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34、邪悪になりたい



「う、あ、が……」


「早く喋ってくれない? 今となってはボクに急ぐ意味はないけどさ、それでも時間の無駄って嫌じゃない? だからさ、無駄な努力をしないで諦めて欲しいんだよ」



 男の体からは絶えず血が流れる。

 豪奢な黒い服に紛れて見えにくいが、既に布が吸いきれないほどの血を流していた。

 男の指先は氷のように冷たい。

 血の気も良くなく、顔色は褐色の肌が薄れると思わせるほど白く、悪い。

 体は何かによって潰された跡が目立ち、砕かれていない関節は存在しない。人体にはない穴の数は二十を超えて、血以外もはみ出ていた。

 目と鼻と耳は存在せず、それ以外もかなり削がれている。


 死ぬ寸前の状態だった。

 あと一分、何もしなければ男は確実に死ぬ。

 


「どれだけ耐えても意味なんてないさ。どうせ皆死ぬんだから、諦めちゃいなよ。こんなに頑張った君を誰が責めるんだい?」


「くた、ば、れ……化け、物……!」



 瀕死の重体で男が絞り出した言葉は、クララが望むものではなかった。

 ただの拒絶だ。

 言葉を発するだけで口から血が吹き出ている。こんなにも弱っているのに、敵を前に必死に歯向かっていた。

 その拒絶に呼応して、空中から炎が湧き出る。

 拡散された熱には、あらゆる物質を燃やし尽くす性質が込められている。

炎の上位精霊(イフリート)』による攻撃。精霊術で最上位に位置する、奥義と呼ばれる力だ。


 しかし、



「無駄なんだよ」



 それは軽く避けられる。


 クララにとって、目を瞑ってでも避けられる攻撃だった。

 男が全快だった時に比べて、あまりにも弱い。

 炎は熱の凝縮が行われることなくただ放たれただけだ。範囲は広いが、威力は比べるまでもない。

 それに、術の展開から発動までが遅すぎる。何とか放てはしたが、本当にただそれだけだと分かる一撃だ。


 男は頭を下げた。

 限界を迎え、いよいよ命が尽きようとしている。

 頭から垂れた血がそのまま男の命のようで、もう死ぬまで秒読みだった。



「だから無駄だって」



 だが、それがクララに通じるはずもない。


 クララの手から光が灯る。

 優しく、神聖さを感じる光は男を包んだ。

 男の傷は瞬く間に癒える。あっという間に、男は元の姿を取り戻していた。

 そこには穴も、跡もない。

 服に染み付いた血すらも残らず、男は十分前の状態まで巻き戻っていた。



「何回もしたくないんだよ、こんなの。君みたいなのが相手だと疲れるんだ。だからさ、お願い。喋ってくれない?」


「『樹の上位精霊(ドリアード)』よ! 自然の結晶、森の蜜! 敵を欺き蝕む力を与え給え!」



 早口で男は言葉を紡ぐ。

 それはまたもや、クララの望むものではない。


 それは詠唱であった。

 森の結晶である『樹の上位精霊(ドリアード)』への助力を乞う言葉。それは、言葉の通りの力を男へ与える。

 クララが何かを感じ取り、上を見上げると、黄緑色の液体が滝のように現れた。

 その規模は小さな湖が降り注ぐかのようだ。

 クララからすれば半歩で飛び越せる距離だが、それはやってはいけない。

 放って逃げれば男が巻き込まれてしまう。



「はあ……」



 溜息まじりに、結界を上空に展開する。

 凄まじい出力で展開されたそれは、尋常ではない硬度と耐久を誇っていた。

 雨を弾く傘のように、液体を周囲へ流していく。

 ジュウジュウという音と共に結界を、落ちた地面を侵食した。液体が全て落ちきった後の結界は半分以下の厚さにまで溶かされ、地面もマグマのように煮立っている。

 


「まだやるの?」


「…………! 『土の上位精霊(ノーム)』よ! 眼前の我が敵、ぐっ!」


「はあ……」



 詠唱をしようと口を回す男だったが、クララに殴られてそれも止まる。

 だが、術は止まらなかった。

 一般的には詠唱か術式かのどちらかを使えばいいのだが、男は二つを使っていたのだ。威力を底上げするための詠唱が途中で止まっても、術式を止めるほど技量は低くない。


 男の術によって、地面がせり上がる。

 三秒もすれば小山が出来上がるだろう。男を中心にして生き埋めになり、体内に入ったその土は男をズタズタに引き裂く。


 しかし、やはりクララは邪魔をする。

 男を結界で覆い、メイスを地面に向けて力いっぱい振り下ろした。

 土は男を覆って山を作るどころか、巨大なクレーターが出来上がる。


 クララは呆れた目で男を見ていた。

 諦めずに無駄な努力を続ける男へ、理解を示す事が出来ないからだ。

 詰みの状況から、引き分けへ持っていこうとしている男の愚かさを切り捨てることしかできない。

 男を見下しながら、要求を続ける。

 


