第12話 『根拠不明な太鼓判』
「やあ、おかえり。待ちくたびれちゃったよ」
吸血鬼化した後、神がパチンと指を鳴らすと、学校の図書室に瞬間移動した。便利な力だ。
出迎えたのは生徒会長。すっかり日が暮れて、月明かりに照らされた図書室の中央で、何かに座って待っていた。姉ちゃんの姿が見えない。
「姉ちゃんはどこだ?」
俺が聞くと、会長はくすくす嗤って。
「ほら、ボクのお尻の下だよ」
言われて、気づく。変わり果てた、姉ちゃん。
辺りには無造作に手足が転がっていて。
胴体だけの姉ちゃんが、うつ伏せで会長の尻に敷かれていた。余りのことに、節句する。
そんな、嘘だ。
間に合わなかった。
信じられない。信じたくない。
姉ちゃんが……死んだなんて。
「おい、ポンコツ。生きてるか?」
神が呼びかける。
しかし、それは無意味に思えた。
だって、こんな有様で生きてるわけがない。
絶望する俺の耳に。
「うっ……ぐっ……!」
聞こえる筈のない、声が聞こえた。
「は、はい……ご主人様。……なんとか」
掠れたその声は、姉ちゃんのものであり。
「いや〜噂には聞いてたけど、頑丈だね。さすがはワールド・オーナーのお人形さんだ」
やれやれと呆れたように会長がため息を吐く。
生きていた。姉ちゃんは、まだ生きている。
それがわかった瞬間俺は動いた。風より速く。
「姉ちゃんから、離れろぉおおおっ!!」
吸血鬼化によって引き上げられた身体能力を発揮して、瞬時に距離を詰め、拳を振るう。
それをひらりと躱して、会長は後ろに下がる。
「んん? どこかで修行でもしてきたのかな? 見違えたよ。次の相手は、彼ってことかい?」
「ああ。こいつが、お前を倒す」
「なにそれ、本気? ウケるんだけど」
おどける会長に、神が答える。
すると、生徒会長は腹を抱えて笑って。
次の瞬間には、表情を一変させた。
「戯れもいい加減にしなよ、ワールド・オーナー。あまりボクを舐めて貰っちゃ困る」
怒気を露わにボブカットが燃えあがる。
そんな激おこな会長には構わず、俺は胴体だけとなった姉ちゃんを抱き起して、声をかけた。
「姉ちゃん、姉ちゃん! 大丈夫か!?」
「みっともないとこ見せて、ごめん」
「こっちこそ、待たせてごめん」
自嘲気味に口の端を上げる姉ちゃんに、思わず涙が溢れそうになる。容態を確認すると、驚いたことに出血はほとんどなかった。四肢の切断面からは血の代わりに白い液体が流れている。
そしてその断面には機械のような物も見えた。
会長は姉ちゃんを『お人形』と呼んだ。
それを踏まえて察するに、どうやら姉ちゃんは人間ではないらしい。サイボーグっぽい。
しかし、それはこの際どうでもいい。
いま俺がするべきことは、ただひとつ。
「俺が、会長を倒す……!」
燃える生徒会長を睨みつける。
会長とて、無傷ではない。
戦闘の余波で、制服がボロボロである。
ノーブラのほどよい下乳や、ノーパンのスカートの際どいスリットなどが見て取れた。
その不埒な視線に気づいた会長が、嘲笑う。
「はっ。君ごときに、ボクは負けないよ?」
陽炎が揺らぎ、熱量が増す。熱い。焼ける。
チリチリと髪が焦げる匂いがして、途端に不安になった。あれに本当に勝てるのだろうか?
そんなチキンな胸中を見透かした姉ちゃんが。
「大丈夫。あなたなら、勝てる」
根拠不明な太鼓判を押された。
是非とも裏打ちをして貰いたいもんだ。
すると姉ちゃんは、こう付け加えた。
「ご主人様の言うことは、絶対だから」
更に勝算が曖昧なものとなった。
あの神が勝てると言うなら、勝てる……か。
まあ、なんだかんだ言っても神様だしな。
その予言には、間違いはないのだろう。
たまに、嘘をつくけどな。
「んじゃ、姉ちゃんは休んでてくれ」
「ん。頑張って」
優しく姉ちゃんの胴体をその場に横たえて、立ち上がる。燃え盛る生徒会長と、対峙する。
大丈夫。もう今までの俺じゃないんだ。
モブを卒業した自分の力を、信じよう。
「姉ちゃんを傷つけたお前は許さねぇっ!!」
「ふん。かかって来なよ、シスコンっ!!」
吸血鬼となった俺のデビュー戦が火蓋を切る。




