126、屍王の迷宮(3)
出来るだけ早く書きますが、これからは一話のクオリティを求めたいです。
第四層支配者、リビング・デス。
第五層支配者、死命蛇。
倒した支配者たちの名前だ。
どれも脅威度で言えば、間違いなく厄災として語られるクラスである。
単体でも国に軍が派遣されかねない、危険な魔物。しかも、それが屍王の瘴気によって強化されている。
対処にあたったのが普通の強者であったなら、勝負にならない程度には凄まじいことになっていた。簡単に言えば、とんでもない化け物、というやつだ。
しかし、勇者一行には敵わない。
西の戦線にも、そういう化け物はちらほら居た。
けれども、そういう化け物は異端審問官か、英雄クラスが徒党を組んで事に当たるか、勇者一行が倒すかしていたのだ。
リョウヘイとカイルが戦い、ラトルカとアイリス、アレンが影からサポートする。そして、支配者の間では、敵はあくまで一体ずつしか出て来ないのだ。
それに、出て来る化け物たちも全て、一応常識の範囲内の脅威でしかない。
少なくとも、いつか出てきた牛の化け物や、どこかの獣の王のような馬鹿げた相手ではない。そういう類のモノが出て来るのは、もう少し後の方である。
だから、全て許容範囲だ。
全力など出さずとも、余裕をもって対処可能。
力の温存を充分すぎるほど行いながら、地道に迷宮の探索を続けた。
道を進んでいき、向かい来る雑魚を倒す。
雑魚のレベルもかなり上がってきて、余裕ではあるが、少し力を使わなければならなくなる。アレンの道案内があるから迷うことはないが、もしも彼が居なければと思うとゾッとする場面は多々ある。
いたずらに体力を消耗し、結局戦う力がなくなって、もと来た道を戻るか、そのまま死ぬかという己等が見えた。
それが分かった上で思うのが、その迷宮の難易度の高さと、攻略が可能だという不思議さだ。
屍王の迷宮は、ほとんど攻略不可能だ。
出て来る敵は強いし、ゲームに出て来るような体力回復スポットも、HPやMPを都合良く回復してくれる便利なアイテムもない。
特に敵が強いというのが致命的である。
勝てる人間が本当に限られており、挑める人間など千人にも満たないだろう。そんな英雄クラスを幾人か使い潰して探索を行う迷宮の難度が、低いはずがない。
瘴気で体は思うように動かず、しかし相手はその瘴気のおかげで強くなる。連戦の果てに、待っているのはさらなる化け物が待っているのだ。
そして、三日という制限時間。
普通に考えたなら、攻略など出来るはずがない。
しかし、その難易度も完全に不可能と言い切れるほど馬鹿げてはいない。
まずもって、どうして『攻略』という形を取らせているのか、ということ。
そもそも、こんな迷宮を創り出せるというのなら、人間に『攻略』すらさせないものにすれば良い。ご親切に、一層に一番弱いボスを付ける必要などない。ボスを倒せば下の階に行けるようにする必要もない。先に進ませるつもりなどまったくない、袋小路をいくつも作り出せば良い。
何かと、不自然さの多い迷宮だと言える。
けれども、そんな違和感を感じられる暇がないほどに、迷宮は人を殺す事が出来た。
その恐ろしさに、誰も気付けなかった。
迷宮を攻略するという出口と、その突破口の狭さに釣られたのと、実際に生き残った人間の少なさのせいで、この考えに至る者などほぼ皆無だと言っていい。
これまで培われた歴史に、否を叩き付けるのは相当難しいのである。
だから、コレに行き着く事自体が、相当に常識外れだということを教えておきたい。
※※※※※※※※
「おかしいよな、この迷宮って」
「は?」
一日で六層まで、とアレンが定めたのは彼らにとって問題がない範囲で動ける限界値である。はじめに四層と言ったのは、その後十層まで攻略のための、最低限度の進行度。正直、それでいくつもりは端からなかった。つまりは、能力と時間を考えて、ここまでは苦労なしに来れると判断されたのだ。
何十という化け物を退け、暗くて狭い道を進んできたが、まったく問題なかった。
多少は息苦しく感じることはあるが、それだけだ。
対策の魔術は問題なく作動し、戦闘においても問題なく蹴散らせる。
そうあるだけの力があった。少なくとも、第六層までならば。
だから、無駄口を叩く事が出来た。
暗くて重い空気を紛らわすためと、その時にふっと思い付いたからだ。
雑談なんてそんなもので、その時その時に思い付いた事を適当にくっちゃべるだけのものだ。
しかし、適当でもなんでも、核心や汚点に触れる可能性は存在する。
「カイル、おかしいって……?」
アイリスがそれを聞く。
適当に話して、適当に聞くのが雑談だ。
変に気を尖らせる場面でもないし、必要もない。思わず驚きの声に出してしまったアレンよりも、返答をしたアイリスの方にカイルの気は逸れていた。