「ぐああ!!」


「ねえねえ、ボクが君に質問してノーって答えた時にさ」



 男を痛ぶる。

 関節一つ一つを丁寧に丁寧に折っていく。

 左手の親指から小指、肘に肩まで、終われば右手へ、右足へ、左足へ。

 骨が折れて、関節がイカれる耳障りな音をたて続けた。

 のんびりと語る言葉が終わり、次の言葉が始まるまで。



「何で『看破』の魔術が反応したのかな?」


「ぎ……!」



 次は関節のない部分だ。

 クララの握力は、男の筋肉と骨を握り潰すにあまりある。

 万力でゆっくりと締め上げるように、少しずつ少しずつ壊していく。

 手足で計八箇所、指よりも細い場所を作り上げた。

 それから面倒くさそうに目を細め、息を吐きながら言う。

 


「あの街に協力者が居るかって質問、居ないって言ったのは嘘だよね?」


「お前に、言うことは、何もない……がああ!」


「そういうのいいって」



 次は鼻だ。

 ミリミリと音を立て、鼻血を滝のように出す男を無視して、クララはつねる。骨は砕け、鼻は鼻の形をかなり崩していた。

 それから耳だ。

 片耳からゆっくりと破っていく。

 男は何も出来ずに唸り声をあげるだけで、苦痛に顔を歪めながらも変わらずにクララを睨み続けた。

 


「わざわざ辛い道を進む必要はないんだよ?」


「……くた、ばれ」



 憎悪を持って歯向かう男に、クララは肩をすくめる。

 瞳にこもった隠しきれない憐憫と共に、男をさらに絶望へと追いやる。



「ねえ、君って結構偉いよね? その服もそうだけど、ボクと戦えるくらい強かったんだ。かなりの地位はあるはずだ」



 そこでクララは拷問を止めた。

 流れる血も気にならないほど不気味だ。

 会って間もない男でも、クララの冷徹さは分かっていた。途中で止まるなど、裏もなしにはあり得ない。

 クララは必要だからという理由で、人を殺せる人種なのだ。慈悲などそこには一欠片すら存在しない。


 だが、それも少ししてから理解する。

 遠くから微かに聞こえてくる声と共に。



『おいどうなってる!?』『マズイぞ、どんどん狭まる!』『あのお方は勝ったの? それとも……』『馬鹿を言うんじゃない! 負けるはずが、』『じゃあこの壁は何なんだ!』『ねえ、どうなってるのか誰か説明してよ!』『ねえ、お母さん……』『大丈夫、大丈夫だから……』



 男も女も、老人も子どもも居た。

 その数は合計で二百は下らない。

 しかも、白い壁が拷問の前よりもかなり迫って来ている。大きさは先程よりも遥かに小さい。

 痛みで感覚も考えも鈍った男であったが、ここまで来て察せないほど愚かではなかった。

 


「きさ、ま、まさか……!」


「歳は二十半ば、三十はいってない。結婚して子供がいてもおかしくないよね?」



 何をするのかも想像が付く。

 同時に、邪悪という言葉がこれほど似合う手はないとも思う。

 男はクララのピクリとも動かない顔を見た。

 見ずにはいられなかった。

 言葉すらなく、ただ見ていた。



「ねえ、あの中のどれが君の家族?」



 ※※※※※※※※



 クララ視点



「お、お母さ、」


「止めてええ! あっ」



 母親の前で子どもの首をねじ切る。

 そして、叫ぶ母親も同様に首をはねた。

 

 一歩遅れて二人の体がバタリと落ちる。

 ただひたすら冷めながら、ボクはその様子を棒立ちして見ていた。

 一組終わったから、もう一組殺さなくてはいけない。

 次の家族らしき人間を適当に選ぶ。



「……次だ」



 ボクの言葉にまだ生きている者たちが体を震わせる。

 当たり前だが、死の恐怖はある人間なのだ。ボクと同じように死ぬのが怖いだけの人たち。

 そして彼ら彼女らが怯える対象は、ボク。

 何て腐った現実だろう。散々死にたくないと言っているボクが、暴力によって他人を恐怖に陥れる側なのだ。

 異端審問官なんて本当になるものではない。



「さあ、コイツの家族はどいつだ?」



 腹が立つ。


 ボクに対して滑稽なくらい震えているというのに、ボクの質問には誰も答えないのだ。

 ただこれだけの問いを誰も教えようとしない。自分が助かるという可能性を考慮しないかのようで、本当に腹が立つ。この場合の最善手は情報を売って取り入るしかないだろう?

