30.護衛
夢かとそう一時はもう会えないと諦めていた青年。
その姿に私は何もいえなくなる。
ただ胸に自分でも何かよく分からない感情が溢れ、涙が溢れてくる。
「お、おい?」
そしてその私の様子に流石の青年も一瞬動揺を漏らす。
けれども直ぐに私の様子がおかしいことがわかったのか何も言わずにただ頭に手を置いてくれた。
私は青年の不器用な頭の上に置いた手の動きから優しさを感じて、そしてようやく微笑むことができた。
「きさまぁ!誰に手を出したと思っている!」
「っ!」
だが、その幸せな時間はてっきり意識を失っていたと思っていた王子の叫び声によって中断された。
王子は何処かで頭をぶつけたのか、額から血を流し服もほこりまみれになっていた。
けれども私を襲うのを邪魔された怒り、または殴られたということに関する苛立ちからか、その目は怒りに燃えていた。
そしてその王子の様子を見て喜びで止まっていた私の頭がようやく働き始める。
どうして檻の中に囚われていたはずの青年が立ち歩いているのか。
どうしてこんな場所に別の部屋にいるはずの青年がいるのか。
そんな思考が頭を一瞬で巡り、そしてこのままでは青年は王子に不敬罪として殺されるということに私はたどり着く。
もし青年がかなりの身分であったとしてもそれでも檻の中に入れらるような重罪人であれば、王子の一言であっさりと死罪にされてしまう。
だから私は何とか自分が王子を抑えている間に青年に王宮を去って貰おうと、青年に向かって口を開きかけて、
「逃げ……」
「ないよ」
「っ!」
だが私の言葉はあっさりと青年に拒否された。
そしてそのこと私は絶句する。
自分でも情けない顔になってしまっているだろう。
青年が何故逃げようとしないのかは分からない。
だけど幾ら青年であれ、単身で王族に刃向かうことなどできるはずない、そう私は青年に告げようとするり。
「もう、全部準備してここにきた。逃げる必要なんてない」
「えっ?」
だが、私が何かいう前に青年はそんな私の心の中を全て分かったように頷いて、そして絶対に逃げない意思を告げながら私の頭を軽くぽんぽんと叩いた。
そう告げた時の青年の顔は自信に満ち溢れていた。
だけど、それでも私は青年を止めなければならないと思う。
そう頭の中の一番冷静で臆病な部分が青年を生かしたいならば何としてでも彼を止めろ、と叫んでいるのがわかる。
「あれ?」
だけど、その言葉が私の口から出ることはなかった。
何故なのかは分からない。
けれども青年に軽く叩かれた場所から青年は大丈夫だという根拠ない自信が溢れ出してきて、いつの間にか私はその根拠のない自信に口を閉ざされていた。
ー あの父でさえ単身ではこの国と刃向かうことはできない。
私の頭にそう口を閉ざしたことを責めるような声が響く。
けれども私には動こうとするそんな気が起こることはなかった。
ーーー 目の前の青年に、何故か父よりも大きな存在感を感じて。
「ようやく暴走をやめたか……」
そして動かなくなった私を見て青年はそう満足そうに頷いた。
「巫山戯るな!こちらを向けと言っているだろうが!」
それから私の耳には入っていなかったが先程からずっと喚き続けてきた王子へと振り向いた。
王子はずっと無視されていたことに苛立ちを溜めていたのか、ようやく振り向いた青年を睨む。
「ひっ!」
だが青年が一足分前に踏み出しただけで情けない悲鳴をあげ後ろに下がる。
「お前など護衛に……」
そして自分でも下がってしまったことに罰が悪くなったのか、青年に向かって再度噛みつき始める。
「ぶべっ!」
だがその言葉は途中で中断されることとなった。
王子が言葉を言い切るのを待つことなく、青年が王子の腹部を蹴り上げたのだ。
「なぁ、そんなに護衛って強いのか?」
そして青年は急所を蹴り上げられ、鼻水と涙を流しながら喘ぐ王子に笑いかける。
「だったら今すぐ泣きついてこいよ」
それから王子を再度扉の方向へと蹴り上げた。
蹴り上げられた王子は扉を壊しながら外へと放り出され、血を流しながら顔を上げる。
だが次の瞬間勝利を確信したように笑い、
ーーー そして意識を失って倒れている護衛達の姿を見て顔を恐怖に引攣らせた。
「あぁぁぁぁあ!」




