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13 番外編

これが最終話になります

転んでしまった母に近付くと母は泣きながら私に縋りついて来て、泣いていた。顔を上げると父と兄弟達も皆、泣いていた。とうとう父が泣きながら私に抱き付いてきた。


「ど、どこに行ってたんだ…心配したんだぞっ!」


「え?」


この時、私はとてつもなく、大きな勘違いをしていたことに気が付いた。


泣いている家族に取り囲まれるようにして、城内に入り…落ち着いたのか、両親から私が産まれてから家出するまでの経緯を聞かされて唖然としていた。


全て幼い私の思い込みと勘違いだった。


幼い私は膨大な魔力量を保持し、力のコントロールが出来なかったことは確かだった。国の魔術師団に相談すると、魔術師団の女子寮の一部を改築して、私専用の特別ルームを作ってくれたらしい。公爵家のご令嬢に対する特別待遇だ。


そして、魔術の制御を覚えながら実家から差し入れられる膨大なプレゼントと支度金で、私は何不自由なく暮らしていた。子供の頃は魔力コントロールの為に過度な接触を禁止されていた両親は、魔術師団の許可が下りた6才の時に面会に訪れても、口も聞いてくれない娘に大変戸惑ったらしい。因みにその面会には弟達も連れて来ていたらしい。覚えていない…。


正直、その頃は早めの反抗期とこっちの世界で言うところの『中二病』を患っていたので、全世界を敵に回した気分でいた。確かに両親は何度も面会に訪れてくれていたし、中二病を絶賛患っている私は、親なんて私の稀有な能力の恩恵を受けたがる愚民どもだ!


…と勇樹のことを笑えないぐらい片目に眼帯を嵌めて悦に入っている女だった。今考えても痛い。


そんな中二病にありがちな、世間に反抗の一環で家出を敢行したわけだったのだが、当然急に消えた私に両親、国や魔術師団の人達は大慌てで捜索したそうだった。


そして何とか私の住んでいた部屋の魔術痕跡を辿り、界渡りをした所までは分かった。


だが、界渡りをして無事に異界に辿り着けるのか、あちらの世界は未知で未開の世界…その認識から、高名な魔術師達も界渡りには難色を示した。もし界渡りをして誰が異界に侵入するのか…皆、尻込みをするばかりだった。


悲しいかな、私の家族は全員低魔力保持者なのだ。とても界渡りを出来る術者じゃない。両親達は世界中の術者に界渡りをして欲しいとの依頼をしていたそうだ。本当にごめんなさい…。


そんな時に私が帰ってきたわけだ。しかも異世界人の勇樹を連れて…。私は家族に盛大な勘違いを長々としていたことを詫びた。そして勇樹には散々苦笑いと軽いお説教を受けていた。


「こっちの世界で莉奈の親達視たら、すぐ分かるだろ?あんなに好意的な魔力向けて来てるのに娘の莉奈が気が付かないなんてさ~。」


ニブちん馬鹿ちんのお前に言われたくないわっ!とはいえ、本当に斜に構えすぎていて…両親の気持ちに気が付いていなかったのは確かだ。


家族は私と勇樹が結婚間近だということにも大変喜んでくれて、私に家出先の異世界の詳しい話を聞いた後、更に異世界人の勇樹からも話を聞いてこれは異世界に関する大発見だ!と急いで国と魔術師団に連絡を入れてくれた。


