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207、理由はどこにもない


 ソレは、過去を忘れない。

 過去から、人間は出来ると考えるからだ。

 どんな人間でも、過去の経験によって人格や価値観を作り出していく。そうして組み上げた今を使って、未来というものを生み出す。

 過去は基底で、土台だ。

 そこが崩れれば、全てが崩壊するのだとソレは信じてならない。

 だから、過去をあ(・)ま(・)り(・)蔑ろにはしない。

 かつて起きた出来事を、大切に取っておく。

 覚えておこうと思ったのなら、箱に仕舞うかのように後生抱えることだろう。


 痛みや苦しみ、撒き散らした害など覚えていられないからすぐ忘れるが、恩だけはいつまでも覚えている。

 自分を作り上げた大切なものだ。

 辛酸はあまりに多すぎて覚えきれないのだから、せめてこれくらいは、と考えているのかもしれない。恩を受ける機会が苦痛に比べて圧倒的に少なく、それを希少なものだと心の底で考えているからかもしれない。

 だが、何にせよ、恩はソレの中に残る。

 形象も名称もできない無数の傷よりも、よほど鮮明に。傷を隠す薬として、長く重宝されるだろう。

 

 何よりも、ソレの性分だ。

 受けた恩くらい、どんな形であれ返すべきと、非情ではない部分のソレが語っている。義理堅くは在れないが、少しでも出来ると思うのなら、返すものは返そうとはしている。

 根は、実は真面目だった。

 任された仕事はきっちりこなす。一ミリだって不足は生まず、何なら過剰にでもやる。約束は守る、契約は破らない、初志からブレない。

 コツコツと積み上げることでしか、問題を解決することが出来ない。

 不器用は、生真面目の言い換えでもある。

 真正面からしか、物事に向き合えないのだ。

 愚かなソレは、どうやったって、迂遠な手を取るには向いていない。することもあるが、失敗するか、始めからバカ正直にやった方が早いと確信している。

 必要、という絶対さえ絡まなければ、基本ソレはただ義理堅いだけの存在だ。


 だから、殺さなかった。


 振り下ろした鈍色のメイスは、人血の赤に染まることはなかった。

 いつでも殺せたはずなのに、皺まみれの肌を切ることすら出来なかった。

 その顔を見て脳裏に浮かぶのは、ひもじく、凍える日々だ。素朴で、決して楽は出来ない日常だった。だが、それはまるで木漏れ日の眩しい、雪の溶ける春のような、暖かで心休まる時間だ。

 苦しさを呑み込むだけの、今とは違う。

 そして、その時間を、どんなものにも代えられない宝を創り上げたのは、目前の弱々しい老婆なのだ。

 ソレの命が今あるのは、老婆が居たから。

 十数年前、ソレを拾ったのは彼女だ。

 ソレの物語の始まりは、老婆が居なければ存在しなかった。すぐに終わるはずだった命が、今もこうして図太く生き残っているのは、最も弱かった幼少期を誰かに守ってもらってこそだった。

 ソレが何よりも大切にしている命も、親の慈悲があったればこそだ。

 頭が上がるはずがない。


 そして、ソレのもう一つの宝も、老婆が居なければとっくに壊れていた。

 感謝しても、したりない。

 恩義を測るのならば、ソレの全てを差し出しても足りないほどだろう。

 


 返しきれない恩がある。

 一生、それこそ老婆が死んだとしても、彼女の願いを叶えるために奮闘してもいい。

 命を、生き甲斐を、生きる意味をもらった。

 人生の根幹を、全て貰った。

 いったいどうして、傷付けたいと思うのか?

