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けなげな王子に愛を  作者: 春野セイ
第一部 中学生編
1/51

呼び出し


「柏木くんはこの後、職員室へ来て下さい」


 ホームルームが終わるなり担任の先生に言われて、柏木かしわぎ翔太しょうたはぽかんと口を開けた。


 へ? なんで? 俺、何かしたっけ? 


 呆然としている間にクラスメートは帰って行く。

 残っているのは翔太と友達のもり竜之介りゅうのすけだ。


「おーい、翔太、はよ職員室いかんと先生に怒られるぞ」

「俺、何もしてないよ……」


 不安そうに竜之介の顔を見上げる。そのうるうるした大きな目を見て、竜之介は思わずどきりとした。


「大丈夫やって、怒られるとは限らんやろ」

「そうかな……」


 翔太は、ふううっと息を吐いて立ち上がった時、別のクラスの久遠くおん宏人ひろとが教室に入ってきた。


「翔太、迎えに来たよ。帰ろ」


 にっこりと甘い微笑みで笑いかけると翔太の腕をつかんだ。

 竜之介が感心したように言った。


「さっすが王子、姫を迎えに来るのが早いな」

「竜之介、姫とか王子とかやめろよ。白雪姫はとっくの昔に終わったっての」


 中学最後の文化祭で三年生は白雪姫の演劇をした。その配役で翔太が白雪姫、宏人が王子を演じたのである。その時のことを竜之介はいつも話題にする。


「ええやんか、お似合いの二人なんやから」

「僕は全然かまわないよ」


 宏人はニコニコしている。彼は王子と呼ばれようが翔太と一緒なら何でもいいのだ。

 姫と呼ばれる翔太は面白くなかった。


「俺、担任に呼び出されたから職員室行ってくる……」


 翔太がボソッと言うと宏人が驚いた。


「え?」


 翔太はカバンを持つと急ぎ足で職員室へ向かった。竜之介とは教室で別れ、宏人が追いかけてきた。


「呼び出されたって何かしたの?」

「してないよ」


 そう言いながらも全く予想がつかなかった。

 職員室に着いてドアに手をかける。宏人が後ろから声をかけてきた。


「僕、外で待ってるから」

「うん……」


 ありがと、と小声でお礼を言って職員室のドアをノックした。


「三年二組、柏木翔太でっす。失礼しまーすっ」

「柏木くん、こっちだよ」


 イスに座っていた担任が手を振った。翔太はのろのろとそばに寄って口を尖らせた。


「何だよコニちゃん、俺、何もしてないんだけど……」

「ちゃんと先生って呼びなさいね」


 担任の小西こにしまさるは、翔太に注意すると、まあ、座ってと促した。翔太はイスに座ると足をぶらぶらさせた。その子供っぽい姿を見て小西は苦笑する。

 机に広げていた一枚の用紙を手に取った。


「あのね、柏木くん、第一志望は緑ヶみどりがおか高校だったよね」

「え? あ、はい」

「どうしてここに行きたいの?」

「ああ……。宏人が行くから」

「ああ、久遠くんか。友達なんだね」

「うん。近所に住んでる」


 小西は、久遠宏人の目立つ容姿を思い浮かべた。

 中学三年生の中でも長身で女子生徒から絶大な人気を誇る少年だ。

 男の教師の目から見ても、彼はとても綺麗な顔をしていると思う。


 小西は小さく息をついて翔太を見た。


「柏木くん、とっても言いにくいんだけどね。君の成績じゃ、緑ヶ丘高校は無理なんだ」

「えっ?」


 翔太は椅子を倒す勢いで立ち上がった。


「嘘! 先生、本当に?」

「うん……。だって、今回の中間テスト何番だっけ」


 翔太は答えられず脱力して椅子に座った。とても人に自慢できるような成績ではない。


「久遠くんは確か、選抜クラスだったよね」

「選抜って?」


 選抜クラスの意味も分からずに翔太は首を傾げる。小西から説明を受けて、さらにショックを受けた。


「残念だけど、柏木くんが緑ヶ丘高校に入るのは難しい。一般入試で受験するのは自由だよ。でも、難しい……。私立一本で頑張ってみて」


 小西の言葉を聞いて、翔太はしょんぼりと肩を落としたまま職員室を後にした。


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