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呼び出し


柏木(かしわぎ)くんはこの後、職員室へ来て下さい」


 ホームルームが終わるなり担任の先生に言われて、柏木かしわぎ祥太しょうたはぽかんと口を開けた。


 へ? なんで? 俺、何かしたっけ? 


 呆然としている間にクラスメートは帰ってしまった。残っているのは祥太と友達の森竜之介だ。


「おーい、祥太、はよ職員室いかんと先生に怒られるぞ」

「俺、何もしてないよ……」


 祥太が不安そうに竜之介の顔を見上げる。そのかわいい潤んだ目に竜之介はドキッとして思わず頭を撫でそうになった。というか、撫でてやった。


「大丈夫やって、怒られるとは限らんやろ」


 そうは言っても。


 祥太は、ふううっと息を吐いて立ち上がった時、別のクラスの久遠くおん宏人ひろとが教室に入ってきた。


「祥太、迎えに来たよ。帰ろ」


 にっこりと甘い微笑みで笑いかけると祥太の腕をつかんだ。

 竜之介が感心したように言った。


「さすが王子、姫を迎えに来るのが早いな」

「竜之介、姫とか王子とかやめろよ。白雪姫はとっくの昔に終わったっての」


 中学一年の頃、宏人が王子役、祥太がお姫様で文化祭で演劇をした。その時のことを竜之介はいつも話題にする。


「ええやんか、お似合いの二人なんかやら」

「僕は全然かまわないよ」


 宏人はニコニコしている。彼は王子と呼ばれようが祥太と一緒なら何でもいいのだ。

 姫と呼ばれる祥太は面白くない。


「俺、担任に呼び出されたから職員室行ってくる……」


 祥太がボソッと言うと宏人が驚いた。


「え?」


 祥太はカバンを持つと急ぎ足で職員室へ向かった。竜之介とは教室で別れ、宏人が追いかけてくる。


 呼び出された理由は何だろう。

 授業中、居眠りをしたからだろうか。給食の後だったから猛烈に眠くて我慢ができなかったのだ。


 祥太はぶつぶつ呟いて、職員室のドアの前で立ち止まった。宏人が後ろから声をかけてくる。


「僕、外で待ってるから」

「おお……」


 ありがと、と小声でお礼を言って職員室のドアをノックした。


「三年二組、柏木祥太でっす。失礼しまーすっ」

「柏木くん、こっちだよ」


 イスに座っていた担任が手を振った。祥太はのろのろとそばに寄って口を尖らせた。


「何だよコニちゃん、俺、忙しいんだけど……」

「ちゃんと先生って呼びなさいね」


 担任の小西こにしまさるは、祥太に注意すると、まあ、座ってと促した。祥太はイスに座ると足をぶらぶらさせた。


「君を呼んだのは……」

「すみません……」

「ん?」

「あんまり寝ていなくて……。それで、授業中寝ちゃって……」

「授業中に寝てたの? それはよくないね」

「だって、夜食がうまくて……」

「夜、勉強しているの? 本当に? でも、授業中に眠ったらダメだよ。意味がないでしょ」

「兄ちゃんが作ってくれるんだよ」

「お兄さんが作ってくれるんだ。もしかして勉強を教わっているの?」

「ううん。兄ちゃん大学生だから、もう中三の問題はわかんないって」


 小西は答えられず、こほんと咳をした。


「あのね、柏木くん、第一志望は緑ヶみどりがおか高校だったよね」

「え? あ、はい」

「どうしてそこがいいの?」

「宏人に誘われたから」

「宏人? ああ、久遠くんか。友達なんだね」

「うん。近所に住んでるんだ」


 小西は、久遠宏人の目立つ容姿を思い浮かべた。中学三年生の中でも長身で女子生徒から絶大な人気を誇る少年だ。

 男の教師の目から見ても、彼はとても綺麗な顔をしていると思う。


 小西は小さく息をついて祥太を見た。


「柏木くん、とっても言いにくいんだけどね。この成績じゃ、緑ヶみどりがおか高校は無理なんだ」

「えっ? 嘘でしょっ。宏人が、兄ちゃんの行っていた高校へ一緒に行こうって誘ってくれたのに」

「お兄さん緑ヶ丘高校? 頭いいじゃない」

「どうして行けないの? 先生っ」

「どうしてって言われても。柏木くんは勉強があまり好きじゃないでしょ。久遠くんは、柏木くんの成績を知っているの?」

「俺の成績?」

「うん」

「……この間の中間テスト、俺は三桁だったのに……。宏人は六番だって言うから、それで……」

「久遠くんは六番……」

「本当のこと言えなくて……。五番て言っちゃった」

「五番っ」


 小西は仰け反って、あわわと口を押さえた。


「後ろから数えての間違いじゃ……」

「先生っ」

「あっ、ごめんっ」

「ひどいよ」


 祥太の泣きそうな顔を見て、小西は頭を抱えた。


「久遠くんには本当のことを言ってないんだ。それで、君はただ誘われたから緑ヶ丘に行きたいだけなんだね?」

「うん……」

「困ったな。残念だけど、柏木くんが緑ヶ丘高校に入るのは難しいよ」

「え……?」

「君のこの成績じゃあ、絶対に一緒の高校には行けない……よ」

「絶対に無理なのっ?」

「言いにくいけど、本当に無理……。受けるのは自由だよ。でも、難しい……」

「そんなー、ひどいよ。先生っ」


 先生は何も悪くない。祥太の成績が問題なのである。


「とにかく、久遠くんには早く本当の事を伝えるんだよ」


 小西の言葉に祥太はしょんぼりと肩を落としたまま、職員室を後にした。


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