ヌイグルミ
宏人が会いに来てくれた。
たかだか一日、顔を合わせなかっただけなのに。
茂樹の言う通りだった。自分の気持ちは届いていたのだ。
積もる話がたくさんある。離れていた時間を取り戻したくて、祥太は急いで風呂に入った。
できるだけ早く部屋に戻ると、宏人がベッドに座っていた。
「あっ」
祥太を見て立ち上がる。
「お前、背が伸びたな…」
あんぐりと口を開けると、そうかなと宏人が言った。
「そんな事よりも早く髪を乾かさないと、風邪引くよ」
「あ、うん」
祥太は濡れた髪を拭きながら、ちらりと横目で宏人を見た。
以前よりむちゃくちゃかっこよくなっている。
身長差はもちろん、腕の太さも足の長さも顔つきも、すべてが大人びている。
「ほら、手が止まっているよ」
ベッドに腰かけていた祥太はハッとした。
「う、うん」
「拭いてあげる」
宏人が背後に回って、祥太の髪の毛を拭いてくれる。優しい手つきに気持ちよくて目を閉じた。
「サンキュ、宏人」
どれくらい離れていたのだろう。
卒業前の一ヶ月。
高校生になって二ヶ月が過ぎた。
口もきかなかった三ヶ月間。
長かった。
思い返せばあっという間だったかも知れないが、毎日が不安でたまらなかった。
「宏人…」
祥太はタオルの下からぽそっと呟いた。
「もう、離れない?」
「え?」
宏人の手が止まる。
「ずっと一緒にいる? 友だちでいてくれる?」
そう言うと、宏人が一瞬びくりと震えてからタオルをどけた。
祥太が顔を上げると、少しさみしそうな目をした宏人がいた。
「友だち…」
「だろ? 俺たち…」
祥太がじっと見つめると、宏人が頷いた。
「うん。祥太のそばにいるよ」
その言葉を聞いて一気に体の力が抜けた。どさっと宏人の胸に体を預けた。
「よかった…」
安心のあまり、笑顔になる。
「乾いたよ。もう寝る?」
宏人が言って、祥太はちらりと時計を見た。二十二時を過ぎている。
「そうだな。ちょっと早いけど、寝ようか」
「うん」
部屋の明かりを消すと、真っ暗で何も見えなくなる。宏人はもぞもぞとふとんの中に入り、祥太も隣に滑り込んだ。
車が通るたびカーテンの外が光った。
案の定、シングルベッドに二人は狭い。
「お前、でかくなりすぎ…」
足の長さも大きく違う。体を折り曲げていると、宏人が背後から体を寄せてきた。
「こうしたらいいよ」
抱きかかえるように、背後から抱きしめられた。
「こ、これじゃヌイグルミじゃないか」
腕にすっぽりと抱かれて、一瞬ドキッとした。
「離せよ」
「祥太って抱き心地ちいいなあ」
宏人がボソッと言う。
「何だよそれ…」
ふっと振り向くと端正な顔がそばにあった。また、ドキッとしてすぐさま前を向いた。