そして、異世界から無事?帰国した私は勇樹を連れて国王陛下に謁見したり、魔術師団の団員に囲まれたり…その中でも特に魔術を扱える異世界人の勇樹は、皆の大注目だった。


「ほらぁ~コレコレ?異世界からの召喚者と言えばコレだろ?なあ莉奈!」


コレが何を指すのかは皆目見当が付かないけれど、勇樹は初異世界でも物怖じしないで、異世界印の魔法を発表したり、異世界の文明の話を促されるまま周りに聞かせていた。


そして勇樹は調子に乗り過ぎておバカ炸裂してしまい、私がいない時に〇メガウエポンを召喚してしまったらしくて、魔術師師団の皆に怯えられていた。


馬鹿だな…魔王降臨だと思われてるよ。一応召喚魔法はその〇メガさんがこっちに出て来ようとしたところで、勇樹の魔力切れで消えたそうなのだけど…後で魔術師団の団長に


「あの彼はリナーシェより天才かもしれんな。」


と真顔で言われた。はい、私もそう思います。何と言っても俺TUEEEE!ですからね。


兎に角、勇樹が三連休の休みの期間しかこちらに滞在出来ないので、また来ますので~と家族と国には説明した。


「お姉様~私、異世界にお泊りに行きたいわ!」


さて帰ろうかと、準備をしていると一番下の妹、サイシャーナ18才がウキウキしながら聞いてきたことで私と勇樹は顔を見合わせた。そうだよね…私達でも術が発動したら、簡単に来れたのだし…あっちの世界も普通に人間が暮らしていて、モンスターもいないことも分かったし…。皆で行こうと思ったら行けるよね?


「じゃあ『異世界観光』の仕事でも始めりゃいいんじゃね?」


勇樹のこの一言でトリエンダス公爵の事業に異世界観光業が加わることになった。


それから私と勇樹は休みの度に、あちらとこちらを行き来して、観光業務のお手伝いをしている。流石、勇樹は営業能力を生かして、観光事業の企画を上手く纏め上げてくれた。


意外と役に立つ、ヒョロヒョロ。


まずはトリエンダス公爵家の皆を異世界に招待することになって、次期公爵のリバイセン(長男)とクエイトス(次男)サイシャーナ(次女)が視察も兼ねて遊びに来ることになった。


初めて目にする異世界…若い3人には大変刺激になったみたいだ。リバイセンは、計画案の為に遊園地や水族館で必死でメモっているし、クエイトスは乗り物に夢中だった。サイシャーナはこちらの食べ物やお洒落に大層満足しているみたいだ。


弟妹達は一週間ほど滞在して帰ることになった。


「私、どこかで姉上は幸せに暮らしているんじゃないかと思ってましたよ?当たってましたね~。」


とリバイセンは帰国(帰界?)する前に皆で回転寿司に行った時に、緑茶を啜りながらそう言って笑っていた。


しかしサイシャーナもリバイセンもクエイトスも金髪碧眼の美形だから、回転寿司の店内の皆様の視線が熱いな~。うちの弟妹が目立っててすみませ~ん。


「リバとクエ!今度は温泉行こうぜ!」


「オンセンとは何ですか?」


クエイトスが小首を傾げている。


そんなクエイトスにスマホを見せながら笑っている勇樹を見ていると何だかホッコリしてくる。


その夜


弟妹達を異世界に送って帰ってきたマンションの部屋で私は、泣いていた。淋しいわけではない。幸せ過ぎて泣いていた。全部諦めていた…それが本当は自分のすぐ手元に合って…手を伸ばせばすぐに抱き締めることが出来たのだ。


帰り際に母に渡された焼きたての果物の入ったパイタルトがまだ温かい…。


「莉奈、珈琲入れようか?パイ食べよう。」


「…っうん。」


勇樹はコーヒーメーカーを起動させている。意外にも勇樹は珈琲に拘りがある。あそこの珈琲が美味しいとか…あの豆が…とか言って遠くまで買いに行ったりしている。


実はそんな勇樹の趣味も昔は興味がなかった。『勇樹という彼氏』がいることに満足して、勇樹の内面のことを知ろうともしていなかったと今更気が付いた。


勇樹はイソイソとお茶の準備を整えて、私を座らせた。


「ホラ、このパイ、視てみろよ?めっちゃ愛情籠ってんな~。」


「何でそんなこと分かるの?」


「あ~分かった。莉奈って魔力を視る時、こういう魔質って言うんだっけ?え~と愛情とか好意の魔質を読むのが苦手なんだな~。」


勇樹のドヤ顔に、母の果物のパイタルトを視る。何かうっすらと魔力が乗っているのは視えるけど…。


「柔らかい温かい光だよ~。これさ、俺に引っ付いている時の莉奈も同じ光だしてるよな、お母さんと一緒だよ。」


母と一緒…。切り分けたパイをゆっくりと口に入れた。甘酸っぱい果物…ロウトという苺に似た果物だ。口の中で温かい魔力が溢れる。


私の背中を優しく撫でてくれる勇樹の魔力も感じる。勇樹の顔を見た。ああ…そうか。


この優しい魔力が…愛情って魔質なのか。わたしはやっと気が付いた。


手作りのお菓子と珈琲…そして好きな人との時間。こっちではよくあることで、私の日常です。



ご読了ありがとうございました^^

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