兄妹以上、家族未満。5
好きだ、と言われたのは初めてではない。
告白されたこともある。
そういうときは「ありがとう」と言いながら、やんわりと断りを入れる。
もちろん遊びとわりきっている相手とはそれなりに楽しんだりもしたが。
本気で告白してくる相手には申し訳ないが、その気持ちがぼくには理解できなかった。
だから告白されても動揺したことなどなかった。
これまでは。
修子はまるで日常会話でもするかのように、さらりと告白した。
空耳かと思ったのだが沈黙後のあわてぶりを見ると、間違えではなかったようだ。
「家族としての好き、だから」と何度も言い訳する顔は朱に染まっている。
何度もそれを連呼されると無償に腹が立つのはなぜなんやろか。
黙ったままでいると修子はついに下を向いてしまった。
なんや、かわええな。
それを自覚した瞬間。
言葉にしても、しょうもない思いに囚われる。
理性ではなく本能で動く手は、うつ向く修子の頬にのびていた。
あたしは必死で考えていた。
観覧車は頂上を通り過ぎ下降に入る。
なにか言わなくては、と思うのだがなにも浮かばず。
気まずくて顔を上げられない。
あたしは自分の靴の爪先をじっと見ていた。
ふとあたしの頬をなにかがかすめた。
「修子、面白いものが見えとるよ」
藤吾が言った。
顔を上げると藤吾の指先があたしの顎をとらえた。
それはあっという間だった。
唇になにかが触れる。
やさしくて、やわらかくて、あたたかい。
それは藤吾の唇だった。
「ほら、見えた」
藤吾はなにごともなかったかのように言うが、それはまぎれもないキスだった。
観覧車の窓ガラスに映るあたしの顔は放心していた。
「ぼくも修子が好きや」
藤吾が耳元でささやく。
「ありえない」
あたしは思わず言ってしまった。
また、からかわれているに違いない。
あたしの警戒を察したように藤吾は言う。
「嘘やないで」
いつになくその瞳は真剣だった。
いいや、あたしはだまされない。
「でも、藤吾には彼女がいるでしょう?」
あたしは藤吾が夜遅くに帰ってきた日のことを言った。
藤吾の身体からは女性の香水の匂いがした。
お互いの身体を近づけなければ、あんなに匂いが移るはずがない。
「なんや、それか」
藤吾はわけもない、というように説明する。
「クラブのバイトや。夜遅うになったのは、泥酔した女性のお客さんを店長と一緒に自宅まで送って帰ったからや」
寝耳に水。
藤吾がバイトしていたなんて知らなかった。
「アルバイト…」
でも、なんでそんなことを?
あたしの疑問は藤吾の次の言葉で解決した。
「大学まで寺山さんに甘えられへんからな。お金貯めてん」
「そうなんだ」
「彼女いないって、安心した?」
にやにやと意地悪な笑みをうかべる藤吾。
なんでこんな奴に惚れてしまったんだ。
我ながらひどい趣味だ。
藤吾はくすくすと笑いながら、ふたたびあたしの手を握る。
あたしと藤吾は、兄妹以上の関係で家族未満の存在。
それは…。
心臓が早鐘のように鼓動する。
その音を知られたくなくて、あたしは言う。
「わかったから、あんまりひっつかないで。藤吾…お」
お兄ちゃんと言いかけたあたしの口を藤吾の大きな手がふさぐ。
美形のアップが眼前にせまり、あたしは緊張した。
「そうそう、お兄ちゃんは無しや。エッチしてるときにお兄ちゃんなんて言われると、こっちも変な気になるしな」
耳元でささやかれる藤吾の京都なまり。
藤吾は口が悪かった。
観覧車が地上へ戻り、係員が扉を開けるのと、あたしの平手打ちが藤吾に決まったのは、ほぼ同時だった。
おしまい
ここまで読んでいただきありがとうございます。ひとまず、おしまいです。気に入っていただければ幸いです。次回は吸血鬼もの?でいこうかと思っていますが、どうなることやら。それでは、またお会いできますように!




