第二十一話「とりあえずは」
リィリアちゃんからの連絡で竜夜を発見し、湊と同じく悪魔を祓ったそうだ。だが、悪魔の本体は逃がしてしまったとのこと。
リィリアちゃんは、謝ってきたが気にしないでと伝えた。
そして、肝心の竜夜だが……表向きは警察が見つけたことになっている。リィリアちゃんが気絶させた竜夜を他の人に任せて、あたかも偶然見つけたように装ったのだ。
すぐ病院に運ばれた竜夜は、今もベッドで寝ている。
家族が付きっきりで看病しているようだけど……目覚める様子はないと聞いた。
念のためリィリアちゃんの方から、気づかれないように竜夜の監視をしているとのこと。
悪魔を祓ったとはいえ、また悪魔がとりつく可能性はある。
竜夜は悪魔にとりつかれていた期間が長かったことから、相当居心地がよかったのかもしれない。
そのため、今はあえて竜夜から離れているのかもしれない、らしい。
「とりあえずは、よかった、て言うべきか?」
「そうだな……」
「うん……」
現在は、俺の部屋に湊と昂が遊びに来ていた。
梅雨が近いからか、結構じめじめしている。
「にしても、意識不明か……やばいことに首を突っ込んでってことじゃなけりゃあ良いけどな」
買ってきた缶ジュースを回しながら、昂は語る。
俺と湊は、竜夜に何が起こってるのかを知っているため無闇に語れない。
「まあ、さすがの竜夜でもそこまではいかないだろ」
「だといいがな。ところで」
話を切り替えるかのように、昂は俺と湊を見る。
「お前ら、本当に仲良くなったなぁ」
「いや、元から仲は良かったぞ?」
「う、うん」
確かにあんなことがあったから、周りからは仲が悪くなったかのように見えていただろう。
皆が想像つかないことが起こって、色々と歪んでしまった。
「ま、お前達ならそう言うと思ったよ」
でも、それをよく思ってない人達も少なくはない。何せ、湊は竜夜と付き合っていることになっている。だというのに、竜夜がいなくなった頃になって、俺と一緒にいることが多くなり、竜夜と一緒に居る時より笑っている。
中には、その様子を見て竜夜と付き合っていたのはなにか理由があったんじゃないかと思う人達も居て、質問攻め。
俺もなんとかフォローをしようとしているが、どうにも収まる気配がない。湊は、こうなることはわかっていたから受け入れるとは言っていたけど……。
「お前らの間には何かあったのかもしれないけど、俺は深く追及しない」
「はは、ありがとうって言った方がいいのか?」
「言葉もいいが、今度飯を奢ってくれ!」
「図々しい」
「今月はピンチだって言ったじゃんかぁ!!」
すがってくる昂だったが、俺は視線を合わせずコーヒーを飲む。
「自業自得だ。お前は金遣いが荒いんだ。直した方がいいんじゃないか?」
「ふっ。趣味には全力で金を使う。それが俺だ!」
それで、金欠になって、友人にすがってちゃ世話ないよな……。
「くすっ」
「どうした? 湊」
突然笑った湊に俺達は首を傾げる。
「ごめんなさい。なんだか、二人とも本当に仲が良いなぁって。出会ったのって受験の時なんだよね?」
「まあ、うん」
「だな」
「それなのに、昔から仲が良かったみたいな感じだったから。微笑ましくて」
なるほど。確かに、こいつは昔から仲が良かったかのように馴れ馴れしいからな。
俺もこいつの馴れ馴れしさを普通に受け入れている。
もしかしたから、俺はこいつのことも心の拠り所にしていたのかもしれない。
「ふっ。俺は、陽樹の心の友だからな!」
などと恥ずかしくもなく親指を立てる。
「あ、うん。そうですね」
「おいおい! 声に力が籠ってないぞ!」
「そんなことないですよ」
「というかなんで敬語だ!?」
うーむ。こいつは底無しにうるさい。
正直嫌いじゃないけど。
「……ともかく、だ。俺達は友達なんだ。何か困ったことがあったら頼れよ。どこまで力になれるかわかんねぇけどな」
「その時がきたらな」
「おう。つーわけで! ゲームしようぜ! ゲーム! お前最近やたらと格ゲーの腕が上達してるみてぇだからな! 俺も負けてられねぇぜ!」
切り返しが早いなぁ。
そして、勝手に人のテレビとゲームの電源を入れるな。
「湊ちゃんも一緒にやろうぜ。な?」
「待てって。湊は、あまりゲームは」
「や、やる」
湊は、俺達と昔からゲームをやっていたが、そこまでうまくなくいつも負けたりして、涙目になるのが日常だった。
だから、それを昂に説明しようとしたのだが、湊の瞳はやる気に満ちていた。
「お? その目に宿る闘志! いい感じたね、湊ちゃん! じゃあさっそく俺と勝負だ!」
コントローラーを握る湊に、俺はそっと呟く。
「どうしたんだ? そんなにやる気を出して」
「……いつまでも、落ち込んではいられないから。私は前を向いてこれからの人生を生きていくんだって決めたから」
その言葉に、俺は自然と顔が綻ぶ。
心配していたけど、ちゃんと立ち直ろうとしているみたいで安心した。まだ色々と大変なことはあるかもしれないけど、俺も頑張らないとな。
「あっ、リィリアちゃん」
前のめりになりながら、ゲームをプレイしている湊の姿を見ていると、リィリアちゃんからメールが届く。
「……ふっ」
届いたメールには今週の日曜日は楽しみにしててね! という文と写真が添付されていた。
開いて見ると、リィリアちゃんとフィリスさんが仲良さそうに抱き合いながら写っていた。……ん? もしかしてフィリスさんも来るのか? え? 母親同伴、なの? ど、どうなるんだ日曜日。
「負けたぁ!? 湊ちゃんつぇじゃんかよ……!!」
「か、勝っちゃった」
昂、負けたのか。