 ソレもソレの価値観において、老婆のことを深く、深く愛している。

 殺したいだなんて、冗談でも言えない。

 

 だが、だが、しかし。



 老婆の命は、ソレの目的には釣り合わない。

 


「ぜん゛だくじを、あだえ゛まじょう」



 とても気味の悪い声だった。

 人の声として聞こえるギリギリの醜さだ。

 喉の焼け具合が酷くなっているように思える。

 溶けた皮膚がボタリ、と地面に落ちて、喉の中が一瞬丸見えになった。誰かが、ソレの喉を締めて、黙らせようとしたようにも見える。

 だが、ソレにはまったく効かない。

 回復力で炎の呪いは掻き消える。

 次の言葉を紡ぐまで、時間は五秒とかからない。



「ただ、ひどごどで、いい゛です。たっだ、ひどごどでくだざれば」



 メイスは深く地面にめり込んでいた。

 恐ろしいのは、メイスの先端、地面にのどこにも無駄な破壊が存在しないことだ。

 速度、威力から推察すれば、砂利がとてつもない速度で弾けてもいいはず。だが、メイスが当たった箇所以外、地面は砂一粒すら変化はない。

 威嚇にしては、手が込んでいる。

 技を見せたところで、解する者など居ないだろうに。ただ、破壊を見せびらかせば、その方が早かろうに。

 どんな無駄な意図があるのか、答えはソレの頭の中にしか無い。

 しかし、無粋な想像をするのなら、きっも極力、場も、人も壊したくなかったのだろう。壊す可能性を一厘すらも残したくなくて、無駄な事をした。



「…………」



 ソレは、とても簡単な事を言いたかった。

 考えるのもバカらしい、一択の選択肢。

 万が一すら、ソレの思い通りにならない道は存在しないと確信している。

 だが、一瞬言い淀んだ。

 もしもがあったなら、確信が裏切られたら、と思えば、不思議なくらいに固まった。

 

 ほんの僅かな躊躇いだ。

 一瞬の気の迷いだ。

 あり得ないと、心の中で必死に否定する。

 そうして、絞り出すように声が出る。



「あ゛の゛まもの゛どは、がんげい゛がながっだど、いっでぐだざれ゛ば……」


 

 この交渉はソレにとっての、最大限の譲歩だ。

 問答の余地すらなく、ソレは為すべきことを実行に移すべきだ。

 しかし、そうはしなかった。

 どうしても、ソレには出来なかった。

 賭けに出るしか、願いは叶わないと確信した。

 

 本当なら、危険な事はしたくない。

 天秤がどちらに揺れるか分からないのなら、行動しないのがソレの原則。

 確実しか取らない、危ない橋は放置する。

 堅実とも臆病とも言えるソレの性格上、予想出来ない状況を生み出す要素はとてつもなく不快だ。

 されども、やってしまった。

 過ちと知りつつも、誘い込まれた虫のように、フラフラと触れてはいけない花に触れた。

 吐いた唾は、もう飲めない。

 後悔しそうになるが、そのせいで見苦しく足掻くことの方が、したくはなかった。



「だれ゛も、じら゛ながっだ……だがら、あ゛れをひぎい゛れだ……でじょう……?」



 もしも一度、天に『否』と言われれば、それだけで終わってしまう。余計なことを考えるな、無駄な事をするな、己が使命を果たせと言われれば。

 そして、結果として不興を買う恐れもある。

 一番影響があってほしくない所に、凄まじい悪影響がもたらされる可能性が、どうしても生まれる。

 あらゆる可能性を完全に排除するだけなら、何も思い悩むことはなかろうに。怪物であることを望み、然るべき強さを得たはずなのに。

 人の心が、たおやかな愛が邪魔をする。

 柔らかな毛糸が、歯車を巻き込んで装置を壊すように、動きを酷く阻害する。



「…………」



 ソレはその言葉を、煩わしく思ってきた。

 今まで何度も聞いてきた定型文。

 色々と言い方はあるが、全てをひっくるめてまとめるなら、命乞い、というもの。

 自分はアレと関係がない、命を奪われる理由がない、頼むから助けてくれ、何でもするから家族だけは。

 そんな必死の言葉を、ソレは一度も取り上げることはなく、全員の頭蓋をかち割ってきた。

 聞く耳を持たない事が、ソレに任された仕事をする上での鉄則だ。

 心を痛める暇すらない。

 痛めているなら、時間の無駄でしかない。

 だから、延命と慈悲を求める言葉は同じく無駄で、する意味などない。ただ、ソレが煩わしいと感じる分、手を早めさせるだけのことだ。

 