 ただそれだけのことだ。誰が男の家族かを指差せば、それで終わるはずなんだ。

 仲間が殺されて、これから自分も殺されるというのに誰も心が折れない。

 死にたくないはずなのに、ただ男の言葉を信じた。



『コイツに俺たちを生かすつもりはない。何をしても殺されるだけだ。すまん』



 男の言葉が頭の中で響く。

 本当に腹が立つ、ボクの癪に障る言葉だ。

 


『俺は、俺たちは負けた。ならせめて、コイツの思い通りになるのはやめよう。俺たちの心は最期まで、神には屈しない。俺たちの神は精霊だ。違うか?』



 男がズタボロになっている姿を見て、彼らは確実に絶望したはずだった。

 我先に助かりたいと願えば、それを利用して情報を引き出せる。別にそれは悪いことではないし、当然の心理だ。さらにボクにとって都合が良いのだから積極的にそうしてほしい。

 だが、男の言葉でそれは変わった。

 死に意味が生まれてしまった。



「お前にしよう」


「うっ!」



 近くに居た男の子を捕まえる。

 きっとまだ七つか八つだろうか?

 首を締め付けられ、苦しそうに呻く。

 


「やめて!」「待ってくれ!」


「この子の親は君らか……」



 名乗り出るのは二人の男女だ。

 何組目か分からないが、もういい加減に諦めてほしい。いや、賢い選択を取ってほしい。

 こんな抵抗は無駄だと何故分からない?

 ただ苦しいだけだと、どうして理解できない?


 二人はボクに縋るような目をしている。

 きっと子どもが大切なのだろう。愛した子を殺されかけて黙ってはいられないようだ。

 その心意気があるのなら、取るべき行動は一つしかない。

 何組目か分からないが、屈するはずなのだ。

 そうでなければならないはずだ。



「どいつが、あの死に損ないの家族だ? 質問に答えるなら、この子を助けてやらんでもないよ?」



 子どもの両親はとても揺れていた。

 それはそうだ。死にかけは立場を持った男だが、この状況なら逆らえる。

 彼らにとって大切なのは、男より我が子のはずだ。

 男が何を言ったとしても無駄なはずだ。

 何組目か分からないが、無駄なはずなのだ。



「おと、ざ……おかあざん、たすけ……」



 男の子は喉を締められている。

 あの死にかけのように、声変わりもしていない高い声を歪めて鳴らした。

 これで決定的なはずだ。

 子どもを助けるために男の家族を売ったとしても、何も恥ではない。

 しかし、

 


「……嘘だ」



 だというのに、彼らは確信を持って拒絶する。

 間違いなくその影響源は、あの男だった。

 


「嘘を吐くな、神の使徒。お前はその気が無いのは分かる」


「……死に損ない」



 死に損ないの男が掠れた声で呼びかける。

 両親はかなり揺れていたというのに、この男の声に耳を傾けていた。子どもの助けを求める声を聞くのと同じく、だ。

 それに、締め上げられている子どもさえも声を聞いている。

 フザケているとしか思えない。

 


「何をしても、コイツは殺す気だ……お前達が、教えようと、教えまいと……」


「約束は守るさ。ボクは本気だよ?」


「その、腐った目で言う、ことか……? お前は、俺たちを滅ぼす、化け物だ……信じられる、訳がない……お前は殺す、だけだ。騙して、知りたいことを、知れば、全員殺す」



 その言葉には真剣味があった。真実味とも言えるかもしれない。  

 ボクにとっては忌々しいとしか言えない何かだ。

 自分を見抜かれたようで腹が立つ。

 そして、男のボクを表する言葉にどこか納得してしまう。

 だから余計に腹が立つ。

 


