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私達はギリムさんの家に戻り、みんなで朝食を取りつつ、男二人は賑やかに近況を話し合った。私は大人しく聞き役にまわった。第三者の前でうっかりなことは言えない。
一息ついた食後、ギリムさんによって新鮮なオレンジジュースが私の前に置かれ、香り高いコーヒーは男性二人の前に置かれた。私もコーヒーが良かったと言い出せず、香りだけを精一杯堪能した。ギリムさんは未だ私を子供だと思っている節がある。
「僕のコーヒーと交換する?」
「いいんですか?ありがとうございます!」
ピリカさんはそっとこちらへコーヒーを滑らせてくれた。なんて気の利くおひとだろう。
「ピリカ!子供にコーヒーは良くないだろう?」
「え?でもこの子、そんなに子供じゃないよね?」
ピリカさんがこちらを伺いつつ言った。ギリムさんは驚いた後、忘れてたって顔をしていた。ギリムさんがそんなんで、私はどんなリアクションを取れば良いのですか?
「僕、色んな人を視てきたから、なんとなくわかるんだよね。」
「そういや前にそんなこと言っていたな。ますます神懸ってきたなって言ったわ、俺。」
「キリキリちゃん、いやキリキリさん、かな? 僕は教会で身上調査みたいなことをやっていてね。人となりを調査したりしているんだ。」
「まあ、内部調査が主だろ?今は人事移動の処理も終わったし、急ぎの仕事はない頃だよな。」
「ギリム君たら人を暇人のように言わないでよね!仕事が人より早く終わるだけ。僕はまあまあ優秀だよ!」
「なるほど!ピリカさんって優秀なんですねー。」
ホワンとした雰囲気のピリカさんだが、早く仕事をこなせる優秀な人らしい。打算を持ってちょっと大げさに褒めておく。優秀なピリカさんなら、私を呼んだヤツに合わせてもらえるかもしれない。褒め倒してお願いを聞いてもらえないだろうか?
「あの、ピリカさん教会の能力しゃ・・・」
「キリキリさんが記憶障害を持つなら、残った記憶がないか調べてあげるよ。」
褒められて気を良くしたピリカさんは私の言葉に被せて言った。いえいえ、記憶は消えていないんです、こちらの常識がないだけなんですぅ、とは言えないしどうしよう。能力者を紹介してもらいたかったのに、違う方向に親切心が働いた。
こんな時にギリムさんはコーヒーをもう一杯入れにいっている。ピリカさんジュースで良いって言ったじゃんか。使用人の血が騒ぐのか。
このままではピリカさんには無駄な調査をさせることになりそうだ。調査費なんて一文無しの私は出せない。お断りしなくては!と口を開けようとしたその時。
「では僕の目を見て下さい。」
「へ?」
思わずアフロの奥にあるメガネ越しの緑の眼を見た。濃い緑色の瞳は朝日を受けて金色に光り、それは瞬間にトロリと溶け、金と緑が渦を巻いた。
◇◇◇
俺がコーヒーを片手に戻ってきたら、ピリカは表情を無くして立っていた。ダイニングテーブルでコーヒーを飲んでいたはずのキリキリはソファーに倒れ込んでいた。
「おい!ピリカ!! どうした?」
友人の肩を持って揺すれば目の焦点がゆるりと戻った。たった数分で何が起きたんだ。
「ね、あの人。・・・・・・何処からきたの?」
「はあ?今は関係ないだろ?なんでキリキリは倒れてんだよ!」
「記憶を覗いたら、波長が合わなくて。だいじょぶ。すぐ、目を覚ますと思う。
でも、僕も、疲れた・・・・・・・。」
「記憶を、覗いた・・・・・・おい、何が見えた!」
「たぶん、言っても信じてもらえない。」