 だが、今は、今だけは、今後一生絶対にあり得ないだろうが、今だけは違う。

 この瞬間だけは、例外中の例外だ。

 天地がひっくり返っても無いだろうと、ソレが自分で思ってきた事が起こった。

 


「だの゛みまず……」



 何度考えても、変らない。

 老婆を殺したくはないと思うのは本当で、どうしても大恩ある彼女を傷つけたいとは思えない。手折ればそれまでの命を、こうもむざむざ生かしていたのは、受けた恩がそうするなと言ったからだ。

 街に居る人間の中で、他のすべてがただのゴミでも、その人だけは残すべき宝だと信じてやまないからだ。

 己の母を、殺すのは他と一線を画す。

 背負う罪業は他とは違う意味を持ち、その重みもまったく違う。

 これまでソレは、背負ったものが重いと思うことがなかった。ソレがあまりにも強すぎたからだ。どうでもいい人間をいくら殺しても、ソレの心を変えるには到底及ばない。


 僅かに罪を感じさせる者も、居るには居た。

 だが、彼らは言ってしまえば、ソレの心を開き、近付こうとし、その結果殺された者のことだ。

 彼らは不運であり、そして身の程知らずでもある。

 ソレに目を付けられてしまった。そして、自分なら出来る、ソレの心に寄り添えると、思い込んでしまった。だから、彼らはソレに殺された。自分がソレの心に入り込む余地などどこにもないと悟らずに。

 

 カレンは彼らと違う。

 入り込むどころか、始めから中に居たのだ。

 個人を形成する場に居合わせ、そしてソレがソレになるための要素を得る時間を作った。

 その重要度は、所詮は後から来ただけの他人たちとは比べ物にならない。

 出来ることなら、殺したくはない。



「ぞう゛で、ない゛なら……」



 だが、不可能な訳ではない。

 殺す事を考えれば身が竦んで動けなかったり、死体になった母を見て心が砕けそうになったりしない。

 むしろ、腹を決めればその一秒未満で、胴と首を切り落としている未来が見えてしまう。

 やろうと思えば殺れるから、乞うているのだ。

 出(・)来(・)る(・)事(・)な(・)ら(・)殺したくはない。な(・)る(・)べ(・)く(・)そうなることは避けたい。

 だが、何が何でも避けたいわけではない。

 自分のすべてを犠牲にしても、カレンの命を救おうとは思えない。

 


「ごろ゛ず、じか、あ゛りまぜん……」



 死を宣告するしか、道はない。

 カレンの命とソレの目的、どちらが重要かと問われれば、前者を即答でかなぐり捨てる。

 その覚悟は、とっくの昔に出来ている。

 己の全てを切り捨ててでも、達成せねばならないと決めて、その通りにしてきた。

 これも、その一環だ。

 何もおかしな事ではない。

 優先順位が動くことは、絶対にない。

 本当の本当に生かしたい相手は、手の届く範囲には居ないのだ。

 

 神の命令は、絶対である。

 それは、神が絶対であるからだ。

 裏切りや不服従は、相手が最も恐れる形で実現されることだろう。

 だから、どうしても背信は出来ない。

 そして、どうあっても遂行は出来る。

 

 

「でずが、」



 だからこその、譲歩だ。

 遂行の定義は逃げ込んだ魔物(ゴミ)と、その魔物(ゴミ)に毒された人間の駆除。背信の定義は、見つけ出したそれらを正当な理由なく見逃すこと。

 毒されていない証明があれば、殺さなくても済むかもしれない。

 個人の宣言がシロである事の証明になると、ソレは毛ほども思ってはいない。だが、シロかクロかの判断は、担当する異端審問官次第でしかない。

 後から文句をつけてきた例は、少なくともソレは寡聞にして知らない。


 それに、メインの目的はもう達成している。

 もしかすれば、不都合な真実を許されるかもしれない。他の用事は、言ってしまえば些事だ。同じ異端審問官でも、一部はここまではしない。

 任務に対して過剰に真面目な者しか入れ込むことはなく、もっと雑でも良いのだ。

 ソレが神経質なだけで、わざわざ殺して回るほど、天(・)は気にしてはいない。あくまでも、ソレの気遣い、振られた仕事以上をこなそうとしただけのこと。

 天(・)の利益になるのは間違いない。

 必死に尻尾を振るソレの様子は、随分可愛らしく見えただろう。

 