「お前の思い通りには、ならない……俺たちは、負けない……弱くない……」


「今まさにボロ雑巾になってる奴が何を言う? 無駄な足掻きだと認めろ」



 首を絞める。

 このまま力を込めれば、そのまま男の子の首の骨をへし折れる。

 だが、空気が変だった。

 ほんの少し前まで絶望しかなく、項垂れていただけのはずなのだ。

 男の言葉は麻薬のように彼らに沁みる。たった一人の抗う姿を見て、言葉を聞いただけなのに、それだけで空気が変わった。

 


「俺たちは、お前が勝つことに掛けたんだ……」



 父親の言う事は、どこか男を責めているようで、どこか嘆いて諦めているかのようだった。

 しかし、諦めているというのはクララの望む諦め方ではない。何となく、お前で駄目なら仕方がない、と言っているような気もした。

 男もそれを理解しているのだろう。

 申し訳無さそうに頭を垂れる。



「すまん。負けた……」


「おい、喋るな。死に損ないは黙って死にかけてろ!」



 男の喉を潰す。

 これで声は出せないはずだ。


 この男は危険だ。

 今ここで殺せる事のなんと僥倖か。

 出来れば今すぐ殺したいが、聞きたい事が残ってる。



『すまん』

  


 すると、空中から声が響く。

 男の技量を考えれば、空気を震わせて声を届けるくらいはできるだろう。

 どこまでもムカつく男だ。

 素直にボクの思い通りにならない所が、本当に腹が立つ。

 もう詰んでいるのに足掻くことは意味がないと思えよ。

 諦めろよ。



『俺を恨め』


「うらみ、ま、ぜん……!」



 男の懺悔するようなそれに答えるのは、少年だった。

 ギリギリと喉を絞められる苦しみにも負けず、彼はそれだけを言い切った。

 その目には強い意志がこもっているように見える。

 

 そこが、限界だった。



「もういいや」



 男の子の首を折る。

 そして、彼の両親が叫ぶ前にその首を切り落とした。

 

 もう分かってしまった。

 彼らは死ぬまで諦めないと。

 その狂気は、絶対に弱まることはない。

 子どもにまで根付いたそれは、もう切除することは出来ないのだ。

 


「狂人どもめ」



 気色悪いことに、悪魔の誘いのような男の言葉に乗って、自分にも最期に出来ることがあると勘違いするのだ。

 命を落とさないための最善を放棄し、死ぬまで抗うことを選ばせてしまう。

 男に従う快感に酔いしれ、自分の命まで捧げる。

 これを麻薬と呼ばすして何と言うか?

 ここに居る人間は、自分の子どもよりも男を選べるのだ。

 正直、もう関わりたくもない。



「逃げろ!」「俺たちが止める!」



 男と老人が前へ出る。

 せめて、肉壁に成ろうと足掻いたのだろう。だが、そんな程度でボクが止まるはずがない。

 一撃あれば、それで全員ミンチ肉だ。

 メイスを振るえばまとめて赤の塊へと変わる。



「逃げなさい!」「早く、早く!」「ごめんね……」



 そして、その先へ進む。

 その先には逃げている女子どもが大勢居た。

 だが、結界はかなり狭まっている。逃げられる範囲もそこそこ大きな広場ほどで、行うのは鬼ごっこだ。鬼はボクで、相手は戦えない者たちばかり。

 当たり前のように捕まえていく。

 そして、捕まえれば一息に殺していく。

 走れる子どもは自力で母親から離れていった。走れない、母親から離れられない子どもは、一緒に殺していった。

 

 殺して、殺して、殺した。


 そこに居た人間は全員だ。

 生き残りなど残してはいけない。

 五十人以上居た逃げ手達も、半分になるには三十秒かからなかった。さらに半分にするには十秒かからなかった。最後の一人になるのに、さらに時間はかからなかった。

 


「君が最後だ」



 思えば、あの男の子どもをあぶり出すのに人を使う必要はなかったのかもしれない。

 正直、見せしめ的に殺して回るのは時間の無駄だった。

 はじめから、男と似ている子どもと、その母親を見つければ良かったのだ。男の喉を潰す時もそうだが、効果的な手法を思いつくのはいつも後になってからだ。

 最後の子どもの顔を見て、ようやく気が付いた。

 

 残った男の子は、男に似ている気がした。

 目元がよく似ていて、父親と同じようにボクを睨んでいる。



「俺たちが、いったい何をしたんだ……?」



 ボクからすれば彼は弱っちいし、睨まれた所で怖くも何ともない。

 本当に無駄な足掻きだ。生き残るために頭を地面にこすり付けて、懇願するのが取るべき行動だろう?