ピリカが言った。それは昨日、キリキリから言われたセリフと同じだった。
こことは違う世界・異世界。
おとぎ話だ。
だが、キリキリのおかしな態度を説明する理由として、一番しっくりきた。ピリカは彼女の記憶を覗いて、欠けた記憶があれば引き出してあげようと思ったらしい。ピリカの能力は教会内でも強いほうだと言う。貴族じゃないから、出世の見込めない平職員だが。そのピリカが間違うはずはない。
ことが後先になったが、記憶を見ることは俺が頼もうと思っていたことだ。
ピリカは見たことのない世界が見えたと言った。
古臭い街並みに旧式の船や設備、灰色の道や壁に囲まれて緑がない。昼も夜も、息が詰まりそうなぐらい光と音に溢れている世界。どこにも世界樹を感じられない世界。
「こいつさ、ピリカと同じこと言ってた。言っても信じてもらえないって。」
ソファで寝ているキリキリの前髪を整えながら言った。まだ小さな子供のように見えるのに、近くで見れば大人のように見えなくもない。
「そうだね。僕だって覗いたから信じられたけど、この人はこの世界の人じゃないんだよ。
おかしいと思ったんだ。波長がすごく合わせ辛くてさ。異世界人だからだったんだ。
だからキリキリさんにも負担が多くかかったんだ。
ねえ、怒んないでよ?大丈夫だって!すぐに目を覚ますって。」
いつの間にか睨んでいたようだ。ピリカが怯えて涙目になっていた。だがそれは男がしても気持ち悪いだけだ。
「・・・・・・こいつ、教会の能力者に呼び出されたのかもしれない。」
「え?うち?っと、どうして?」
「他言無用で頼むからな。」
「やっぱり聞かないでおこう。僕、帰る。」
「ここまで来たら一蓮托生だろ!」
ピリカのシャツを掴み、もう一度椅子に座り直させた。
「キリキリは聖貴人だ。それもお前ら教会に無理やり連れて来られたそうだ。」
「いや!聞きたくなかった!!」
僕の職場、後ろ暗そうなところはいくつもあったけどさ、見てみない振りをしたら優良企業じゃん。生まれてから死ぬまでサポート致しますって世界樹信仰も厚くてさー・・・
ピリカがアフロを振りつつブツブツ言い始めたがもちろん聞いてやらない。こうなったらこちらの要件を飲ますだけだ。こいつは昔から話が長い。聞くだけ無駄無駄。
「ピリカ。異世界から人を連れてくる能力者が居たら教えろ。こいつを帰してやりたい。」
「でも本物の聖貴人でしょ?ギリム君が連れてるってことはホーン家のでしょう?今更だけど大丈夫?」
「こいつ、立場が悪くてさ。旦那様は信心深くない上に、婚約者のキュリールサマに首ったけでさ。聖貴人は要らないってほったらかしにされてるんだよ。その上、最近こいつを消そうとした動きが活発になってきたからさ。連れて来た。」
「ヒィッ。聞かなきゃよかった!!」
「可哀想だろ?小さな女の子が親元から無理やり連れて来られるなんてさ。なのに邪魔だって殺されそうになってるんだぜ。」
「キリキリさんは小さくないけどね。ギリム君って本当に年下の女の子に弱いよね。そんな怖い顔してお人好しだもんね。キュリールさんと旦那様の仲だって協力してあげたんでしょ?」
「姪っ子に頼まれてる気分になっちゃってさ。もちろん、キュリールサマもご主人様と幸せになって欲しいしな。」
「自分の幸せはいつ来るのさ?」
「ピリカもな?」
二人ともダメージを受けて嫌な顔をしていたら、キリキリが苦しそうな声を上げた。目を覚ましたらしい。
「頭がぐるぐるする。」
「記憶を覗いたからね。しばらくしたら落ち着くよ。炭酸水でも飲む?