「いやよ、屍王がこの迷宮創ったてんなら、もっと酷いのを創れんじゃねぇかってさ」
「酷いの?」
ふとした瞬間に、話題は変わる。
そして、その話題は適当に終わるまで、ズルズルと続いていく。何かと仲が良いリョウヘイの疑問にも、素直に答えてくれるだろう。
彼らはまだ余裕があり、気を暗くしすぎて瘴気に飲まれないようにするという義務がある。魔術師たちも、それを恐れて過ごしてきたのだから。
細かな事を忘れていないのを褒めても良い。
忘れて心が折れれば、そうでなくとも弱れば、確実に
「確かに、道は暗いし、狭いし、敵は多い。道に迷ったらすぐに詰む。アレンが居るからなんとかなってる」
「確かに」
「…………」
「でもよ、それっておかしくねぇか?」
それで最悪なのは、ラトルカすらも興味を示しているところだ。
彼女は基本、あまり干渉し過ぎないように控えている。興味を持ち過ぎないように、必ず隅で黙っている。
けれども、偶々カイルの言葉に興味を示した。
野性的な彼にしか出来ない突飛な発想は、彼女と反応することで面倒な反応が起きかねない。
厄介極まりないが、この流れを止められない。
「なーんでわざわざ、人間が入り込めるような余地を残すんだ?」
「? この迷宮も、相当フザケてるでしょ? 五百年以上、誰も攻略出来なかったんだから」
「いや、そもそも攻略なんてさせるのがおかしいだろ。敵が入り込めるような造りの家なんざ、ゴメンだと思わねぇか?」
確かに、という空気になり始めている。
これが嫌だから、黙っていて欲しかった。
余計に頭が回る人間が、勇者一行には居るのだ。そして、彼女は己の中で仮説を立てて、都合の悪い所に目を付ける。
藪をつついて出るのは蛇以外の、もっと厄介なものである事を知らない。
彼女は、まだ若すぎた。
いや、彼女と齢を同じくして、それを知るアレンが小賢しすぎただけだろう。
開けてはいけない門の前まで来るのに、あまり時間は使わないかもしれない。
「……じゃあ、なんでそんな造りにしてるんだ?」
「そんなもん、本人に聞かなきゃ分からねぇだろ。俺がこの迷宮創った訳じゃねぇし」
「肝心な所……」
リョウヘイが聞き、カイルが答え、アイリスがそれに呆れている。
とても気楽で、精神を侵されるような事になるとは思えない。身も心も健康的な彼らには何の心配もなく、ただ歳相当に無邪気なだけだ。
だが、そんな雑談に混じれない残り二人に関しては、その限りではない。
「…………」
腕を組みながら何かを考え込む魔術師の女は、あまり良くない方向に進んでいる。
それが性分だから、というどうしようもない理由だ。だがまあ、研究者としての本分が現れた、正当な理由でもある。
魔術師が究明せずして何をするというのか?
好奇心は猫を殺す、が普通に行われてきたからこそ、異端審問官は高名な魔術師たちを大々的に、または秘密裏に殺してきた。
だからこそ、彼女には仇が存在する。
下手をすれば、彼女の手が届かないナニカの逆鱗に触れる可能性があることに目を向けられない。
「…………」
誰にも見られていないのを良い事に、顔を歪めて悩んでいる斥候役の男も居る。
彼もまた難儀なもので、とある理由から、会話をハラハラしながら聞いていた。秘密が多い男というのは苦労が多いもので、どこから隠しているものがバレるか分かったものではない。
気苦労で言うなら、同年代で彼の右に出る者は居ないだろう。いつも誰かに振り回されている彼には、ロクな展開など待っていない。良かったことなど、一度たりともない。
「アレン? ラトルカ?」
「…………!」
「ん!? なんだ?」
「いや、大丈夫かなって……」
そうだ、こうして無駄に突っ込まれる事も、彼らにとってあまり都合の良いものではない。
話を振られれば思考を中断せねばならない彼女と、話を振られれば嘘を吐くというリスクを負わなければならない彼とで、案外内心の焦りは似通っていた。
「屍王は、なんでこんな迷宮創ったと思う?」
それはアレンにとって都合が悪く、ラトルカにとっては少しプラスになる質問だった。
より本質に近付きたいラトルカには、それをされて困る事など一切ない。あるとするなら、あまり深く突っ込まれたくないアレンの方だろう。
思慮深そうに考え込むラトルカと、微妙に引き攣っているアレンの顔を見れば明らかだ。
まあ、その顔を見れるかどうかは別の話だが。
「正直言って、ああ、大体三層までなら大抵の奴は突破出来るだろ。ああ、もちろん瘴気対策は抜きにしてだ。なのに、警備にしちゃあ弱すぎる」
「…………」
「瘴気がエネルギー源だから、屍王に近い下層の魔物が強いのは分かる。だが、それにしても弱すぎる。獣王の眷属と比べたら明らかに」
鋭さというものは天性のものだ。
それを賢さの現れと言うか、才能というか。
けれども、それをどうして罪と言うのだろう?