 だから、一度くらいは許されるはずだ。

 仕事を規定の範疇で終わること。

 今までやり過ぎだと言われたことがないのと同じく、途中で止めてもきっと何も言わない。

 止めた事を一つの選択として、面白おかしく受け取るはずだ。

 不安になる必要は、一切ない。

 天(・)の事を誰よりも理解しているソレが、自分でそういう結論に辿り着いた。

 

 安全な策なのは、確実なはずだ。

 だから、不安を感じるのはおかしい。

 ソレ自身が、絶対と思ったことだ。

 

 何故か、じっとりと何かが張り付く。

 恐れるモノなど何もないソレが。  

 万事順調で、予想通りに進むはず……



「どう゛が、」


「それには及びません」



 ソレの耳にも、真っ直ぐな声色が聞こえた。

 一本筋が通っているのだと、すぐに察せる。

 耄碌した訳でも、気が狂った訳でもなく、カレンは提案を蹴ったのだ。

 地面が崩れるような衝撃を、ソレは感じた。

 炎と再生が拮抗していたのだが、初めて全身の延焼が上回る。

 身体の端から炭化し、一気にボロボロと落ちる。

 背後にピタリと張り付いた死を、ソレが忘れてしまうほど、意味が分からなかった。

 

 だが、ソレはカレンの慈愛を知っている。

 考え方が何だかんだで似ている。親と子だからか、深い理解がある。

 だから、もう止まらないと分かる。

 取り返しのつかないことになる。

 けれども、それを止める権利は、ソレが有してはいないものだった。

 ソレの思い通りには、ならなかったのだ。

 


「私を殺しなさい。それで、貴女の望みが叶うのなら、その方がいい」



 これは、とても残酷な願いだった。



 ※※※※※※※※※



 カレンは、聡い人間だ。

 自分の手札と、予想するしかないその外側から、かなり正確に物事を理解できる。感情と行動を切り離し、常に自分を俯瞰しながら、何をするのが正解かを考察する。

 仮に天才というものが居るとするなら、彼らはコレに、さらに優れた感覚が備わり、どこかにあるであろう正解という曖昧な概念に辿り着くのだろう。

 カレンは天才とは言えないが、その半分くらいのことは出来る。

 元来の性質などなど、色々一括に出来ない要素はあるが、一番しっくりくる言い方を、誤解を恐れず言ってしまえば『年の功』というやつだろう。


 長年、のらりくらりと危険を躱してきた。  

 その結果が、今のカレンに繋がる。



 幼き時期は、年相応に幼かった。

 熱い鍋に触れれば、火傷した。深い河で足を滑らせれば、溺れかけた。生焼けの肉を食べれば、腹を壊した。家畜の扱いを間違えれば、暴れられて怪我を負った。

 だから、素直に親の言うことを聞いた。

 自分で勝手にやったなら、ほとんどがロクなことが起こらない。

 自分には足りないモノがあると確信し、足りている彼らには従わなければと感じたのだ。

 だが、思考停止した訳ではない。

 自分に出来ない事をより深く考えるようになり、どうすればより良くなるかを求めるようになっていった。


 少女が大人になった時、足りなかったものを自覚し、多くを埋めることが出来ていた。

 その頃は、もう人付き合いの重要性に勘付いていた。

 知識の不足は失敗を招くと経験から悟っていた。なら、対策として、知識を仕入れる。それは、大抵の場合は本や人からだ。そして、本にはない便利さを人に感じたのは、カレンが十三になる前の事である。

