第四十六話 市場へ行こう
翌日。
久しぶりに依頼のない朝だった。
宿の食堂では、レクスたちが朝食を囲んでいる。
「今日は依頼を受けないんですか?」
リリアが尋ねる。
レクスはパンを口に運びながら頷いた。
「ああ」
「昨日の依頼報酬も入った」
「少し街を見て回ろうと思う」
ヴェルドが笑う。
「三万年後の人間の街も、まだ全部見てねぇしな」
ティラは目を輝かせた。
「賛成!」
「お店を見たい!」
レヴィアも興味深そうに頷く。
「私も」
ガイアは食べ終えた皿を見つめる。
「食料も買っておきたい」
ディノも同意する。
「保存食があると助かるな」
リリアは笑顔になった。
「それなら市場を案内します!」
◇ ◇ ◇
王都の市場。
朝から大勢の人で賑わっていた。
「いらっしゃい!」
「焼きたてだよ!」
「今日は安いよ!」
活気あふれる声が飛び交う。
ティラは辺りをきょろきょろ見回した。
「すごい……」
三万年前にはなかった光景だった。
レヴィアは色鮮やかな果物へ目を留める。
「これ、何?」
「リンゴです」
「甘くて美味しいですよ」
店主が一つ差し出した。
レヴィアは恐る恐る一口かじる。
「……!」
目を丸くした。
「甘い!」
ティラもすぐに一つ買う。
「本当!」
「美味しい!」
二人の様子を見て、店主は思わず笑った。
「初めて食べたのかい?」
二人は顔を見合わせ、小さく頷く。
その隣では。
ガイアが肉屋の前で立ち止まっていた。
「これは何の肉だ?」
「ワイルドボアだよ」
店主が答える。
「焼くとうまいぞ」
ガイアは真剣な顔で肉を見つめる。
「全部ください」
店主が固まった。
「……全部?」
ヴェルドが吹き出す。
「全部はやめろ」
「店が困る」
ガイアは少し考えた。
「では半分で」
「それでも多い!」
リリアが慌てて止める。
周囲から笑いが起こった。
その頃。
レクスは一人、本屋の前で足を止めていた。
棚には何冊もの本が並んでいる。
「文字か……」
三万年。
人類の文字も変化していた。
読めるものもあれば、読めないものもある。
「興味があるの?」
リリアが隣へ来る。
「ああ」
「この時代を知るには、本が一番早い」
リリアは微笑んだ。
「でしたら、歴史書がおすすめですよ」
レクスは一冊の本を手に取る。
ゆっくりとページをめくった。
その時だった。
「きゃあっ!」
市場の奥から悲鳴が響く。
続いて、人々の慌てる声。
「泥棒だ!」
「捕まえろ!」
市場中が一気に騒がしくなった。
ヴェルドが振り返る。
「……退屈しねぇ街だな」
レクスは静かに本を閉じた。




