209、一喝
まず、周囲に彼は居なかった。
この領地に、こんな強者が居たなら、当然のようにクララは気付く。
クララは、気配にとても敏感だ。
一定以上の力の持ち主は、理屈抜きに、異常なほどに存在を見抜く。もし視認できたなら、あらゆる誤魔化し、小細工を突破して、自分の命に届き得るかが分かるだろう。戦うリスクがどれほどか、命を人よりも大切にしているクララには、良く分かる。
僅かな異変も見逃さない、この小動物のような敏感さが、クララの武器の一つでもあった。
人間に完璧に擬態した魔物を見つけられたのは、そこで感じた違和感と、事前に用意していた情報とのすり合わせだ。
クララの警戒網を抜けようと思えば、魔術的、体術的にも尋常ではない技量を要求される。しかも、クララが無視できないほどの巨大な力を隠すとなると、強者が強者足りうる力とは、まったく別方向の能力が必要なのだ。
もしも隠れることを磨くために時間を使うくらいなら、その分、普通に鍛えたほうが絶対に強くなる。隠す、隠れるは強くなれば自然と身に付く技術ではあろうが、それを『極める』べきなのは戦士や魔術師ではない。
隠れることの才と戦うことの才も、まったく別の話である。
仮に隠れる天才なら、クララにも気付かれずに接近出来るかもしれない。だが、命を脅かすほどの強さには、到底足りることはないだろう。戦闘の天才においても同じことで、隠れることは見様見真似で、普通の達人以上にできるかもしれないが、それではクララには通用しない。
世界有数の実力者の中でも、クララの『自分の命を守ること』に関わる能力は、頭一つ抜けている。
クララに気付かれることなく接近し、その上でクララを殺せる能力を持ち得る人間など、この世界にはたった一人しか居ないだろう。
それほど鋭く、隙がない。
だが、そんなクララの直感にも引っ掛けることなく、どうやってアレンは接近出来たのか?
まず、アレンが弱かったのだろうか?
いいや、それはない。
異端審問官として活動し、経験を重ねて、能力を磨いた彼の力は、世界でも有数の実力者だ。彼を単独で倒せる存在が居るなら、それは世界最高峰の武の一角だ。
異端審問官の座は、それほど軽くはない。
クララとアレンとでは、純然たる力の差がありはするが、アレンはクララを殺せるのだ。
策を弄し、命を使い、犠牲を厭わず、そうしてクララの命を奪える。
そんな彼のことを、クララは過小評価しない。
見知った相手だ、手の内も当然知っている。
もちろん一部に過ぎないだろうが、やり口や方向性は十分頭の中にある。
嵌めるために使う罠もいくらか予想できる。
クララは、アレンへの十全な対策を立てているのだ。
アレンが弱いなど、クララはそこまで自分の実力を驕ってはいない。
では、彼の隠密が上手だったのか?
残念だが、それもない。
確かに、アレンはあらゆる事に長けており、その中でも隠密は良く使う得意な分野だ。
隠れることは、人並み以上に出来ている。
一般的に天才と呼ばれる人間の、数段上の段階だ。気配の希薄さは、そこらに漂う無味無臭の煙のよう。もしかすれば、本気のアレンなら、目の前に居ても見失うかもしれない。体と魔の融合の末に至った彼の到達点は、比類なきほどに遠く、高いのだ。
クララが逆立ちしても出来ない技だ。
心技体でいうなら、クララの領域は心と体。技の分野では、アレンにはクララは遠く及ばない。クララに出来る事の殆どはアレンに出来るが、その逆はまずない。
しかし、クララの察知は理屈を超える。
並外れた五感があって、周囲の生体反応を察知する魔術を仕掛けていて、その上に命の危機に対する凄まじい第六感が働いている。
クララの出来る事の幅はアレンの十分の一以下だ。だが、その十分の一でアレンをぶっ千切っている。
アレンでは、クララに気付かれないためには少しばかり足りない。目の前に現れるまで存在を悟らせないとなると、かなり厳しい。
いつかは出来るようになるかもしれないが、その時間は今ではない。
なら、残りは魔術か。
気配を消す簡単な魔術と体術の融合ではなく、未知の魔術によるもの。
転移などの空間操作系のものではない。
アレは空間という概念を操らねばならない性質上、どうしても術が複雑になる。
発動の気配を感じ取るのは容易である。
術を隠すための術式を埋め込む余裕が極めて少ない。効果が強力かつ超常的であるために、コストが高い。構造的に、気付かせないことが難しいのだ。
姿を偽るものでもなかろう。
偽ったとて、感じるエネルギーは変わらない。
生物の形を無理矢理変えて、その上で己を最低限失わない程度には性質を現在の姿と矛盾が生まれないように残さなくてはならない。
牛の魔物がクララの目を誤魔化せなかったのは、魔術の性質上、必ず擬態先との齟齬が生まれるからである。
また、幻覚で姿を消したとして、それは不自然なものでしかない。
貼り付けただけの映像と、実際の風景とでは必ず違和感が生まれる。
空間の在り方を歪めるそれは、必ずクララに気付かれる。
しかし、アレンは突然現れた。
気配を感じた瞬間と、五感で認知したタイミングは完全に一致している。
なら、一番自然な術はどのようなものか?
