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国家認定PMCヴァルハラ  作者: 神代零


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第一話 「防衛警備報告書」

キャッチコピー


「国家が手を汚せないなら、俺たちがやる。」


 二〇三八年五月十九日。


 東京都新宿区市ヶ谷。


 防衛省中央庁舎地下、第七監査会議室。


 室内に時計の秒針だけが響いていた。


 長机の上に置かれた一冊の黒いファイル。


 表紙中央には銀色の文字が刻まれている。


 ――防衛警備報告書。


 提出者欄。


 国家認定PMC。


 ヴァルハラ・セキュリティ・ジャパン代表取締役。


 獅堂蓮司。


「……毎回思うんだがな」


 向かい側に座る防衛監査官・榊原が、深く息を吐いた。


「お前たちは本当に民間企業か?」


 黒いスーツの男が静かに笑う。


 獅堂蓮司、三十二歳。


 元警察庁特殊急襲部隊SAT隊員。


 現在、日本国内唯一の“S級国家認定PMC”――ヴァルハラのCEO。


「民間企業ですよ」


 蓮司は淡々と答えた。


「法人税も払っています」


「そういう意味じゃない」


 榊原はファイルを開き、眉間を押さえる。


「東アフリカ邦人救出作戦」


「南シナ海海賊対処支援」


「中東資源地帯武装警備」


「企業戦争仲裁任務」


「……この国はいつから民間企業に戦争を外注するようになった?」


 会議室の空気が僅かに張る。


 だが蓮司の表情は変わらない。


「国家が表に出られない案件は存在します」


「だからといってPMCを使う理由にはならん」


「なりますよ」


 即答だった。


「自衛隊が出れば外交問題になる」


「警察が動けば国内法に縛られる」


「外務省は責任を嫌う」


「だから我々が存在する」


 榊原は無言になる。


 それが事実だからだ。


 十年前に制定された《民間武装企業管理法》。


 テロ、海賊、崩壊国家、企業武装化――国家だけでは処理不能となった灰色戦域への対策として、日本政府はついにPMCを合法化した。


 ただし条件がある。


 徹底監視。


 PMCは国家認定制。


 契約時には必ず、防衛省へ《防衛警備報告書》、警察庁へ《警備計画書》を提出しなければならない。


 武力を持つ民間企業を、国家が管理するための鎖。


 それがこの法律だった。


「今回の提出案件は?」


 榊原が問う。


 蓮司はネクタイを整えながら答えた。


「民間防衛警備義務契約です」


 空気が変わった。


 会議室の隅にいた若い官僚が顔を上げる。


 民間防衛警備義務契約。


 それは国家安全保障に関わる危険案件にのみ適用される、S級PMC専用契約。


「場所は?」


「横浜港」


 榊原の顔色が変わった。


「……馬鹿な」


「七号埠頭にて国際武装組織の潜入を確認」


「警察庁警備局と合同で封鎖作戦を実施します」


「SATは?」


「待機」


「自衛隊は?」


「海上封鎖のみ」


「つまり――」


 榊原の声が低くなる。


「突入はヴァルハラが担当するのか?」


 蓮司は静かに頷いた。


「国家認定PMCですので」


 若い官僚が息を呑む。


 それはつまり。


 日本政府が公式には実施できない武力行使を、民間企業が担当するということだった。


「……お前たちは、自分たちが何者か理解しているのか?」


 榊原の問いに。


 蓮司は僅かに笑った。


「ええ」


「我々は傭兵ではない」


「では何だ」


 蓮司は監査官を真っ直ぐ見据える。


 その目には、警察官だった頃と同じ冷たい責任感が宿っていた。


「監視下の武士です」


 沈黙。


 誰も言葉を返せなかった。


 武力は国家が独占するべきものだ。


 それが近代国家の原則。


 だが現実には。


 国家だけでは守れないものが増えすぎた。


 だから政府は、鎖付きの武力を許可した。


 登録された傭兵。


 国家監査対象戦術員。


 合法武装企業。


 それがPMC。


 そして――ヴァルハラだった。


 その時。


 蓮司のスマートフォンが短く震える。


 画面表示。


 《横浜港警備班》


 蓮司は確認し、静かに立ち上がった。


「時間です」


「もう動くのか?」


「はい」


「警備計画書通りに」


 そう言って。


 獅堂蓮司は黒い防衛警備報告書を机の上に残し、会議室を後にした。


 国家が認めた武士たちの戦場へ向かうために。

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