表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/40

日課



 中学を卒業して、日課を決めた。それは挨拶をきちんとする。

 真面目な性格じゃないし、続くかどうか分からないけど、高校生活の基本は挨拶にしようと決めた。

 友だちを作るのもまずは声をかける事から始まるし、何より、宏人に声をかける言い訳になる。


 待ちに待った入学式の日。祥太は早めに家を飛び出した。


 宏人の母親に、宏人が家を出る時間をさりげなく探っておいたから、待ち伏せするつもりでいた。

 宏人とはあれから一度も話していない。


 春休みの間も会う機会がなかった。

 今日はただ、おはようって声をかけるだけでいいのだ。


 難しい言葉じゃない。


 朝の挨拶なんだから、勇気を出せば宏人も答えてくれるだろう。そう思った。



 四月になったばかりの朝は清々しく空気は新鮮だ。

 少し肌寒く、祥太はポケットに手を突っ込み、壁にもたれて宏人の家の前にいた。

 がちゃっとドアが開いた。


「あ…」


 祥太は体を起こした。

 ブレザー姿の宏人が現れる。深みのある赤いネクタイに、落ち着いた紺色のブレザーを着て、グレーのチェックのズボンを穿いている。前より少し髪が伸びたのだろうか、痩せて精悍になった気がした。


 祥太は高鳴る胸を押さえた。


 一度、大きく息を吸い込んで吐き出す。


 それから宏人に駆け寄った。


「宏人っ」


 真新しいカバンを持っていた宏人は目を瞠った。


「お……おはようっ。宏人っ」


 声が裏返った気がしたが、何度も練習したのだ。おはようを練習するなんて、この先あんまりないかもしれない。

 それなのに、宏人は口を真横にすると、ぷいと横を向いた。



「あ……」


 祥太の前を素通りしていく。祥太は愕然としたが、我に返って後を追った。


「き、今日から学校だな。楽しみだな」


 声をかけたが、その背中は頑なに拒んでいた。


「ひ、宏人……俺……っ」


 手を伸ばそうとしたら、宏人が突然走り出した。


「あっ。宏人っ」


 宙をさまよった行き場のない手を下ろして祥太は立ち尽くした。


「何で……だよ…」


 ここまで無視される理由が分からなかった。


 どうして許してくれないのか。謝るチャンスすら与えてくれない。

 落胆した祥太は立ち止まったままうつむいた。それから、ポケットに手を突っ込むと歩き出した。

 宏人に無視されたのは今に始まった事じゃないんだ。また、明日やったらいいだけの事。

 歯を食いしばり、顔を上げると祥太は走り出した。


 絶対にあきらめるつもりはなかった。



 宏人は大切な幼なじみだ。


 仲違いしたままでいるのは絶対に嫌だった。


 それから毎日のように祥太は宏人の家に行った。


 竜之介には、未だに無視されていると言う話はしらせていない。いつまでも女々しく、毎朝、待ちぶせしている事を知られたくなかった。

しかし、祥太も粘り強いが、宏人の方もしつこかった。なにゆえここまで無視するのか分からない。兄の裕一ですら、もう放っておけと匙を投げた。





「ただいまあ」


 夕方、部活を終えた翔太が、元気いっぱいの声を張り上げて帰ってきた。そのまますぐに階段を駆け上がり、制服を脱いで私服に着替える。

 部活で使用した汚れたシャツとパンツを取り出して、洗面所に持って行く。洗濯機の中にそれらを放り込むと、その勢いはとどまらずに玄関へと向かった。


「行ってきますっ」


 靴を履いて飛び出そうとした矢先、


「ちょっと待て」


 と、兄に呼び止められた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