「その瞬間まで居なかった。もっと正確に言えば、お前がついさっき再構成された?」
「正解だよ、ボケ」
クララの予想を、アレンが吐き捨てる。
その表情の険しさから、言いたい文句が満載なのが察せられる。
状況を正確に把握しているようだ。
どこから見ていたのか、これからしようとしていた事に対して、クララへ怒りを燃やしている。
殺気すら混じり、クララへ凄む。
そして、クララも、睨み返す。
圧が空気にヒビを入れ、ギシリと空間を軋ませる。
「言いたいことはまあ、あるさ」
「いったい゛、いつがらだ?」
言葉がかみ合わない。
合わせるつもりもないのだろう。
お互いがお互いの言いたいことだけを投げかけ合う。
二人とも、苛立ちで形相が険しくなっていく。
「だが、それよりも今は再会を喜ぼうぜ」
「今の゛ま゛術、お前の゛がらだを作り出すためのものだ。対じょう゛に因じを纏わぜ、お前の゛都合でい゛ん子をもぢい゛てでぎどうな物体を゛召喚じながら、肉体をざい構築する。見事な゛腕だ、感服する゛よ」
喜ぼう、感服だ、などと嘯いてはいるが、明らかにそんな空気ではない。
今すぐにでも殺してやろうとしているようにしか見えない。
己の得物を握りしめる手は、力が入りすぎている。
もしも、二人の武器が一般的なナイフやメイスであったなら、いとも簡単に握り潰されているだろう。
額には、怒りに比例して青筋が浮き彫りになっていった。
さらには、クララの傷だ。
炭化や液化が至るところに見えていたが、それが急速に回復している。
炎も足掻くようにゆらゆらと揺れるが、それを無理矢理押さえつけるように再生は早まる。
変色した肌が大部分であったが、瞬きを数度すれば、もう既に通常の肌と焼けた肌との割合が入れ替わる。
「なあ、クララ。俺は、お前とはまだ戦いたくないんだ。頼むよ。ここで武器をおろして、仲良く同窓会といこうぜ」
「驚くべきは、ぞの技量だ。ボクに気付がれない゛ほど微量ない゛ん子で、ここまで複雑な魔術を発動するとは。ただ付いている゛だけの汚れとも言えな゛い汚れ、いちいち気にする方がイカレてる。指先でづまんだ剣で彫像を作るようなものだ。ボクが同じことするなら、君の因子の千倍は強烈でなければ」
まだ、会話をするつもりはないらしい。
苛立ちはどんどん高まっていく。
圧力がさらに高まり、ついに床が剥がれだした。花瓶は割れ、柱に亀裂が走っている。
ピシリ、ミシリと嫌な音がそこら中からする。
何か一つ、キッカケがあれば二人は目の前の相手に即座に飛び付き、殺し合いを始める。
緊張が張り詰めていく。
二人の脳内では、既に数十通りの受け攻めが繰り広げられていた。
もう、戦闘までは秒読みだ。
合図はおそらく、クララの再生完了になる。
もう十秒もかからない内に始まる。
「今、何をしようとしてたか、聞かない」
「だがまあ、それとは別に、いつから印を結んでた? 勝手に人の体に余計なモノをつけていた?」
幾度か、二人は喧嘩をしたことがある。
意見が合わなかったり、仕事のやり方が合わなかったり、理由はまちまちだが、何度かだ。
厄介な事に、二人は力を持っている。
並の戦闘員では、一秒も生きてはいられないような余波を作り出せるほどだ。
もしも、二人がマジギレして、力を抑えることを忘れてしまえば、その影響は計り知れない。
かつての喧嘩では、一帯の地図が書き変わるような大災害を巻き起こした。
現状、その一歩手前である。
