両想い
「バ、バーカっ」
祥太は照れくさくて思わず罵ると、宏人が泣きべそをかいた。
「バカなんて言わないでよ」
それからもぞもぞと言った。
「苦しいんだけど……」
「苦しいって?」
「祥太の事、好きで苦しいって意味だよ」
「お前、瑞穂の事好きじゃないのかよ…」
祥太が小さく言うと、宏人が、え? と言う顔をする。
「どうしてここで瑞穂の名前が出てくるわけ?」
「さっき、好きだって言ったじゃないか」
「瑞穂とはもう別れたし、僕は祥太が好きだって言ったよね」
「意味わかんない…」
「えーっ」
「もっと、分かりやすく説明しろよっ」
「分かりやすく説明って、これ以上、どう言えばいいんだろう…」
困惑した宏人は、頭を掻いたり顎を押さえたりして、難しい顔をしている。
祥太は苛々しながら宏人の肩に両手を置いた。
「だから、瑞穂より好きだとか、誰よりも一番好きなのはお前だとか、そうはっきり言えよ」
命令口調で言ってしまうと、宏人は目を丸くした。
「祥太っ」
宏人が感極まって押し倒す。
「んっ」
何も言わずにキスをされた。
「んっ。ちょっ」
「瑞穂より、祥太の方が僕は大好きだよ」
「うん…」
祥太は頷くと、宏人の胸に顔をうずめて額を擦り付けた。
「俺も宏人の事が好きだよ」
「祥太……」
宏人は、祥太の頬を包み込むと顔を上げさせた。
唇を啄ばむように何度も重ねてくる。くすぐったくて祥太は体をよじった。
顔を合わせると、思わず笑ってしまう。
「そうだ、兄ちゃんに許してもらわないと」
「どういう事?」
「俺、兄ちゃんに全部話したんだ」
「え……」
宏人の顔が真っ青になる。
「全部って?」
「卒業する前からの事、全部」
「嘘……」
宏人が呆然と呟いた。
「ま、なんとかなるだろ」
祥太のあっけらかんとした顔の横で、宏人が顔を押さえて震えた。
「どうしたんだ?」
「いや、寒気が……」
「あっためてやるよ」
無邪気に言って祥太が抱きしめる。
「ありがと…。うう、祥太…」
うれしさと恐ろしさで宏人は祥太を強く抱き返した。
祥太は、愛する宏人が自分のものになって、うれしくてにっこりと笑った。