 自分一人で出来ることには限界がある。見えるもの、聞こえるものも、どうしても狭くなる。そして、一人よりも、複数人が効率的に動いた方が、確実に大きな事が出来る。

 この時、既にカレンは人に取り入る事を覚えていた。

 関係は広く、薄く。だが、周辺の十数人は濃く。

 外側へ少しずつ関係を広げ、敵を作らない。居心地の良い環境を創り、人が去りたくはないようにする。恩を売り、恩を買いながら人を増やす。

 もちろん、カレンは詐術の天才ではない。

 心掛けと理想の話であって、実際にはこの半分達成できているか怪しい。

 だが、おおよその人間関係はこうだった。

 処世術としては、及第点は十分超えていたろう。多くの人間を引き寄せ、多くの人間に評価されてきた。


 大人を続けていくと、疲れが溜まってきた。

 修道士として、多くの人間に触れてきた。

 誰からも讃えられ、感謝される。

 人の心を掴むことは、意識して続けてきたために上手くなっていった。

 信徒たちの吐露、同僚の愚痴、先輩の叱責、後輩の縋りつき。そういったものが、人一倍多かった。人の脆い部分、醜い部分が多く見えてきて、何となくダルくなってきた。

 喜びに思う事も多くあったが、面倒だと思う事の方がずっと多い。

 人から好かれ、嫌われる事は極端に少なく、得たものは抱えきれないほどある。

 しかし、どうしてもダルさは消えない。

 都市の教会で働いているために、人は多かった。一般的に見て、良い職に就いて入るのだが、どうしても違和感を拭うことは出来なかった。


 時間が過ぎて、ふと目に映った自分の手が、シワだらけになっていた頃、ようやく今に落ち着いた。

 無垢な子供は、何でも許せたのだ。

 結婚はせず、子を産んだこともない。関わる必要がないと近寄らなかったために、近寄る事もなかった。人生において、子供と積極的に関わったのは、白い秋を迎えてからである。

 弱さを許容し、強さを讃える。

 それだけの事だが、大人を相手にするなら、どうしてもマイナスばかりが目立ってしまう。

 けれども、子供相手は別だった。

 そういうものとして、納得できる。

 管理人が死んだばかりという田舎の教会に、逃げるようにして異動を志願した直後に、これに気が付いた。そこの前任者は奇特で、あえてスラムに教会を設立したようだったが、運が良いのか、悪いのか。集めた子供の親代わり、という役目を継げて、それにハマッたのだから、人生何が起きるか分からない。

 だが、上っ面な関係を築き続けたカレンが、久しくなかった真の愛を自覚したのだ。

 子供たち一人ひとりを深く愛した。

 彼らの人生に期待し、育つ事を楽しみにした。

 命をかけれるやり甲斐が、そこにはあった。

 


 だから、構わないのだ。

 子に殺される事も、子のためというなら本望でしかない。

 自分の命よりも、子が何よりも大切だ。

 ならば、カレンの答えは決まっていた。

 その子が何よりも大切にしているというものと、もうすぐ死ぬ老い先短い命など、比べるのもおこがましい。

 

 確かに、子は傷付くだろう。

 自分の目的のために親を殺すという業を背負わせる事は、確かに心苦しい。

 だが、それによって、ここ一番で後悔される事の方が嫌なのだ。

 きっと、その後悔は何よりも重いだろう。

 もうずっと立ち直ることは出来ず、そこに子の幸せがあるとは思えない。

 残された子も居るが、カレンは、自分が彼らの生き甲斐であると、過大評価はしていない。自分が死んでも、多少立ち直るには時間がかかるだろうが、一人残らず全員立ち直ってくれると確信している。


 他の誰かなら、止めるように諭したかもしれない。

 中途半端な覚悟なら、十字架を背負わせる事の方が重いと判断する。

 けれども、ソレは違うのだ。

 ソレは、クララは、生半可ではない。

 止めないほうが、娘のためになる。

 だから、カレンは殺せと言っている。


 自分への情が不確定要素になっているのは、クララの発言から分かった。

 理論立てて考え、何故クララがそうするかも、心情含めてほぼ正確に理解していた。

 

 だから、言っている。

 生かす理由はないと。


 

 そして実際に、クララがカレンを殺さない理由は、どこにもありはしなかった。


 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] ハッピーエンドは聖女と再開して心が回復してからエンディングいきかな?あと勇者は夜道にきおつけろよ?
[気になる点] これハッピーエンドに到達できるんでしょうか?
[気になる点] 今、孤児院に居る子どもたちはどうなりますか? カレンさんは考えてますか?
2022/04/06 04:13 退会済み
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