殴り合いならまだマシだが、武器を握り締め、しかも仕舞うつもりがないのだ。
つまりは、これからの喧嘩は何でもあり、終わりが来るまで止まらないということ。
理性が吹き飛ぶ寸前の二人に、僅かな冷静さが働く事を期待するほかない。もしそうでなければ、大勢人が死ぬというだけのことだ。
二人は同時に構える。
臨戦態勢に移行した。
「殺しもまあ、いいさ。好きな場所で気に入らない奴を殺すのを、俺は別に反対しない」
「あまつさえ、ボクの仕事の邪魔とはな。一番重要な仕事をほっぽり出して……」
スウっと、空気が冷えた。
怒りで暴走しているようにしか見えなかった、二人に内包していた暴力が研ぎ澄まされる。
静かに、けれども力強く。
何かあればすぐに動けるように。
特に、お互い初動を完全に叩き潰せるように。
「だがよお、狂犬じゃねぇんだ……。最低限、超えちゃいかん線ってもんがあるだろう……?」
「これほどの魔術を展開するのは大変だなあ? その泡みたいな分身動かす間、本体はどうしてるよ?」
ピリピリと、あと少しの所まで来ていた敵意。
威圧、感情や間合い、そして言葉。
二人が一番指摘されたくない所に投げかけられた挑発の言葉は、二人の体を弾くように動かした。
凄まじい圧力のメイスが、アレンに迫る。
脳天から唐竹割りにするための、超速攻だ。
振り下ろされれば、アレンの体を真っ二つにした上で、凄まじい衝撃と共に地面を爆ぜさせる。
破壊そのもののような剛力。
力の究極が、こうして繰り出される。
だが、迫る死を前に、アレンは一ミリも臆さない。
「いい加減にしろ。異端と一般人を間違えるな。殺す相手を見極めることを適当にしたら、お前は何に成り下がるっていうんだよ?」
「西は死んだ。南は消えた。なら、今は東だろ? まだ昼だぞ? 夜ならまだしも、こんな事をしてる暇がどこにあるのか是非聞きたい」
メイスは、何も壊さず地面に着いた。
同じように、金属音が響いた。そして、その次の場面で、メイスは何も壊すことはなく攻撃が終了した。
ふわり、と金属の塊が舞ったのだ。
木材の床に軋みすら生まず、完全に衝撃とパワーを殺しきった。
そんな超絶技巧を誇りもせず、された側も驚きもせず、ただ眼前の敵を見ている。
「見るに堪えないゴミになったなら、俺はお前を処分する。そういう約束をした」
「お前は、いったい何を優先したんだ? 『勇者』および『聖女』の監視は、お前の任務だ。それを放り出して、何をしていると聞いている」
意見を吐き終わったら、また攻撃だ。
いつの間にかアレンの手に握られていた無数のナイフがクララへ飛ぶ。
手品のように突然、何もない所から気が付けばジャラジャラと。
それらがハヤブサのように、目にも留まらぬ速度でクララに襲いかかった。
だが、クララもその程度では慌てない。メイスをぐるりと身を包むように振り払うと、ナイフたちは一つ残らず肉を裂く前に撃ち落とされた。
しかし、奇妙なことに、握られていたナイフよりも、撃ち落とされたナイフの方が明らかに多い。
さらに言えば、落ちたナイフの位置から見て、後ろや左右といった、通常ではありえない位置からの攻撃も受けていたようだった。
どんな手を使ったのか、クララは想像も出来ない。
アレンの使える手が多すぎて、結果は見たことがあっても、過程が分からない。道筋が多すぎて、どうやっても特定出来ない。
前回クララが見た時とはまったく違うやり口で、ナイフの増殖、射出、透明化まで行った。隙を突く事が出来ず、振り払うことしか出来なかった理由がコレだ。
