表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼獄の街に眠る灰花の夢  作者: kuro
本編2
33/46

030 決死行

 上下左右、エフリールの視界を埋め尽くすように(つる)(せま)る。

 (あわ)てて身をかわすが次から次へと蔓は(おそ)い掛かってくる。

 物陰がないこの空間では相手の攻撃の方が有利を取りやすい。

 それに加えて異形の少女に対する疑問が、エフリールの戦う決意を(にぶ)らせる。

 彼女は自分が何者かを知っている。


「うぐっ!?」


 蔓の一本がかすめて吹き飛ばされる。

 追撃が来る前に跳ね起きる。


(余計なことは――違うっ、それもダメだ!)


 また(のろ)いに(とら)われそうになる精神を(つな)ぎ止め、〈(パイル)〉で蔓を()ぎ払う。

 帽子がずり落ちかけた。


(思考は手放しちゃいけない。でも話は生き延びてからだ)


 しっかりと(かぶ)り直し、少女を見据(みす)える。

 リルと名乗った少女は、床を跳ね回る千切(ちぎ)れた蔓を可笑(おか)しそうに踏み潰す。


「キャハハハハ! 無駄、無駄!」


 どろりと黒い粘液を吐き出した蔓から巨大な黒い雄山羊(おやぎ)が生まれる。

 手には人の倍はありそうな斧を握っている。


「っ、それ、は」


「大人しくリルに()われろ! そして私がお父様のための(うつわ)になる!」


 激しい(ひづめ)の音と共に雄山羊(おやぎ)が迫る。

 その背を追うように蔓も走る。

 エフリールは〈(ジェイル)〉を駆使し、天井を経由して一気に人狼(ウェアウルフ)とリルを飛び越え、背後に着地する。

 リルはすぐさま蔓を伸ばしてくるものの、巨大な胴体を方向転換させるのは即座にとはいかない。

 相手の側面を取り続けるようにエフリールは動き、蔓から逃れる。

 遅れて雄山羊が飛びかかってくる。

 エフリールは吸い込まれるように相手の左胸へ〈(パイル)〉を突き出していた。

 心臓を貫かれると雄山羊――蔓の一部は白い灰となって崩れ去った。

 息を()む。だが足を止めている暇はない。

 今のは教会の雄山羊と同じ個体だったのか、それとも別人なのか。

 分からない。が、リルに対してただ無闇に攻撃する意味は薄いと悟る。


(そうだ……カイルが湖でやったように、核を見つけて潰さないと)


 動き続けながら目を()らす。

 リルのあの巨大な体のどこに核があるのか。


(やっぱりあの体?)


 目立つのは少女の上半身が出た部分だ。

 しかし弱点と見るにはあからさまに過ぎる。

 もっとどうにかして確かめるべきだが、嗅覚(きゅうかく)はリルから(ただよ)腐臭(ふしゅう)のせいでうまく(さぐ)れない。

 視覚は今の通りで、触覚は言わずもがな、触れる隙などない。

 他に使えそうなのは聴覚くらいだ。

 ダメで元々とエフリールは耳を()ませる。


「キャハハハハ! 死ね死ね死ね! 私に殺されろ!」


 耳障(みみざわ)りな哄笑(こうしょう)と蔓の激しい蠕動(ぜんどう)が集中を(さまた)げてくる中、エフリールは大きな鼓動音をその耳に(とら)える。

 なんとなくリルの少女の体の辺りだとは分かったが、正確な位置は判然としない。

 時間をかければ精査できる可能性はある。

 だが相手の攻撃を回避したままでは、先にこちらの体力が()きかねない。

 勝負を()けるしかない。

 先ほどの跳躍同様、〈(ジェイル)〉を使う。

 ただし今度は相手の胴体目掛けて飛ぶ。

 もしあれが核でなかったら敵の(ふところ)へむざむざ飛び込むことになる。

 リスクは承知の上だ。

 迷いを振り切りエフリールは〈(パイル)〉の影に〈(ジェイル)〉を構える。

 既に一度見せている以上、直前までは可能な限り自分の足で接近する。

 チャンスは一度きりだ。

 まずは攪乱(かくらん)を続けるように見せかけるため、再び側面へ回り込む。

 無論、リルの蔓はその間も伸びて迫る。

 更に今度は上からエフリールの〈(パイル)〉に似た槍を降らせてくる。


「くっ、あ!」


 ここに来て別の魔術が襲い来る。

 何本かが体の一部をかすめていく。

 かろうじて突き刺さることはなかったが、エフリールはバランスを崩す。

 そこを容赦(ようしゃ)なく蔓が捕らえる。

 エフリールは捕縛よりマシと判断し、蔓を〈(パイル)〉で突き崩す。

 切り離された一部が再度異形へ変貌(へんぼう)していくが、構っている暇はない。

 予定を変更して一直線に走る。

 待ち続ければまた暴雨(ぼうう)(ごと)き攻撃を食らう。

 愚直に最短を駆ける。

 蔓の群れがその身を貫こうと迫る。

 跳躍(ちょうやく)、エフリールはリル目掛けて〈(パイル)〉を投げつける。

 当然蔓が弾き飛ばし防がれるが、狙いは攻撃ではない。

 〈(パイル)〉と共に〈(ジェイル)〉を飛ばし、可能な限りリルの側まで付着させ、自分を引っ張る。

 発条仕掛(ばねじか)けのようにエフリールの体は勢いよく撃ち出される。

 だが動きは読まれている。

 リルは蔓を繋ぎ合わせて(たて)を前面に形成していた。

 こちらの勢いを逆に利用して潰しにきていた。

 だからエフリールも無理矢理に軌道を変えることを前提としていた。


「ぐ、うっ!」


 急停止――飛び出したはずの体をエフリールの後方へ伸びたもう一本の〈(ジェイル)〉が止めていた。

 繋がっている先はこの開けた空間に存在する数少ない人工物、四隅(よすみ)の柱の一本だ。

 内臓を()めつけられるような痛みに耐えながらエフリールは即座に後方の〈(ジェイル)〉を解除、〈(パイル)〉を再構築しながら盾をかいくぐってリルの上半身へ飛ぶ。


「おま、えっ」


 リルが驚愕に目を見開く。

 エフリールは咆哮(ほうこう)を上げながら少女の左胸を貫いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