プロローグ 目覚め
兵器には、開発者の願いが残っている。
その声を聴ける整備士と、戦えない兵器たちの物語です。
よろしければお付き合いください。
「兵器が泣くはずないだろ。」
最初にそう言ったのは、誰だったろうか。
教官?整備主任?それとも自分自身だったか、もう覚えていない。
ただ、その言葉だけは今も耳の奥に残っている。
――兵器が泣くはずない。
それでもあの声だけは忘れることができなかった。
「……寒い」
レンはあの日、燃え落ちる試験機のコックピットから声を聞いた。
それは冬の寒空の下であった。
連邦軍中央航空基地、第八試験滑走路。
――試験機番号 《XF-27》
最新鋭の試作型可変戦闘機。
それは採用評価のための最後の試験飛行を行っていた。
試験は順調に進み、誰もが正式採用されるに違いないと思っていた。
だが、着陸直前にその機体は制御を失った。
空中分解し、墜落、炎上。
そして、爆散した。
搭乗者は脱出したが、即死である。
だが。
『……寒い』
黒煙を上げながら炎上している機体から、レンは確かに声を聞いた。
無線ではなく、もっとはっきりと頭の中に誰かが震えているような声が聞こえた。
『もう……飛びたくない……。』
瞬間、レンの体は勝手に走り出していた。
止める声も聞こえない。
炎の中に飛び込み、焼け落ちるコックピットを覗き込む。
そしてレンは見た。
操縦席があったであろうその場所で、涙を流している”機械”を。
あり得ない。
そんなこと、あるはずがない。
だがその瞬間。
レンの頭の中に知らない記憶が流れ込んできた。
設計図。
試験記録。
誰かの徹夜。
誰かの祈り。
『この子を、空で死なせないで』
それは女性の声だった。
知らないはずの誰か、なのになぜかわかる。
きっとこの機体の開発者だ。
レンは膝をついた。吐き気がして、今にも頭が割れそうだった。
誰かが遠くで叫ぶ声が聞こえる。
「整備兵が一人、突っ込んでったぞ!」
「おい!久城!」
「聞こえるか!?」
その時からだ。
レンに兵器の声が聞こえるようになったのは。