踏み込んではいけないと言われてもいない場所に、本能のまま踏み込むことは許されるのか?
無知は罪だが、隠されたモノに気付こうとした天才を裁かなければならないのか?
答えは、イエスだ。
残酷になろうと思えばいくらでもなれる人種が、少なくとも六人居る。
さらに言えば、その六人全員がほとんどの人間を殺す事が出来る能力を有している。
目を付けられてはいけないのだ。
殺したくはないのだから。
今は、その時ではない。
「無駄話とは余裕だな」
「ん、なんだよ? この話は嫌か?」
「別にそうじゃない。気を抜き過ぎてるんじゃないかと思っただけだ」
会話を切らなければ。
誘導する事は楽ではないのは知っている。操る事が難しいのは知っている。
全体の中の一人が不機嫌なように思わせるだけでも、なんとなく人間はその話題を続ける気を失せさせる。それに、雑談など簡単に移ろうものだ。アレンはそのきっかけを作り出そうとしている。
「……魔術的に考えて、入り口を設定するのは別に悪い事じゃない」
「!」
だが、予想外に食い付いた人間が居た。
根暗で辛気臭い声だ。
迷宮の中では何かと黙り込む事が多かったが、余程この話題が面白かったらしい。
なんてことの無い、ギリギリの話題にメスを入れるのに躊躇いはないようだ。
「魔術は、表現方法が大切。迷宮というのが大切」
「ほう……? その心は?」
「魔術師が自分の工房のために迷宮を創るのは、割と常識。迷宮とは、古くから宝が隠された要塞としての役割がある。その奥にある物の魔術的な価値を高められる」
こういう時だけ下手にからかわず、意見を素直に交換するカイルに、アレンは軽く怒りを覚える。
遮ることは不信を生みかねない。
「なら、屍王は何か宝を集めてる? それで、何かをしようとしてる、と?」
「憶測の域を出ない。屍王が魔術への造詣があることは聞いたし、私はその上で、魔術師のセオリーを語っただけ」
どれだけ遠くとも関係ない。
遠いのなら、いつから近付いてしまう。
アレンの額から、嫌な汗が流れる。
「屍王が宝なんて集められるのか?」
「……神様の結界がある限り、王者は絶対に人類圏には入ってこれない。眷属が南の戦線の表に現れた記録もないらしいし、あるとすれば斥候役の人たちの装備くらいかな?」
「そんなん集めても仕方なさそうだな」
屍王が死体漁りをしているカラス扱いされる分にはまったく問題ない。
しかし、突飛な発想から、さらに突飛に行ってしまえば手に負えない。
ラトルカが会話に入った事で、機嫌良さそうにしているアイリスとリョウヘイの善人二人組。不敵に笑うカイルと、どうでもよさそうな視線とは裏腹な態度のラトルカ。
全員仲良くするのは良い。というか、ラトルカの捻くれが多少治ったと思えば、かなりの成果だ。
しかし、リスクは見逃せない。
針の穴のような危険も避けたい。
「じゃあ、他に考えられる理由は?」
「うーん……」
「……待ってる、とかか?」
アレンはまた足を早める。
違和感を覚えるギリギリの速度で、最短の道をズンズン進んでいく。
こういう時に限って、雑魚がなかなか来ない。
せめて戦闘に持ち込めれば、会話を区切れるのに。
カイルの仮定に、皆が耳を傾ける。
「待ってるって?」
「そりゃあ、まだ見ぬ敵をさ。獣王がずっと戦いを楽しんでたのは、これまでずっと退屈だったからなんじゃねえかって思ってた」
「戦闘狂ってこと?」
「王者は神の結界を超えられないんだろ? なら、正直警戒する必要がない。放置で十分なんだから、人間は王者を半ば放置してた。そんなもん、退屈だろう」
さらに、アレンの足が早くなる。
遠い場所にあるのは変わりないが、確実に近付かれているのが分かった。
「自分が全力出せる相手、待ってんじゃねぇか? この迷宮はその試験だったり?」
「ああ、かもね」
「なんか、納得。納得出来るのが納得いかないけど」
「ああん?」
ラトルカの思考が加速した。
そして、アレンもそれを察知する。
「…………?」
「おい!」
とにかく声を出して止める。
アレンにとっては嬉しいことに、大事に発展する前に目的地に辿り着いた。
少し上がる頬を抑えながら、アレンは言う。
「目的地に着いた。ここが六層の支配者の部屋だ。全員、戦闘準備」
これまでの和気あいあいとした空気が消える。
すぐに気を切り替えられる彼らが優秀で、アレンは大変助かった。
この日の最後の戦闘が始まる。
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