得体が知れなすぎて、迂闊な真似が出来ない。
ミスや無謀をとことん攻めたて、貪り尽くすのが、アレンのやり口だからだ。
だが、警戒もそこそこに、クララはアレンに向き直る。
睥睨し、見下し、これからお前を潰す、と宣言しているようにも見える。
ひたすら冷徹に、手加減など微塵も考えず。
自分の意見をぶつけるために。暴力を伴ってしか、その敵と語り合う事が出来ないから。
「「答え次第じゃ、殺すぞ」」
本気で、答え次第で殺すつもりだった。
何故なら、二人はお互いを心の底から大切に思っているからだ。
両方が、今の互いを最良と思っている。だというのに、異端審問官という肩書のせいで、曲がってしまったなら、彼らは片割れの惨状を許容できない。
クララは、愚かになったアレンを許せない。
守るべき彼女のために、彼とて死ねるはずだ。
最も弱い彼女を守る事を目的に、今まで多くの犠牲を出してきた。
これまでの殺人に関して、責める資格などないし、するつもりもさらさら無い。だが、その意味を奪う行為だけはしてはならないと己に課している。だが、こうして、大局に影響のない、どうでもいいことのために、護衛という命よりも重い役目を放り出しているのは、それに著しく違反する。
殺しに嫌悪を抱かない自分たちへの、せめてもの戒めだ。
優しい、守るべき少女が誇れる兄妹ではもうないが、そこを最後の一線として、堕ちきることのないように、という。
二人で誓った、三人のための制約。
それを破ろうとしているのなら、殺さなくてはならない。
アレンは、堕ちたクララを許せない。
守るべき彼女のために、何でも出来たのだろう。
だが、その彼女が嫌悪するような邪悪に成り下がるというのなら、そうなる前に彼は止めるつもりだった。
そんな結末は、誰よりも彼自身が望まない。
尽くして尽くして、その後に待つのが命よりも大切な存在からの拒絶など、アレンは死んでも御免だ。
それなら、死んでしまった方が幸せだ。傷つき、立ち直れないような痛みを負う不幸を受ける前に、終わってしまった方が、クララのためになる。
クララは、そういう悪逆非道を為そうとしていたのだ。自分の首を絞めて、ひたすらに苦しもうとしていたのだ。
誰も幸せにならないなら、途中で打ち切るべきだ。
三人の事を考えた、ただ一人で至った結論。
だから、その息の根を止めねばならない。
決定的にすれ違っているが、そんなことは当事者たちには分からない。
認知する事すら出来てはいないだろう。
頭に血が上っている状態なら、相手を尊重する思慮は死ぬ。
ましてや、殺し合いをしようとしているのだ。それが生きているのなら、はじめから交戦などあるはずもない。
なおも緩まない眼光と拳が、その証拠だった。
「なあ、頼むよ……」
「今すぐ頭を垂れろ。そしたら許す」
頭に血が上り続ける。
冷静になろうとも考えるが、そんなことをしている暇もない。
冷静になるよりも早く、怒りが貯まる。
正面の相手の頭を踏み躙ることしか、苛立つばかりの頭では考えられない。
「殺させるな。お前が死ねば、アイリスが悲しむだろう?」
「裏でコソコソするのがお前の得意技じゃなかったか? 穴蔵から出たのは間違いだったな」
二度目の衝突は、本気で行くだろう。
一度目のような甘い結果にはならない。
命を奪うための、全力だ。
漏れた攻撃だけで、いったい何人死ぬだろう?
