。

勝機の見出せない俺は、とりあえずかねてよりの疑問を解消しようと目論んだ。懸案事項。


それは、会長のアンダーヘアの確認である。


この状況下で何考えてんだと思われるかも知れないが、気になって仕方ない。この煩悩によって生じた雑念が、勝敗を分けることになってしまっては目も当てられないと思った次第です。


それに、アンダーヘアを確認する際に、当然他の何かも見えてしまうわけで、ともすればそれこそが俺の望みなのかも知れない。


自分自身、何が望みなのかわからない状況の中で、もがき、喘ぎ、そしてノーパンスカートの奥地をこの目にして初めて、何かを成し遂げられたような達成感、そして充実感を得られると信じたい。それこそが、ロマンであると思う。


なんて、壮大な言い訳で論点を逸らしてみたが、詰まるところ(とはいえ、つまらない下ネタなのだが)男子高校生たるこの俺が、ノーパン美少女のI字バランスを目前にしたのだから、それを目に焼き付ける事は責務だということだ。


おお、見える! 見えるぞ! やっほーい!


吸血鬼化の賜物として、薄暗いこの図書室内で更に影となっているスカートの奥地が、そんじょそこらの暗視ゴーグルなんかよりもよほど強化された俺の両眼にくっきりはっきりと映る。


気になるその奥地に、意外な物が垣間見えた。


「なっ!? ば、絆創膏……だと?」

「ッ!?」


思わず口に出てしまった。

スカートの奥地に貼られた絆創膏。

惜しいような、余計に嬉しいような。


そんな俺の万感の呟きに、会長は赤面して。


「変態っ!!」

「ぶぎっ!?」


上げた脚をそのまま振り下ろしてきた。

綺麗に決まったかかと落とし。

不幸中の幸いで、炎は纏っていなかった。

よほど慌てていたのだろう。愛いやつだ。


とはいえ、その威力は凄まじく。

俺の脳天は陥没し、耳やら鼻からは脳みそが溢れ出し、舌を噛み千切って、目玉が飛び出た。

ぶら下がった目玉が焦点の合わない映像を送り、まもなく途切れた。しかしながら聴覚は健在であり、会長の洗い吐息を聞きながら、耳は死ぬ直前まで残るってのは本当なのだな、と感心していると、聞きたくない声が届いた。


「……最低」


その冷たくて悲しげな呟きを漏らしたのは、紛れもなく姉ちゃんであり、薄れゆく意識の中で猛省して、深い深い後悔に沈んだ。THE END.


《何やってんだ。ほら、第2ラウンドだぜ?》


呆れながらも、楽しげに笑う神の声で、覚醒。

聴覚が戻り、視覚が戻ってきた。

垂れ下がった眼球が眼窩へと戻り。

はみ出た脳みそが頭蓋内に戻った圧力で、陥没した頭頂部が押し上げられる。完全に再生。


「ふぅ……いや〜死ぬかと思った」


首をコキコキ鳴らし、状態を確認。

問題なさそうだ。流石は吸血鬼だな。

そして、会長に勝つ手段も閃いた。

責務に押しつぶされた果てに見えた光。

姉ちゃんに冷たくされた甲斐があった。

にやりと嗤い、強そうなオーラを醸し出す。


目の前の生徒会長が驚愕の表情を浮かべた。


「な、なんだい? その再生力は……?」

「さあ? それよりも、会長」


質問には答えず、不敵な笑みを浮かべておく。

そんな俺に、会長は怪訝そうな顔で。


「な、なにかな……?」

「会長の絆創膏を是非剥がしたいんだけど」

「死ねっ! この、ど変態っ!!」

「ぶへっ!?」


こちらの挑発に乗り、張り手を振るう会長。

蹴りと同様にその威力は凄まじく、捻れた首が宙に舞う。けれど、今回も焦ったらしく、炎を纏っていなかった。ようやく、勝機が訪れた。


回転しながら首だけで宙に舞い、落下する。

取り乱した会長の、無防備な首すじ目掛けて。

吸血鬼となった俺の最大の武器を突き立てる。


「あぐっ!? そ、そんな、まさかっ!?」


深々と牙が食い込み、吸血を開始する。

ようやく、会長が俺の正体に気づく。

だが、遅い。既に勝負は終わっている。


俺の、勝ちだ。


「やめっ!? ああっ!? た、助けてっ!?」


どれだけ暴れようとも。

そして命乞いをしようとも。

この牙を離すつもりはない。


「頂きます」


さあ、少し遅めのディナーを頂こう。

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