ギリム君、ミント載せて出してあげてよ。」
指図すんな!と言いつつ、俺はキッチンに向かった。
◇◇◇
目が覚めたらヒドイ眩暈がして辛かったが、良いことがあった。
ギリムさんとピリカさんが全面的に私が異世界から連れて来られたと信じてくれていた。
なぜ突然信じてくれたのか聞けば、記憶を覗いたからだと言われた。しかしそれが私の体質に合わなくて寝込んだらしい。眩暈もすぐに治ると言われた。
プライバシーの侵害甚だしいが、言葉で言っても伝わらなかっただろうし、結果オーライなのか。ピリカさんは能力者なのだという。しかし異世界から私を連れてきた能力者じゃないから、元の世界へ返してあげることはできないと言われた。
「キリキリさんの世界は世界樹がないんだね。」
「私が知らないだけで地球のどこかに生えていたかもしれないけど。」
「いや、世界樹はいたるところに根を張って世界を見守っているんだ。わからないはずがない。
例えばこの家の木だって世界樹と混じり合っているんだよ。」
「混じる?」
「そう、世界樹は多種多様に混じり、いたるところで存在を感じ取れる。もちろん僕たち自身も。」
「植物と人間が?じゃあ、私は・・・・・・」
「君は世界樹が混じっていない唯一のヒトだね。そんなことありえないから誰も気が付かなかったみたいだね。」
「本当だ。そう言われたらキリキリは違うな。こんなに簡単に、俺たちと違う世界の人間だとわかったのか。」
ギリムさんとピリカさんは私のうなじに手をかざして納得していた。世界樹同士で感応するらしい。首筋がぞわっとなったけど、それで調べているの?何度も止めて下さい、それもう遊んでるよね?
ギリムさんが面白がって何度も手をかざしてくる。私が小さく震える様が小動物のようで面白いらしい。
「ほらギリム君、キリキリさんで遊ばない。可哀想でしょ。」
ピリカさんが呆れて止めてくれた。今日初めて会ったピリカさんの方が私をわかってくれているのかもしれない。良い人だ。
「ところでギリム君。ホーン家がどうなっているかわかる?聖貴人が居なくなったら大騒ぎになるだろう?」
「ああ、さっきビーンズに確認が来てた。お嬢様を最後にどこで見たかって。居なくなったとは言われてない。ちょっとした確認事項だとさ。」
「どうするのさ。すぐに本格的な調査も始まる。僕のところに依頼が来たら誤魔化しづらいんだけど。」
そう言えばピリカさんは調査のお仕事をしているっていっていた。私は出て行ったほうが喜ばれるかもと勝手に思っていた。やはり遠くの町に今からでも連れて行ってもらうべきか。
「この時点で行方不明扱いしないってことは予想通りだ。この先も調査依頼はないだろうな。」
ギリムさんはニヤリと片頬を上げて笑った。
「ギリムさん、なにか違法な事した?」
「ギリム君、犯罪まがいなことしたの?」
自信満々で言った言葉に、私達から否定的な反応を貰ってギリムさんは心外だというように眉間にしわを寄せた。
「お嬢様は裏庭から使用人通路を通って船置き場から脱出したんだ。使用人からシカトされ状態のお嬢様が行ける訳ないルートだ。」
使用人通路の一部は、ビーンズで使用人コードを登録していない人は見えない道らしい。だから私を裏庭に独りで居ても逃げられないと放置されていたのか。半年かかっても使用人出口が見つからない訳だ。ギリムさんが一緒にいたから道が見えたとのこと。どんなテクノロジーなんだ。
「俺は最後に裏庭で見たって言っただけ。後で捜索に駆り出されたら、この世に絶望したお嬢様が、野獣のはびこる草原へ出てしまったんじゃないかって言っておくさ。勝手に勘違いしてくれりゃラッキーだろ?」
ギリムは、複数の者が命を狙っている状況で失踪したら、お互いに誰かが消したと勘違いしてくれるだろう、と言うセリフは飲み込んだ。キリキリが相当危うい状況だったと怯えさせる必要もないだろう。
「私、そんな危険な草原へは自由に出ることはできたんだ。良かった、ゴミ捨て場付近でうろちょろしてるだけで。」
「初めに、三日かかっても領地から出られないから出るなって注意しておいただろう?」
ギリムさんの優しさは分かりづらい。
読んでいただきありがとうございました。
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