「分身風情が、このボクを殺せると? 彼我の実力差も分からないなら、半人前以下の未熟だぞ」
「炎は消えていないな? 外側だけ必死に取り繕って、随分おめかしが得意になったと見える」
お互いの言動が気に食わないのは当然だが、少し挑発が効きすぎたらしい。
みるみる余裕がなくなっていく。
冷静を心掛けても、言われた言葉、相手、状況によっては簡単に理性を燃やしてしまう。
癪に障る物言いは、お互いがお互いをよく理解しているだけに、容易に効果的な言葉を引き出す。
山火事のように、火が素早く広がっていく。
その火によって着いた闘志は、戦闘という手段を強く推奨するものだ。
背景も、理由も全て忘れて、全開で戦うつもりで。
「……最後の忠告だぞ、石頭。先生を殺そうとした納得できる理由を言え。冷静になってみろ。生かす理由はあっても、消す理由はないだろ? なあ、それでも本当にまだ殺すつもりなら、俺がお前を殺す」
「最後の忠告だ。今すぐ術を解け。今まで気色の悪いモノを黙って貼っつけてやがったことも、今だけは目を瞑る。お前はアイリスを守るためだけに力を使え。分かったら、帰れ。分からないなら、分身を消した後で本体を殺しに行く」
最後まで、二人は相手の話を聞かなかった。
自分の意見を押し通す事ばかり考えて、意固地になっているのだろうか。
喧嘩は、往々にしてこう起きるものだ。
自分ばかりで、思考の中に他人を入れないから、他人がそれに腹を立てる。
子供のように無視を決め込もうとする様子を見れば、少し微笑ましく思える。
だが、ただの子供の喧嘩で終わらないから、まったく笑えない。
「「…………」」
冷ややかな静寂が支配する。
鳥のさえずりや、草木のざわめきすら聞こえない。
舞台に不必要なものが軒並み排除されてしまったような、そんな人工の不気味さが拭えない。
先ほどのように、殺気を飛ばしあってくれた方がマシだった。
苛烈な戦闘をいつ繰り広げてもおかしくないが、そうならないと確信させる虚無が広がり、辺りを呑み込んでいる。
恐ろしくもおぞましい敵意と、相手への好意が衝突し、肉体の動きを阻害する鎖が生まれていた。
だが、それも一瞬のことだ。
「「殺す」」
クララは怒っていた。
何よりも大切な宝を守るため、アレンを信頼して番人を任せた。
だが、任を投げ出して、こんなところに居る。
実際は分身で、本体は今も戦線に居るのだろうが、それがどうした。本体に限りなく近い戦闘能力があるのは、さっきの小競り合いで分かる。そして、そんなモノを動かし続けるのに、力をどれだけ割かなくてはならないかも、なんとなくは。
もしも、があった時はどうするつもりなのか?
目の届く範囲に居るだろうが、集中力と魔力を大幅に消耗した状態で、どうやってまもるつもりなのか?
無責任かつ無計画だ。
信頼を裏切った事は、苛烈な怒りへ昇華される。
アレンも同様だった。
この場所は、三人にとって重要な意味を持つ、いわば聖域だ。
そこを踏み荒らす不届き者が居るのなら、二人は全力でコレの消滅に向かう。
役目を果たし、やっとの想いで故郷に帰ってきたら、そこは荒野であったなど、趣味の悪い話だ。だから、守るべき少女が故郷へ帰ってきたとき、そこが暖かで、誰にでも自慢できる場所でなければならない。二人はそのことを、話し合うまでもなく、認識を共有していた。
だが、それを壊そうとしているのは、同じ目的を持つ仲間だった。
少女が戻ってきたときに、飛び込む景色が悲惨であることは、アレンは嫌だ。だが、万が一少女が全てに気付き、下手人を恨むことになるなど、耐えられない。
自ら破滅を巻き起こそうとしているクララの破綻を、彼は見逃せない。
殺さなくては、という使命感が、彼を突き動かす。
そして、
本当の衝突は当然、訪れる。
「くたばれ」
「消えろ」
ナイフが飛んだ。
メイスが落ちた。
衝突のインパクトで、地面が凹む。
音と同じ速度で、力が弾ける。
「止めなさい!」
だが、次の瞬間、母からのただの一喝で、冗談のように二人は動きを止めた。