 少なくとも、ボクならそうする。

 この親子とはつくづくボクと合わないらしい。



「何でこんな、こんな風に殺されないといけないんだ? 俺たちはそんなにお前たちにとって邪魔か? 皆を殺すくらい、俺たちが憎いのか?」



 合わないから、否定したい。

 こんな非効率はしたくないのに、せざるを得ない。

 何も言わずに殺すことは出来るけれども、それは何か負けた気がしたのだ。

 それはなんとなく、嫌だった。

 どうせ殺すなら少し話してからでも良いと思ってしまった。

 


「君らも殺してるでしょ? この辺りの神官が消息を絶つのがやたら多いから、ボクが派遣されたんだよ」


「そんなの知らねぇよ! 俺は何もしてねぇ! 俺の友達も、殺してねぇ!」



 一瞬、男の子が苦そうな顔をした。

 かなり聡い子だ。きっと今ので気付いたのだろう。大人たちが神官を連れ込んで殺していることを。

 


「俺たちは、そんなに邪魔か? お前らの仲間を殺した奴らとまとめて一緒に殺すくらい」


「はあ……そもそも、やってるやってないで分ける訳ないだろ? 全員殺せば、それで良い。後腐れ無くなるだろ?」



 否定したいとは言っても、正論で潰したい訳じゃない。

 ボクの考えを聞いて、絶望してほしい。

 こんな理不尽が降り掛かったのだと知ってほしい。

 それで折れてくれるのなら、少しだけボクの気が晴れる。

 たったそれだけの事だ。


 男の子はボクの言葉に衝撃を受けたようだった。

 そして、彼が抱くのは怒りだ。

 そんなことで殺されたのか、と憤っている。



「そんなことで……!」


「それが大事なんだ。神からすれば、皆殺しにするのが一番手っ取り早いだろ?」



 性格が悪いことだが、嘆いてほしい。

 絶望に顔を歪めるところを見れば、少しは溜飲が下がるはずだ。

 自分で自分のクズさを嘲笑うのは後で良い。

 今ここで、釈然としない感じを消したかった。



「あの死に損ないを痛めつけたのも、老若男女全員殺したのも、君の友達を殺したのも、それが楽だからさ。君らの存在ってすごい小さいよね? 神が鬱陶しいって思ったから、あっという間に全滅なんだよ? 君らの積み上げた歴史とか友情とか愛情とかあれやこれやって、その程度なんだ」


「何が言いたいんだよ?」


「君らの両親とか、他の大人が無駄な足掻きをしてたなってことさ。気概さえあればどんな困難も乗り越えられるとでも思ったのかな? あ、そうだ。君のお父さんってあのボロ雑巾だよね? ねえ、アイツを説得してくれない? 無駄な足掻きは止めてくれって。そしたら、君とアイツは逃してやってもいいよ?」



 これで良い。

 折るにはこれで十分なはずだ。

 多少聡くてもただの子どもなら、分かってくれるはずだ。

 無駄な足掻きをしているだけだと。


 でも、男の子は黙ってしまった。

 どこか不可解そうな顔をして、それから意味が分からないと眉間にシワを寄せる。

 睨んではいない。本当にただ不可解そうに。 

 

 ……何故ボクは、これを見て少し焦ったのだろうか?



「何なら君の母親も生き返らせよう。復活の奇跡『再魂の儀(リザレクション)』は結構疲れるし、条件も厳しいけど、今ならまだ間に合うよ? 一家団欒で助かりたいでしょ? ねぇねぇ、早くしないと殺しちゃうよ?」



 声がほんの少し、上ずったかもしれない。

 自分でも気付きそうになかったくらいだから、男の子が気付いたということはないだろう。

 あくまでも邪悪で、人の良い部分を削ぎ落としたようにしなければ。

 飄々と嗤っているような、悪役らしい人間を演じればいい。

 演技はスキルとしてそれなりに出来る。

 だから、何も問題はない。

 

 何故かは分からないが、自分に大丈夫だと強く言い聞かせる。

 すると、男の子は、


 

「何でそんなに、怒った顔をしてるんだ?」


    

 気が付いたらボクは、男の子の首を無理矢理引き千切っていた。

 もう少しだけ殺す気は無かったというのに、自分を抑えられなかった。


 自分の奥底を見抜かれたようで、怖かったのかもしれない。

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 男の耳障りの良い言葉に陶酔するのだ。 聴き心地が良いの意味であれば間違いなのですが?
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